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6 侍女の慰め
しおりを挟むゆらゆらと揺れる乳白色の水面を眺めながら、ルーラはため息を吐き出した。
入浴はルーラが最も好きな時間だ。暖かなお湯は身体を温めてくれる。けれどこの頃はそれで気持ちが晴れることもなく、身体の重さも大きく改善することはない。
「お嬢様」
侍女のマリーが静かにルーラを呼んだ。
マリーはルーラが幼い頃から側にいた乳母のような存在。ルーラにとっては母同然の人であると同時に、大事な侍女だった。歳は親子ほどに離れているのに、マリーはいまだ若々しく見える。それはその美しさ故のことかもしれない。
若い頃は、それは多くの男性を魅了したのだと、父である公爵が言うほど。
そんなマリーのわずかに皺の入った目尻を見つめる。
幼い頃、グレンと共に野を駆けたことがあった。危ないと言われながら手を繋いで走った。風を切って先導するグレンの後ろ姿を見ていたルーラは、その時初めて、グレンについていこう。彼のためにできることをしよう。そう決めた。
『いつかグレン様をおたすけできるようにがんばるわ』
健気にもそう言って意気込むルーラをグレンは嬉しそうに見返した。
『それじゃあ、ルーラはしょうらいぼくのお嫁さんになってくれる?』
『およめさん?』
『そうお妃様だよ。そしたらずぅっといっしょだ』
『ええ! 約束ね』
子供の口約束だ。けれどルーラの両親はルーラのその想いを汲んでくれた。もしかしたら、幼い頃にそう約束したのだと、まだ何もしらない子供の頃に無邪気に陛下に伝えていれば、グレンとの婚約はその時に成り立っていたのだろうか。そんなことを考えても仕方ないとわかっていながら、ルーラは過去を振り返ることをやめられない。
「お嬢様。入浴がすみましたら、何か温かい物をご用意しますね」
マリーの声はいつもより一層優しかった。
あの約束を、マリーも聞いていた。つい最近まではルーラとグレンが親しくしていた姿を側で何度も見ていた。ルーラの気持ちを一番理解しているのはマリーだろう。
そのマリーが、慈愛の籠った瞳でルーラの心境を慮ってくれる。
「マリー」
呼びかけても、その先の言葉は出てこなかった。
お湯に浸かった膝を抱える。
「マリー」
この気持ちも、この想いも、この両目から溢れる熱い涙も、全てこの浴室に置いていこう。
毅然として、淑女らしく、公爵令嬢らしくしっかり前を向いて国のために、できる限りのことをしていこう。
全て、全て、ここに……。
「ごめんなさい……」
涙が止まらなかった。
「ごめんなさい……。今だけ、今だけこうしていさせて……。そしたら、明日から、ちゃんと、頑張るから」
嗚咽混じりの声が浴室に響く。
マリーが露出したルーラの肩を抱いた。
いつもならきっとしないこの行為は、ルーラを慰めるマリーの優しさだ。
今だけ普通の女の子でいさせてくれる。そんなマリーの優しさが滲みて、ルーラは涙を流し続けた。
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