妖魔大決戦

左藤 友大

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第十幕

神災(十二)

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一方、小日向と一反木綿はまだ暑い迷路回廊にいた。
サウナに入っているかのような蒸し暑い廊下はまだまだ続いていて別の通路を見つけて通れば違う道に付けるが景色は全く変わらない。
同じ景色をグルグル回っているような気がして小日向は蒸し暑さに頭がボーッとしてきて一反木綿は全身が汗でビッショリになり身体が重く感じた。
夏はとても暑いが特にトコヤミ大神の訳の分からない廊下でずっと蒸し暑く歩き回るのはすごく辛い。
暑さと暑さが上乗せさせられ干からびてしまうのがオチになる。
水がないこの回廊に小日向は着ていた服を腰に巻いて上半身裸になって蒸し暑さを凌いでいた。
体中汗だらけでズボンとパンツが湿っている。
でも、さすがにここでズボンとパンツを脱ぐわけにはいかない。
スッポンポンになれば楽だが近くにいる一反木綿に変態だと思われてしまう。
妖怪に変態と呼ばれるのは癪(しゃく)だし我慢しようと心の中に留めている。
あちこち熱い蒸気がフシュ―ッフシューッと吹き出していて触れれば火傷すると思い二人は蒸気を避けて先へ行く。
しかし、小日向と一反木綿は既に暑さの限界ギリギリに達していた。
自分のHPがだんだん暑さの熱に奪われゲージがジワリジワリと減っていく。
二人は既にHP20になっていた。
HPゲージが赤くなっているのが一瞬、頭上に浮かぶ。
そのうえ、ここはどこで自分達はどこにいるのか全く分からない。
現在地に来るまでは二人で相談し予想しながらあっちこっち歩いていたけど結局、同じ景色と同じ廊下をただひたすら歩いている。
「わい、もーダメ」
そろそろ限界が来た一反木綿は飛ぶ気力を失い床に落ちた。
「しっかり」
小日向は汗でグッショリしている一反木綿を担いだ。
一反木綿の汗が小日向の身体にベッタリとくっつく。
お互いの汗が合わさったせいか軽いはずの一反木綿の身体が重く感じた。
それでも小日向は一反木綿を担ぎながら歩く。
が、一反木綿の身体から発する熱によって余計に暑くなり小日向もそろそろ限界になりそうだ。
頭がボーッとして喉がカラカラでグッショリ汗で身体が重く怠(だる)くなった。
もうダメだ。
そう思い一反木綿を担ぎながら前倒れになりかけたその時、目の前に鉄の扉を見つけた。
幻でも見ているのかと小日向は首をブンブンと横に振ったが鉄の扉は消えていない。
これは、幻じゃないと気づいた小日向は滝汗を流しながら扉に近づき取っ手を手に取った。
「あぢぢぢぢぢっ!!」
取っ手に触れると猛烈な熱さが小日向の手を襲った。
あまりの熱さに手をブンブンと振る。
鉄の扉はこの蒸し暑さによって熱が籠り熱くなったのだ。
しかし、小日向は諦めなかった。
この扉を開けばきっとこの地獄を抜け出せると思ったのだ。
小日向は心を落ち着かせ熱い空気を小さく吸い吐いた。
そして、覚悟を決めて自らの手を鉄の扉に近づかせて取っ手を掴む。
あちちちちちちぢぢぢぢぢぢぢぢ!!!
手が大火傷する。
でも、開かない限りこの地獄から抜け出せない。
暑さで体力を奪われながらも小日向は力を振り絞って鉄の扉を開ける。
鉄の扉は異常にも重くなかなか開かないが、小日向は全身全霊全ての力を使ってまで扉を開けようとした。
あまりにも力みすぎて変顔してしまうが、それでも扉を開けようと必死になる。
掌がバーベキュー状態になっても小日向は諦めきれなかった。
力強く取っ手を引いてもビクともしない。
引いてダメなら押すのみ。
そう思い次は鉄の扉を押してみた。
すると、扉が急に回転したのだ。
「おわっ!」
突然の回転に小日向は扉に吸い込まれ消えた。

扉に吸い込まれた小日向は一反木綿を担いだままうつ伏せになって倒れていた。
顔を上げてると彼の目の前に大きな赤とピンクで混色した球体が現れた。
球体の周りには複雑に入り組まれた鉄パイプが繋がれていた。
その中にチョロチョロと水を零す鉄パイプがあって床には反転後の形になっているU字の溝に水が溜まっていた。
水を見た途端、小日向は舞い上がり担いでいた一反木綿を置いてすぐさま水が溜まっている溝へ向かった。
扉を開ける時に火傷した両手を水に浸かるとすごく冷たくて気持ちが良くジュ~ッと小日向の手から水蒸気が出た。
すると、火傷がみるみる治っていく。
掌の火傷は跡形もなく消えて小日向は大喜び。
この溜まっている水は、ドラクエでいうHPとMPを全回復してくれる「ふしぎな泉」みたいな治癒系の水に違いない。
そう思った小日向は汗でビショビショの顔を水で洗った。
気分はすっきり。生き返った気分だ。
まさに地獄に仏とはこういうことだ。
小日向は手でふしぎな泉の水を汲み零さないよう一反木綿まで運んだ。
「一反木綿さん。しっかり」
そう言い小日向は一反木綿に目掛けて水をかけた。
水は彼が持つ木綿の身体に染み込んでいく。
すると、一反木綿が突然シャキッと起き上がった。
「うおおおおお~~っ!ふっか~~~~~つ!!」
元気を取り戻した一反木綿を見て小日向は喜んだ。
ドクン・・・・ドクン・・・・
何か聞こえる。
ドクン・・・・ドクン・・・・
まるで、心臓が鼓動を打っているように聞こえる。
二人はその音が聞こえる方を見た。
鼓動を鳴らしているのは、ふしぎな泉の水が溜まっている溝の真ん中に立つ球体だ。
よく見てみるとこの球体は鼓動を鳴らしながら動いている。
小日向と一反木綿は球体の方へ近づく。
「なんばね?このでっかい球体」
「分かりません」


ここはどこ?
暗闇の中、一人の女が立っていた。
光すら見えない真っ暗な闇。
黒く塗りつぶされた世界でたった一人。
そうだ。みんなはどうしたんだろう?
女は仲間の姿が見えない事に気づいた。
さっきまで側にいた仲間がいない。
猩々!太郎丸!
仲間を呼ぶ女だったが返ってきたのはただの沈黙。
私、どうなったんだっけ・・・?
女は思い出そうとする。
その時。彼女の目の前にぼんやりとした白い靄が姿を現した。
女は何だろうと覗き込むと靄の中から映像が流れだした。
その映像は一人の少年と一人の白ずくめの男が戦っている様子が描かれていた。
そして、フラッシュバックで映像が切り替わった。
重傷を負った猩々と太郎丸の姿。
映蔵に映し出される光景を見て女は口を開けて気づいた。
そうだ・・・・!私は、トコヤミ大神の中にいたんだ。それで、正輝が黑緋神之命と・・・
すると、映像がまたフラッシュバックした。
切り替わったのは、大ピンチに陥った正輝の姿。
正輝の目の前には純白に纏う黑緋神之命が立っている。
そして太郎丸が持っていた鉄パイプを手に取る仕草が見えた。
鉄パイプを手に取ったのは、他の誰でもない彼女自身だ。
女は映像に自分の手が映ったのを見て気づいた。
そして、鉄パイプを持って黑緋神之命の方へ走ったが大きな光に包まれた。
一部始終を見届けた女は思い出した。
そうだ。私、正輝を助けようとしてたんだ─
正輝を助けようとしたところは憶えているが、それ以降は何も憶えていない。
靄に流れる映像は真っ白で何も映らなかった。
すると、後ろから声が聞こえた。
自分の名を呼ぶ誰かの声が。
聞き覚えのある声。
女は声がする方へ振り向くと白い光が現れ彼女を覆った。
あまりの眩しさに手をかざす女は強く目を瞑った。

─亀姫!
─亀姫!!
自分の名を呼ぶ声がはっきりと聞こえる。
呼び名を出す誰かの声に彼女は瞼を開けた。
そこに映ったのは、ぼんやりとした老人と烏人間の顔。
どこか見覚えのある顔だなと思った時、ぼやけた視界がだんだんはっきりと見えてきて彼女の顔を除いている二人の正体が見えた。
「総大将・・・。白カラス・・さん」
髪が乱れボロボロの姿となっている亀姫が目覚めた。
彼女の目覚めにぬらりひょんと白カラスが安堵の息を漏らした。
ぬらりひょんと白カラスだけじゃない。二人の側には大天狗と大きな目に歪んだ口、髪が長くて薄汚れたマントを着た妖怪がいた。その妖怪は、いかにも仙人のような姿をしている。
「私・・・」
「無理するな。黒コゲになっているのによく助かったものだ」
仙人妖怪は、杖を肩に掛けながら座っていた。
彼の隣には革製の大きなカバンが置かれている。
ぬらりひょんは亀姫の顔を覗かせながら言う。
「大天狗が空から落ちてきたお前達を助け、井戸仙人殿が治療してくれたのだ」
亀姫は薄ら目でぬらりひょんの顔を見る。
ぬらりひょんの顔は傷だらけで着物もボロボロになっている。白カラスも同様だ。
「亀姫さん。クロは?川丸殿は?正輝殿は?」
質問してくる白カラスに亀姫は弱々しい声でトコヤミ大神の中で起きた事を話した。
黒カラスが自らの命を犠牲にして悪霊化された川丸と一緒に怨念の炎の中に飛び込み焼け死んだこと。
正輝が滝夜叉姫を倒し今は、黑緋神之命と戦っていること。
トコヤミ大神でこの世を滅ぼそうとしていること。
全て地上で戦っている仲間達に話した。
それを聞いたぬらりひょん達は彼女の言葉を受け止め理解した。
「そうか。クロは、お前達の為に・・・。命を投げ打ってまでよく守ってくれた」
大天狗と白カラスは黒カラスがあの世へ旅立った事にとても残念そうに落ち込んだが、正輝達を必死に守った川丸を救った彼への功績を称えた。
「なるほど。だから、空が光っているのか」
空が光っている?
亀姫は仰向けになったまま空を見た。
真っ暗な空にちょっとだけ大きな光がはっきりと見えた。
普通の星とは思えないぐらい不気味で嫌な光だ。
「予言玉で見たがトコヤミ大神はこの東京、いや関東地方を打ち抜こうとしているみたいだ。とても巨大な咆哮がこの東京に降り注いだら関東だけでなく日本列島を始め世界中が咆哮の大爆発に巻き込まれ多くの生き物が絶滅する。現世が崩壊するのだ」
それを聞いた亀姫は顔色が変わった。
もうそこまで進行していたのかと。
トコヤミ大神の体内の中では外がどんな状況に陥っているのか全く分からなかったから。
「にしても、怪我人が多くわしが持ってきた薬の数が足りんから参ったな」
井戸仙人は苦虫を噛み潰したような表情でカバンに入っている薬がほとんど空っぽになっているので量的に足りないとぼやいた。
「しばらくすれば、体力が回復し動けるようになる。そこで安静せい」
安静するよう井戸仙人に言われた亀姫はそうさせてもらうことになった。
亀姫はゆっくりと周りを見る。
周りにいる妖怪達はまだ悪霊達と戦い続けていた。
負傷する妖怪も多ければ傷を負いながら戦う妖怪もたくさんいる。
戦いの気勢はまだまだ鳴り響いていた。
「そうだ・・・。太郎丸と猩々は?」
二人の存在に気づいた亀姫が訊ねるとぬらりひょんが答えた。
「太郎丸は無事だ。まだ気を失っているが、意識はある。ただ、猩々は・・・・」
ぬらりひょん達が彼女の隣の方へ目線を送る。
彼らの目線につられて亀姫は隣を見ると血痕の跡だけと杖だけしか残っていなかった。
猩々の姿がどこにもない。
ぬらりひょん達は悲しみと悔しさで落ち込んだ表情をしながらとても言いにくそうな雰囲気を出していた。
でも、ちゃんと伝えねばと白カラスは覚悟を決めて亀姫に教えた。
「猩々殿は・・・・。あなたが目覚める前にご臨終しました。治療しても施しようがない危篤状態になっていて先程、肉体が崩壊し魂となってあの世へ旅立たれました」
猩々が死んだ。
それを聞いた時、亀姫はショックを受けるどころかぽっかりと胸に心が空いたような喪失感を味わった。
また一人この世を去ってしまい亀姫は言葉が出ない。
人間は死ぬ時、身体を捨てて魂になりあの世へ行く。
しかし、妖怪は違う。妖怪は死ぬと一旦、肉体が滅び魂だけとなる。
もちろん。あの世へは行くが、長い年月を経てば肉体が再生し復活する。妖怪の魂は、自らの肉体が完全に再生するまであの世で休息を取るのだ。
人間とは違い妖怪は死んでも時が経てば復活する。魂が消えなければの話だが。
もし、トコヤミ大神が巨大咆哮を放ってしまったら世界は終わる。
亀姫達は、ただただ正輝が黑緋神之命に勝利する事を強く祈るしかできない。
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