調布奇伝

左藤 友大

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第三話

一つ目小僧の恋愛話(2)

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10分後、一つ目小僧は翼の目を見るのをやめた。きっと、翼は嘘をついていないと思ったからであろう。翼は自分を疑っていた一つ目小僧に信じてもらえてホッとした。すると、一つ目小僧が翼に声をかけた。
「君、名前何だっけ?」
翼は自分の名前を教えた。」
「翼だよ」
すると、一つ目小僧は笑顔を見せた。
「ありがとう。翼。君のおかげでなんか、勇気が出たよ」
それを聞いて翼が嬉しかった。自分が言った言葉で一つ目小僧は勇気が出たのだ。誰かの為に応援するなんて翼にとって初めてな事だった。きっと、一つ目小僧は翼の言葉を聞いて嬉しかったのであろう。妖怪である自分を後押しするかのように励ましてくれた人間がいるとは思っていなかったのだから。
「ところで、昨日、あの女の子と話していた男の人、誰なの?」
「男の人?」
「翼と一緒にいた人だよ」
「ああ。あの人、ぼくの叔父さん。山崎辰巳さんっていうんだ。」
「あの人、君の叔父さんなの?」
「うん。ぼくは、いろいろあって熊谷から叔父さんが住んでいるこの調布に遊びに来たんだ。あの人も、ぼくと同じく見えない世界が見えるからきっと、一つ目小僧くんの力になってくれるはずだよ」
それを聞いた一つ目小僧は目を輝かせ翼の両手を握った。
「その人、ぼくに力を貸してくれるんだよね?」
「う、うん」
翼はいきなり一つ目小僧に両手を握られたので少し驚いた。
「だったら、君から頼んでくれないかい?あの子の名前を!」
「ぼく、あの子の名前を知ってるよ。確か、あの子の名前は、花咲陽菜っていうんだ。」
「花咲陽菜・・・。」
すると、一つ目小僧は翼の両手を話し急に立ち上がった。翼は何が始まるのかと思うと突然、一つ目小僧が両手を上げ大きな声を出したのだ。
「なんて、良い名前なんだぁーーーーーー‼」
急な大声に翼は驚いた。大声を出す程そんなに、陽菜の事を恋しているのかと翼は思った。
「よかったら、叔父さんに訊いてみようか?どうすれば、花咲さんと友達になれるのかを」
それを聞いた一つ目小僧はズイッと顔を近づかせた。
「よろしく頼む!」
どうやら、一つ目小僧は新しい情報が来るのを大いに期待しているみたいだった。翼はあまりにも熱気を持つ一つ目小僧に苦笑いをした。

「へぇ、そうだったんだ」
辰巳はテーブルの上で餃子の皮を包んでいた。もちろん、翼も一緒に餃子の皮包みを手伝っていた。翼は餃子の皮包みを手伝いながら今日、布多天神社で出会った妖怪 一つ目小僧と会い彼は深大寺の参道で会った陽菜の事が好きで恋している事を辰巳に話したのだ。そして、自分は妖怪だと何とか自分自身を否定していた一つ目小僧に励ましの言葉をかけた事も話した。そして、友達になった事も。
「友達になる事はとても良いことだよ。花子さん達と続き、新しい友達ができて良かったな」
辰巳が笑顔で言うと翼は嬉しそうに頷いた。
「うん。このままだと、一つ目小僧くんは、花咲さんと結婚するんじゃないの?」
「結婚?彼がそんな事まで言ったのか?」
翼は首を振った。
「ううん。もしかしてだよ」
そう言った途端、翼は「あっ」と気付いたのか気になった事を辰巳に訊いた。
「そういえば、叔父さん。妖怪と人間って結婚はできるの?」
その質問に辰巳は考えもせず、そのまま頷いた。
「ああ。でも、人間と妖怪が結婚するには覚悟を持たなくちゃいけないんだ」
「覚悟?」
「人間と妖怪は共に時代を乗り越えてきたとはいえ、住んでいる世界が違ければ、生活の事や身の回りの事だって大分(だいぶ)違くなる。それに、人間と妖怪はこの世で最後まで生きていく寿命が違う。人間の寿命は何年だと思う?」
辰巳が出した問題に翼は首を振った。
「僕ら人間の寿命は79年。妖怪の寿命は100~200年なんだ。」
それを聞いた翼は驚いた。
「そんなに違うの⁈」
辰巳は頷き餃子の素を皮の上に乗せ包みながら話した。
「そうだ。妖怪はぼくら人間とは違って一番長生きできる。もし、人間と結婚し共に暮らす事になると、人間は歳をとるし病気になったり、事故に遭ったりして死んでしまう。妖怪は死なないし病気もかからない。自分より寿命が短い人間が先に死ぬと、悲しみにとらわれ、長い絶望を味わう事になる。それに、妖怪と人間が結婚し共に暮らすには、生きる寿命の長さが違うのも含め、過酷な試練に立ち向かわなくちゃいけないんだ。妖怪と人間の恋愛ってかなり複雑だし難しいんだよ。もちろん、妖怪と人間が好きになれば、お互いの事を知って合わせなくちゃいけないから大変だぞ」
「叔父さんは、恋した妖怪はいたの?」
「中学生の頃にいたさ。でも、諦めたけどね。」
「どんな妖怪なの?」
「教えない」
翼は意地悪そうな顔をしながら笑った。教えてくれない辰巳に翼は頬を膨らませた。
「世の中には、余計な詮索をしないというルールがあるんだ。それを忘れずに」
「ちぇっ」
翼は残念そうな顔をしながら餃子の皮を包み大皿に置いた。
「でも、問題なのは花咲さんが一つ目小僧くんの姿が見えるか見えないかだね」
「そう簡単に見えるわけないよ。人間の子供が妖怪や幽霊が見えるのは、ただの霊感が強い人だけだ。霊感は、見えない世界が見えるのと同じ。そう簡単には見えるわけない」
確かにと翼は思った。最初に初めて翼が妖怪の姿が見えた時、この世には見える世界と見せない世界があって、見えない世界が見える人といえば、寺の住職に霊能力者や呪い師ぐらいで妖怪と幽霊の存在を信じていない人間が、なぜか目には見えないはずの世界がいきなり見え人間が時々いると。きっと、翼は妖怪と幽霊を信じてないのに見えない世界が見えた人間の一人であろう。翼は餃子の皮を包みながら話した。
「一つ目小僧くん。人間と妖怪が結婚するとどんなに大変な目に遭うのか分かっていながら花崎さんの事が好きなのかな?」
「でも、その一つ目小僧は、ただの片思いなんだろ?花咲さんが彼の姿が見えなければ、ジ・エンドだからね」
「でも、一つ目小僧くんの事だから、例え、花咲さんが彼の姿が見えなくても一つ目小僧くんは、見守るみたいだよ」
「それはやめた方がいいな。妖怪や幽霊が見えなくても気配を感じる事ができる。妖しい気配さえあれば、怖くなって誰かに助けを求める。下手したら呪い師か陰陽師を呼ぶ事だって考えられる」
「やっぱり、姿を見えなくても見守るなんて、ストーカーみたいだよね」
「まぁね」
辰巳は笑った。
「でも、本人が危ない目に遭う時にそれを守ってくれる妖怪は良い奴だという証拠だ。一つ目小僧は花咲さんの守護霊みたいだね」
しかし、翼は笑わなかった。
「でも、勘違いされたら一つ目小僧くん、可愛そうだよ」
辰巳は餃子の皮包みを止めた。
「勘違いされないよう、妖気を隠して見守ればいいだけだよ」
「でも、一つ目小僧くんは、花咲さんと友達になりたがっているんだ」
「花咲さん本人が一つ目小僧の姿が見えれば別だが、もし、見えたら花咲さんは一つ目小僧の姿を見て何て言うかだ」
そう。そこが心配なのだ。もし、一つ目小僧が見えなかった花咲さんが突然、見えない世界が見えるようになり初めて一つ目小僧の姿が見えたらまず、最初に驚き次は何て言うかが問題なのだ。もし、一つ目小僧に気に障るような事を言い悪口を言い出したら一つ目小僧は深い傷を負う事になる。でも、さすがにあのおしとやかな陽菜が非難するような事を言うイメージは全く無い。きっと、一つ目小僧を傷つけない断り方で言うに違いない。まぁ、陽菜に断れたら一つ目小僧は残念がるに決まっている。でも、一つ目小僧を見てどう思うのかは陽菜しだいだ。
「フラれたら、きっと、ショック起こすね。一つ目小僧くんが花咲さんの事が好きだという気持ち何か分かる気がするし」
「おっ?もしかして、翼くん。花咲さんの事がー」
「ち、違う違う!別にそういう訳じゃないよ」
翼は頬を赤く染めながら誤解だと辰巳に主張し餃子の皮包みを続けた。

次の日、今日の天気も晴れでとても暑い。翼は再び布多天神社へ向かっていた。昨日と同じく天神通り商店街を歩き横断歩道を渡って真っ直ぐ歩いた。石鳥居を潜り石階段をちょっと上って布多天神社に着いた。今日の布多天神社にいる人は二人だけだった。翼は昨日、布多天神社のベンチにいた一つ目小僧を捜したが、どこにもいなかった。もしかすると、一つ目小僧は陽菜をストーカー・・・いや、見守りに行っているに違いない。翼は一つ目小僧が来るまでベンチに座ろうと思ったが、こんな暑い中、座って待ち続けていたら熱中症になるのでやめた。今日もこのベンチに一つ目小僧はいると思っていたがどうやら、翼の勘は外れたようだ。翼は布多天神社を後にしてコンビニでも行って涼みながら漫画を立ち読みしようと思っていた。そう思った翼はコンビニを目指して布多天神社を出ようとした時、立ち止まり後ろを振り向いた。さっき、後ろから誰かの視線を感じたのだ。後ろにいるのはお参りを終えた男性がいた。しかし、翼が感じた視線は、人間ではない何かだった。でも、翼に視線を送った何者かの姿はどこにも見当たらなかったので、気のせいかと思い翼は歩き始め布多天神社を後にした。

一方、辰巳は、調布にある新義真言宗寺院の大正寺にいた。辰巳は胡坐座りしながら目を閉じたままピクリとも動いていなかった。そう。辰巳は大正寺の中で座禅をしていたのだ。静寂に包まれた部屋に辰巳は一人で静かに瞑想し続けていた。そして、後ろには、大正寺の和尚さんが瞑想中の辰巳を監視しながらゆっくりと行ったり来たりして歩いていた。辰巳の瞑想はまるで、何も感じないまさに〝無〟だった。余計な事を考えない一心で心の中を空っぽにしてただ静かに瞑想を続けていた。かれこれ、1時間50分もやっている。部屋の外からは、セミの鳴き声がうるさい程、聞こえる。それでも、気を散らず辰巳はひたすら静かに瞑想をし続けていた。そんな、瞑想をしている辰巳の後ろに大正寺の和尚さんは心の乱れは無いか監視しながら行ったり来たりと繰り返しながら歩いていた。
二時間が経った頃、監視をしていた高徳和尚は瞑想をしている辰巳に声をかけた。
「もう宜しい。ゆっくりと目を開けなさい」
辰巳は高徳和尚に言われた通り、ゆっくりと目を開け瞑想をやめたのだ。
「今回も、よく頑張りました。文句なしの見事な座禅でしたぞ」
後ろから誉め言葉を出した高徳和尚に辰巳はゆっくりと頭を下げた。
「ありがとうございます」
「よかったら、お茶でもいかがかな?美味しい茶菓子もありますぞ」
「はい。ありがとうございます」
高徳和尚は頷きお茶の準備を取りかかる為、部屋を後にした。辰巳は高徳和尚の姿が見え亡くなった後、力を抜き胡坐座りをしたまま寄り掛かった。

正座している辰巳の前には美味しそうな茶菓子がお皿に乗っていた。高徳和尚は手慣れた手つきで抹茶をたてていた。抹茶をたて終わるとたてた抹茶を抹茶椀に入れスーッと畳の上で辰巳に渡した。辰巳は畳の上で渡された抹茶椀を手に取り「いただきます」とお辞儀をしながら言った後、抹茶椀を口に付けて中に入っている抹茶を飲んだ。
「結構なお手前で」
辰巳は高徳和尚に言った。高徳和尚はにこやかな表情で頷いた。高徳和尚は、たまに辰巳が妖怪や幽霊、依頼人からの相談を受け解決方法が見つからず悩んでいる時に、知恵を貸してくれる良き相談相手なのだ。辰巳が彼と初めて会ってからかれこれ11年になる。高徳和尚には本当に感謝していて辰巳が受けた以来の中には高徳和尚のおかげで無事に解決した依頼もたくさんある。もちろん、高徳和尚も辰巳と同じく見えない世界に住む妖怪とこの世に残っている幽霊の姿が見える。辰巳は失礼がない様、爪楊枝(つまようじ)で和菓子を切り分け一口食べた。二人が食べている和菓子は夏の季節を合わせたお菓子だった。高徳和尚は和菓子が乗っているお皿と爪楊枝を置いて抹茶椀を両手で持ち一口飲んだ。
「最近はどうですかな?依頼の方は?」
高徳和尚は抹茶椀を両手で持ちながら最近の依頼はどうなのか訊いた。辰巳は和菓子のお皿と爪楊枝を置いて話した。
「はい。ボチボチ頑張っています。最近ですと、一昨日は、貧乏神によって被害を受けた方や小学校の男子トイレにいる妖怪 ヨースケくんと結婚しようとしていた遠野妖怪 蛙男の迷惑騒動がありました。もちろん、何とか解決する事はできました」
「そうですか。いつも、お疲れ様です」
「いえ。ありがとうございます」
辰巳は抹茶椀を持って一口飲んだ。
「そうそう。実は、四日前から私の甥が遊びに来たんです」
「ほう。甥っ子さんが?」
「はい。その子も私とあなたと同じ見えない世界が見えるんです。最初は信じられなかったみたいですが、一昨日の蛙男迷惑騒動の一件で妖怪と幽霊は本当にいると信じ始めたのです」
「そうですか。また一人、見えない世界が見える力を手に入れたのですね」
辰巳は頷きもう一口抹茶を飲んだ。
「ですが、気を付けてください。子供が見えない世界が見えるという事は、それと引き換えに危険に遭う恐れもあります。特に女の子供は、「黄泉の巫女」として狙われる可能性もありますからね」
すると、辰巳は思い出すかのように説明した。
「黄泉の巫女というのは確か、室町時代から江戸後期まで続けていた儀式に出す生贄ですよね?確か、歴史から消えた秘密の儀式として、知っている人はあまりいないんですよね?」
高徳和尚は頷いた。
「そうです。陰陽師、呪い師にとって全く手に負えないあの世に住む妖怪が現世にある国や村を破壊される代わりに、国中または、村中にいる幼い女子(おなご)から若い女子(おなご)まで集めその中の一人をあの世に住んでいる妖怪が選ぶのです。そして、あの世に住む妖怪に選ばれた女子(おなご)か若い女子(おなご)は国や村を救う為に黄泉の巫女として生贄となり、あの世に住んでいる妖怪に差し出されるのです。この様な恐ろしい儀式は、後世に伝えないよう記述するのは厳しく禁じられましたが、歴史の裏にはこういう儀式があったと誰にも知られず書いたのです」
「ですが、私の甥は男の子ですから大丈夫ですね」
「そうです。ですが、油断をしないよう気を付けてください。中には悪い妖怪や霊がいて襲われる可能性もありますから。甥っ子さんにも伝えておいてください」
「はい」
辰巳は頷きながら返事をした。

冷房が効いたコンビニにいた翼は再び布多天神社に来た。さっきまでは、人がいたが今はいない。翼が布多天神社に戻ってきた理由は、一つ目小僧は来ているかもう一度確かめに来たのだ。そして、翼が布多天神社に戻って正解だった。ベンチに一つ目小僧がポツンと座っていたのだ。ベンチに座っている一つ目小僧に気付翼は声をかけた。
「一つ目小僧くん」
すると、一つ目小僧は振り向き明るい声で言った。
「翼!」
「やっと、会えた」
「もしかして、来ていたの?」
「うん」
すると、翼はコンビニで買ったジュースをビニール袋から取り出した。
「ジュース飲む?あっ。ペットボトル、持てる?」
一つ目小僧は笑った。
「普通に持てるよ。ありがとう」
一つ目小僧がジュースを受け取ると翼もビニール袋から取り出し彼の隣に座った。一つ目小僧はジュースのペットボトルの蓋を開け飲んだ。
「美味しい?」
翼が声をかけると一つ目小僧は笑いながら頷いた。
「さっきまで、どこへ行っていたんだい?」
翼は最初に布多天神社へ行った時は、一つ目小僧の姿が見えなかったのでどこへ行ったのか気になっていた。でも、コンビニへ向かう途中から既に分かっていた。一つ目小僧は、一目惚れをした陽菜の所へ行ったに違いないと。一つ目小僧は、頬を赤くしながらどこへ行っていたのか答えた。
「ひ・・陽菜ちゃんの家」
翼の思った通りだった。
「陽菜ちゃん。今日も悲しそうな顔をしていた」
それを聞いた翼は首を傾げた。
「悲しそうな顔?笑顔じゃなくて?」
翼は初めて会っただけで陽菜の笑顔が印象に残っていたので悲しい顔をするイメージは全く無かった。一瞬、一つ目小僧の勘違いじゃないかと思っていたが、その理由はこの後の話で分かったのだ。
「陽菜ちゃんのお母さん、お父さんのプリンの原因でプリン寸前になってるんだ」
「プリン?プリンって、あのお菓子の?」
「違う。浮気のこと」
「ああ。不倫か」
不倫。あまり響きが良くないし好きじゃない言葉。それに、翼はその言葉で陽菜の家族とは全く別だが、生活上の事で今、家庭裁判を受けている自分の両親の事を思い出した。嫌な記憶を思い出してしまったのだ。忌々しく、悪い事しか起きない両親の喧嘩、罵倒の声、黒く塗りつぶされた家庭、崩壊、痛みと苦しみ、憎悪(ぞうお)の記憶が翼の頭に横切る。そんな家庭環境で、翼は自分の両親が嫌いになり嫌厭をするようになった。唯一の救いは、両親の顔を見たくないのと辰巳と一緒に過ごす日々だけだった。そして、翼はこう思っている。子供の意見を聞かず勝手に決めつける大人の勝手さを。それに、翼は自分には両親に会いたくないという強い想いが心の中に強く願っている。そんなに、両親に会いたくないし顔を見たくない程、翼は両親を嫌っている。大人は勝手な生き物で子供の立場を奪う最低な人間だと思った事もあったのだ。大人は勝手で自分の話を聞かなく勝手に決めつけ躾(しつ)けの為にと攻撃的になったり、子供の意見をもみ消したりする。翼にとっての親は勝手で自分の意見を聞かず決めつける最低なクソなのである。頭の中から両親の顔が出てきて憎しみと怒りが募り出したが、怖い顔をせず普段通りの笑顔や真顔で話をする事に翼は声を強張らせず、怖い顔をしないで普通に真顔で一つ目小僧と話す事にしている。
「もしかすると、陽菜ちゃん。違う所へ行っちゃうかもしれないんだ・・・」
「そうなんだ・・。」
すると、一つ目小僧は翼の方を見て言った。
「陽菜ちゃんが調布にいなくなっちゃう前に、友達になりたいんだ。翼。君の叔父さんにどうすれば、彼女と友達になれるか訊いたかい?」
翼は頷いた。
「それは、バッチリ訊いたよ」
翼は自信満々な声で一つ目小僧に言った。
この話をして辰巳が教えてくれたのは、昨夜、行った餃子の皮包みをしていた時に、聞いた話だ。翼は昨日、辰巳が言っていた事を一つ目小僧に教えようとしていた。どうすれば、陽菜と友達になれるのか。その方法を辰巳が教えてくれたのだ。

                    *

昨夜の餃子の皮包みをしていた時
「どうすれば、一つ目小僧が花咲さんと友達になれるのか?」
「そう」
翼は餃子の皮包みながら頷いた。一つ目小僧と約束したのだ。どうすれば、陽菜と友達になれるのかを。あの時は、陰で隠れて見守っているだけでは何にも結果が出ないので、友達になってしまえば距離が縮まるんじゃやないかと翼は考えていたのだ。
「フツーに友達になればいいじゃないか」
その辰巳の斬新な答えに翼は適当に答えたのではないかと思った。
「普通にって、いきなり普通に好きな子と友達になるなんて、さすがに無理でしょ⁈適当に答えないで」
しかし、辰巳はふざけた様子は全く見えなかった。
「だって、友達になるだけなのにどうして、難しい事を考えなくちゃいけないんだ?難しい事を考えれば考えるほど、タイミングがずれてせっかくの友達になれるチャンスが無くなってしまうんだぞ?」
どうやら、辰巳は適当に答えていた訳ではないらしい。きっと、彼なりに考えて答えを出したに違いないが、考えたにしては、答えを出すのが早すぎる。やっぱり、考えないで簡潔に答えて済ませたんじゃないかと翼は辰巳にちょっとだけ疑いをかけたが彼の意見には一理がある。確かに、あんまり難しく考えていたら、友達になるタイミングが合わなくなる。きっと、辰巳は考えて迷うよりもダメでもいいから速攻に友達になってくれるか訊いた方が一番良いと考えたに違いない。それに、妖怪と人間が友達になる事は良い事だと辰巳は言っていたので、好きな人と友達になれるだけ十分に幸せを感じるに違いない。
「そうだね・・。そうだよね。考えるよりイチかバチか友達になってくれるか訊いてみた方がいいよね」
「その通り。」
辰巳は頷いた。
「でも、花咲さんが一つ目小僧の姿が見えてたらの話だけどね」
「確かに」
辰巳と翼は笑った。

                     *


「難しい事を考えれば考えるほど、タイミングがずれて友達になれるチャンスが無くなってしまう・・・」
一つ目小僧は俯きながら呟いた。翼は辰巳に言っていたとおりに一つ目小僧に伝えた。辰巳が言っていた「難しい事を考えれば考えるほど、タイミングずれて友達になれるチャンスが無くなってしまう」というセリフは、きっと友達になって話したい事があるのに、モタモタして結果、話すチャンスを逃し後に後悔してしまうという事だろう。後悔するより勇気を出してぶつかって行かなければならない。きっと、辰巳はそう思って翼に話したのだろう。今の一つ目小僧はその勇気が無い。ただ、陰に隠れて見守るだけの人生だなんてもったいない。例え、自分が妖怪だとしても結婚は難しいのでやめた方がいいが、友達になるだけならそんなに難しくはない。翼だって花子さんやヨースケくん、人体模型と友達になれた。今回だって一つ目小僧と友達にもなれた。きっと、一つ目小僧なら陽菜と友達になれるに決まっている。翼はそう信じていたのだ。
「ぼく・・やってみる」
「え?」
「ぼく、陽菜ちゃんと友達になってみる」
一つ目小僧は決心したかのような顔で言った。それを聞いた翼は喜んだ。遂に、一つ目小僧は陽菜と友達になる事を決心したのだ。
「もし、陽菜ちゃんがぼくの姿が見えなかったら、ぼくは潔(いさぎよ)く諦める。ぼくの姿が見えないんじゃ、陽菜ちゃん、怖がるもんね。」
それを聞いた翼はベンチから立ち上がった。
「よく決心した!それなら、ぼくと一緒に陽菜ちゃんに会いに行こう」
「えっ⁉いいの?」
「もちろん。ぼく達は友達だろ?」
翼が一緒に来て応援してくれる事を知った一つ目小僧は嬉しかった。辰巳の言葉と翼の励ましで一つ目小僧の心が動いたのだ。一つ目小僧は目をキラキラさせながら立ち上がった。
「ありがとう!心強いよ!」
翼と一つ目小僧は喜びながらお互いの片手で握手をした。
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