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第六話
あの世へ。そして、あの世から現世へ(5)
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一方、想像術で道を繋ぐ橋を作りながら走っている辰巳と先に彼の前で走っている翼は天童城から少し離れた所にいた。すると、後ろからズシンという大きな音が聞こえた。橋は揺れ辰巳と翼は降り飛ばされないようしがみ付いていた。揺れが治まると二人は後ろを見た。そこには、天童悪鬼丸が立っていたのだ。天童悪鬼丸は憎たらしい笑みを浮かべながら言った。
「この我から逃げられるなと思うなよ」
天童悪鬼丸の右掌から黒紫色の不気味な妖気が出てきた。不気味な妖気は変形し剣の形になったのだ。天童悪鬼丸は不気味な妖気で作り上げた紫色と黒色が混合した刃を持つ大きな剣を手に持った。
「これは、我が想像術と呪術を組み合わせて造った最高の剣『黒神常闇の大剣(こくしんとこやみのだいけん)』。貴様の前世である立村三郎との戦いで我が使った自慢の剣だ!」
黒神常闇の大剣。この剣から異様で強烈な妖気を感じる。天童悪鬼丸が自分の妖気を使って造り出した最強の剣。その剣から感じる威圧感で辰巳は動揺した。想像術は同時には使えない。そう死神102号から教わった。辰巳は想像術で大剣を作り両手で持った。剣道を習っていた辰巳にとって大剣を使って一戦交えるのは今回が初めて。大剣は重く竹刀とは比べ物にはならない重度感があった。辰巳は後ろにいる翼に言った。
「翼くん!君は想像術を使って橋を作りながら走ってくれ!」
それを聞き翼は戸惑った。
「そ、想像術って、どうやって?」
「自分が思った事を想像するだけでいいんだ。ここはあの世だから自分が想像した物は実現できる!」
「わ、分かった!」
翼はちょっと戸惑いながらも振り向いて目を閉じた。
「ほう。貴様、この我に挑もうというのだな?」
辰巳は大剣を握りながら天童悪鬼丸を見た。
「いいだろう!貴様をズタズタのバラバラにしてやる‼」
天童悪鬼丸は片手で黒神常闇の大剣を高くかざし振り下ろした。辰巳は天童悪鬼丸が振り下ろした黒神常闇の大剣の攻撃を自分の想像術で作った大剣で防いだ。辰巳は両手で自分の大剣を抑えながら耐えていた。
「300年前の恨み、ここで晴らさせてもらうぞ!我が憎き立村三郎の転生者‼」
翼は天童悪鬼丸の言葉を聞きながらも集中して想像術を使って橋の道を作り出した。途切れていた橋の道は翼の想像術のおかげで繋がった。
「叔父さん!」
辰巳は想像術を使ってガードをしながら想像術で黒神常闇の大剣を振り下ろした天童悪鬼丸を押し返そうとしていた。自らの力では天童悪鬼丸を押し返す事はできない。ならば、想像術を使って距離を取らなければならないのだ。すると、天童悪鬼丸の顎下をアッパーしようとする木材で出来た拳が現れた。
「いでぇ!」
天童悪鬼丸は辰巳が想像術で仕掛けた木材で出来たアッパーを受けた。受けた衝撃で天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を持ちながら体をフラフラしながら後ろへ下がり俯きながら顎下を抑えていた。辰巳は天童悪鬼丸の攻撃を防いだ大剣を持って振り向き指を指した。
「走れ!橋を作りながら走るんだ!」
翼は頷き走った。続いて辰巳も走った。
天童悪鬼丸は顎下を抑えながら痛みを耐えていた。5分も経たないうちに天童悪鬼丸は顔を上げ鋭い牙と歯を剥き出して怒りの表情を見せた。
「くそがぁ‼」
そう叫び天童悪鬼丸の顎下をアッパーした木材で出来た拳を黒神常闇の大剣で壊した。斬られた木材で出来た拳は橋の下へと落ちた。
「ふざけた真似をしやがって!殺す‼」
天童悪鬼丸はそう言い走り出した。
翼は想像術を使って橋の新しい道を作っていた。橋はどこからともなく現れ二人が通る道へと繋ぎ続けている。辰巳は大剣を持って走っている。橋はギシギシと軋む音を立てていた。二人は走り続けていた。あの世はとても広く今、どこにいるのかも全く分からない。翼は次々と想像術で橋の道を作り続けていた。すると、後ろからドスンドスンという音が聞こえきた。二人が振り向くと後ろには天童悪鬼丸がこちらに向かって走って来ているのだ。それを知った辰巳はこれ以上、通さないよう想像術を使った。辰巳が想像術で作り上げたのは寺の門である。辰巳はいくつもの寺の門を創り天童悪鬼丸の行く手を阻ませた。しかし、天童悪鬼丸は辰巳が創った寺の門を壊そうと突っ込もうとする。天童悪鬼丸は寺の門に目掛けて喝を討入れた。すると、寺の門は一気に崩れた。辰巳は想像術で新しい物を創ろうとした。次に辰巳が創り出したのは、兵士人形だった。完成した兵士人形は動き出し天童悪鬼丸に向かって走り出し飛び掛かった。すると、天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を大いに振るった。辰巳が創った兵士人形は次々とやられ辰巳は左手を前に出した。なんと、辰巳の掌から光弾が出てきたのだ。辰巳は想像術で作った光弾を放った。光弾は天童悪鬼丸に目掛けて向かって行く。天童悪鬼丸は再び黒神常闇の大剣を振るった。黒神常闇の大剣が光弾とぶつかった時、大爆発した。二人の目の前は白い煙で覆われ天童悪鬼丸の姿は見えない。しかし、油断は禁物。あの天童悪鬼丸がそう簡単にやられるはずがない。辰巳は大剣を構えながら警戒していた。すると、白い煙の中から天童悪鬼丸の姿が見えた。天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を薙ぎ払うかのように振るって白い煙を消しかけたのだ。辰巳は大剣を持って気合の声を出して走り出した。走り出した辰巳は大剣を振るうと天童悪鬼丸は避けた。辰巳は大剣を猛威に振るい続けた。振るい続けているのは、翼から天童悪鬼丸を近づかせないよう攻撃を仕掛けているのだ。天童悪鬼丸は片手で軽々と黒神常闇の大剣を横から振るうと辰巳は大剣で天童悪鬼丸の攻撃を防いだ。そして、次は天童悪鬼丸からの攻撃で襲いかかってきた。辰巳は押されながらもうまく天童悪鬼丸の攻撃を防ぎ続けた。そして、黒神常闇の大剣を押して再び大剣を振るいだした。辰巳が大剣を振るいだすと天童悪鬼丸は彼の攻撃を防いだ。辰巳に押されるも天童悪鬼丸は全く焦る様子はなかった。辰巳は息を切らしていた。それもそうだ。想像術で造ったとしても大剣は普通の竹刀とは違う。軽くもないし動きにくい。それに、大剣を振っただけで体力の消耗が激しい。しかし、この大剣を使わなければ天童悪鬼丸と太刀打ちできない。ただの普通の剣や竹刀では簡単に折れてヘタすればジ・エンドだ。辰巳は自分の援護用の想像術を使おうとしていた。辰巳は何かないか脳の中で探っていた時、天童悪鬼丸はいきなり左手を天高く上げた。すると、左手が黒くなった。それは、とても邪悪でプレッシャーを感じる嫌な予感だけしかなかった。天童悪鬼丸は上げていた左手を思いっきり橋に叩きつけた。すると、翼が創った橋全体が黒く染まり出したのだ。あまりにも、黒いので自分の足が見えなく気味が悪かった。辰巳と翼は何が起きているのか分からなかった。すると、自分達の足に違和感があった。それはまるで、空中に浮いているかのような感触がしたのだ。その時だ。自分達の足を吸い込む現象が起きた。二人は驚いて足元を見る。しかし、橋が黒く塗り潰され足が見えない状態なので何が起きているのか分からない。すると、暗闇にある足がだんだん吸い寄せられていく。足が吸い寄せられるに連れ体も黒い地面の中へと吸い寄せられる。なぜ吸い寄せられるのか全く分かっていない二人は必死にもがいた。しかし、吸引力が強いせいか這い上がる事ができない。
「叔父さん!」
「翼くん!」
二人はお互い呼び合いながら黒い地面に吸い込まれた。
吸い込まれた二人は暗闇の中、吸い込まれ続けていた。これはきっと、重力と関係しているのであろう。辰巳と翼は暗闇の中、下へ下へと吸い込まれて続いていた。すると、暗闇の中から一筋の光が見えた。その光に辰巳と翼は気付いた。光はだんだん大きくなり二人を飲み込んだ。二人はあまりの強い光に目を瞑った。
辰巳はゆっくりと目を開けた。見えたのは、逆さまになっているあの世の景色。その逆さまの景色を見た後、上を見た。上にはあの世の空が見えた。それを見た時、辰巳は気付いた。なんと、二人はあの世の空から落ちているのだ。翼も目を開け逆さまに見えるあの世の景色を見て自分達は落っこちているのに気付いた。その時だ。一瞬、背中から痛みが出てきた。二人は自分の手に触れている物に気付いた。それは、地面だ。さっきまで空にいたのに、いつの間にか地面の上で倒れていた。二人はゆっくりと体を起こし立ち上がった。すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「いかがだったかな?空から落ちて地面に叩きつけられた感想は」
二人は振り向いた。なんと、二人の前に天童悪鬼丸が立っていたのだ。一体、何が起きたのか頭の整理がつかないまま辰巳は訊いた。
「い、一体、何をしたんだ⁈」
天童悪鬼丸は不敵な笑みを浮かべながら教えた。
「ちょいと重力術と空間術を使っただけだ」
そう答えると辰巳は想像術を使った。辰巳の両掌には想像術の光が出ている。すると、天童悪鬼丸の人差し指が光り出した。すると、辰巳と翼が立っている地面から黒紫色の煙が勢いよく噴き出し煙は二人を包み込んだ。辰巳と翼はいきなり地面から噴き出してきた得体の知れない不気味な煙を浴びて咳き込んだ。そして、二人は黒紫色の煙を空いた手で払った。やがて、黒紫色の煙は消え二人の姿が見えてきた。二人は黒紫色の煙が消えた後、お互い無事なのか確認した。
「翼くん!大丈夫か?」
翼は頷いた。
「うん・・。叔父さんも大丈夫?」
「僕も大丈夫だ」
辰巳は頷いた。今の煙は何だったのだろうか。でも、嫌な予感はする。天童悪鬼丸の指先が光り出した途端、地面から怪しい煙が噴き出てきた。これは、天童悪鬼丸が術を使ったに違いないと辰巳は知っていたが、一体、何の術を使ったのかがどうしても、嫌な感じがして訊きたくもなかった。しかし、二人の体は何ともないしあんまり変わった様子はない。ただの煙だったらいいのだが、どうもごく普通の煙ではないのは確かだ。あんまり、知りたくはないが天童悪鬼丸はなぜ辰巳達に黒紫色の煙を浴びさせたのか気になって仕方がない。もしかすると、奴が得意とする呪術と何か関係があるのかもしれない。でも、あんまり自分達の体に変化や異変はないので気にする事はなかった。もしかすると、天童悪鬼丸の呪術は失敗で終わったのかもしれない。そう思った天童悪鬼丸と対抗できる物を思いつき辰巳は両手を出して想像術を使おうとした。
辰巳は自分の頭で思い浮かんだイメージを思い出しながら想像術を使った。しかし、何も変化はない。辰巳はもう一度、思い浮かんだイメージを持って想像術を使った。全く発動しない。辰巳は想像術が使えないという異変に戸惑っていた。後ろにいる翼は辰巳に声をかけた。
「どうしたの?」
辰巳は振り向いて翼に言った。
「・・・想像術が使えない。」
「えっ⁈」
翼は驚いた。
想像術が使えない。これは、大変な事だ。想像術は天童悪鬼丸に対抗する唯一の武器でもあり、自分達の身を守るのに必要な術であるのだから。その想像術が使えないというのはかなり痛い。これでは、頭の中でイメージした物が出せないうえ、天童悪鬼丸から退ける事ができない。一体全体どうなっているのか辰巳と翼は困惑していた。すると、二人の前にいる天童悪鬼丸は困惑している二人の様子を見て高笑いをしていた。天童悪鬼丸の高笑いは二人がいる周りに響き自信に満ちた声で辰巳が想像術が使えない理由を教えたのだ。
「なぜ、想像術が使えないのか。それは、貴様らが想像術を使えないよう封じ込めたからだ!」
その言葉を聞き辰巳と翼は反応した。
「封じ込めただと⁈」
「さっき、貴様らが浴びたあの煙はただの煙ではない。想像術を封じ込み使えないようにする強力な呪術なのだ。『想像呪封(そうぞうじゅふ)』と言ってな、封印の煙を吸い込んでしまったら想像術が使えなくなるのだ。つまり、貴様らは、想像術が使えないごく普通の亡者となったのだ。いや、一人は仮死状態であの世に来た人間だったな」
「ぼくは、お前の部下に無理矢理連れてこられたけどな」
翼が付け加えて言うと天童悪鬼丸は笑った。
「そうだったな」
辰巳はあの黒紫色の煙を浴びた時を思い出した。確かに、少しだけ煙を吸い込んだ覚えがある。あの煙を吸い込んだのが想像術が使えない原因となったのだ。
「想像術が使えない貴様らはただの無能。ただの仮死状態の人間に変わりはない」
辰巳と翼は想像術が使えない事で大ピンチに陥っていた。辰巳は窮地に立たされている今、天童悪鬼丸と戦える方法はなかった。想像術こそが唯一の救いだった。しかし、その唯一の救いである想像術が使えない今、天童悪鬼丸に対抗する術(すべ)はなかった。想像術なしで奴と戦うのは不可能だと辰巳は思い今、自分達ができる事は一つしかなかった。
「翼くん。走るぞ!」
「えっ⁈」
「僕達ができる事は逃げる事だけしかない!走るんだ!」
自分達に唯一残された手段は「逃げきる」という方法しかない。そう思った辰巳は翼に走って天童悪鬼丸から逃げるよう伝えた。翼は辰巳の言う事を聞いて走り出した。もちろん、辰巳も走り出した。二人はなるべく天童悪鬼丸から遠く離れる事だけしか思いつかなかった。想像術が使えない辰巳と翼では天童悪鬼丸に勝てる訳ない。このピンチを切り抜けるのが彼らにとって唯一の希望だった。しかし、天童悪鬼丸からうまく逃げきる事ができないのは、分かっている。でも、今自分達ができる事は逃げる事だけしか道はなかった。二人は助かる確率が低い「逃げる」という手段を取りながら天童悪鬼丸から離れた。
天童悪鬼丸が自分から逃げる二人の姿を見て愚かに思っていた。自分から逃げるなんて1000年早いと思った天童悪鬼丸は左手を前に出した。
二人は天童悪鬼丸から必死に逃げていた。逃げて逃げて天童悪鬼丸から離れる事だけしか頭になかった。想像術が使えない今、この逃げるという唯一の方法しかったのだから。先頭で翼は必死に走っている時、二人の間に地面から鉄格子が現れたのだ。二人の間に割り込み這い上がってきた鉄格子はやがて檻へと変化し翼を閉じ込めたのだ。辰巳は地面から這い上がった檻の鉄格子に驚き尻餅をついた。翼は360℃鉄格子に囲まれ檻に閉じ込められたので逃げる術を失った。閉じ込められた翼は下りの鉄格子を握って辰巳を呼んだ。
「叔父さん!」
尻餅をついた辰巳は立ちあがり檻の鉄格子を握った。辰巳は翼を逃がす為、鉄格子を曲げようとしたが全く曲がる様子はなかった。
「くそっ!なんで、急に檻が・・・!」
すると、後ろから天童悪鬼丸の声が聞こえた。
「翼は我の物。逃がさぬよう我が想像術で檻を創ったのだ」
辰巳は振り向き叫んだ。
「翼くんを解放しろ!」
すると、天童悪鬼丸は左手で辰巳を薙ぎ払った。
「叔父さん!」
翼は叫んだ。
「くっ・・・・・・!」
薙ぎ払われた衝撃で転がった辰巳は体を起こした。
天童悪鬼丸は辰巳を見て言った。
「憎き立村三郎の転生者 山崎辰巳。貴様が前世で我にした事を憶えてはいないとはいえ、我は貴様に受けた傷、我の目的を妨害された事は今でも尚、しっかりと憶えている。我は貴様を許さん。300年間、恨みに恨んだこの憎しみを貴様にぶつけてやる」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を勢いよく振り落とした。辰巳は天童悪鬼丸の攻撃を見切り避けた。
「何が憎しみだ!お前は現世で暴れ生贄である黄泉の巫女を連れ去らったくせに!おまけに、部下を使って翼くんを無理矢理臨死状態させたくせに!」
「だまれ!」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を振った。翼は天童悪鬼丸が振った黒神常闇の大剣の攻撃を避けた。
「我は、あの人間の女、小井玉ちよを気に入っていた!本来なら小井玉ちよは我の嫁として迎え入れるはずだった!あの女は、現世にいるそこら中の人間の女とは違う!生贄となった他の人間の女は我が喰ったが、小井玉ちよだけは喰わなかった。あの女は、我にとって特別な人間で存在も大きかった。なぜ、小井玉ちよだけ喰わなかったのか知っているか?」
天童悪鬼丸の質問に辰巳は答えられなかった。
「あの女は、希少なうえ人間の中ではたった一人だけしか持っていない〝福縁の血〟という珍しうえ特別な血を持っていたのだ!」
「福縁の血?」
「福縁の血は、自分一人だけではなく、家族にも分け与え永遠の幸福が訪れ幸せになれるといわれている。我々、あの世の妖怪では福縁の血を持つ人間は特別だと言われていた。その福縁の血を持つ人間と結ばれるとどうなると思う?」
辰巳は答えなかった。
「福縁の血を持つ人間と結ばれた者は、自分にも永遠の幸福が訪れ幸せになれるからだ。我みたいなあの世に住む妖怪は、福縁の血を持つ人間の事を〝永福を与えてくれる者〟と呼ばれていた。福縁の血を持っていた小井玉ちよを見て我は驚いた。あの女と結ばれれば、我は永遠の幸福を手に入り神々の頂点に立ちあの世を支配する事ができる。そう思った時、我はゾクゾクした。福縁の血を持っていた小井玉ちよと結ばれれば自分の野望が叶えられると思ったからだ。そして、我は黄泉の巫女となった小井玉ちよを貰い受け結婚しようとした。まぁ、小井玉ちよは、一見おしとやかな性格を持つ人間に見えたが以外にも頑固だったな。それでも我は小井玉ちよを自分の物にしたく無理矢理だが結婚しようとした。その時だ!小井玉ちよの婚約者でありながら我の野望を壊した立村三郎が現れ小井玉ちよを連れ去ったのだ!我は怒りに狂い今すぐにでも立村三郎を殺して小井玉ちよを取り戻すはずだったが、奴に受けた傷もあり、我は現世へ行き立村三郎に復讐をする事はできなかった。それから20年後、傷跡が残っていながらも受けた傷が癒えた時、手下から耳を疑うような話を聞いた。小井玉ちよが病にて死んだのだ。そして、その数ヶ月後に憎き立村三郎が戦にて死んだのだ。復縁の血を持つ小井玉ちよと幸福を手に入れた立村三郎が死んだのは謎だが、我は思った。神が二人が我からうまく逃れるよう小井玉ちよと立村三郎という人間が本来、最後まで辿るはずだった生涯の分岐点を変えたからだ。そして、我が小井玉ちよと立村三郎と気付かれぬよう二人を違う姿で転生させた。転生した小井玉ちよと立村三郎を捜すのはとても苦労した。そのおかげで、300年という長い年月が経ち、そしてー」
「現在に至る。小井玉ちよの生まれ変わりが翼くんで立村三郎の生まれ変わりが僕だと分かったのか」
辰巳が答えた言葉に天童悪鬼丸は不服そうな顔で言った。
「その通り。それを知った我は手下に小井玉ちよの転生者を天童城へ連れて来るよう指示をしたのだ。小井玉ちよの転生者にオトコンナを飲ませ女になったら、300年越しの夢であった結婚ができると思った矢先に立村三郎の転生者である貴様に邪魔された!」
天童悪鬼丸は怒りに任せながら黒神常闇の大剣を振り上げた。
「一度だけでなく二度までも我の邪魔をしおって!貴様をここで葬らなければ我の気は収まらん‼」
黒神常闇の大剣を振り下ろし辰巳はまた避けた。それに腹が立ったのか振り下ろした黒神常闇の大剣を横から振った。辰巳は天童悪鬼丸の攻撃からうまく避け続けた。辰巳は天童悪鬼丸の攻撃を避けながら言った。
「お前がなぜ、僕を憎んでいたのかよく分かった!でも、翼くんは僕の甥っ子でもあり大事な子なんだ!翼くんが本当に死人になったら僕が困るし、その家族が悲しむ!」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を振りながら叫んだ。
「だが、翼は親とは会いたくないと言っている!身勝手で自らの意見を全く聞かない親に翼は嫌厭をしている!親を嫌厭して会いたくなければ、我と結び一生、あの世に住むだけで幸せではないか!そうすれば、親の顔を見なくて済むではないか!」
天童悪鬼丸が放った言葉を聞いて翼はドキッとした。現世にいた頃は、母親に会いたくないとか言って両親の事を嫌厭していた。しかし、天童悪鬼丸の部下に連れ去られ天童城で閉じ込められていた時、両親に会いたいという気持ちがあった。自分が本当に死人となり亡者になったら、離婚をする両親はどんな様子を見せるのだろうか。きっと、悲しんで後悔するに違いない。今までは、両親が離婚しようと決めつけ自分の意見を聞かず家庭裁判を開き、そのあげく調布市に住んでいる辰巳は翼を預かるようになった。自分を除け者にした両親に翼は腹が立ちもう会いたくないと心の中で思っていたが、自分が臨死状態になってあの世に来てから両親に会いたいと思うようになった。今の状態で嫌厭とか会いたくないと思う状況ではないのだから。しかし、翼は反論できなかった。両親に会いたくないという気持ちは本当にあったのだから。きっと、天童悪鬼丸は翼が自分の両親を嫌厭している事は既に知っていたみたいだ。翼は天童悪鬼丸が創った檻の中で二人が戦っている姿をただ見ているしかなかった。想像術が使えない今、辰巳が天童悪鬼丸に勝つ術(すべ)がないうえ、翼が檻から脱出する術(すべ)はないのだから。翼は何も言わないまま檻の中で大人しくしていたその時、辰巳が叫びながら言った言葉を耳にした。
「そんなの、良くないに決まってるだろ!翼くんは、まだ幼いしこれから先の未来へ進む為にも生き延びなくちゃいけない理由がある!確かに、翼くんは自分の両親を嫌厭していた。でも、今の状況になってから翼くんは両親に会いたくないのではなく、会いたいって思っている筈だ!死んだらもう二度と両親には会えない事ぐらい翼くんは分かっている!」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を使った攻撃をすんなりと避けきる辰巳に腹が立ち大剣を使うのをやめて大きな左手で拳をつくり辰巳を殴った。辰巳は天童悪鬼丸に殴られ倒れた。
「叔父さん!」
翼は叫んだ。
天童悪鬼丸に殴られ倒れていた辰巳は体を起こし立ち上がった。魂の姿になっているに辰巳の頭から血が流れていた。
「僕は、翼くんを預かっている。あの子を死なすわけにはいかないんだ・・・!僕が責任もって預かっている翼くんを死なせたら、あの子の両親は悲しむ・・・!翼くんだって、悲しむ!」
すると、天童悪鬼丸は辰巳を捕まえ持ち上げた。天童悪鬼丸が捕まえた手に力を入れると辰巳は体が痛み苦しそうな声を上げた。
「悲しむだと?翼は、両親を嫌厭してまで悲しむ必要はあるのか?翼の親は自分の息子を苦しませているのだぞ?それなのに、嫌っていた親の為に悲しむとはくだらん心境の変化だな。」
辰巳は痛みを感じながら言った。
「心境の変化か・・。あながち間違ってはいないな。でも、人間は誰だって気持ちが変わる時だってある。誰にだっていろいろな事情を持って気が変わる人間だっている。翼くんは確かに、自分の両親を嫌っていた。でも、あの世に来て今の状況になってから嫌厭していた両親に会いたいと思っているはずだ!両親に会いたいという事は、家族の一人として共に過ごした思い出があるからだ!あの子の両親は結局、離婚してしまうけど、それでも翼くんは将来の為にももっと生きていかなくちゃいけない権利がある。旅立つ日が来るまで一緒に暮らす親の為にもまだ生きていかなくちゃいけない。小井玉ちよの生まれ変わりだが何だか知らないが、あの子は僕の甥っ子で僕がよく知っている小山翼だ!」
その話を聞いて天童悪鬼丸は益々と怒りの表情を見せ自分の手中に捕まっている辰巳を睨んだ。
「戯言を!」
天童悪鬼丸はあまりの怒りで捕まえた辰巳をぶん投げた。
「がっ‼」
ぶん投げられた辰巳は翼が閉じ込められている檻に思い切り背中をぶつけ仰向けになって倒れた。
「叔父さん!」
翼は檻の中で叫んだ。
辰巳は背中の痛みで体を起こせなかった。投げられた時、檻に背中を思い切りぶつかった影響でかなりダメージが大きいみたいだ。辰巳は両腕を立てて体を起こそうとした時、天童悪鬼丸が彼の目の前に立ち辰巳を捕まえた左手を前に出した。天童悪鬼丸は大きな左手を使ってまだ起き上がれていない辰巳の首根っこを掴み上げたのだ。首根っこを掴まれた辰巳は体をぶら下げながら顔を上げ天童悪鬼丸の顔を見た。天童悪鬼丸は自分の手でぶら下がっている辰巳を見て笑った。
「無様だな、立村三郎の転生者。威勢な事を言いながも、想像術がないと結局何もできない無能なゴミ虫が」
天童悪鬼丸は高笑いをした。猿顔の天童悪鬼丸が笑う姿はあまりにも憎たらしく反論したいが、想像術が使えない今の辰巳では太刀打ちができない。辰巳はただ天童悪鬼丸に首根っこを掴まれたまま奴の話を聞くことだけしかできなかった。
「これでやっと、300年前の恨みを晴らす事ができる。貴様は、我と小井玉ちよ、あの女の転生者である翼との結婚を邪魔し、我の野望を踏みにじった。だが、こうして貴様を捕らえる事ができた。300年前は、捕らえることはできず貴様を取り逃がしてしまい屈辱を味わいながら貴様を恨んでいたが、もうそんなのどうでもよくなった。300年間、貴様を殺せるこの日が来るのをどれだけ待ちわびたか。これで、我の恨みは晴れ、貴様を葬る事ができる。敵ながらよく頑張った。褒美として、ここで貴様を食い殺してやろう!」
天童悪鬼丸は大きな口を開けた。それを見た辰巳は背筋が凍り青ざめた。このままでは、天童悪鬼丸に食い殺される。そうすれば、現世にある辰巳の肉体が冷たくなり心臓が止まり正式に死人となってしまう。辰巳は首根っこを掴まれながら自分の足をジタバタと動かした。しかし、足だけジタバタさせても何の得にもならない。天童悪鬼丸は左手で首根っこを掴まれている辰巳を自分の口元へと近づかせた。辰巳は天童悪鬼丸の大きな口を見てもうダメだと覚悟をしていた。
すると、辰巳の後ろから大きな声が聞こえた。
「待って!待ってくれ天童悪鬼丸!」
その声を聞いた途端、止まった。天童悪鬼丸の手が止まったのだ。辰巳は首根っこを掴まれたまま振り向いた。辰巳を食おうとした天童悪鬼丸を止めたのは、他でもない翼だった。翼は天童悪鬼丸に食われる辰巳の姿を見て耐えられなく声をかけたのだ。天童悪鬼丸も檻の中にいる翼を見ている。翼は檻の鉄格子を握りながら天童悪鬼丸に言ったのだ。
「天童悪鬼丸。お願いだ。叔父さんを離してあげて!」
それを聞いた天童悪鬼丸は断った。
「だめだ。こいつは、我の野望とお前との結婚を邪魔した重い罪がある。こいつは、食い殺さなければ我は気が治まらん!」
天童悪鬼丸は300年前の恨みを晴らす為に辰巳を食い殺したがっている。しかし、お願いを断った天童悪鬼丸に翼は何としてでも辰巳を救いたく話を続けた。
「あんたがどれだけ叔父さん、立村三郎を恨んでいるのかはよく分かった。だったら、ぼくは、あんたのお願いを聞いてあげる!」
それを聞いた途端、辰巳は驚いた。
「翼くん!何を言ってー」
「ほう。我の為に望みを叶えてくれるのか?」
翼は天童悪鬼丸を見てゆっくりと頷いた。
「その代わり、ぼくがあんたの望みを聞いてあげるから、叔父さんを離してあげて」
天童悪鬼丸のお願いを聞いて辰巳を助ける。翼はそう考えていたのだ。それに、天童悪鬼丸の望みは最初から分かっている。これは、辰巳の代償として翼が考えた事だ。辰巳は翼が何を考えているのか分かっていた。それは、自分を助けて代わりに翼が犠牲にならなければならいものだった。想像術が使えない二人がどんなに足掻いても結局、助からない。天童悪鬼丸は翼に自分の望みを言った。
「では、この我と結婚してくれ。それが、我の望みだ」
やはり、天童悪鬼丸の望みは翼と結婚する事だ。300年前に天童悪鬼丸は翼に生まれ変わる前に黄泉の巫女として生贄となった小井玉ちよと結婚するはずだったのが、立村三郎が現れ結婚するという願いは叶えられなかった。翼は真剣な表情で天童悪鬼丸の顔を見て答えた。
「・・・・じゃあ、叔父さんを離してくれるね?」
天童悪鬼丸は笑みを浮かべながら頷いた。
「もちろんだ。約束は守る」
すると、辰巳は翼に言った。
「ダメだ!翼くん!」
すると、翼は辰巳の方を見た。
「これしか方法がないんだ・・。叔父さんだけでも助かればぼくは・・」
「絶対にダメだ!絶対に君を現世へ連れ戻す!だから、こいつの言う通りになるな!」
「でも、それじゃあ叔父さんが天童悪鬼丸に食べられちゃう!」
「僕はどうなってもいい!何としてでも、君を現世へ連れ帰す!その為に僕はあの世に来たんだ!君はまだ幼い。まだ死ぬには勿体ないくらい寿命が残っている!まだ生きるチャンスはたくさんあるのに、こいつと一緒にあの世に残るなんて僕は許さないぞ!お父さんとお母さんに会いたくないのか⁈」
翼は黙った。もし、あの世に残ればもう二度と両親には会えない。しかし、天童悪鬼丸の望みを叶えてあげなければ辰巳が危ない。翼は現世へ帰って両親に会いたい気持ちと辰巳を助けたい気持ちで胸が苦しくなってきた。辰巳本人は、自分はどうなってもいいと言っているが、翼からにしては、どうでもよくない。辰巳には今まで両親が家庭裁判での決着がつくまで面倒を見てくれた。見えない世界が見えた時、いつも自分の側にいてくれたりもしてくれた。翼が臨死状態になった聞き仕事よりも自分の事を心配し駆けつけそのうえ、危険を冒してまであの世に来て助けに来てくれた。辰巳が助けに来てくれた時は、翼はとても嬉しかった。しかし、いまの状況では辰巳がピンチに陥っている。自分を助ける為に辰巳はあの世に来て天童悪鬼丸の相手をしてくれている。このまま、辰巳に任せる訳にもいかないと思い翼は思った。翼の脳裏には、離婚する前の両親と過ごす幸せな記憶と一緒に学校に通っている友達などの記憶が残っていた。しかし、翼の考えは全く変わらなかった。
「会いたいさ!でも、ぼくだって男だ!いつまでも叔父さんに頼りっぱなしは嫌なんだよ!叔父さんには悪いけど、ぼくは考えを変えないよ。あいつと結婚する代わりに叔父さんを助ける。それが、ぼくが決めたやり方だ!」
翼はもう後戻りはできないと覚悟したうえで言ったのだ。いつまでも、辰巳に頼る訳にはいかない。それが、彼が考えた答えでもあり自分を成長させる方法でもあった。辰巳を助けるなら、あの世に残った方がいいと思ったのだ。
「バカ!やめるんだ!」
辰巳は叫んだが、翼はやめる気は全く無かった。辰巳を助けて翼は天童悪鬼丸と結婚する。覚悟のうえで決めたこの答えに翼は後悔していなかった。これで、辰巳が助かれば天童悪鬼丸の怒りは収まりほとぼりが冷める。
翼は天童悪鬼丸に向けて言った。
「天童悪鬼丸・・・いや、天童悪鬼丸様。ぼくは、男から女となりあなたと結婚します」
その一言で辰巳は絶句した。
「この我から逃げられるなと思うなよ」
天童悪鬼丸の右掌から黒紫色の不気味な妖気が出てきた。不気味な妖気は変形し剣の形になったのだ。天童悪鬼丸は不気味な妖気で作り上げた紫色と黒色が混合した刃を持つ大きな剣を手に持った。
「これは、我が想像術と呪術を組み合わせて造った最高の剣『黒神常闇の大剣(こくしんとこやみのだいけん)』。貴様の前世である立村三郎との戦いで我が使った自慢の剣だ!」
黒神常闇の大剣。この剣から異様で強烈な妖気を感じる。天童悪鬼丸が自分の妖気を使って造り出した最強の剣。その剣から感じる威圧感で辰巳は動揺した。想像術は同時には使えない。そう死神102号から教わった。辰巳は想像術で大剣を作り両手で持った。剣道を習っていた辰巳にとって大剣を使って一戦交えるのは今回が初めて。大剣は重く竹刀とは比べ物にはならない重度感があった。辰巳は後ろにいる翼に言った。
「翼くん!君は想像術を使って橋を作りながら走ってくれ!」
それを聞き翼は戸惑った。
「そ、想像術って、どうやって?」
「自分が思った事を想像するだけでいいんだ。ここはあの世だから自分が想像した物は実現できる!」
「わ、分かった!」
翼はちょっと戸惑いながらも振り向いて目を閉じた。
「ほう。貴様、この我に挑もうというのだな?」
辰巳は大剣を握りながら天童悪鬼丸を見た。
「いいだろう!貴様をズタズタのバラバラにしてやる‼」
天童悪鬼丸は片手で黒神常闇の大剣を高くかざし振り下ろした。辰巳は天童悪鬼丸が振り下ろした黒神常闇の大剣の攻撃を自分の想像術で作った大剣で防いだ。辰巳は両手で自分の大剣を抑えながら耐えていた。
「300年前の恨み、ここで晴らさせてもらうぞ!我が憎き立村三郎の転生者‼」
翼は天童悪鬼丸の言葉を聞きながらも集中して想像術を使って橋の道を作り出した。途切れていた橋の道は翼の想像術のおかげで繋がった。
「叔父さん!」
辰巳は想像術を使ってガードをしながら想像術で黒神常闇の大剣を振り下ろした天童悪鬼丸を押し返そうとしていた。自らの力では天童悪鬼丸を押し返す事はできない。ならば、想像術を使って距離を取らなければならないのだ。すると、天童悪鬼丸の顎下をアッパーしようとする木材で出来た拳が現れた。
「いでぇ!」
天童悪鬼丸は辰巳が想像術で仕掛けた木材で出来たアッパーを受けた。受けた衝撃で天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を持ちながら体をフラフラしながら後ろへ下がり俯きながら顎下を抑えていた。辰巳は天童悪鬼丸の攻撃を防いだ大剣を持って振り向き指を指した。
「走れ!橋を作りながら走るんだ!」
翼は頷き走った。続いて辰巳も走った。
天童悪鬼丸は顎下を抑えながら痛みを耐えていた。5分も経たないうちに天童悪鬼丸は顔を上げ鋭い牙と歯を剥き出して怒りの表情を見せた。
「くそがぁ‼」
そう叫び天童悪鬼丸の顎下をアッパーした木材で出来た拳を黒神常闇の大剣で壊した。斬られた木材で出来た拳は橋の下へと落ちた。
「ふざけた真似をしやがって!殺す‼」
天童悪鬼丸はそう言い走り出した。
翼は想像術を使って橋の新しい道を作っていた。橋はどこからともなく現れ二人が通る道へと繋ぎ続けている。辰巳は大剣を持って走っている。橋はギシギシと軋む音を立てていた。二人は走り続けていた。あの世はとても広く今、どこにいるのかも全く分からない。翼は次々と想像術で橋の道を作り続けていた。すると、後ろからドスンドスンという音が聞こえきた。二人が振り向くと後ろには天童悪鬼丸がこちらに向かって走って来ているのだ。それを知った辰巳はこれ以上、通さないよう想像術を使った。辰巳が想像術で作り上げたのは寺の門である。辰巳はいくつもの寺の門を創り天童悪鬼丸の行く手を阻ませた。しかし、天童悪鬼丸は辰巳が創った寺の門を壊そうと突っ込もうとする。天童悪鬼丸は寺の門に目掛けて喝を討入れた。すると、寺の門は一気に崩れた。辰巳は想像術で新しい物を創ろうとした。次に辰巳が創り出したのは、兵士人形だった。完成した兵士人形は動き出し天童悪鬼丸に向かって走り出し飛び掛かった。すると、天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を大いに振るった。辰巳が創った兵士人形は次々とやられ辰巳は左手を前に出した。なんと、辰巳の掌から光弾が出てきたのだ。辰巳は想像術で作った光弾を放った。光弾は天童悪鬼丸に目掛けて向かって行く。天童悪鬼丸は再び黒神常闇の大剣を振るった。黒神常闇の大剣が光弾とぶつかった時、大爆発した。二人の目の前は白い煙で覆われ天童悪鬼丸の姿は見えない。しかし、油断は禁物。あの天童悪鬼丸がそう簡単にやられるはずがない。辰巳は大剣を構えながら警戒していた。すると、白い煙の中から天童悪鬼丸の姿が見えた。天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を薙ぎ払うかのように振るって白い煙を消しかけたのだ。辰巳は大剣を持って気合の声を出して走り出した。走り出した辰巳は大剣を振るうと天童悪鬼丸は避けた。辰巳は大剣を猛威に振るい続けた。振るい続けているのは、翼から天童悪鬼丸を近づかせないよう攻撃を仕掛けているのだ。天童悪鬼丸は片手で軽々と黒神常闇の大剣を横から振るうと辰巳は大剣で天童悪鬼丸の攻撃を防いだ。そして、次は天童悪鬼丸からの攻撃で襲いかかってきた。辰巳は押されながらもうまく天童悪鬼丸の攻撃を防ぎ続けた。そして、黒神常闇の大剣を押して再び大剣を振るいだした。辰巳が大剣を振るいだすと天童悪鬼丸は彼の攻撃を防いだ。辰巳に押されるも天童悪鬼丸は全く焦る様子はなかった。辰巳は息を切らしていた。それもそうだ。想像術で造ったとしても大剣は普通の竹刀とは違う。軽くもないし動きにくい。それに、大剣を振っただけで体力の消耗が激しい。しかし、この大剣を使わなければ天童悪鬼丸と太刀打ちできない。ただの普通の剣や竹刀では簡単に折れてヘタすればジ・エンドだ。辰巳は自分の援護用の想像術を使おうとしていた。辰巳は何かないか脳の中で探っていた時、天童悪鬼丸はいきなり左手を天高く上げた。すると、左手が黒くなった。それは、とても邪悪でプレッシャーを感じる嫌な予感だけしかなかった。天童悪鬼丸は上げていた左手を思いっきり橋に叩きつけた。すると、翼が創った橋全体が黒く染まり出したのだ。あまりにも、黒いので自分の足が見えなく気味が悪かった。辰巳と翼は何が起きているのか分からなかった。すると、自分達の足に違和感があった。それはまるで、空中に浮いているかのような感触がしたのだ。その時だ。自分達の足を吸い込む現象が起きた。二人は驚いて足元を見る。しかし、橋が黒く塗り潰され足が見えない状態なので何が起きているのか分からない。すると、暗闇にある足がだんだん吸い寄せられていく。足が吸い寄せられるに連れ体も黒い地面の中へと吸い寄せられる。なぜ吸い寄せられるのか全く分かっていない二人は必死にもがいた。しかし、吸引力が強いせいか這い上がる事ができない。
「叔父さん!」
「翼くん!」
二人はお互い呼び合いながら黒い地面に吸い込まれた。
吸い込まれた二人は暗闇の中、吸い込まれ続けていた。これはきっと、重力と関係しているのであろう。辰巳と翼は暗闇の中、下へ下へと吸い込まれて続いていた。すると、暗闇の中から一筋の光が見えた。その光に辰巳と翼は気付いた。光はだんだん大きくなり二人を飲み込んだ。二人はあまりの強い光に目を瞑った。
辰巳はゆっくりと目を開けた。見えたのは、逆さまになっているあの世の景色。その逆さまの景色を見た後、上を見た。上にはあの世の空が見えた。それを見た時、辰巳は気付いた。なんと、二人はあの世の空から落ちているのだ。翼も目を開け逆さまに見えるあの世の景色を見て自分達は落っこちているのに気付いた。その時だ。一瞬、背中から痛みが出てきた。二人は自分の手に触れている物に気付いた。それは、地面だ。さっきまで空にいたのに、いつの間にか地面の上で倒れていた。二人はゆっくりと体を起こし立ち上がった。すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「いかがだったかな?空から落ちて地面に叩きつけられた感想は」
二人は振り向いた。なんと、二人の前に天童悪鬼丸が立っていたのだ。一体、何が起きたのか頭の整理がつかないまま辰巳は訊いた。
「い、一体、何をしたんだ⁈」
天童悪鬼丸は不敵な笑みを浮かべながら教えた。
「ちょいと重力術と空間術を使っただけだ」
そう答えると辰巳は想像術を使った。辰巳の両掌には想像術の光が出ている。すると、天童悪鬼丸の人差し指が光り出した。すると、辰巳と翼が立っている地面から黒紫色の煙が勢いよく噴き出し煙は二人を包み込んだ。辰巳と翼はいきなり地面から噴き出してきた得体の知れない不気味な煙を浴びて咳き込んだ。そして、二人は黒紫色の煙を空いた手で払った。やがて、黒紫色の煙は消え二人の姿が見えてきた。二人は黒紫色の煙が消えた後、お互い無事なのか確認した。
「翼くん!大丈夫か?」
翼は頷いた。
「うん・・。叔父さんも大丈夫?」
「僕も大丈夫だ」
辰巳は頷いた。今の煙は何だったのだろうか。でも、嫌な予感はする。天童悪鬼丸の指先が光り出した途端、地面から怪しい煙が噴き出てきた。これは、天童悪鬼丸が術を使ったに違いないと辰巳は知っていたが、一体、何の術を使ったのかがどうしても、嫌な感じがして訊きたくもなかった。しかし、二人の体は何ともないしあんまり変わった様子はない。ただの煙だったらいいのだが、どうもごく普通の煙ではないのは確かだ。あんまり、知りたくはないが天童悪鬼丸はなぜ辰巳達に黒紫色の煙を浴びさせたのか気になって仕方がない。もしかすると、奴が得意とする呪術と何か関係があるのかもしれない。でも、あんまり自分達の体に変化や異変はないので気にする事はなかった。もしかすると、天童悪鬼丸の呪術は失敗で終わったのかもしれない。そう思った天童悪鬼丸と対抗できる物を思いつき辰巳は両手を出して想像術を使おうとした。
辰巳は自分の頭で思い浮かんだイメージを思い出しながら想像術を使った。しかし、何も変化はない。辰巳はもう一度、思い浮かんだイメージを持って想像術を使った。全く発動しない。辰巳は想像術が使えないという異変に戸惑っていた。後ろにいる翼は辰巳に声をかけた。
「どうしたの?」
辰巳は振り向いて翼に言った。
「・・・想像術が使えない。」
「えっ⁈」
翼は驚いた。
想像術が使えない。これは、大変な事だ。想像術は天童悪鬼丸に対抗する唯一の武器でもあり、自分達の身を守るのに必要な術であるのだから。その想像術が使えないというのはかなり痛い。これでは、頭の中でイメージした物が出せないうえ、天童悪鬼丸から退ける事ができない。一体全体どうなっているのか辰巳と翼は困惑していた。すると、二人の前にいる天童悪鬼丸は困惑している二人の様子を見て高笑いをしていた。天童悪鬼丸の高笑いは二人がいる周りに響き自信に満ちた声で辰巳が想像術が使えない理由を教えたのだ。
「なぜ、想像術が使えないのか。それは、貴様らが想像術を使えないよう封じ込めたからだ!」
その言葉を聞き辰巳と翼は反応した。
「封じ込めただと⁈」
「さっき、貴様らが浴びたあの煙はただの煙ではない。想像術を封じ込み使えないようにする強力な呪術なのだ。『想像呪封(そうぞうじゅふ)』と言ってな、封印の煙を吸い込んでしまったら想像術が使えなくなるのだ。つまり、貴様らは、想像術が使えないごく普通の亡者となったのだ。いや、一人は仮死状態であの世に来た人間だったな」
「ぼくは、お前の部下に無理矢理連れてこられたけどな」
翼が付け加えて言うと天童悪鬼丸は笑った。
「そうだったな」
辰巳はあの黒紫色の煙を浴びた時を思い出した。確かに、少しだけ煙を吸い込んだ覚えがある。あの煙を吸い込んだのが想像術が使えない原因となったのだ。
「想像術が使えない貴様らはただの無能。ただの仮死状態の人間に変わりはない」
辰巳と翼は想像術が使えない事で大ピンチに陥っていた。辰巳は窮地に立たされている今、天童悪鬼丸と戦える方法はなかった。想像術こそが唯一の救いだった。しかし、その唯一の救いである想像術が使えない今、天童悪鬼丸に対抗する術(すべ)はなかった。想像術なしで奴と戦うのは不可能だと辰巳は思い今、自分達ができる事は一つしかなかった。
「翼くん。走るぞ!」
「えっ⁈」
「僕達ができる事は逃げる事だけしかない!走るんだ!」
自分達に唯一残された手段は「逃げきる」という方法しかない。そう思った辰巳は翼に走って天童悪鬼丸から逃げるよう伝えた。翼は辰巳の言う事を聞いて走り出した。もちろん、辰巳も走り出した。二人はなるべく天童悪鬼丸から遠く離れる事だけしか思いつかなかった。想像術が使えない辰巳と翼では天童悪鬼丸に勝てる訳ない。このピンチを切り抜けるのが彼らにとって唯一の希望だった。しかし、天童悪鬼丸からうまく逃げきる事ができないのは、分かっている。でも、今自分達ができる事は逃げる事だけしか道はなかった。二人は助かる確率が低い「逃げる」という手段を取りながら天童悪鬼丸から離れた。
天童悪鬼丸が自分から逃げる二人の姿を見て愚かに思っていた。自分から逃げるなんて1000年早いと思った天童悪鬼丸は左手を前に出した。
二人は天童悪鬼丸から必死に逃げていた。逃げて逃げて天童悪鬼丸から離れる事だけしか頭になかった。想像術が使えない今、この逃げるという唯一の方法しかったのだから。先頭で翼は必死に走っている時、二人の間に地面から鉄格子が現れたのだ。二人の間に割り込み這い上がってきた鉄格子はやがて檻へと変化し翼を閉じ込めたのだ。辰巳は地面から這い上がった檻の鉄格子に驚き尻餅をついた。翼は360℃鉄格子に囲まれ檻に閉じ込められたので逃げる術を失った。閉じ込められた翼は下りの鉄格子を握って辰巳を呼んだ。
「叔父さん!」
尻餅をついた辰巳は立ちあがり檻の鉄格子を握った。辰巳は翼を逃がす為、鉄格子を曲げようとしたが全く曲がる様子はなかった。
「くそっ!なんで、急に檻が・・・!」
すると、後ろから天童悪鬼丸の声が聞こえた。
「翼は我の物。逃がさぬよう我が想像術で檻を創ったのだ」
辰巳は振り向き叫んだ。
「翼くんを解放しろ!」
すると、天童悪鬼丸は左手で辰巳を薙ぎ払った。
「叔父さん!」
翼は叫んだ。
「くっ・・・・・・!」
薙ぎ払われた衝撃で転がった辰巳は体を起こした。
天童悪鬼丸は辰巳を見て言った。
「憎き立村三郎の転生者 山崎辰巳。貴様が前世で我にした事を憶えてはいないとはいえ、我は貴様に受けた傷、我の目的を妨害された事は今でも尚、しっかりと憶えている。我は貴様を許さん。300年間、恨みに恨んだこの憎しみを貴様にぶつけてやる」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を勢いよく振り落とした。辰巳は天童悪鬼丸の攻撃を見切り避けた。
「何が憎しみだ!お前は現世で暴れ生贄である黄泉の巫女を連れ去らったくせに!おまけに、部下を使って翼くんを無理矢理臨死状態させたくせに!」
「だまれ!」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を振った。翼は天童悪鬼丸が振った黒神常闇の大剣の攻撃を避けた。
「我は、あの人間の女、小井玉ちよを気に入っていた!本来なら小井玉ちよは我の嫁として迎え入れるはずだった!あの女は、現世にいるそこら中の人間の女とは違う!生贄となった他の人間の女は我が喰ったが、小井玉ちよだけは喰わなかった。あの女は、我にとって特別な人間で存在も大きかった。なぜ、小井玉ちよだけ喰わなかったのか知っているか?」
天童悪鬼丸の質問に辰巳は答えられなかった。
「あの女は、希少なうえ人間の中ではたった一人だけしか持っていない〝福縁の血〟という珍しうえ特別な血を持っていたのだ!」
「福縁の血?」
「福縁の血は、自分一人だけではなく、家族にも分け与え永遠の幸福が訪れ幸せになれるといわれている。我々、あの世の妖怪では福縁の血を持つ人間は特別だと言われていた。その福縁の血を持つ人間と結ばれるとどうなると思う?」
辰巳は答えなかった。
「福縁の血を持つ人間と結ばれた者は、自分にも永遠の幸福が訪れ幸せになれるからだ。我みたいなあの世に住む妖怪は、福縁の血を持つ人間の事を〝永福を与えてくれる者〟と呼ばれていた。福縁の血を持っていた小井玉ちよを見て我は驚いた。あの女と結ばれれば、我は永遠の幸福を手に入り神々の頂点に立ちあの世を支配する事ができる。そう思った時、我はゾクゾクした。福縁の血を持っていた小井玉ちよと結ばれれば自分の野望が叶えられると思ったからだ。そして、我は黄泉の巫女となった小井玉ちよを貰い受け結婚しようとした。まぁ、小井玉ちよは、一見おしとやかな性格を持つ人間に見えたが以外にも頑固だったな。それでも我は小井玉ちよを自分の物にしたく無理矢理だが結婚しようとした。その時だ!小井玉ちよの婚約者でありながら我の野望を壊した立村三郎が現れ小井玉ちよを連れ去ったのだ!我は怒りに狂い今すぐにでも立村三郎を殺して小井玉ちよを取り戻すはずだったが、奴に受けた傷もあり、我は現世へ行き立村三郎に復讐をする事はできなかった。それから20年後、傷跡が残っていながらも受けた傷が癒えた時、手下から耳を疑うような話を聞いた。小井玉ちよが病にて死んだのだ。そして、その数ヶ月後に憎き立村三郎が戦にて死んだのだ。復縁の血を持つ小井玉ちよと幸福を手に入れた立村三郎が死んだのは謎だが、我は思った。神が二人が我からうまく逃れるよう小井玉ちよと立村三郎という人間が本来、最後まで辿るはずだった生涯の分岐点を変えたからだ。そして、我が小井玉ちよと立村三郎と気付かれぬよう二人を違う姿で転生させた。転生した小井玉ちよと立村三郎を捜すのはとても苦労した。そのおかげで、300年という長い年月が経ち、そしてー」
「現在に至る。小井玉ちよの生まれ変わりが翼くんで立村三郎の生まれ変わりが僕だと分かったのか」
辰巳が答えた言葉に天童悪鬼丸は不服そうな顔で言った。
「その通り。それを知った我は手下に小井玉ちよの転生者を天童城へ連れて来るよう指示をしたのだ。小井玉ちよの転生者にオトコンナを飲ませ女になったら、300年越しの夢であった結婚ができると思った矢先に立村三郎の転生者である貴様に邪魔された!」
天童悪鬼丸は怒りに任せながら黒神常闇の大剣を振り上げた。
「一度だけでなく二度までも我の邪魔をしおって!貴様をここで葬らなければ我の気は収まらん‼」
黒神常闇の大剣を振り下ろし辰巳はまた避けた。それに腹が立ったのか振り下ろした黒神常闇の大剣を横から振った。辰巳は天童悪鬼丸の攻撃からうまく避け続けた。辰巳は天童悪鬼丸の攻撃を避けながら言った。
「お前がなぜ、僕を憎んでいたのかよく分かった!でも、翼くんは僕の甥っ子でもあり大事な子なんだ!翼くんが本当に死人になったら僕が困るし、その家族が悲しむ!」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を振りながら叫んだ。
「だが、翼は親とは会いたくないと言っている!身勝手で自らの意見を全く聞かない親に翼は嫌厭をしている!親を嫌厭して会いたくなければ、我と結び一生、あの世に住むだけで幸せではないか!そうすれば、親の顔を見なくて済むではないか!」
天童悪鬼丸が放った言葉を聞いて翼はドキッとした。現世にいた頃は、母親に会いたくないとか言って両親の事を嫌厭していた。しかし、天童悪鬼丸の部下に連れ去られ天童城で閉じ込められていた時、両親に会いたいという気持ちがあった。自分が本当に死人となり亡者になったら、離婚をする両親はどんな様子を見せるのだろうか。きっと、悲しんで後悔するに違いない。今までは、両親が離婚しようと決めつけ自分の意見を聞かず家庭裁判を開き、そのあげく調布市に住んでいる辰巳は翼を預かるようになった。自分を除け者にした両親に翼は腹が立ちもう会いたくないと心の中で思っていたが、自分が臨死状態になってあの世に来てから両親に会いたいと思うようになった。今の状態で嫌厭とか会いたくないと思う状況ではないのだから。しかし、翼は反論できなかった。両親に会いたくないという気持ちは本当にあったのだから。きっと、天童悪鬼丸は翼が自分の両親を嫌厭している事は既に知っていたみたいだ。翼は天童悪鬼丸が創った檻の中で二人が戦っている姿をただ見ているしかなかった。想像術が使えない今、辰巳が天童悪鬼丸に勝つ術(すべ)がないうえ、翼が檻から脱出する術(すべ)はないのだから。翼は何も言わないまま檻の中で大人しくしていたその時、辰巳が叫びながら言った言葉を耳にした。
「そんなの、良くないに決まってるだろ!翼くんは、まだ幼いしこれから先の未来へ進む為にも生き延びなくちゃいけない理由がある!確かに、翼くんは自分の両親を嫌厭していた。でも、今の状況になってから翼くんは両親に会いたくないのではなく、会いたいって思っている筈だ!死んだらもう二度と両親には会えない事ぐらい翼くんは分かっている!」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を使った攻撃をすんなりと避けきる辰巳に腹が立ち大剣を使うのをやめて大きな左手で拳をつくり辰巳を殴った。辰巳は天童悪鬼丸に殴られ倒れた。
「叔父さん!」
翼は叫んだ。
天童悪鬼丸に殴られ倒れていた辰巳は体を起こし立ち上がった。魂の姿になっているに辰巳の頭から血が流れていた。
「僕は、翼くんを預かっている。あの子を死なすわけにはいかないんだ・・・!僕が責任もって預かっている翼くんを死なせたら、あの子の両親は悲しむ・・・!翼くんだって、悲しむ!」
すると、天童悪鬼丸は辰巳を捕まえ持ち上げた。天童悪鬼丸が捕まえた手に力を入れると辰巳は体が痛み苦しそうな声を上げた。
「悲しむだと?翼は、両親を嫌厭してまで悲しむ必要はあるのか?翼の親は自分の息子を苦しませているのだぞ?それなのに、嫌っていた親の為に悲しむとはくだらん心境の変化だな。」
辰巳は痛みを感じながら言った。
「心境の変化か・・。あながち間違ってはいないな。でも、人間は誰だって気持ちが変わる時だってある。誰にだっていろいろな事情を持って気が変わる人間だっている。翼くんは確かに、自分の両親を嫌っていた。でも、あの世に来て今の状況になってから嫌厭していた両親に会いたいと思っているはずだ!両親に会いたいという事は、家族の一人として共に過ごした思い出があるからだ!あの子の両親は結局、離婚してしまうけど、それでも翼くんは将来の為にももっと生きていかなくちゃいけない権利がある。旅立つ日が来るまで一緒に暮らす親の為にもまだ生きていかなくちゃいけない。小井玉ちよの生まれ変わりだが何だか知らないが、あの子は僕の甥っ子で僕がよく知っている小山翼だ!」
その話を聞いて天童悪鬼丸は益々と怒りの表情を見せ自分の手中に捕まっている辰巳を睨んだ。
「戯言を!」
天童悪鬼丸はあまりの怒りで捕まえた辰巳をぶん投げた。
「がっ‼」
ぶん投げられた辰巳は翼が閉じ込められている檻に思い切り背中をぶつけ仰向けになって倒れた。
「叔父さん!」
翼は檻の中で叫んだ。
辰巳は背中の痛みで体を起こせなかった。投げられた時、檻に背中を思い切りぶつかった影響でかなりダメージが大きいみたいだ。辰巳は両腕を立てて体を起こそうとした時、天童悪鬼丸が彼の目の前に立ち辰巳を捕まえた左手を前に出した。天童悪鬼丸は大きな左手を使ってまだ起き上がれていない辰巳の首根っこを掴み上げたのだ。首根っこを掴まれた辰巳は体をぶら下げながら顔を上げ天童悪鬼丸の顔を見た。天童悪鬼丸は自分の手でぶら下がっている辰巳を見て笑った。
「無様だな、立村三郎の転生者。威勢な事を言いながも、想像術がないと結局何もできない無能なゴミ虫が」
天童悪鬼丸は高笑いをした。猿顔の天童悪鬼丸が笑う姿はあまりにも憎たらしく反論したいが、想像術が使えない今の辰巳では太刀打ちができない。辰巳はただ天童悪鬼丸に首根っこを掴まれたまま奴の話を聞くことだけしかできなかった。
「これでやっと、300年前の恨みを晴らす事ができる。貴様は、我と小井玉ちよ、あの女の転生者である翼との結婚を邪魔し、我の野望を踏みにじった。だが、こうして貴様を捕らえる事ができた。300年前は、捕らえることはできず貴様を取り逃がしてしまい屈辱を味わいながら貴様を恨んでいたが、もうそんなのどうでもよくなった。300年間、貴様を殺せるこの日が来るのをどれだけ待ちわびたか。これで、我の恨みは晴れ、貴様を葬る事ができる。敵ながらよく頑張った。褒美として、ここで貴様を食い殺してやろう!」
天童悪鬼丸は大きな口を開けた。それを見た辰巳は背筋が凍り青ざめた。このままでは、天童悪鬼丸に食い殺される。そうすれば、現世にある辰巳の肉体が冷たくなり心臓が止まり正式に死人となってしまう。辰巳は首根っこを掴まれながら自分の足をジタバタと動かした。しかし、足だけジタバタさせても何の得にもならない。天童悪鬼丸は左手で首根っこを掴まれている辰巳を自分の口元へと近づかせた。辰巳は天童悪鬼丸の大きな口を見てもうダメだと覚悟をしていた。
すると、辰巳の後ろから大きな声が聞こえた。
「待って!待ってくれ天童悪鬼丸!」
その声を聞いた途端、止まった。天童悪鬼丸の手が止まったのだ。辰巳は首根っこを掴まれたまま振り向いた。辰巳を食おうとした天童悪鬼丸を止めたのは、他でもない翼だった。翼は天童悪鬼丸に食われる辰巳の姿を見て耐えられなく声をかけたのだ。天童悪鬼丸も檻の中にいる翼を見ている。翼は檻の鉄格子を握りながら天童悪鬼丸に言ったのだ。
「天童悪鬼丸。お願いだ。叔父さんを離してあげて!」
それを聞いた天童悪鬼丸は断った。
「だめだ。こいつは、我の野望とお前との結婚を邪魔した重い罪がある。こいつは、食い殺さなければ我は気が治まらん!」
天童悪鬼丸は300年前の恨みを晴らす為に辰巳を食い殺したがっている。しかし、お願いを断った天童悪鬼丸に翼は何としてでも辰巳を救いたく話を続けた。
「あんたがどれだけ叔父さん、立村三郎を恨んでいるのかはよく分かった。だったら、ぼくは、あんたのお願いを聞いてあげる!」
それを聞いた途端、辰巳は驚いた。
「翼くん!何を言ってー」
「ほう。我の為に望みを叶えてくれるのか?」
翼は天童悪鬼丸を見てゆっくりと頷いた。
「その代わり、ぼくがあんたの望みを聞いてあげるから、叔父さんを離してあげて」
天童悪鬼丸のお願いを聞いて辰巳を助ける。翼はそう考えていたのだ。それに、天童悪鬼丸の望みは最初から分かっている。これは、辰巳の代償として翼が考えた事だ。辰巳は翼が何を考えているのか分かっていた。それは、自分を助けて代わりに翼が犠牲にならなければならいものだった。想像術が使えない二人がどんなに足掻いても結局、助からない。天童悪鬼丸は翼に自分の望みを言った。
「では、この我と結婚してくれ。それが、我の望みだ」
やはり、天童悪鬼丸の望みは翼と結婚する事だ。300年前に天童悪鬼丸は翼に生まれ変わる前に黄泉の巫女として生贄となった小井玉ちよと結婚するはずだったのが、立村三郎が現れ結婚するという願いは叶えられなかった。翼は真剣な表情で天童悪鬼丸の顔を見て答えた。
「・・・・じゃあ、叔父さんを離してくれるね?」
天童悪鬼丸は笑みを浮かべながら頷いた。
「もちろんだ。約束は守る」
すると、辰巳は翼に言った。
「ダメだ!翼くん!」
すると、翼は辰巳の方を見た。
「これしか方法がないんだ・・。叔父さんだけでも助かればぼくは・・」
「絶対にダメだ!絶対に君を現世へ連れ戻す!だから、こいつの言う通りになるな!」
「でも、それじゃあ叔父さんが天童悪鬼丸に食べられちゃう!」
「僕はどうなってもいい!何としてでも、君を現世へ連れ帰す!その為に僕はあの世に来たんだ!君はまだ幼い。まだ死ぬには勿体ないくらい寿命が残っている!まだ生きるチャンスはたくさんあるのに、こいつと一緒にあの世に残るなんて僕は許さないぞ!お父さんとお母さんに会いたくないのか⁈」
翼は黙った。もし、あの世に残ればもう二度と両親には会えない。しかし、天童悪鬼丸の望みを叶えてあげなければ辰巳が危ない。翼は現世へ帰って両親に会いたい気持ちと辰巳を助けたい気持ちで胸が苦しくなってきた。辰巳本人は、自分はどうなってもいいと言っているが、翼からにしては、どうでもよくない。辰巳には今まで両親が家庭裁判での決着がつくまで面倒を見てくれた。見えない世界が見えた時、いつも自分の側にいてくれたりもしてくれた。翼が臨死状態になった聞き仕事よりも自分の事を心配し駆けつけそのうえ、危険を冒してまであの世に来て助けに来てくれた。辰巳が助けに来てくれた時は、翼はとても嬉しかった。しかし、いまの状況では辰巳がピンチに陥っている。自分を助ける為に辰巳はあの世に来て天童悪鬼丸の相手をしてくれている。このまま、辰巳に任せる訳にもいかないと思い翼は思った。翼の脳裏には、離婚する前の両親と過ごす幸せな記憶と一緒に学校に通っている友達などの記憶が残っていた。しかし、翼の考えは全く変わらなかった。
「会いたいさ!でも、ぼくだって男だ!いつまでも叔父さんに頼りっぱなしは嫌なんだよ!叔父さんには悪いけど、ぼくは考えを変えないよ。あいつと結婚する代わりに叔父さんを助ける。それが、ぼくが決めたやり方だ!」
翼はもう後戻りはできないと覚悟したうえで言ったのだ。いつまでも、辰巳に頼る訳にはいかない。それが、彼が考えた答えでもあり自分を成長させる方法でもあった。辰巳を助けるなら、あの世に残った方がいいと思ったのだ。
「バカ!やめるんだ!」
辰巳は叫んだが、翼はやめる気は全く無かった。辰巳を助けて翼は天童悪鬼丸と結婚する。覚悟のうえで決めたこの答えに翼は後悔していなかった。これで、辰巳が助かれば天童悪鬼丸の怒りは収まりほとぼりが冷める。
翼は天童悪鬼丸に向けて言った。
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その一言で辰巳は絶句した。
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