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第六話
あの世へ。そして、あの世から現世へ(6)
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天童悪鬼丸は翼の答えを聞いて大いに喜んだ。
「そうか・・!そうか!我と結婚してくれるんだな⁈本当だな?」
天童悪鬼丸は再度確認した。
「はい」
翼は頷いた。すると、天童悪鬼丸はますます嬉しくなった。
「やっと・・・・やっと、小井玉ちよの転生者と結婚ができる!この300年間、どれだけ待ちわびたか!我はとても嬉しい!やっと、我の気持ちを分かってくれたか!」
天童悪鬼丸は喜びながら黒神常闇の大剣を自分の妖気で纏い消した。すると、翼を閉じ込めていた檻が形を崩し消えた。天童悪鬼丸は空いた右手を自分の懐から豚吉五二郎が作ったオトコンナを翼の方へ放り投げた。翼は転がっているオトコンナの瓶を見た。
「結婚してくれるのなら、まずはそのオトコンナを飲め。お前が女にならなければ意味がないからな」
辰巳は地面に転がっているオトコンナの薬が入った瓶を手に取り蓋を開けた。翼は瓶の口を見つめた。これを飲めば、翼は女になり正式に天童悪鬼丸と結婚する事になる。いかにも、不味そうにみえるオトコンナ。でも、これを飲まなければ辰巳は天童悪鬼丸に喰われる。自分の答えに後悔はないと覚悟を決めた翼だったが、オトコンナの瓶を口に付けようとはしなかった。まだ、脳裏で現世にいた頃の記憶がこびりついているからだ。自分では覚悟を決めた気持ちでいるのに、まだ心の中のどこかに現世へ帰りたいという想いが残っているらしい。ここまで来て、何をためらっているのか翼は分からなかった。オトコンナを飲めば家族と友人、現世とは永遠の別れを告げる。飲まなかったら辰巳が喰い殺され彼の肉体は死ぬ。翼は勇気を持って飲もうとしたが、まだ脳裏に現世で過ごした記憶が鮮明に覚えていてが頭の中から思い出が過る。幸せだった家庭、楽しかった日々、泣いたり怒ったりした日、友達と喧嘩したり遊んだりした日、母親が作った料理が美味しかった記憶、父親と二人きりで出掛けた記憶、家族と一緒に遊園地や楽しい所へ行った思い出、そして、辰巳と一緒に暮しあまり知らなかった調布市のこと、見えない世界を知って体験した思い出。翼にとっては、かけがえのない思い出だった。翼が過ごした思い出は財産そのものでもあり、宝でもある。そんな、思い出を捨てる勇気がないかもしれない。しかし、翼は現世の思い出、記憶は綺麗さっぱり忘れようと心掛けていたが、そう簡単にはうまくいかない。一度、憶えている記憶は簡単には忘れる事はできないだろう。きっと、オトコンナを飲んでも現世で過ごした記憶がまだ残るかもしれない。もし、残っていたら女になっても一生、現世に置いてきた両親と友人達の顔をもい出しながら苦しまなくてはいけない。翼はオトコンナの瓶の口を見たまま動こうとはしなかった。そんな様子を天童悪鬼丸に首根っこを掴まれている辰巳は見ていた。
(もしかして・・)
辰巳は翼が現世にいた記憶を思い出しオトコンナを飲むか飲まないか迷っているのに気付いた。辰巳は翼に声をかけようとした途端、天童悪鬼丸が急かすかのように割り込んだ。
「どうした?翼。早く飲むのだ」
天童悪鬼丸は飲む気配がない翼を見て訊いた。翼は片手にオトコンナの薬が入っている瓶を持ちながら顔を上げた。
「天童悪鬼丸・・。この薬は後で飲む。まず先に叔父さんを離せ」
翼は真剣な眼差しで天童悪鬼丸を見た。
「ダメだ。先に飲むのだ。それから、こいつを離す」
翼は俯いた。すると、瓶を持っている片手を上げ勢いよく振り下ろした。
ガシャン!
翼はオトコンナの薬が入っている瓶を叩き割ったのだ。
「あーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
天童悪鬼丸は目を大きく見開き大声を出して驚いた。辰巳も口を開けて驚いた。すると、首根っこを掴んでいた辰巳を投げ捨てた。投げ捨てられた辰巳は地面に尻餅をついてすぐ翼の側へ駆け寄った。翼は無事に辰巳と再会できたことに安心した。そして、嬉しさに辰巳の胸の中に飛び込んだ。
辰巳は自分の胸に飛び込んだ甥をギュッと抱きしめた。
瓶は粉々になり中身に入っていたオトコンナの薬は零(こぼ)れた。天童悪鬼丸は大声で翼に怒鳴った。
「お前、なんて事をしてくれた‼なぜ、割った⁈」
オトコンナの薬を無駄にした翼は顔を上げた。なんと、翼の顔は強張っていた。
「テメーみてぇなバカと結婚するとでも思ったか!この猿顔の化物め!ぼくは、テメーがよく言う小井玉ちよじゃねぇ!21世紀の現世で生きる小山翼だ!ぼくは、小井玉ちよの転生者かもしれないけど、ぼくは女でも小井玉ちよでもねぇんだ!テメーの過去なんか知ったこっちゃねぇよ!勝手に人の人生と時間を狂わせがって!ふざけんな‼」
翼は天童悪鬼丸に立ち向かいながら怒鳴っている。辰巳は一変した翼の姿を見て、ただ黙って聞くしかなかった。
「なぁにが、オトコンナを飲めだ!だったら、テメーが飲みやがれ!自分の部下を大切にしないうえ、叔父さんを苦しませやがって、何が、恨みを晴らす時が来ただぁ?んなの、テメーが悪いに決まっているじゃねぇかバーロー‼いいか?ぼくは、テメーと結婚する気もねぇし、オトコンナを飲む気なんか鼻っからねぇんだよ!」
翼は勢いよく天童悪鬼丸に向けて指を指した。
「いいか?ぼくはてめぇのせいで大変な目に遭ってるんだぞ!こんな状況でぼくが喜ぶと思ったか?このバカ!そんなにぼくと結婚したければ、どっかの別の奴を探せ!それか、自爆しろ!ぼくがテメーと一緒に暮すなんて一生ねぇんだよ!テメーの言いなりなんかミジンコレベルないんだ!人間をナメんな‼」
あまりにも勢いのある発言で辰巳は何も言わず天童悪鬼丸の様子を見ていた。翼の発言で天童悪鬼丸は手を震わせていた。翼を恐れたのではない。怒りで震わせているのだ。今の発言で天童悪鬼丸の頭は完全に血が上り猿に似た顔が赤く染まった。
天童悪鬼丸は声を震わせながら翼を睨んだ。
「こ、この我をコケにしおって!我がどれだけ望んでいたと思う!小井玉ちよの転生者であるお前を嫁にすれば神々の頂点に立ちあの世を支配できるという野望が叶う!我はこの300年間、辛抱しながらこの時を待っていたのだぞ!それを・・・お前は、貴様達は、我の300年間の努力を台無しにしやがった!・・・・許せぬ・・・許せぬぞ貴様ら‼オトコンナがなくなった今、もうお前とは結婚できん!本来なら、小井玉ちよの転生者を始末する予定はなかったが、仕方がない。もったいないが、お前も立村三郎の転生者と共に始末してやる‼」
翼は完全にブチ切れた天童悪鬼丸を見ながら言った。
「これでお相子だね」
辰巳は苦笑した。
「そうだな」
二人は頭に血管の線が浮いていて顔を真っ赤にしている天童悪鬼丸の姿を見て立ったまま動かなかった。想像術が使えない以上、どんなに足掻いても無駄だと悟った二人はここで天童悪鬼丸に殺される覚悟をしていたのだ。天童悪鬼丸の顔は怒り狂う表情になっていて再び黒神常闇の大剣を召還したのだ。そして、二人まとめて一刀両断する為、黒神常闇の大剣を持っている両手を横向きで振り上げた。二人は天童悪鬼丸の攻撃から避けようとする体制は全くない。二人は天童悪鬼丸の攻撃から逃げずこのまま斬られて死のうとしていた。
「死ねぇ‼」
天童悪鬼丸は叫び黒神常闇の大剣を横から振り下ろした。翼は辰巳にしがみ付き二人揃って目を瞑った。
その時、二人の目の前から大きな光が現れた。黒神常闇の大剣を振り下ろした天童悪鬼丸は大きな光による眩しさに目を閉じたのだ。
「ぐわっ!」
眩しい光に天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を振り下ろすのをやめた。天童悪鬼丸の声を聞いて二人は目を開けた。すると、光の中から紋様が付いている懐中時計が現れたのだ。その懐中時計は、以前、商品祭で翼が手に入れた物だった。紋様が付いている懐中時計は二人の目の前に現れたのだ。しかし、紋様が付いている懐中時計は辰巳の自宅にあったはず。どうやって、あの世に来たのかはさて置き、なぜ、二人の目の前に現れたのか。それが分からない。二人は見覚えのある懐中時計を見て驚いた。天童悪鬼丸は光での目くらましを食らった後、ゆっくりと目を開けた。
「なんだったんだ。今のは?」
目を開いた天童悪鬼丸の前には紋様が付いている懐中時計が浮かんでいた。
「なんだ?あれは?」
天童悪鬼丸は目の前に浮かんでいる懐中時計が何なのか分からなかったが、気にする事はなかった。
「あれが何なのか知らんが、邪魔だな」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を懐中時計に目掛けて振り下ろした。すると、懐中時計が振り下ろした黒神常闇の大剣を防いだのだ。黒神常闇の大剣は全く懐中時計に触れる事もなく弾き返した。弾き返された天童悪鬼丸は体をふらつかせた。
「弾き返しただと⁈」
最強と呼ばれる黒神常闇の大剣の攻撃を簡単に弾き返しされた事で、天童悪鬼丸は驚きを隠せなかった。天童悪鬼丸は再び懐中時計に目掛けて黒神常闇の大剣を振り下ろした。そして、また弾き返された。辰巳と翼は、ただの懐中時計ではない事は知っていたが、あの天童悪鬼丸の黒神常闇の大剣を弾き返す程の力があったのは知らなかった。
「一体全体、どうなっていやがる・・!」
弾き返された天童悪鬼丸は一体どうなっているのか分からなかった。どうやら、懐中時計には見えないバリアーが張られているみたいだ。そのバリアーは黒神常闇の大剣みたいな闇の力を防ぎ弾き飛ばす力を持っているかもしれない。
すると、どこからか綺麗な声が聞こえた。
攻撃し続けても無駄です。天童悪鬼丸
その声は女性だった。しかし、姿は全く無い。
「その声はまさか・・・!」
天童悪鬼丸は、姿は無くこの綺麗で美しい声が誰なのか気付いたみたいだ。
汝(なんじ)の野望は今日、ここで途絶えます。どんなに手を尽くしたとしても、結果は変わりませんよ。
美しい声はあの世中に響き渡る。まるで、女神が話しかけているかのようで繊細で美しくて優しい。この声だけで心が洗われるような気持になる。そして、なぜか安心感もある。辰巳と翼は辺りを見渡したが、声の主の姿は全く見えない。
「姿は見えないがその声だけで知っているぞ。天照!」
「天照・・・。まさか、この声は天照大御神(あまてらすおおみかみ)か!」
辰巳は声の主が天照大御神だと分かり驚いた。
「天照って?」
翼は天照大御神とは何なのか知らないみたいだ。
「天照大御神は、日本神話に登場する主神だよ。須佐之男命(すさのおのみこと)の姉にもあたる神様だ。」
姿がない天照大御神に天童悪鬼丸は言った。
「何だ?今頃、我を殺(あや)めに来たというのか?全く我に敵わなかった貴様が!」
確かに、妾(わらわ)達は汝を討ち滅ぼす事はできませんでした。しかし、それは過去の話。天童悪鬼丸。
汝は、あの世にいてはいけない存在。絶対にあなたの思い通りにさせる訳にはいきません
「ふん。姿を現さず、どうやって我を倒すというのだ?」
天童悪鬼丸は鼻で笑った。どうやら、倒れない自信があるみたいだ。
汝を滅ぼす術(すべ)はあります。
天照大御神は落ち着いた声で言った。
その時、天童悪鬼丸の目の前に浮いている懐中時計の蓋が開いた。開くと懐中時計の中から文字らしき物が飛び出だしてきた。飛び出してきた文字は天童悪鬼丸の周りを囲み空一面に広がった。辰巳と翼は見上げながら空を飛んで流れる文字を見た。その文字は、とても難しい漢字が使われていた。天童悪鬼丸は自分の周りを囲んでいる文字の列を見て表情を強張らせていた。
「な、なんだ⁈この文字は?」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣で懐中時計の中から飛び出してきた文字を斬ろうとした。斬ろうとしたが、体が動かなかった。動かない体に天童悪鬼丸は驚く表情を見せた。
「一体全体どうなっているのだ⁈」
天童悪鬼丸は動かない体を動かそうとしたがピクリとしなかった。きっと、彼の周りを囲んでいる文字の効果で動けないのであろう。
すると、天照大御神は天童悪鬼丸が動けない理由を教えたのだ。
何をしても無駄です。汝がかかっているその術は、身動きを封じるうえ想像術と呪術が使えないよう妾が作った封印術なのです。妾は、汝の狙いが小井玉ちよの転生者である小山翼だと分かり、私が創ったお守りが彼の手に行き渡るよう仕組んだのです。
すると、辰巳の目の前に県の形を模った光が現れた。光は上から下へと消え剣の素顔が見えたのだ。その剣は、とても神々しく太陽を模った紋章と金色の装飾にとても鋭そうな刃を持っていた。辰巳はその剣を手にした途端、自分が受けた傷が消えて回復した。
さぁ、立村三郎の転生者 山崎辰巳よ。妾が創ったその「太陽の剣」でとどめを刺してください。
「はい!」
辰巳は天照大御神が創った太陽の剣を握り構えた。構えた後、辰巳は天童悪鬼丸の方へ走り出したのだ。
天童悪鬼丸は太陽の剣でとどめを刺そうとしている辰巳の姿を見て焦りを見せた。
「ま、待て!まだ我は動けないんだ!」
辰巳は天童悪鬼丸の目の前に着くと高くジャンプし太陽の剣を振り上げた。辰巳は太陽の剣を頭上に掲げ空中に飛びながら大声で気合の声を出したのだ。
天童悪鬼丸は自分の真上にいる辰巳の姿を見ながら言った。
「こんな奴に・・こんな奴らに、我が敗れるというのか・・⁈我は・・我は神々の頂点に立つー」
天童悪鬼丸が言いかけた途端、急降下した辰巳は太陽の剣を思い切り振り下げた。すると、太陽の剣の刃は、天童悪鬼丸に届き頭から体まで一刀両断で斬ったのだ。辰巳の一刀両断で真っ二つに斬られた天童悪鬼丸は断末魔を上げた。その断末魔は、あの世一帯に響き渡る程、激しい声だった。天童悪鬼丸が断末魔を出している時、彼の体から強い妖気の烈風が吹いた。そして、妖気の烈風が治まった後、天童悪鬼丸の断末魔は消え真っ二つになった体が硬くなった。すると、固くなった天童悪鬼丸の体にヒビが生えバラバラバラと崩れたのだ。崩れて破片となった体は砂となり地面の中へと消えていった。
消えていった天童悪鬼丸の体を見た辰巳はやっと終わったかのように体の力が抜け息を吐いた。辰巳は天照大御神の力を借りて天童悪鬼丸を倒したのだ。そして、終わった。辰巳が息を吐いた途端、後ろから翼が抱きついてきた。翼は嬉しそうな顔を見せながら明るい声を出した。
「叔父さん!やった!やったよ!天童悪鬼丸を倒したよ!」
「ああ」
辰巳は嬉しそうに頷いた。これで、翼と一緒にあの世へ帰れる。そう思うと安心したうえ、無事に帰れるかの不安が残っていた。
二人共。よく頑張りました。
天照大御神の優しい声に辰巳と翼はあの世の空を見上げた。
そなたらの頑張りで天童悪鬼丸は完全に消滅しました。もう二度とあの世には現れないでしょう
天照大御神は、天童悪鬼丸はもうあの世に現れない事を二人に告げた。それを聞いて辰巳はホッとした。
しかし、山崎辰巳よ。天童悪鬼丸により攫われた甥を助ける為に、生きたまま魂となって、あの世に来たのは
あまり感心しませんね。生者があの世に来る事は厳しく禁じられていると知りながら
天照大御神に注意され辰巳は落ち込んで謝った。
「・・・はい。ごめんなさい。」
辰巳が謝ると天照大御神は言った。
しかし、そなたは禁を犯してまで自ら覚悟を決め甥である小山翼を救いました。
本来ならば、罰として地獄へ強制的に送るつもりでしたが、そなたが勇気を持って天童悪鬼丸に挑み頑張っている
様子を見て考えが変わりました。これにより今回は、そなたが犯した罪は撤回し特別に許すことにします
「ありがとうございます!」
それを聞いた辰巳は自分が犯した罪を許してくれた天照大御神に感謝した。
今回みたいに、生者が禁を犯してまであの世に来たのは、今回で二回目になりますね
「二回目?」
辰巳は天照大御神が発した言葉に反応した。
そなたの前世にあたる人間 立村三郎です。現世で愛していた小井玉ちよが黄泉の巫女として天童悪鬼丸に連れて
行かれた後、彼女を取り戻すべくあの世に来て天童悪鬼丸に挑みました。そなた達は憶えてはいませんが、今回の
件でそなた達が生きたままあの世に来たのは二回目になるのですよ
「そういえば、そうなりますね。」
辰巳は前世の記憶を憶えてはいなが、前世で一度だけあの世に来て今回では、天童悪鬼丸から話を聞きあの世に来たのが二度目になる事を辰巳は納得していた。そう話していた内に天照大御神は辰巳と翼に言った。
さて、話はここまでにしましょう。妾からそなた達二人が現世へ帰れるよう死神に幽霊電車を出すよう伝えて
あります。そのお守りは、小井玉ちよの転生者である小山翼に授けましょう
天照大御神が創った懐中時計型のお守りがひとりでに動き翼の方へと移動した。翼は自分の方に来た天照大御神のお守りを手に取った。
そのお守りが、そなたから災いを守ってくれるでしょう。そして、立村三郎の転生者 山崎辰巳よ
「はい。」
その太陽の剣は、現世では全く使えません。天童悪鬼丸を倒した以上、その剣は必要なくなりましたので、
消しても構いませんか?
それを聞いた辰巳は太陽の剣をあの世の空に向けて捧げた。
「はい。お願いします。」
すると、辰巳が天に向かって捧げた太陽の剣が神々しい光に包まれ消えていった。太陽の剣が消えた後、辰巳は捧げていた両手を下ろしたその時、また光が現れた。光は辰巳の目の前へと降りてきた。辰巳が目の前にある光に手を触れると神々しい光が消えた。彼が手に持っていたのは、金色に輝き太陽の紋章を模った綺麗な腕輪だった。腕輪はピカピカでまるで、高級感を漂わせる現世にはない珍しい物だった。
それは、妾が創った「太陽の腕輪」です。その腕輪を付けていれば、悪霊や怨霊、悪い妖怪からそなたの身を護っ
てくれます。常にその腕輪を身に付け現世でそなたが活躍している妖怪や霊に関しての依頼をこなしてください
「ありがとうございます。天照大御神様。」
太陽の腕輪を貰った辰巳は空に向かってお礼を言った。
では、妾の力で駅まで送りましょう
すると、二人が踏んでいる地面か強い光が溢れ出てきた。あまりの眩しさに二人は強く目を瞑った。やがて、二人は地面の光に飲み込まれ姿を消すのであった。
辺りは真っ暗闇だった。何も見えなく光すら感じない。でも、感じる・・・いや、聞こえるのは自分達を呼ぶ誰かの声だ。その声は男性でどこかで聞き覚えのある声だった。その声は明るく安心しているかのような声だった。
目を瞑っていた二人がゆっくりと目を開くと彼らの目の前には、黒スーツを着た男が立っていた。目の前に立っているのは、辰巳を天童城がある黄泉の町まで連れてってくれた死神102号だったのだ。死神102号は二人が無事に戻って来た事で安心していた。辰巳が天童城へ行って以来、とても心配していたみたいだ。どうやら、二人は幽霊電車がある駅の目の前に着いたみたいだ。
「辰巳さん!翼さん!よくぞご無事で!」
死神102号は辰巳と翼が戻ってきて嬉しいのか満面な笑みで二人を迎えていた。
「天照様からお聞きしました。辰巳さん方が無事に戻ってきたという事は、天童悪鬼丸を倒したんですね?」
死神102号は目を輝かせて辰巳の答えに期待をしていた。
「はい。天照大御神様の力を借りて何とか倒せました」
それを聞いた死神102号は両手を上げて歓喜した。
「やったぁぁ!これで、あの世は平和になります!」
死神102号が喜んでいる時、辰巳は一つだけ気がかりがあった。
「102号さん。僕が天童城へ行っている間、大丈夫でしたか?局長さんにどやされたりとか・・。」
それを聞いた死神102号は喜びの表情から暗い表情に変わりガッカリしていた。
「もちろん、バレました。局長にさんざん怒られクビだと言われました。局長にクビだと発言したその矢先に、天照様が助けてくれたんです」
ガッカリしていた様子が天照大御神に助けられたと話した途端、急に元気を取り戻し明るくなった。死神102号も天照大御神に救われたのだ。
死神102号。幽霊電車の方はもう準備はできていますか?
天照大御神に訊かれ死神102号は答えた。
「はい。準備は整っております」
山崎辰巳。小山翼。妾とはここにて別れます。そなたら二人は死神102号の指示をちゃんと聞いて現世へ帰って
ください。そして、死ぬ時が訪れるまであの世へ来てはいけませんよ。もし、再び生きた魂となって、あの世に来
たら容赦なくそなたらを地獄へ送る事にします。気をつけてください
天照大御神の言葉に辰巳と翼はもう二度とあの世へは来ないと誓ったのかハッキリとした返事をした。そして、返事をしたついでに自分達を助けてくれた事を天照大御神に感謝した。
山崎辰巳。そして、小山翼。これから先、辛い事や苦しい事が訪れるでしょう。しかし、天童悪鬼丸を相手に立ち
向かった二人ならこの先も大丈夫だと妾は信じています。そなた達は、300年という長い長い時を得て転生者と
して自ら持っていた運命と立ち向かい終止符を打ちました。今度は、自分達が歩む道の先にある運命に立ち向かう
番です。運命は、一度踏み込んだ道を進めばもう後戻りはできません。決して、間違った道を歩まない事を約束し
てください。そなた達が正しい道を進みいつの日か、栄光を掴み取れることを願っています。そして、山崎辰巳。
妾達でも適いもしなかった天童悪鬼丸を倒してくれた事を神々の代表として深く感謝します。小山翼もその幼い体
と年でよく頑張りました。現世へ戻っても、その頑張りを無駄にしないでください。あの世を救ってくれてありが
とう・・・
姿を見せなかった天照大御神の声は消えた。天照大御神にとって、辰巳と翼は唯一の希望だったに違いない。そして、天童悪鬼丸が二人と遭遇する事も知っていたのかもしれない。辰巳と翼はあの世の空を見上げながら天照大御神に最後の感謝をした。これで、もうあの世に来た目的が達成された。
山崎辰巳と小山翼、そして天童悪鬼丸。三人による300年という長い因縁は幕を閉じた。
三人は、天照大御神の別れの言葉を聞いた後、現世へ行く幽霊電車が停まっている駅のホームにいた。辰巳と翼は幽霊電車に乗りお見送りをしてくれている死神102号に別れのあいさつを交わしていた。
「今日はいろいろありましたが、僕達の為に協力してくれてありがとうございました。」
辰巳は協力してくれた死神102号にお礼を言った。
「いえいえ。辰巳さんと翼さんがご無事で本当によかったです。もし、代行依頼がありましたらその時はまた、宜しくお願い致します」
「はい」
死神102号は翼の方を見た。
「翼さん。現世へ帰った後、いろいろ大変かもしれませんが頑張って生きてくださいね」
死神102号の言葉に翼は頷いた。
「はい。頑張って生きてみせます」
すると、駅ホーム内にチャイムが鳴り始めた。そろそろ出発する時間だ。
チャイムが鳴り終わると幽霊電車のドアが閉まった。辰巳と翼は幽霊電車の中でドアの窓ガラスから見える死神102号の姿を見た。翼はしばらくもう会えない死神102号に向けて笑顔で手を振った。すると、死神102号も笑顔で手を振った。幽霊電車は動き出し現世へと出発し始めた。幽霊電車が出発した事でドアの窓ガラスから見える死神102号の姿が横切り始めた。死神102号は決して走らず二人が乗った幽霊電車が見えなくなるまで大きく手を振り続けた。幽霊電車は駅のホームトンネルを出て姿を消した。
二人が乗っている幽霊電車は駅のホームトンネルを抜けて外を走っていた。外は、現世では見られないあの世の景色が見えていた。
幽霊電車の客車の中は辰巳と翼の他に誰もいなかった。車内はレトロで昭和を感じる古さがあってとても静かだった。二人が座っている座席も昭和を感じ色は緑色だった。静かに座っている二人は窓から見えるあの世の景色を見ていた。あの世はどこまで続いているのか分からないぐらい広さで殺風景にしか見えなかった。きっと、三途の川まで歩くとこことは別の景色が見えるのかもしれない。
幽霊電車に揺られながら静かに現世へ着くのを待っている辰巳と翼は殺風景にしか見えないあの世の景色をずっと眺め続けていた。景色を眺めていると辰巳の隣に座っている翼が口を動かした。
「叔父さん」
「ん?」
辰巳は翼の方を見た。
翼はあの世の景色を見ながら辰巳に言ったのだ。
「ぼく、お父さんとお母さんにケーエンするのやめた。それと、お父さんと暮らすか、お母さんと暮らすか、どっちにするか決めた」
その話を聞いて辰巳は「そうか」と言い、再び客車の窓から見えるあの世の景色を見た。
あの世の線路を走る幽霊電車は、ガタンゴトンと音を鳴らしながら現世へ目指していた。
「そうか・・!そうか!我と結婚してくれるんだな⁈本当だな?」
天童悪鬼丸は再度確認した。
「はい」
翼は頷いた。すると、天童悪鬼丸はますます嬉しくなった。
「やっと・・・・やっと、小井玉ちよの転生者と結婚ができる!この300年間、どれだけ待ちわびたか!我はとても嬉しい!やっと、我の気持ちを分かってくれたか!」
天童悪鬼丸は喜びながら黒神常闇の大剣を自分の妖気で纏い消した。すると、翼を閉じ込めていた檻が形を崩し消えた。天童悪鬼丸は空いた右手を自分の懐から豚吉五二郎が作ったオトコンナを翼の方へ放り投げた。翼は転がっているオトコンナの瓶を見た。
「結婚してくれるのなら、まずはそのオトコンナを飲め。お前が女にならなければ意味がないからな」
辰巳は地面に転がっているオトコンナの薬が入った瓶を手に取り蓋を開けた。翼は瓶の口を見つめた。これを飲めば、翼は女になり正式に天童悪鬼丸と結婚する事になる。いかにも、不味そうにみえるオトコンナ。でも、これを飲まなければ辰巳は天童悪鬼丸に喰われる。自分の答えに後悔はないと覚悟を決めた翼だったが、オトコンナの瓶を口に付けようとはしなかった。まだ、脳裏で現世にいた頃の記憶がこびりついているからだ。自分では覚悟を決めた気持ちでいるのに、まだ心の中のどこかに現世へ帰りたいという想いが残っているらしい。ここまで来て、何をためらっているのか翼は分からなかった。オトコンナを飲めば家族と友人、現世とは永遠の別れを告げる。飲まなかったら辰巳が喰い殺され彼の肉体は死ぬ。翼は勇気を持って飲もうとしたが、まだ脳裏に現世で過ごした記憶が鮮明に覚えていてが頭の中から思い出が過る。幸せだった家庭、楽しかった日々、泣いたり怒ったりした日、友達と喧嘩したり遊んだりした日、母親が作った料理が美味しかった記憶、父親と二人きりで出掛けた記憶、家族と一緒に遊園地や楽しい所へ行った思い出、そして、辰巳と一緒に暮しあまり知らなかった調布市のこと、見えない世界を知って体験した思い出。翼にとっては、かけがえのない思い出だった。翼が過ごした思い出は財産そのものでもあり、宝でもある。そんな、思い出を捨てる勇気がないかもしれない。しかし、翼は現世の思い出、記憶は綺麗さっぱり忘れようと心掛けていたが、そう簡単にはうまくいかない。一度、憶えている記憶は簡単には忘れる事はできないだろう。きっと、オトコンナを飲んでも現世で過ごした記憶がまだ残るかもしれない。もし、残っていたら女になっても一生、現世に置いてきた両親と友人達の顔をもい出しながら苦しまなくてはいけない。翼はオトコンナの瓶の口を見たまま動こうとはしなかった。そんな様子を天童悪鬼丸に首根っこを掴まれている辰巳は見ていた。
(もしかして・・)
辰巳は翼が現世にいた記憶を思い出しオトコンナを飲むか飲まないか迷っているのに気付いた。辰巳は翼に声をかけようとした途端、天童悪鬼丸が急かすかのように割り込んだ。
「どうした?翼。早く飲むのだ」
天童悪鬼丸は飲む気配がない翼を見て訊いた。翼は片手にオトコンナの薬が入っている瓶を持ちながら顔を上げた。
「天童悪鬼丸・・。この薬は後で飲む。まず先に叔父さんを離せ」
翼は真剣な眼差しで天童悪鬼丸を見た。
「ダメだ。先に飲むのだ。それから、こいつを離す」
翼は俯いた。すると、瓶を持っている片手を上げ勢いよく振り下ろした。
ガシャン!
翼はオトコンナの薬が入っている瓶を叩き割ったのだ。
「あーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
天童悪鬼丸は目を大きく見開き大声を出して驚いた。辰巳も口を開けて驚いた。すると、首根っこを掴んでいた辰巳を投げ捨てた。投げ捨てられた辰巳は地面に尻餅をついてすぐ翼の側へ駆け寄った。翼は無事に辰巳と再会できたことに安心した。そして、嬉しさに辰巳の胸の中に飛び込んだ。
辰巳は自分の胸に飛び込んだ甥をギュッと抱きしめた。
瓶は粉々になり中身に入っていたオトコンナの薬は零(こぼ)れた。天童悪鬼丸は大声で翼に怒鳴った。
「お前、なんて事をしてくれた‼なぜ、割った⁈」
オトコンナの薬を無駄にした翼は顔を上げた。なんと、翼の顔は強張っていた。
「テメーみてぇなバカと結婚するとでも思ったか!この猿顔の化物め!ぼくは、テメーがよく言う小井玉ちよじゃねぇ!21世紀の現世で生きる小山翼だ!ぼくは、小井玉ちよの転生者かもしれないけど、ぼくは女でも小井玉ちよでもねぇんだ!テメーの過去なんか知ったこっちゃねぇよ!勝手に人の人生と時間を狂わせがって!ふざけんな‼」
翼は天童悪鬼丸に立ち向かいながら怒鳴っている。辰巳は一変した翼の姿を見て、ただ黙って聞くしかなかった。
「なぁにが、オトコンナを飲めだ!だったら、テメーが飲みやがれ!自分の部下を大切にしないうえ、叔父さんを苦しませやがって、何が、恨みを晴らす時が来ただぁ?んなの、テメーが悪いに決まっているじゃねぇかバーロー‼いいか?ぼくは、テメーと結婚する気もねぇし、オトコンナを飲む気なんか鼻っからねぇんだよ!」
翼は勢いよく天童悪鬼丸に向けて指を指した。
「いいか?ぼくはてめぇのせいで大変な目に遭ってるんだぞ!こんな状況でぼくが喜ぶと思ったか?このバカ!そんなにぼくと結婚したければ、どっかの別の奴を探せ!それか、自爆しろ!ぼくがテメーと一緒に暮すなんて一生ねぇんだよ!テメーの言いなりなんかミジンコレベルないんだ!人間をナメんな‼」
あまりにも勢いのある発言で辰巳は何も言わず天童悪鬼丸の様子を見ていた。翼の発言で天童悪鬼丸は手を震わせていた。翼を恐れたのではない。怒りで震わせているのだ。今の発言で天童悪鬼丸の頭は完全に血が上り猿に似た顔が赤く染まった。
天童悪鬼丸は声を震わせながら翼を睨んだ。
「こ、この我をコケにしおって!我がどれだけ望んでいたと思う!小井玉ちよの転生者であるお前を嫁にすれば神々の頂点に立ちあの世を支配できるという野望が叶う!我はこの300年間、辛抱しながらこの時を待っていたのだぞ!それを・・・お前は、貴様達は、我の300年間の努力を台無しにしやがった!・・・・許せぬ・・・許せぬぞ貴様ら‼オトコンナがなくなった今、もうお前とは結婚できん!本来なら、小井玉ちよの転生者を始末する予定はなかったが、仕方がない。もったいないが、お前も立村三郎の転生者と共に始末してやる‼」
翼は完全にブチ切れた天童悪鬼丸を見ながら言った。
「これでお相子だね」
辰巳は苦笑した。
「そうだな」
二人は頭に血管の線が浮いていて顔を真っ赤にしている天童悪鬼丸の姿を見て立ったまま動かなかった。想像術が使えない以上、どんなに足掻いても無駄だと悟った二人はここで天童悪鬼丸に殺される覚悟をしていたのだ。天童悪鬼丸の顔は怒り狂う表情になっていて再び黒神常闇の大剣を召還したのだ。そして、二人まとめて一刀両断する為、黒神常闇の大剣を持っている両手を横向きで振り上げた。二人は天童悪鬼丸の攻撃から避けようとする体制は全くない。二人は天童悪鬼丸の攻撃から逃げずこのまま斬られて死のうとしていた。
「死ねぇ‼」
天童悪鬼丸は叫び黒神常闇の大剣を横から振り下ろした。翼は辰巳にしがみ付き二人揃って目を瞑った。
その時、二人の目の前から大きな光が現れた。黒神常闇の大剣を振り下ろした天童悪鬼丸は大きな光による眩しさに目を閉じたのだ。
「ぐわっ!」
眩しい光に天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を振り下ろすのをやめた。天童悪鬼丸の声を聞いて二人は目を開けた。すると、光の中から紋様が付いている懐中時計が現れたのだ。その懐中時計は、以前、商品祭で翼が手に入れた物だった。紋様が付いている懐中時計は二人の目の前に現れたのだ。しかし、紋様が付いている懐中時計は辰巳の自宅にあったはず。どうやって、あの世に来たのかはさて置き、なぜ、二人の目の前に現れたのか。それが分からない。二人は見覚えのある懐中時計を見て驚いた。天童悪鬼丸は光での目くらましを食らった後、ゆっくりと目を開けた。
「なんだったんだ。今のは?」
目を開いた天童悪鬼丸の前には紋様が付いている懐中時計が浮かんでいた。
「なんだ?あれは?」
天童悪鬼丸は目の前に浮かんでいる懐中時計が何なのか分からなかったが、気にする事はなかった。
「あれが何なのか知らんが、邪魔だな」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣を懐中時計に目掛けて振り下ろした。すると、懐中時計が振り下ろした黒神常闇の大剣を防いだのだ。黒神常闇の大剣は全く懐中時計に触れる事もなく弾き返した。弾き返された天童悪鬼丸は体をふらつかせた。
「弾き返しただと⁈」
最強と呼ばれる黒神常闇の大剣の攻撃を簡単に弾き返しされた事で、天童悪鬼丸は驚きを隠せなかった。天童悪鬼丸は再び懐中時計に目掛けて黒神常闇の大剣を振り下ろした。そして、また弾き返された。辰巳と翼は、ただの懐中時計ではない事は知っていたが、あの天童悪鬼丸の黒神常闇の大剣を弾き返す程の力があったのは知らなかった。
「一体全体、どうなっていやがる・・!」
弾き返された天童悪鬼丸は一体どうなっているのか分からなかった。どうやら、懐中時計には見えないバリアーが張られているみたいだ。そのバリアーは黒神常闇の大剣みたいな闇の力を防ぎ弾き飛ばす力を持っているかもしれない。
すると、どこからか綺麗な声が聞こえた。
攻撃し続けても無駄です。天童悪鬼丸
その声は女性だった。しかし、姿は全く無い。
「その声はまさか・・・!」
天童悪鬼丸は、姿は無くこの綺麗で美しい声が誰なのか気付いたみたいだ。
汝(なんじ)の野望は今日、ここで途絶えます。どんなに手を尽くしたとしても、結果は変わりませんよ。
美しい声はあの世中に響き渡る。まるで、女神が話しかけているかのようで繊細で美しくて優しい。この声だけで心が洗われるような気持になる。そして、なぜか安心感もある。辰巳と翼は辺りを見渡したが、声の主の姿は全く見えない。
「姿は見えないがその声だけで知っているぞ。天照!」
「天照・・・。まさか、この声は天照大御神(あまてらすおおみかみ)か!」
辰巳は声の主が天照大御神だと分かり驚いた。
「天照って?」
翼は天照大御神とは何なのか知らないみたいだ。
「天照大御神は、日本神話に登場する主神だよ。須佐之男命(すさのおのみこと)の姉にもあたる神様だ。」
姿がない天照大御神に天童悪鬼丸は言った。
「何だ?今頃、我を殺(あや)めに来たというのか?全く我に敵わなかった貴様が!」
確かに、妾(わらわ)達は汝を討ち滅ぼす事はできませんでした。しかし、それは過去の話。天童悪鬼丸。
汝は、あの世にいてはいけない存在。絶対にあなたの思い通りにさせる訳にはいきません
「ふん。姿を現さず、どうやって我を倒すというのだ?」
天童悪鬼丸は鼻で笑った。どうやら、倒れない自信があるみたいだ。
汝を滅ぼす術(すべ)はあります。
天照大御神は落ち着いた声で言った。
その時、天童悪鬼丸の目の前に浮いている懐中時計の蓋が開いた。開くと懐中時計の中から文字らしき物が飛び出だしてきた。飛び出してきた文字は天童悪鬼丸の周りを囲み空一面に広がった。辰巳と翼は見上げながら空を飛んで流れる文字を見た。その文字は、とても難しい漢字が使われていた。天童悪鬼丸は自分の周りを囲んでいる文字の列を見て表情を強張らせていた。
「な、なんだ⁈この文字は?」
天童悪鬼丸は黒神常闇の大剣で懐中時計の中から飛び出してきた文字を斬ろうとした。斬ろうとしたが、体が動かなかった。動かない体に天童悪鬼丸は驚く表情を見せた。
「一体全体どうなっているのだ⁈」
天童悪鬼丸は動かない体を動かそうとしたがピクリとしなかった。きっと、彼の周りを囲んでいる文字の効果で動けないのであろう。
すると、天照大御神は天童悪鬼丸が動けない理由を教えたのだ。
何をしても無駄です。汝がかかっているその術は、身動きを封じるうえ想像術と呪術が使えないよう妾が作った封印術なのです。妾は、汝の狙いが小井玉ちよの転生者である小山翼だと分かり、私が創ったお守りが彼の手に行き渡るよう仕組んだのです。
すると、辰巳の目の前に県の形を模った光が現れた。光は上から下へと消え剣の素顔が見えたのだ。その剣は、とても神々しく太陽を模った紋章と金色の装飾にとても鋭そうな刃を持っていた。辰巳はその剣を手にした途端、自分が受けた傷が消えて回復した。
さぁ、立村三郎の転生者 山崎辰巳よ。妾が創ったその「太陽の剣」でとどめを刺してください。
「はい!」
辰巳は天照大御神が創った太陽の剣を握り構えた。構えた後、辰巳は天童悪鬼丸の方へ走り出したのだ。
天童悪鬼丸は太陽の剣でとどめを刺そうとしている辰巳の姿を見て焦りを見せた。
「ま、待て!まだ我は動けないんだ!」
辰巳は天童悪鬼丸の目の前に着くと高くジャンプし太陽の剣を振り上げた。辰巳は太陽の剣を頭上に掲げ空中に飛びながら大声で気合の声を出したのだ。
天童悪鬼丸は自分の真上にいる辰巳の姿を見ながら言った。
「こんな奴に・・こんな奴らに、我が敗れるというのか・・⁈我は・・我は神々の頂点に立つー」
天童悪鬼丸が言いかけた途端、急降下した辰巳は太陽の剣を思い切り振り下げた。すると、太陽の剣の刃は、天童悪鬼丸に届き頭から体まで一刀両断で斬ったのだ。辰巳の一刀両断で真っ二つに斬られた天童悪鬼丸は断末魔を上げた。その断末魔は、あの世一帯に響き渡る程、激しい声だった。天童悪鬼丸が断末魔を出している時、彼の体から強い妖気の烈風が吹いた。そして、妖気の烈風が治まった後、天童悪鬼丸の断末魔は消え真っ二つになった体が硬くなった。すると、固くなった天童悪鬼丸の体にヒビが生えバラバラバラと崩れたのだ。崩れて破片となった体は砂となり地面の中へと消えていった。
消えていった天童悪鬼丸の体を見た辰巳はやっと終わったかのように体の力が抜け息を吐いた。辰巳は天照大御神の力を借りて天童悪鬼丸を倒したのだ。そして、終わった。辰巳が息を吐いた途端、後ろから翼が抱きついてきた。翼は嬉しそうな顔を見せながら明るい声を出した。
「叔父さん!やった!やったよ!天童悪鬼丸を倒したよ!」
「ああ」
辰巳は嬉しそうに頷いた。これで、翼と一緒にあの世へ帰れる。そう思うと安心したうえ、無事に帰れるかの不安が残っていた。
二人共。よく頑張りました。
天照大御神の優しい声に辰巳と翼はあの世の空を見上げた。
そなたらの頑張りで天童悪鬼丸は完全に消滅しました。もう二度とあの世には現れないでしょう
天照大御神は、天童悪鬼丸はもうあの世に現れない事を二人に告げた。それを聞いて辰巳はホッとした。
しかし、山崎辰巳よ。天童悪鬼丸により攫われた甥を助ける為に、生きたまま魂となって、あの世に来たのは
あまり感心しませんね。生者があの世に来る事は厳しく禁じられていると知りながら
天照大御神に注意され辰巳は落ち込んで謝った。
「・・・はい。ごめんなさい。」
辰巳が謝ると天照大御神は言った。
しかし、そなたは禁を犯してまで自ら覚悟を決め甥である小山翼を救いました。
本来ならば、罰として地獄へ強制的に送るつもりでしたが、そなたが勇気を持って天童悪鬼丸に挑み頑張っている
様子を見て考えが変わりました。これにより今回は、そなたが犯した罪は撤回し特別に許すことにします
「ありがとうございます!」
それを聞いた辰巳は自分が犯した罪を許してくれた天照大御神に感謝した。
今回みたいに、生者が禁を犯してまであの世に来たのは、今回で二回目になりますね
「二回目?」
辰巳は天照大御神が発した言葉に反応した。
そなたの前世にあたる人間 立村三郎です。現世で愛していた小井玉ちよが黄泉の巫女として天童悪鬼丸に連れて
行かれた後、彼女を取り戻すべくあの世に来て天童悪鬼丸に挑みました。そなた達は憶えてはいませんが、今回の
件でそなた達が生きたままあの世に来たのは二回目になるのですよ
「そういえば、そうなりますね。」
辰巳は前世の記憶を憶えてはいなが、前世で一度だけあの世に来て今回では、天童悪鬼丸から話を聞きあの世に来たのが二度目になる事を辰巳は納得していた。そう話していた内に天照大御神は辰巳と翼に言った。
さて、話はここまでにしましょう。妾からそなた達二人が現世へ帰れるよう死神に幽霊電車を出すよう伝えて
あります。そのお守りは、小井玉ちよの転生者である小山翼に授けましょう
天照大御神が創った懐中時計型のお守りがひとりでに動き翼の方へと移動した。翼は自分の方に来た天照大御神のお守りを手に取った。
そのお守りが、そなたから災いを守ってくれるでしょう。そして、立村三郎の転生者 山崎辰巳よ
「はい。」
その太陽の剣は、現世では全く使えません。天童悪鬼丸を倒した以上、その剣は必要なくなりましたので、
消しても構いませんか?
それを聞いた辰巳は太陽の剣をあの世の空に向けて捧げた。
「はい。お願いします。」
すると、辰巳が天に向かって捧げた太陽の剣が神々しい光に包まれ消えていった。太陽の剣が消えた後、辰巳は捧げていた両手を下ろしたその時、また光が現れた。光は辰巳の目の前へと降りてきた。辰巳が目の前にある光に手を触れると神々しい光が消えた。彼が手に持っていたのは、金色に輝き太陽の紋章を模った綺麗な腕輪だった。腕輪はピカピカでまるで、高級感を漂わせる現世にはない珍しい物だった。
それは、妾が創った「太陽の腕輪」です。その腕輪を付けていれば、悪霊や怨霊、悪い妖怪からそなたの身を護っ
てくれます。常にその腕輪を身に付け現世でそなたが活躍している妖怪や霊に関しての依頼をこなしてください
「ありがとうございます。天照大御神様。」
太陽の腕輪を貰った辰巳は空に向かってお礼を言った。
では、妾の力で駅まで送りましょう
すると、二人が踏んでいる地面か強い光が溢れ出てきた。あまりの眩しさに二人は強く目を瞑った。やがて、二人は地面の光に飲み込まれ姿を消すのであった。
辺りは真っ暗闇だった。何も見えなく光すら感じない。でも、感じる・・・いや、聞こえるのは自分達を呼ぶ誰かの声だ。その声は男性でどこかで聞き覚えのある声だった。その声は明るく安心しているかのような声だった。
目を瞑っていた二人がゆっくりと目を開くと彼らの目の前には、黒スーツを着た男が立っていた。目の前に立っているのは、辰巳を天童城がある黄泉の町まで連れてってくれた死神102号だったのだ。死神102号は二人が無事に戻って来た事で安心していた。辰巳が天童城へ行って以来、とても心配していたみたいだ。どうやら、二人は幽霊電車がある駅の目の前に着いたみたいだ。
「辰巳さん!翼さん!よくぞご無事で!」
死神102号は辰巳と翼が戻ってきて嬉しいのか満面な笑みで二人を迎えていた。
「天照様からお聞きしました。辰巳さん方が無事に戻ってきたという事は、天童悪鬼丸を倒したんですね?」
死神102号は目を輝かせて辰巳の答えに期待をしていた。
「はい。天照大御神様の力を借りて何とか倒せました」
それを聞いた死神102号は両手を上げて歓喜した。
「やったぁぁ!これで、あの世は平和になります!」
死神102号が喜んでいる時、辰巳は一つだけ気がかりがあった。
「102号さん。僕が天童城へ行っている間、大丈夫でしたか?局長さんにどやされたりとか・・。」
それを聞いた死神102号は喜びの表情から暗い表情に変わりガッカリしていた。
「もちろん、バレました。局長にさんざん怒られクビだと言われました。局長にクビだと発言したその矢先に、天照様が助けてくれたんです」
ガッカリしていた様子が天照大御神に助けられたと話した途端、急に元気を取り戻し明るくなった。死神102号も天照大御神に救われたのだ。
死神102号。幽霊電車の方はもう準備はできていますか?
天照大御神に訊かれ死神102号は答えた。
「はい。準備は整っております」
山崎辰巳。小山翼。妾とはここにて別れます。そなたら二人は死神102号の指示をちゃんと聞いて現世へ帰って
ください。そして、死ぬ時が訪れるまであの世へ来てはいけませんよ。もし、再び生きた魂となって、あの世に来
たら容赦なくそなたらを地獄へ送る事にします。気をつけてください
天照大御神の言葉に辰巳と翼はもう二度とあの世へは来ないと誓ったのかハッキリとした返事をした。そして、返事をしたついでに自分達を助けてくれた事を天照大御神に感謝した。
山崎辰巳。そして、小山翼。これから先、辛い事や苦しい事が訪れるでしょう。しかし、天童悪鬼丸を相手に立ち
向かった二人ならこの先も大丈夫だと妾は信じています。そなた達は、300年という長い長い時を得て転生者と
して自ら持っていた運命と立ち向かい終止符を打ちました。今度は、自分達が歩む道の先にある運命に立ち向かう
番です。運命は、一度踏み込んだ道を進めばもう後戻りはできません。決して、間違った道を歩まない事を約束し
てください。そなた達が正しい道を進みいつの日か、栄光を掴み取れることを願っています。そして、山崎辰巳。
妾達でも適いもしなかった天童悪鬼丸を倒してくれた事を神々の代表として深く感謝します。小山翼もその幼い体
と年でよく頑張りました。現世へ戻っても、その頑張りを無駄にしないでください。あの世を救ってくれてありが
とう・・・
姿を見せなかった天照大御神の声は消えた。天照大御神にとって、辰巳と翼は唯一の希望だったに違いない。そして、天童悪鬼丸が二人と遭遇する事も知っていたのかもしれない。辰巳と翼はあの世の空を見上げながら天照大御神に最後の感謝をした。これで、もうあの世に来た目的が達成された。
山崎辰巳と小山翼、そして天童悪鬼丸。三人による300年という長い因縁は幕を閉じた。
三人は、天照大御神の別れの言葉を聞いた後、現世へ行く幽霊電車が停まっている駅のホームにいた。辰巳と翼は幽霊電車に乗りお見送りをしてくれている死神102号に別れのあいさつを交わしていた。
「今日はいろいろありましたが、僕達の為に協力してくれてありがとうございました。」
辰巳は協力してくれた死神102号にお礼を言った。
「いえいえ。辰巳さんと翼さんがご無事で本当によかったです。もし、代行依頼がありましたらその時はまた、宜しくお願い致します」
「はい」
死神102号は翼の方を見た。
「翼さん。現世へ帰った後、いろいろ大変かもしれませんが頑張って生きてくださいね」
死神102号の言葉に翼は頷いた。
「はい。頑張って生きてみせます」
すると、駅ホーム内にチャイムが鳴り始めた。そろそろ出発する時間だ。
チャイムが鳴り終わると幽霊電車のドアが閉まった。辰巳と翼は幽霊電車の中でドアの窓ガラスから見える死神102号の姿を見た。翼はしばらくもう会えない死神102号に向けて笑顔で手を振った。すると、死神102号も笑顔で手を振った。幽霊電車は動き出し現世へと出発し始めた。幽霊電車が出発した事でドアの窓ガラスから見える死神102号の姿が横切り始めた。死神102号は決して走らず二人が乗った幽霊電車が見えなくなるまで大きく手を振り続けた。幽霊電車は駅のホームトンネルを出て姿を消した。
二人が乗っている幽霊電車は駅のホームトンネルを抜けて外を走っていた。外は、現世では見られないあの世の景色が見えていた。
幽霊電車の客車の中は辰巳と翼の他に誰もいなかった。車内はレトロで昭和を感じる古さがあってとても静かだった。二人が座っている座席も昭和を感じ色は緑色だった。静かに座っている二人は窓から見えるあの世の景色を見ていた。あの世はどこまで続いているのか分からないぐらい広さで殺風景にしか見えなかった。きっと、三途の川まで歩くとこことは別の景色が見えるのかもしれない。
幽霊電車に揺られながら静かに現世へ着くのを待っている辰巳と翼は殺風景にしか見えないあの世の景色をずっと眺め続けていた。景色を眺めていると辰巳の隣に座っている翼が口を動かした。
「叔父さん」
「ん?」
辰巳は翼の方を見た。
翼はあの世の景色を見ながら辰巳に言ったのだ。
「ぼく、お父さんとお母さんにケーエンするのやめた。それと、お父さんと暮らすか、お母さんと暮らすか、どっちにするか決めた」
その話を聞いて辰巳は「そうか」と言い、再び客車の窓から見えるあの世の景色を見た。
あの世の線路を走る幽霊電車は、ガタンゴトンと音を鳴らしながら現世へ目指していた。
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