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 ――甘い匂いがする。でもそれはヴィフレアから薫るいつもの花の匂いとは違っていた。

 ……いつの間に眠っていたのか?

 重い瞼を開けると霞む視界にラヴィーニがこちらに背を向け手もとの何かに向かって喋っている。意識が朦朧もうろうとしている。

 ……あれは蜂? …蜂が喋っている。

❝ラヴィーニさま、ヴィフレアさまは現在こちらに向かっているようでございます❞
「え~~? うッふゥン、もう? でも、迷っているでしょう?」
❝ええ❞
「うッふゥン、足止めトラップも掛けたからすぐには来ないとはおもうけどぉ~」

 暗い空間の中、ひゃ、ひゃ、ひゃ、と笑い声を上げるヴィフレア。声の響きから洞窟にいるのではと想像する。ポツーン、ポツーン、とどこからか水が滴る音も響いてくる。水溜まり? 池? …もあるのか、ポツーン、の他にポチャーン、という音も混じる。

「うッふゥン、『風の噂』で聞いて怒っているのかなあ?」
❝ええ、おそらくそう思われます。あの形相は……❞
「……。うッふゥン、変わったねえ、ヴィフレア。亜空間のゲートを、使っても年に一回ぐらいだったのにぃ。最近、その頻度があがっていると聞いて調べさせたら……たびたび亜空間と人間界を行ったり来たりして人間に会っているんだからビックリしたよねえ、そのメンタルに感心したよねえ。……だけどぉ~、ヴィフレアのあんな顔はひさしぶりに見たなあ」
❝それはよろしゅうございます❞
「それにしても自ら乗り出して尾行けた時は半露天風呂であんなことヤるから出るに出れなかったよねえ。済むまで待ってあげたボクって優しいよねえ?」
❝ええ、そう思います❞
「アリガト♪ それじゃあさっさと済ませよう」

 さっきから身体を動かそうと思うのに重くて動かない。感覚がない。目を開けるのがやっと。僕は今、立っている……?
 足元を見ると、どうやら宙に浮いているらしい。なのに、驚く力も声を発する力も出て来ない。なぜだ?

「キミに話があるんだぁ~♪」

 クルッと振り向いたラヴィーニが不敵に、ニッと笑いながら話かけてきた。

「……ッ」

 瞬間、グッと何かが僕の首と腕を絞めた。意識が朦朧とした中では感触がはっきりせず気付かなかったが僕はどうやら植物に絡まっているようだった。

「なに…これ……? 助け…て…」
「うッふゥン♪」
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