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第三章 半透明で過保護な彼との、上手な仕事の進め方
29.ララの発明品
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「ララさん。まじであのアロマオイル、どうなってるんすか?」
「もしかしてララさん、魔法使いなんじゃないですか?」
テオドールの執務室で、ララは朝からフロイドとマックスに詰め寄られていた。
二人は興奮した様子で腕とふくらはぎを見せてくる。どちらも先日負った怪我が完治したらしい。
テオドールが体に入り、「お前ら、ララに近付きすぎだ」と言えば、二人は「げっ」と顔をしかめて離れた。
「局長っすか。ララさんの体借りてるなら威圧感強めにしといてくださいよ。分かりにくい」
フロイドからの苦情に対し、テオドールは虫を追い払うように手を動かす。
「お前らが近いから今入ったんだ。仕事の邪魔すんな」
「邪魔じゃなくて報告に来たんすよ。ララさんのアロマオイルのおかげで怪我治ったんで。あと、密売組織についての報告も終わりました」
「そうか」
捜査局が追っていた違法薬物の密売組織は、あの日の内に制圧された。
テオドールを失った悲しみの中でも、国を正そうと奔走する捜査官たち。彼らを称賛する声は城内だけでなく、町からも届いていた。
同時にテオドールの死を悼む手紙や花束、贈り物が後を絶たなかった。グラント公爵家は危険物を警戒して受け取りを拒否しているらしく、全て捜査局に流れてくるのだ。
(いつもなら届いた物はヒューゴ様が目を通されてるようだけど、流石にこの量は)
机の上と床に置いた木箱に、贈り物がぎっしりと詰められている。
確認しなくてはならない物があまりにも多いため、今回はララも手伝うことになった。受取人のテオドールと一緒に。
蓋の閉まらない木箱から、花束が顔を出す。
送り主は様々だった。生涯話すことがないような高貴な方からも届いていたし、そうかと思えば平民の子供からも連名で届いている。
なんともまとまりがなく、愛と悲しみが混ざり合った光景だ。
(グラント卿に憧れていたっていう令嬢からの手紙が、一番多かったけど……)
以前から知っていたが、テオドールは常に羨望の的だったようだ。そして多くの令嬢から、熱い眼差しを向けられていた。
仕事ができる局長で、次期公爵。おまけに端正な顔立ちなのだから、当然かもしれないが。
冷静に考えると口の悪さしか欠点がない。その欠点さえもララにとっては長所のように感じられて、悔しくなる。
体から出たテオドールの方は見ず、ララはフロイドとマックスの手足を観察し始めた。
「怪我、綺麗に治ったようで安心しました」
ララは捜査官たちが出ていった夜から、二日かけて新しいアロマオイルを作った。新しい、と言っても、これまでテオドールに渡していたものの改良版だ。
医療の心得がないララが治療を行うには限界がある。消毒や包帯を巻く手伝いならできるが、それ以上は難しいだろう。だが捜査官たちは、今後も怪我や危険と隣り合わせだ。
自分にできることはないだろうかと考えた末、たどり着いたのがアロマオイルだった。
(魔導薬だから私の専門分野で押し通せるし)
ララは効果を記録しようと、トランクから自分のノートを引っ張り出した。
調合方法を記した下に、『切り傷・擦り傷に効果有。殺菌作用有』と追記する。
するとノートの内容に目を通していたフロイドが、不満そうな顔で記した部分を指さす。
「ララさん、『効果有』じゃなくて『効果絶大』です。昨日の夜使っただけで跡形もなく治ったんすから」
「そうですよ、書き直しです。正しく記録してください」
フロイドに便乗したマックスに、ララは渋い顔を向ける。
「過大評価だった場合、恥ずかしいのですが」
決して可愛くない表情だったはずなのに、マックスは「ララさんが心を開いてくれた気がする……!」と、なぜか嬉しそうだ。
「あのアロマオイルは打撲には効果がありません。痣も消えないので、改良の余地がありますし……」
「もっと良くしたいという気持ちは素晴らしいですが、これは妥当な評価ですよ。オイル自体は以前から局長に作ってたんですよね?」
「はい。精神安定を助け、生命力を高めるものを。みなさんにお渡ししたものには、ティーツリーの精油を使用しています。殺菌効果が高く、ベースのラベンダーとも相性が良かったので。あと、魔法石と組み合わせて大地の力を取り入れています」
「あ、分かった。だから『大地のおすそ分け』なんですね」
「そうです。グラント卿からはずっと微妙な名前だと言われ続けていますが」
ララがむくれると、テオドールが苦笑いを浮かべる。
「君、結構根に持つタイプだよな」
「あなたの発言を全部覚えているだけです」
発言だけではない。表情や仕草だって覚えているが、内緒だ。
「巡回に同行させてくださるというお話もしっかり覚えていますので、使えそうな物を持ってきました」
内容を修正したノートを机の端に置き、トランクを漁る。その様子を見ていたテオドールが再び体に入った。
彼と体を共有することにすっかり慣れてしまった。互いの動きがなんとなく読めるようになったため、好きなタイミングで体を動かせる。
ララが手に取ったのは、手首ほどの太さの円柱。主材料は鉄だが、術式を刻んだ魔法石が中心に埋め込まれている。テオドールには見覚えがあったようで……、
「鉱物を採掘する時に坑道を爆破する魔道具だな」
「ご存じでしたか」
「王立学園の授業で少しな」
「そんな授業もあるのですね。ここで爆発することはないので安心してください。一般的には、坑道の壁に開けた穴にこれを差し込んで使います。見た目は硬そうなのですが、実は簡単に変形できるんです」
説明しながら、手で変形させる。最初は円柱だったものがぐにゃりと曲がり、輪の形になった。
フロイドとマックスが感嘆の声をあげたため、ララは誇らしい気持ちになる。開発局員たちの仕事を見てもらえるのは嬉しい。彼らも日々、国のために努力しているから。
喜びを噛み締めるララとは逆に、テオドールは考え込むような声を出した。
「輪の形状もどこかで見たような……気のせいか。ララはなんでこれを持ってきたんだ?」
「柱やドアノブに巻き付けて使えるではありませんか。起爆用のスイッチを操作すれば、形状を固定させられますし」
「いや、そうじゃなくて。君、……なぜ爆破しようとしてるんだ?」
テオドールがララの声で疑問を漏らせば、フロイドとマックスも不思議そうにこちらを見る。
――なぜ、と言われても。
「巡回で犯罪者を制圧する時に、退路を塞いだりしないのですか?」
先日のフロイドの話では、犯罪者に逃げられるのが一番困るとのことだった。
ララに人を傷つける行為はできないが、逃げ道を爆破して塞ぐことはできる。魔道具の扱いに関しては一流だからだ。
真面目に答えたララの前には、瞬きを繰り返すフロイドと、目を点にしたマックス。
フロイドに背中を押されたマックスが、一歩前に出た。
「ララさん。……あの、誤解されているようなのですが……巡回って、そんなに物騒なことは起こらないんですよ」
「へ?」
「だからその、……町の様子を見たり、情報収集をするって意味なので、組織の本拠地に乗り込んだりは」
「しないのですか⁉︎」
静かに頷くマックス。
「では退路を塞ぐ必要は」
「ありませんね。爆破したら証拠も消し飛びますし」
「そ、そんな……」
なんということだ、と後ずさる。巡回の意味を理解できていなかった。魔道具も用意して、準備万端だと思っていたのに。
力が抜けたララに変わり、テオドールが魔道具を握り直した。
「俺が君を連れて敵陣に乗り込むわけないだろうが」
「おっしゃる通りで……」
「そんなに落ち込むなよ……。気の毒になってきたから一応聞くが、他には何を用意してたんだ?」
テオドールがララの体でトランクを覗いた。見るからに新品の片手弓を手に取り、口元をひくつかせる。……これは誤解されている。そう気付き、ララは急いで首を横に振った。
「違いますグラント卿。これは武器ではなく捕縛道具です!」
「本当か?」
「誓って」
「戦おうと思ったりは」
「してません、できません」
「そうか」
信じてもらえたようだ。ホッと胸を撫でおろす。
「これは腕に装着して使う片手弓です。が、発射されるのは矢ではなく縄です。竜の髭と呼ばれる珍しい植物を編み込んでいるので、そう簡単には千切れません」
「その縄で捕まえるのか?」
「はい。使い方にコツがいりますが、照準を合わせて発射すると縄が目標物を捕らえます。弓本体と縄は繋がったままにすることも可能なので、相手を拘束した状態で引っ張って連れて帰れます」
「君が使ったら相手に引きずられるんじゃないのか?」
「……おっしゃる通りで」
「だから落ち込むなって。力が強いアルとかが使えば」
「アルバート様の場合、縄を持ってご自分で縛り上げた方が成功率が高いです」
「……ああ、確かに」
テオドールと共に、フロイドとマックスも同意する。アルバートに道具の操作をさせるのはよろしくないのだろう。
「今後使えそうなのは、縄だけ、ですか……」
縛り上げる力がない自分でも捕縛できるかもしれないと思って作ったのだが、その後引きずられるところまでは考えていなかった。残念ながら出番はなさそうである。
役に立ちたかった……、と肩を落とし、片手弓をトランクに閉まった。
「元気出せ。巡回は重く考えなくて良いってだけの話だ」
「そうっすよ。さっきの魔道具は使う場面なかったとしても、もうすぐ納品予定の記録用魔道具はバンバン使わせてもらいますし」
「せっかくなんで巡回は楽しくいきましょう!」
三人から立て続けに励まされ、落ち込んでいる時間がもったいないような気がしてきた。次こそは、使えるものを作ろう。
ララは気を取り直して、テオドールの机から地図を取り出した。
「……巡回ルート、教えてもらえますか?」
テオドールが神の元に帰るまで、あと四十八日。
――次のミッションは、町の巡回である。
「もしかしてララさん、魔法使いなんじゃないですか?」
テオドールの執務室で、ララは朝からフロイドとマックスに詰め寄られていた。
二人は興奮した様子で腕とふくらはぎを見せてくる。どちらも先日負った怪我が完治したらしい。
テオドールが体に入り、「お前ら、ララに近付きすぎだ」と言えば、二人は「げっ」と顔をしかめて離れた。
「局長っすか。ララさんの体借りてるなら威圧感強めにしといてくださいよ。分かりにくい」
フロイドからの苦情に対し、テオドールは虫を追い払うように手を動かす。
「お前らが近いから今入ったんだ。仕事の邪魔すんな」
「邪魔じゃなくて報告に来たんすよ。ララさんのアロマオイルのおかげで怪我治ったんで。あと、密売組織についての報告も終わりました」
「そうか」
捜査局が追っていた違法薬物の密売組織は、あの日の内に制圧された。
テオドールを失った悲しみの中でも、国を正そうと奔走する捜査官たち。彼らを称賛する声は城内だけでなく、町からも届いていた。
同時にテオドールの死を悼む手紙や花束、贈り物が後を絶たなかった。グラント公爵家は危険物を警戒して受け取りを拒否しているらしく、全て捜査局に流れてくるのだ。
(いつもなら届いた物はヒューゴ様が目を通されてるようだけど、流石にこの量は)
机の上と床に置いた木箱に、贈り物がぎっしりと詰められている。
確認しなくてはならない物があまりにも多いため、今回はララも手伝うことになった。受取人のテオドールと一緒に。
蓋の閉まらない木箱から、花束が顔を出す。
送り主は様々だった。生涯話すことがないような高貴な方からも届いていたし、そうかと思えば平民の子供からも連名で届いている。
なんともまとまりがなく、愛と悲しみが混ざり合った光景だ。
(グラント卿に憧れていたっていう令嬢からの手紙が、一番多かったけど……)
以前から知っていたが、テオドールは常に羨望の的だったようだ。そして多くの令嬢から、熱い眼差しを向けられていた。
仕事ができる局長で、次期公爵。おまけに端正な顔立ちなのだから、当然かもしれないが。
冷静に考えると口の悪さしか欠点がない。その欠点さえもララにとっては長所のように感じられて、悔しくなる。
体から出たテオドールの方は見ず、ララはフロイドとマックスの手足を観察し始めた。
「怪我、綺麗に治ったようで安心しました」
ララは捜査官たちが出ていった夜から、二日かけて新しいアロマオイルを作った。新しい、と言っても、これまでテオドールに渡していたものの改良版だ。
医療の心得がないララが治療を行うには限界がある。消毒や包帯を巻く手伝いならできるが、それ以上は難しいだろう。だが捜査官たちは、今後も怪我や危険と隣り合わせだ。
自分にできることはないだろうかと考えた末、たどり着いたのがアロマオイルだった。
(魔導薬だから私の専門分野で押し通せるし)
ララは効果を記録しようと、トランクから自分のノートを引っ張り出した。
調合方法を記した下に、『切り傷・擦り傷に効果有。殺菌作用有』と追記する。
するとノートの内容に目を通していたフロイドが、不満そうな顔で記した部分を指さす。
「ララさん、『効果有』じゃなくて『効果絶大』です。昨日の夜使っただけで跡形もなく治ったんすから」
「そうですよ、書き直しです。正しく記録してください」
フロイドに便乗したマックスに、ララは渋い顔を向ける。
「過大評価だった場合、恥ずかしいのですが」
決して可愛くない表情だったはずなのに、マックスは「ララさんが心を開いてくれた気がする……!」と、なぜか嬉しそうだ。
「あのアロマオイルは打撲には効果がありません。痣も消えないので、改良の余地がありますし……」
「もっと良くしたいという気持ちは素晴らしいですが、これは妥当な評価ですよ。オイル自体は以前から局長に作ってたんですよね?」
「はい。精神安定を助け、生命力を高めるものを。みなさんにお渡ししたものには、ティーツリーの精油を使用しています。殺菌効果が高く、ベースのラベンダーとも相性が良かったので。あと、魔法石と組み合わせて大地の力を取り入れています」
「あ、分かった。だから『大地のおすそ分け』なんですね」
「そうです。グラント卿からはずっと微妙な名前だと言われ続けていますが」
ララがむくれると、テオドールが苦笑いを浮かべる。
「君、結構根に持つタイプだよな」
「あなたの発言を全部覚えているだけです」
発言だけではない。表情や仕草だって覚えているが、内緒だ。
「巡回に同行させてくださるというお話もしっかり覚えていますので、使えそうな物を持ってきました」
内容を修正したノートを机の端に置き、トランクを漁る。その様子を見ていたテオドールが再び体に入った。
彼と体を共有することにすっかり慣れてしまった。互いの動きがなんとなく読めるようになったため、好きなタイミングで体を動かせる。
ララが手に取ったのは、手首ほどの太さの円柱。主材料は鉄だが、術式を刻んだ魔法石が中心に埋め込まれている。テオドールには見覚えがあったようで……、
「鉱物を採掘する時に坑道を爆破する魔道具だな」
「ご存じでしたか」
「王立学園の授業で少しな」
「そんな授業もあるのですね。ここで爆発することはないので安心してください。一般的には、坑道の壁に開けた穴にこれを差し込んで使います。見た目は硬そうなのですが、実は簡単に変形できるんです」
説明しながら、手で変形させる。最初は円柱だったものがぐにゃりと曲がり、輪の形になった。
フロイドとマックスが感嘆の声をあげたため、ララは誇らしい気持ちになる。開発局員たちの仕事を見てもらえるのは嬉しい。彼らも日々、国のために努力しているから。
喜びを噛み締めるララとは逆に、テオドールは考え込むような声を出した。
「輪の形状もどこかで見たような……気のせいか。ララはなんでこれを持ってきたんだ?」
「柱やドアノブに巻き付けて使えるではありませんか。起爆用のスイッチを操作すれば、形状を固定させられますし」
「いや、そうじゃなくて。君、……なぜ爆破しようとしてるんだ?」
テオドールがララの声で疑問を漏らせば、フロイドとマックスも不思議そうにこちらを見る。
――なぜ、と言われても。
「巡回で犯罪者を制圧する時に、退路を塞いだりしないのですか?」
先日のフロイドの話では、犯罪者に逃げられるのが一番困るとのことだった。
ララに人を傷つける行為はできないが、逃げ道を爆破して塞ぐことはできる。魔道具の扱いに関しては一流だからだ。
真面目に答えたララの前には、瞬きを繰り返すフロイドと、目を点にしたマックス。
フロイドに背中を押されたマックスが、一歩前に出た。
「ララさん。……あの、誤解されているようなのですが……巡回って、そんなに物騒なことは起こらないんですよ」
「へ?」
「だからその、……町の様子を見たり、情報収集をするって意味なので、組織の本拠地に乗り込んだりは」
「しないのですか⁉︎」
静かに頷くマックス。
「では退路を塞ぐ必要は」
「ありませんね。爆破したら証拠も消し飛びますし」
「そ、そんな……」
なんということだ、と後ずさる。巡回の意味を理解できていなかった。魔道具も用意して、準備万端だと思っていたのに。
力が抜けたララに変わり、テオドールが魔道具を握り直した。
「俺が君を連れて敵陣に乗り込むわけないだろうが」
「おっしゃる通りで……」
「そんなに落ち込むなよ……。気の毒になってきたから一応聞くが、他には何を用意してたんだ?」
テオドールがララの体でトランクを覗いた。見るからに新品の片手弓を手に取り、口元をひくつかせる。……これは誤解されている。そう気付き、ララは急いで首を横に振った。
「違いますグラント卿。これは武器ではなく捕縛道具です!」
「本当か?」
「誓って」
「戦おうと思ったりは」
「してません、できません」
「そうか」
信じてもらえたようだ。ホッと胸を撫でおろす。
「これは腕に装着して使う片手弓です。が、発射されるのは矢ではなく縄です。竜の髭と呼ばれる珍しい植物を編み込んでいるので、そう簡単には千切れません」
「その縄で捕まえるのか?」
「はい。使い方にコツがいりますが、照準を合わせて発射すると縄が目標物を捕らえます。弓本体と縄は繋がったままにすることも可能なので、相手を拘束した状態で引っ張って連れて帰れます」
「君が使ったら相手に引きずられるんじゃないのか?」
「……おっしゃる通りで」
「だから落ち込むなって。力が強いアルとかが使えば」
「アルバート様の場合、縄を持ってご自分で縛り上げた方が成功率が高いです」
「……ああ、確かに」
テオドールと共に、フロイドとマックスも同意する。アルバートに道具の操作をさせるのはよろしくないのだろう。
「今後使えそうなのは、縄だけ、ですか……」
縛り上げる力がない自分でも捕縛できるかもしれないと思って作ったのだが、その後引きずられるところまでは考えていなかった。残念ながら出番はなさそうである。
役に立ちたかった……、と肩を落とし、片手弓をトランクに閉まった。
「元気出せ。巡回は重く考えなくて良いってだけの話だ」
「そうっすよ。さっきの魔道具は使う場面なかったとしても、もうすぐ納品予定の記録用魔道具はバンバン使わせてもらいますし」
「せっかくなんで巡回は楽しくいきましょう!」
三人から立て続けに励まされ、落ち込んでいる時間がもったいないような気がしてきた。次こそは、使えるものを作ろう。
ララは気を取り直して、テオドールの机から地図を取り出した。
「……巡回ルート、教えてもらえますか?」
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