35 / 76
第三章 半透明で過保護な彼との、上手な仕事の進め方
35.元婚約者からの手紙
しおりを挟む
ジャスパーの背中が見えなくなったため、ララはテオドールの執務室に戻った。扉を開けようとドアノブを握ると、廊下を歩いてきたヒューゴに呼び止められた。
彼の表情が普段よりも固く感じ、首を傾げる。
「ヒューゴ様、どうされたのですか?」
「少しお話ししたいことがありまして。今、テオは……」
「申し訳ございません。グラント卿は外に出ておられまして」
ヒューゴには悪いが、出直してもらう必要がある。
「伝言がありましたら承りますが」
「いえ。お話ししたいのはテオではなく、ララさんなんです」
「私?」
ではなぜ、テオドールの居場所を確認したのだろう。
疑問に思ったが、とりあえずヒューゴと共に執務室に入った。
「お話というのは?」
ララが話を切り出すと、ヒューゴは制服の内ポケットに手を差し入れた。
「ララさんには以前ご説明しましたが、捜査局に届いた荷物や手紙は、一度私が目を通すことになっています」
「不審なものが混ざっていないか、確認するためですよね?」
「ええ、そうです」
テオドールへの贈り物は量が多すぎたためララも確認を手伝ったが、基本的にはヒューゴの仕事だと聞いた。
「必然的に、私は捜査官宛に届く手紙の内容を知ることになります」
「それはみなさんも、理解されていると思いますが」
「……ララさんもですか?」
「はい。ですが私宛に手紙は……え? もしかして届いたのですか?」
返事の代わりに、ヒューゴは内ポケットから一通の手紙を取り出した。
誰からだろう、と考えるより先に、ララの背筋が凍った。何度も見てきた、彼からの手紙。喉の浅いところが、ヒュッと鳴る。
「――カルマン卿からです」
感情を殺したようなヒューゴの声が、静かな室内に響いた。
ララは手紙を受け取ろうと腕を伸ばす。白い指先が、空中で頼りなく震えた。
カルマンを恐れているのではない。
ララの呼吸が浅くなったのは、手紙の封蝋が砕けていたからだ。それは間違いなく、ヒューゴが中を見たのだと告げている。
(見られて、しまった)
紙が擦れる音と、自分の心臓の音だけが聞こえる。ララは無言で手紙を開き、目を通した。心にいくつもの鍵をかけて。
カルマンは知らなかった。捜査局に手紙を出せば、ララ以外の人間の目に触れることを。だから彼は、いつも通りに手紙を書いたのだ。
悪意に満ちた、いつもの手紙を。
『何の役にも立たない、呪われた女。存在するだけで家族を不幸にする。痛い思いをしたくないのなら、命令に従え。君の言葉など誰も信じない。――君は誰からも、愛されない』
文章のあちらこちらに、ララを蔑む言葉が書かれていた。婚約者だった頃から、彼は何も変わっていない。
(なぜかカルマン家のお屋敷に来るように書かれているけど……)
呼び出されるようなことをした覚えはない。けれども彼が純粋に会いたがっている、なんてことは絶対にあり得ない。あれほど縁を切りたがっていたのだから。
だとすると、巡回中にイーサンから聞いた件だろうか。確かカルマンは体調が悪かったはずだ。
(でも私には、医学の心得はないし……)
プライドの高い彼が、自分に助けを求めるとは考えにくい。
結局カルマンが会いたがる理由にはたどり着けず、手紙に視線を落としたまま立ち尽くす。
「ララさん」
ヒューゴの呼びかけに顔を上げると、彼は中性的な顔を切なげに歪ませていた。
「あなたは一体、……どれほど傷つけられてきたのですか」
――ああ。全部、分かってしまったのだろう。
隠し続けてきた十年が、弱くて惨めな自分が、バレてしまった。
「もう、終わったことです」
上手く笑えただろうか。ヒューゴの深緑色の瞳に映る自分は、情けない顔をしていないだろうか。
テオドールの笑顔のように、人を安心させる力が欲しい。
「この件について、テオは知りませんよね」
確信したように言うヒューゴに、ララは頷く。
「グラント卿に、余計な心配はかけたくありませんので」
自分より他人を優先するテオドールのことだ。過去の出来事であったとしても、知れば気にするだろう。
そんな想いを抱えて、残りの時間を過ごしてほしくない。誰かのためではなく、彼自身のために時間を使ってもらいたい。
「……それにグラント卿、カルマン卿の話をすると、なぜか不機嫌になってしまうんです」
「まあ、大嫌いでしょうからね」
ララが声を潜めて密告すると、さも当然のことのようにヒューゴが言い放った。
「そうなのですか?」とララは困惑する。
外面は紳士のカルマンが暴力的な面をテオドールに見せるとは考えにくいし、王立学園に通っていた時期も、おそらく被っていないはず。面識があるのかどうかも怪しい。
テオドールがどの段階で嫌いになったのかが謎である。
(カルマン卿の暴力性を本能で感じ取っていらっしゃる、とか?)
局長補佐のヒューゴが言うのだから、嫌いだというのは正しい情報なのだろう。
「グラント卿がカルマン卿のことを、その……嫌い、だと思っていらっしゃるのなら、なおさら話せません。どうかご内密に」
「……なんとなく、ララさんならそうおっしゃると思っていました」
「だから最初にグラント卿の居場所を確認されたのですね」
「ええ。私は任務で荷物の確認をしているだけですので、情報を漏らすようなことはしません。手紙の内容について口を出したのだって、今日が初めてです」
ヒューゴがそういう人間だから、皆安心して確認を任せているのだろう。
「気にかけてくださってありがとうございます」
「本当に報告しなくて良いのですね?」
「はい、私なら大丈夫です。慣れてますので」
「……カルマン卿の元へ、行くおつもりですか?」
ララは数秒考え、首を横に振った。なぜカルマンが自分を呼んでいるのかは気になるが――、
「私はもうカルマン卿の婚約者ではありませんし、今はグラント卿以外のことを考える余裕はありませんので」
これまでカルマンの命令通りに生きてきたのは、婚約破棄を恐れていたからだ。裏切られて無関係になった以上、ララが命令に従う理由はない。
「それを聞いて安心しました。手紙は私が処分しておきます。ララさんが持っていると、テオが見つける可能性がありますので」
「よろしくお願いします」
「今後も同じような手紙が届いた場合は、勝手に処分してもよろしいですか?」
「はい。もう来ないと思いますが」
この手紙は何かの気の迷いだろう。返事を出さなければ、二度と来ないはずだ。
手紙をヒューゴに渡したララは「そういえば」と、数分前を振り返る。
「どうしてヒューゴ様は、私がグラント卿に報告していないと分かったのですか?」
問いかけると、ヒューゴは三度瞬きし、にこっと笑った。
「テオがこの件を知っていたら、カルマン卿が五体満足で生きているはずがありませんから」
彼は美しい笑みのまま、手紙を破るフリをしてみせる。こんな場面で冗談を言うとは、なんともテオドールの補佐らしい。
「ふふふ、ヒューゴ様ったら、ご冗談を」
「ふふふ、冗談ではないんですけどね」
「またまたぁ」
ふふふ。ふふふ。と、一見穏やかな二人の時間が、この後もしばらく続いていた。
彼の表情が普段よりも固く感じ、首を傾げる。
「ヒューゴ様、どうされたのですか?」
「少しお話ししたいことがありまして。今、テオは……」
「申し訳ございません。グラント卿は外に出ておられまして」
ヒューゴには悪いが、出直してもらう必要がある。
「伝言がありましたら承りますが」
「いえ。お話ししたいのはテオではなく、ララさんなんです」
「私?」
ではなぜ、テオドールの居場所を確認したのだろう。
疑問に思ったが、とりあえずヒューゴと共に執務室に入った。
「お話というのは?」
ララが話を切り出すと、ヒューゴは制服の内ポケットに手を差し入れた。
「ララさんには以前ご説明しましたが、捜査局に届いた荷物や手紙は、一度私が目を通すことになっています」
「不審なものが混ざっていないか、確認するためですよね?」
「ええ、そうです」
テオドールへの贈り物は量が多すぎたためララも確認を手伝ったが、基本的にはヒューゴの仕事だと聞いた。
「必然的に、私は捜査官宛に届く手紙の内容を知ることになります」
「それはみなさんも、理解されていると思いますが」
「……ララさんもですか?」
「はい。ですが私宛に手紙は……え? もしかして届いたのですか?」
返事の代わりに、ヒューゴは内ポケットから一通の手紙を取り出した。
誰からだろう、と考えるより先に、ララの背筋が凍った。何度も見てきた、彼からの手紙。喉の浅いところが、ヒュッと鳴る。
「――カルマン卿からです」
感情を殺したようなヒューゴの声が、静かな室内に響いた。
ララは手紙を受け取ろうと腕を伸ばす。白い指先が、空中で頼りなく震えた。
カルマンを恐れているのではない。
ララの呼吸が浅くなったのは、手紙の封蝋が砕けていたからだ。それは間違いなく、ヒューゴが中を見たのだと告げている。
(見られて、しまった)
紙が擦れる音と、自分の心臓の音だけが聞こえる。ララは無言で手紙を開き、目を通した。心にいくつもの鍵をかけて。
カルマンは知らなかった。捜査局に手紙を出せば、ララ以外の人間の目に触れることを。だから彼は、いつも通りに手紙を書いたのだ。
悪意に満ちた、いつもの手紙を。
『何の役にも立たない、呪われた女。存在するだけで家族を不幸にする。痛い思いをしたくないのなら、命令に従え。君の言葉など誰も信じない。――君は誰からも、愛されない』
文章のあちらこちらに、ララを蔑む言葉が書かれていた。婚約者だった頃から、彼は何も変わっていない。
(なぜかカルマン家のお屋敷に来るように書かれているけど……)
呼び出されるようなことをした覚えはない。けれども彼が純粋に会いたがっている、なんてことは絶対にあり得ない。あれほど縁を切りたがっていたのだから。
だとすると、巡回中にイーサンから聞いた件だろうか。確かカルマンは体調が悪かったはずだ。
(でも私には、医学の心得はないし……)
プライドの高い彼が、自分に助けを求めるとは考えにくい。
結局カルマンが会いたがる理由にはたどり着けず、手紙に視線を落としたまま立ち尽くす。
「ララさん」
ヒューゴの呼びかけに顔を上げると、彼は中性的な顔を切なげに歪ませていた。
「あなたは一体、……どれほど傷つけられてきたのですか」
――ああ。全部、分かってしまったのだろう。
隠し続けてきた十年が、弱くて惨めな自分が、バレてしまった。
「もう、終わったことです」
上手く笑えただろうか。ヒューゴの深緑色の瞳に映る自分は、情けない顔をしていないだろうか。
テオドールの笑顔のように、人を安心させる力が欲しい。
「この件について、テオは知りませんよね」
確信したように言うヒューゴに、ララは頷く。
「グラント卿に、余計な心配はかけたくありませんので」
自分より他人を優先するテオドールのことだ。過去の出来事であったとしても、知れば気にするだろう。
そんな想いを抱えて、残りの時間を過ごしてほしくない。誰かのためではなく、彼自身のために時間を使ってもらいたい。
「……それにグラント卿、カルマン卿の話をすると、なぜか不機嫌になってしまうんです」
「まあ、大嫌いでしょうからね」
ララが声を潜めて密告すると、さも当然のことのようにヒューゴが言い放った。
「そうなのですか?」とララは困惑する。
外面は紳士のカルマンが暴力的な面をテオドールに見せるとは考えにくいし、王立学園に通っていた時期も、おそらく被っていないはず。面識があるのかどうかも怪しい。
テオドールがどの段階で嫌いになったのかが謎である。
(カルマン卿の暴力性を本能で感じ取っていらっしゃる、とか?)
局長補佐のヒューゴが言うのだから、嫌いだというのは正しい情報なのだろう。
「グラント卿がカルマン卿のことを、その……嫌い、だと思っていらっしゃるのなら、なおさら話せません。どうかご内密に」
「……なんとなく、ララさんならそうおっしゃると思っていました」
「だから最初にグラント卿の居場所を確認されたのですね」
「ええ。私は任務で荷物の確認をしているだけですので、情報を漏らすようなことはしません。手紙の内容について口を出したのだって、今日が初めてです」
ヒューゴがそういう人間だから、皆安心して確認を任せているのだろう。
「気にかけてくださってありがとうございます」
「本当に報告しなくて良いのですね?」
「はい、私なら大丈夫です。慣れてますので」
「……カルマン卿の元へ、行くおつもりですか?」
ララは数秒考え、首を横に振った。なぜカルマンが自分を呼んでいるのかは気になるが――、
「私はもうカルマン卿の婚約者ではありませんし、今はグラント卿以外のことを考える余裕はありませんので」
これまでカルマンの命令通りに生きてきたのは、婚約破棄を恐れていたからだ。裏切られて無関係になった以上、ララが命令に従う理由はない。
「それを聞いて安心しました。手紙は私が処分しておきます。ララさんが持っていると、テオが見つける可能性がありますので」
「よろしくお願いします」
「今後も同じような手紙が届いた場合は、勝手に処分してもよろしいですか?」
「はい。もう来ないと思いますが」
この手紙は何かの気の迷いだろう。返事を出さなければ、二度と来ないはずだ。
手紙をヒューゴに渡したララは「そういえば」と、数分前を振り返る。
「どうしてヒューゴ様は、私がグラント卿に報告していないと分かったのですか?」
問いかけると、ヒューゴは三度瞬きし、にこっと笑った。
「テオがこの件を知っていたら、カルマン卿が五体満足で生きているはずがありませんから」
彼は美しい笑みのまま、手紙を破るフリをしてみせる。こんな場面で冗談を言うとは、なんともテオドールの補佐らしい。
「ふふふ、ヒューゴ様ったら、ご冗談を」
「ふふふ、冗談ではないんですけどね」
「またまたぁ」
ふふふ。ふふふ。と、一見穏やかな二人の時間が、この後もしばらく続いていた。
0
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
旦那様は、転生後は王子様でした
編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。
まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。
時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。
え?! わたくし破滅するの?!
しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
さよなら、悪女に夢中な王子様〜婚約破棄された令嬢は、真の聖女として平和な学園生活を謳歌する〜
平山和人
恋愛
公爵令嬢アイリス・ヴェスペリアは、婚約者である第二王子レオンハルトから、王女のエステルのために理不尽な糾弾を受け、婚約破棄と社交界からの追放を言い渡される。
心身を蝕まれ憔悴しきったその時、アイリスは前世の記憶と、自らの家系が代々受け継いできた『浄化の聖女』の真の力を覚醒させる。自分が陥れられた原因が、エステルの持つ邪悪な魔力に触発されたレオンハルトの歪んだ欲望だったことを知ったアイリスは、力を隠し、追放先の辺境の学園へ進学。
そこで出会ったのは、学園の異端児でありながら、彼女の真の力を見抜く魔術師クライヴと、彼女の過去を知り静かに見守る優秀な生徒会長アシェル。
一方、アイリスを失った王都では、エステルの影響力が増し、国政が混乱を極め始める。アイリスは、愛と権力を失った代わりに手に入れた静かな幸せと、聖女としての使命の間で揺れ動く。
これは、真実の愛と自己肯定を見つけた令嬢が、元婚約者の愚かさに裁きを下し、やがて来る国の危機を救うまでの物語。
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる