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第三章 アイリス四歳
その17 精霊白銀でアクセサリー作り
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17
「おまえらバカか!? 学生だろうが、カルナック師匠に教えを受けてる魔法使いが二人、深刻な顔を付き合わせて何やってんだ」
ぱんっ。と、手を打ち合わせたのは、ルビー=ティーレ。
「情報はいずれ漏れるものよ。いくら隠していても。だから悩んだり危惧してもしようがないの。それより、前へ進むことが大事じゃない?」
落ち着き払って言ったのは、サファイア=リドラ。
「というわけ。カルナックお師匠様からの課題提出は、どうなってるのかしら、エステリオ・アウル」
「は、はいっ! リドラ先輩!」
エステリオ叔父さまは、我に返った。
「アイリスに与えられた『石』が見えないように、精霊白銀でペンダントトップと鎖を創りました。鎖はアイリスと共に成長するので、作り直す必要はありません。黒竜のウロコについては、下手に隠すよりは露出するデザインでいきます。アイリスに与えられた特権をむしろ前面に打ち出します」
「あらそう。なかなか頑張ったのね」
サファイアさんが、笑う。
「その精霊白銀は、エステリオが作ったのか」
ルビーさんの目は、厳しい。
「無理を言わないでください。精霊由来の素材はカルナック師匠に頂きました。加工については、研究室でテノールに協力してもらってます」
「へえ。どうやったんだい」
エルナトさまの目が、光った、気がした。やっぱりマッドサイエンティスト……?
「普通の人間が触れれば『石』が活性化してエネルギーを放ってしまうだろう。今回のものは前もってアイリス嬢と同調してあるようだが」
「テノールには、保有魔力がほぼありませんから、石の記憶に呑まれる心配がありません。それに加えて、念のために、駆竜の革で作った手袋をはめて石に触れてもらいました」
「はははっ。なるほど! ナントカと鋏は使いようだな!」
手を打って笑い出したルビー=ティーレ。
「あら。笑い事じゃなくてよルビー。あなたも彼と似たようなもんなんだから」
サファイアさんあが、すかさずツッコミ。
「なんだと! あたしの保有魔力は、普通よりかなり多いぞ」
胸をはるルビー。
「それなのに、ティーレは魔法で事件を解決したことなんかないじゃない! いつも拳で強引に。魔力の持ち腐れじゃないの! あんなに魔力に憧れてるテノールくんに分けてあげられたらいいのにねえ」
「リドラこそ、いつも銃や魔道具や毒じゃないか! それか色仕掛けだ!」
「引っかかる男がバカなのよ~」
「……すみません、ティーレ先輩、リドラ先輩。アイリスの教育に悪い話はつつしんでいただけませんか。なんかずれてます。カルナック師匠の、アイリスのアクセサリーを偽装するという課題の話でしたよね?」
とても辛抱強い態度で、エステリオ・アウル叔父さまが、口をはさむ。
「そうそう! エステリオ・アウル。彼女たちに任せておくと、あさっての方向に行ってしまいそうだ。で、完成した物を見たいな。見せてくれるよね?」
子供みたいにキラキラした目をしているエルナトさま。
「見せますよ。……でも、ここで、じゃなく。わたしの隠し部屋で」
「なるほど、道理だ」
エルナトさま、ルビー=ティーレさん、サファイア=リドラさんも、同意した。
「ともかく、落ち着こう」
叔父さまがこのテーブルの周囲に魔法で纏わせていた空気のヴェールを外して、テーブルに置かれていた銀の鈴を振った。
メイド長のエウニーケさんが近づいてきた。
「ご用でございますか、お坊ちゃま」
「お茶のおかわりを頼む」
エウニーケさんは入り口に控えていたメイドさんたちに指示をして。
冷めてしまったティーポットごと取り換え、カップとソーサー。クリーム入れも別のものに。ほとんど手を付けられていなかった焼き菓子とスミレの花の砂糖漬けは、そのままに置かれた。
「アイリスお嬢さま、そろそろお疲れではございませんか」
お茶のポットをテーブルに置いて、ローサが尋ねる。
「だいじょうぶよ。アイリスはまだ、おにわにいるの」
「ローサ。この子のことは我々に任せなさい」
「はい。かしこまりました」
少し不服そうに応えたものの、ローサは一礼をし、そのままテーブルのそばに残った。
帰って良いと言われても、「お嬢さまの身の回りのお世話が、ローサの仕事です」と、譲らない。
「疲れているだろう。甘い物も必要だよ」
エステリオ叔父さまはスミレの花の砂糖漬けを取って、あたしに差し出した。
「へいきだもの」
あたしが食べようとしないのを見て、くすっと笑って。
砂糖漬けを一つつまんで、あたしの口に押し込んだ。
ふわっとスミレの花の香りが立って、鼻孔をくすぐる。
スミレの花の砂糖漬けは、あたしの大好きなお菓子。
でも、ひどい子供扱いだわ!
四歳児だけど、心は、もう少しは年上なんですからね。
憤慨していたら、
叔父さまは、優しい顔で。
「わたしはいつでも、きみの味方だよ。ここにいる、エルナトも、ティーレ先輩、リドラ先輩、エウニーケさんも。ローサも含めて、みんなが、そうなんだ。忘れないで」
それから、そっと、顔を近づけて、ささやく。
「ぼくも『先祖還り』なんだから。前世からの約束だ。アリスちゃんは、覚えてないかもしれないけど」
少しだけ、悲しげに。
この世界ではない世界の記憶を持って転生したもの。
だからあたしたちは『先祖還り』なのだ。
でも、納得できないことがある。
どうしてそれを『先祖還り』と呼ぶのだろう。
あたしたちが持つ、この前世の記憶は、まるで……この世界に住む人々の、先祖の持つ記憶だと言っていることにならない?
「おまえらバカか!? 学生だろうが、カルナック師匠に教えを受けてる魔法使いが二人、深刻な顔を付き合わせて何やってんだ」
ぱんっ。と、手を打ち合わせたのは、ルビー=ティーレ。
「情報はいずれ漏れるものよ。いくら隠していても。だから悩んだり危惧してもしようがないの。それより、前へ進むことが大事じゃない?」
落ち着き払って言ったのは、サファイア=リドラ。
「というわけ。カルナックお師匠様からの課題提出は、どうなってるのかしら、エステリオ・アウル」
「は、はいっ! リドラ先輩!」
エステリオ叔父さまは、我に返った。
「アイリスに与えられた『石』が見えないように、精霊白銀でペンダントトップと鎖を創りました。鎖はアイリスと共に成長するので、作り直す必要はありません。黒竜のウロコについては、下手に隠すよりは露出するデザインでいきます。アイリスに与えられた特権をむしろ前面に打ち出します」
「あらそう。なかなか頑張ったのね」
サファイアさんが、笑う。
「その精霊白銀は、エステリオが作ったのか」
ルビーさんの目は、厳しい。
「無理を言わないでください。精霊由来の素材はカルナック師匠に頂きました。加工については、研究室でテノールに協力してもらってます」
「へえ。どうやったんだい」
エルナトさまの目が、光った、気がした。やっぱりマッドサイエンティスト……?
「普通の人間が触れれば『石』が活性化してエネルギーを放ってしまうだろう。今回のものは前もってアイリス嬢と同調してあるようだが」
「テノールには、保有魔力がほぼありませんから、石の記憶に呑まれる心配がありません。それに加えて、念のために、駆竜の革で作った手袋をはめて石に触れてもらいました」
「はははっ。なるほど! ナントカと鋏は使いようだな!」
手を打って笑い出したルビー=ティーレ。
「あら。笑い事じゃなくてよルビー。あなたも彼と似たようなもんなんだから」
サファイアさんあが、すかさずツッコミ。
「なんだと! あたしの保有魔力は、普通よりかなり多いぞ」
胸をはるルビー。
「それなのに、ティーレは魔法で事件を解決したことなんかないじゃない! いつも拳で強引に。魔力の持ち腐れじゃないの! あんなに魔力に憧れてるテノールくんに分けてあげられたらいいのにねえ」
「リドラこそ、いつも銃や魔道具や毒じゃないか! それか色仕掛けだ!」
「引っかかる男がバカなのよ~」
「……すみません、ティーレ先輩、リドラ先輩。アイリスの教育に悪い話はつつしんでいただけませんか。なんかずれてます。カルナック師匠の、アイリスのアクセサリーを偽装するという課題の話でしたよね?」
とても辛抱強い態度で、エステリオ・アウル叔父さまが、口をはさむ。
「そうそう! エステリオ・アウル。彼女たちに任せておくと、あさっての方向に行ってしまいそうだ。で、完成した物を見たいな。見せてくれるよね?」
子供みたいにキラキラした目をしているエルナトさま。
「見せますよ。……でも、ここで、じゃなく。わたしの隠し部屋で」
「なるほど、道理だ」
エルナトさま、ルビー=ティーレさん、サファイア=リドラさんも、同意した。
「ともかく、落ち着こう」
叔父さまがこのテーブルの周囲に魔法で纏わせていた空気のヴェールを外して、テーブルに置かれていた銀の鈴を振った。
メイド長のエウニーケさんが近づいてきた。
「ご用でございますか、お坊ちゃま」
「お茶のおかわりを頼む」
エウニーケさんは入り口に控えていたメイドさんたちに指示をして。
冷めてしまったティーポットごと取り換え、カップとソーサー。クリーム入れも別のものに。ほとんど手を付けられていなかった焼き菓子とスミレの花の砂糖漬けは、そのままに置かれた。
「アイリスお嬢さま、そろそろお疲れではございませんか」
お茶のポットをテーブルに置いて、ローサが尋ねる。
「だいじょうぶよ。アイリスはまだ、おにわにいるの」
「ローサ。この子のことは我々に任せなさい」
「はい。かしこまりました」
少し不服そうに応えたものの、ローサは一礼をし、そのままテーブルのそばに残った。
帰って良いと言われても、「お嬢さまの身の回りのお世話が、ローサの仕事です」と、譲らない。
「疲れているだろう。甘い物も必要だよ」
エステリオ叔父さまはスミレの花の砂糖漬けを取って、あたしに差し出した。
「へいきだもの」
あたしが食べようとしないのを見て、くすっと笑って。
砂糖漬けを一つつまんで、あたしの口に押し込んだ。
ふわっとスミレの花の香りが立って、鼻孔をくすぐる。
スミレの花の砂糖漬けは、あたしの大好きなお菓子。
でも、ひどい子供扱いだわ!
四歳児だけど、心は、もう少しは年上なんですからね。
憤慨していたら、
叔父さまは、優しい顔で。
「わたしはいつでも、きみの味方だよ。ここにいる、エルナトも、ティーレ先輩、リドラ先輩、エウニーケさんも。ローサも含めて、みんなが、そうなんだ。忘れないで」
それから、そっと、顔を近づけて、ささやく。
「ぼくも『先祖還り』なんだから。前世からの約束だ。アリスちゃんは、覚えてないかもしれないけど」
少しだけ、悲しげに。
この世界ではない世界の記憶を持って転生したもの。
だからあたしたちは『先祖還り』なのだ。
でも、納得できないことがある。
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