転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ

文字の大きさ
91 / 362
第三章 アイリス四歳

その17 精霊白銀でアクセサリー作り

しおりを挟む
         17

 「おまえらバカか!? 学生だろうが、カルナック師匠に教えを受けてる魔法使いが二人、深刻な顔を付き合わせて何やってんだ」
 ぱんっ。と、手を打ち合わせたのは、ルビー=ティーレ。

「情報はいずれ漏れるものよ。いくら隠していても。だから悩んだり危惧してもしようがないの。それより、前へ進むことが大事じゃない?」
 落ち着き払って言ったのは、サファイア=リドラ。
「というわけ。カルナックお師匠様からの課題提出は、どうなってるのかしら、エステリオ・アウル」

「は、はいっ! リドラ先輩!」
 エステリオ叔父さまは、我に返った。

「アイリスに与えられた『石』が見えないように、精霊白銀でペンダントトップと鎖を創りました。鎖はアイリスと共に成長するので、作り直す必要はありません。黒竜のウロコについては、下手に隠すよりは露出するデザインでいきます。アイリスに与えられた特権をむしろ前面に打ち出します」

「あらそう。なかなか頑張ったのね」
 サファイアさんが、笑う。

「その精霊白銀は、エステリオが作ったのか」
 ルビーさんの目は、厳しい。

「無理を言わないでください。精霊由来の素材はカルナック師匠に頂きました。加工については、研究室でテノールに協力してもらってます」

「へえ。どうやったんだい」
 エルナトさまの目が、光った、気がした。やっぱりマッドサイエンティスト……?
「普通の人間が触れれば『石』が活性化してエネルギーを放ってしまうだろう。今回のものは前もってアイリス嬢と同調してあるようだが」

「テノールには、保有魔力がほぼありませんから、石の記憶に呑まれる心配がありません。それに加えて、念のために、駆竜の革で作った手袋をはめて石に触れてもらいました」

「はははっ。なるほど! ナントカと鋏は使いようだな!」
 手を打って笑い出したルビー=ティーレ。

「あら。笑い事じゃなくてよルビー。あなたも彼と似たようなもんなんだから」
 サファイアさんあが、すかさずツッコミ。

「なんだと! あたしの保有魔力は、普通よりかなり多いぞ」
 胸をはるルビー。

「それなのに、ティーレは魔法で事件を解決したことなんかないじゃない! いつも拳で強引に。魔力の持ち腐れじゃないの! あんなに魔力に憧れてるテノールくんに分けてあげられたらいいのにねえ」

「リドラこそ、いつも銃や魔道具や毒じゃないか! それか色仕掛けだ!」

「引っかかる男がバカなのよ~」

「……すみません、ティーレ先輩、リドラ先輩。アイリスの教育に悪い話はつつしんでいただけませんか。なんかずれてます。カルナック師匠の、アイリスのアクセサリーを偽装するという課題の話でしたよね?」
 とても辛抱強い態度で、エステリオ・アウル叔父さまが、口をはさむ。

「そうそう! エステリオ・アウル。彼女たちに任せておくと、あさっての方向に行ってしまいそうだ。で、完成した物を見たいな。見せてくれるよね?」
 子供みたいにキラキラした目をしているエルナトさま。

「見せますよ。……でも、ここで、じゃなく。わたしの隠し部屋で」

「なるほど、道理だ」
 エルナトさま、ルビー=ティーレさん、サファイア=リドラさんも、同意した。


「ともかく、落ち着こう」
 叔父さまがこのテーブルの周囲に魔法で纏わせていた空気のヴェールを外して、テーブルに置かれていた銀の鈴を振った。
 メイド長のエウニーケさんが近づいてきた。

「ご用でございますか、お坊ちゃま」

「お茶のおかわりを頼む」

 エウニーケさんは入り口に控えていたメイドさんたちに指示をして。

 冷めてしまったティーポットごと取り換え、カップとソーサー。クリーム入れも別のものに。ほとんど手を付けられていなかった焼き菓子とスミレの花の砂糖漬けは、そのままに置かれた。

「アイリスお嬢さま、そろそろお疲れではございませんか」
 お茶のポットをテーブルに置いて、ローサが尋ねる。

「だいじょうぶよ。アイリスはまだ、おにわにいるの」

「ローサ。この子のことは我々に任せなさい」

「はい。かしこまりました」
 少し不服そうに応えたものの、ローサは一礼をし、そのままテーブルのそばに残った。
 帰って良いと言われても、「お嬢さまの身の回りのお世話が、ローサの仕事です」と、譲らない。

「疲れているだろう。甘い物も必要だよ」
 エステリオ叔父さまはスミレの花の砂糖漬けを取って、あたしに差し出した。

「へいきだもの」
 あたしが食べようとしないのを見て、くすっと笑って。
 砂糖漬けを一つつまんで、あたしの口に押し込んだ。

 ふわっとスミレの花の香りが立って、鼻孔をくすぐる。

 スミレの花の砂糖漬けは、あたしの大好きなお菓子。
 でも、ひどい子供扱いだわ!
 四歳児だけど、心は、もう少しは年上なんですからね。

 憤慨していたら、
 叔父さまは、優しい顔で。

「わたしはいつでも、きみの味方だよ。ここにいる、エルナトも、ティーレ先輩、リドラ先輩、エウニーケさんも。ローサも含めて、みんなが、そうなんだ。忘れないで」
 それから、そっと、顔を近づけて、ささやく。

「ぼくも『先祖還り』なんだから。前世からの約束だ。アリスちゃんは、覚えてないかもしれないけど」
 少しだけ、悲しげに。

 この世界ではない世界の記憶を持って転生したもの。
 だからあたしたちは『先祖還り』なのだ。

 でも、納得できないことがある。

 どうしてそれを『先祖還り』と呼ぶのだろう。
 あたしたちが持つ、この前世の記憶は、まるで……この世界に住む人々の、先祖の持つ記憶だと言っていることにならない?

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...