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第六章 アイリス五歳

その12 ミハイル

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 シャンティ司祭さまとお付きのミカエル衛士さまはカルナックさまと昔から知り合いだったみたい。
 小さい頃のカルナックさまのことを話題にしていた。
 こんなに大きくなって! なんてね、親戚か!

 でもミカエル衛士さまが心配してらしたとおり、シャンティさまはお酒が大好きなのに、すごく弱かったのです。
 だって、いきなりバターンってひっくり返って倒れてしまったの!

 そういえば、お酒に強いひとって、顔がすぐ赤くなったり酔ったりしないのだって聞いた事がある。数え年五歳の幼女アイリスじゃなくて、前世の記憶でだけど。

「しさいさま、だいじょうぶですか?」
 駆けつけてくださったミカエル衛士さまにおたずねしたら、よくあることですからって、笑ってくださった。

「よく寝ておられますよ。すごく酔ってて。そういえば、ミハイルって…」

 すーっと、衛士さまの表情が消えた。

「あ、それ、あかんやつやわ」
 突然、声をかけられた。
 たぶん学生の魔法使いさんが、水を持ってやってきたのだ。

「あかんて。ここでは司祭はんもだいじょぶ、安全やから。幼女に殺気だしたらあかん」

「……そうですね、私としたことが、つい。習慣がぬけません。ここは絶対に安心して良い場所なのに」
 戦士の貌をしたままの衛士さまは、シャンティ司祭さまの頭に、そっと手を添えた。
 かすかに、笑みを浮かべて。
「ミハイルというのは私と若様の故郷の名前で。……王家の者にしかない名前でしたから。どこの出身かすぐに推察されるのですが、故国が滅びたときに、エルレーン公国ふうの名前に変えたのです。よくある話ですよ」

 困った。
 出身の国が滅びた!?
 昔っていつ頃!?
 それはよくある話っていうレベルなの!?

 ちょっと重いですねとか、数えで五歳の幼女が応えられる内容じゃないよう(だじゃれか!?)
 固まってしまっていたら、助け船を出してくれたひとがいる。

「まあまあ。きみも飲みなさい。今は無礼講だ。……さあ、きみも」
 カルナックお師匠さまが、杯に透明なお酒を注いで、ミカエル衛士さまと、お水を持って来てくれた学院の生徒さんに差し出したの。

「いただきます」
「これはこれは。お師匠様のご相伴にあずかりますわ」
 くいっと飲み干して、顔色には少しの変化もなかったから、二人とも強いのね~。

「じゃ、失礼します」
「ああ、話をしておきたいから、トーマス、ニコラウス、グレアムを呼んできてくれないか」

 憶えてるわ。
 我が家に転移魔方陣を設置してくれた学生さんだ!

「でこぼこトリオっすね! 呼んできまっさ!」

 ……でこぼこトリオ?

         ※

 さて、宴もたけなわ。
 飲めや歌えの大宴会場からこんにちは、アイリス・リデル・ティス・ラゼルです。

 ここは魔道士協会が運営する公立学院学生寮です。
 
 聖堂教会神殿『虚空の間』で、自称「ただの司祭」シャンティさま……ぜったい、本当はすごく偉いひとに違いないと思うのだけど……に『代父母の儀式』を執り行っていただいて。無事に儀式を終えることができました。
 その後、なぜか関係者全員でお祝いの宴会をすることになったの。

 お父さまお母さま、エステリオ・アウル叔父さまも代父母さまも神殿関係者もカルナックお師匠さまにコマラパ老師さまやサファイアさんとルビーさんも一緒になって宴会を繰り広げてます。

 お母さま専属のメイドさんレンピカさんとマルグリットさん……二人がお母さま付きの護衛だったなんて初めて知って、あたしは驚いてしまった。

 考えてみればお母さまも商会の奥さま同士のお付き合いで交流したり情報交換というらしいたいへんなお役目で、お出かけが多いから。いつも付き添ってくれている二人が護衛ならお父さまも安心だろうし納得だったけど。

 ところでレンピカさんとマルグリットさんは一足先に帰還しています。無事に儀式が終わったことをラゼル家に伝えてもらうためで、お師匠さまが転移魔法陣を使って送り届けてくれたの。
 ここなら、お母さ護衛はしてもらわなくても大丈夫だもの。

 宴会場は公立学院学生寮の大食堂でした!
 たしかに食べ物も飲み物もすぐに用意できて、そのうえ安全このうえない。お貴族さまのアンティグア家ご一行さまも加わる宴会の場としては完璧だわ!

 生徒さんたちも参加してます。
 寮にいるのはみんな魔法使いのひとばかり。
 エステリオ叔父さまの学友さんとか。
 エルナトさまの研究仲間も。

 シロとクロはみんなに毛並みを撫でてもらってごきげん。本来の主人であるカルナックお師匠さまもいるし魔力をたくさん持ってる人たち揃いだからお腹いっぱい。

 パウルくんとパオラさんもご馳走を食べ放題だし、代父母さまたちに優しくしてもらって幸せそう。これを歳神さまがご覧になっていたらきっと安心してくださるわよね。

 

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