精霊の愛し子 ~『黒の魔法使いカルナック』の始まり~ 

紺野たくみ

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第1章

その28 黒の魔法使いカルナックは正々堂々にして狡猾です

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                    28

「言ったはずでしょ。物理法則をねじ曲げる闇の魔女だと」

『物理法則をねじ曲げる? とんでもない魔女だな。今までに出会った、どんな魔力持ちよりも強力で、おまけに狡猾。何が正々堂々だよ』
 セラニスは呆れたように肩をすくめる。

「もちろん正々堂々よ。公明正大も、素敵な言葉ね。何一つ隠してないわ」
 カルナックは胸をそらす。
 三つ編みにした黒髪のお下げが揺れる。
 身長が伸びたので三つ編みは緩くなっていた。

「カントゥータ義姉さんに地面に落としてもらった『魔天の瞳』の素材も、この世界ではレアな金属だし、充分に活用してあげる」

『どう使う気だよ……魔女め』
 いやな予感しかしないセラニスだ。
 大事なツールである『魔天の瞳』を全て奪われたのだ。
『こいつらも上から引っ張ってくればすぐ補充できるけどさ。持ってきたら、また落とすよね?』

「もちろん。邪魔だから」

『わかった。次は、ぼくのターンだ。自然破壊しなければいいんだろ』
 セラニスは頭上を仰ぐ。
 青白い真月と、暗赤色の魔の月が寄り添う。

『天の火!』
 前置きなしに短く叫んだのは、カルナックからの干渉を危惧したのだろう。
 頭上に位置する「魔月」から、ごく細い光の束が発せられた。
 空気中で拡散することなく降りてくる。
 光の速さに人が反応できるはずもない。
 だから『天の火』は、遮るものもなく、まっしぐらに地上に降ってきた。

「させない!」
 
 カルナックは、どこが狙いであるのかを瞬時に悟り行動した。
 遙か上空から落ちてくる『天の火』を。
 見えない手でつかんで、ねじ曲げた。

 クイブロと家族が、コマラパがいる家を標的にしたビームを。

 まるで飴細工でもあるかのように曲げて、返した。『天の火』を発したところへと。


『……なっ。なななな、何するんだよ! 指向性の強いビームが曲がった!?』

「セラニス。あなたも少し学習したら? 黒の魔法使いカルナックには不可能はないってこと。今度、わたしの大切なものに手を出したら、容赦しないわよ」

『ふざけるな! そんなチート能力、反則すぎる!』

「あら、ごめんなさい。わたし、前世も含めてずっと魔法の研究をしていたの。理不尽な運命に仕返しをするために。物質文明もその一つだわ。セラニス、あなたのような困った存在を生んだ文明よ。これからは時代が変わる。いいえ、変えてみせるわ」

 黒の魔法使いカルナックは凄惨な笑みをたたえて、地球の機械文明の落とし子であるセラニスを見据えた。

「さて。譲り受けた、この『瞳』だけど、本当に可愛いわ! よくこんな小さいボディに高性能な機能を詰め込んだものね。外殻はチタン? 耐熱塗装で、こんな色をしているのね。カメラアイも優秀そうだし。セラニスのお母様が作ってくれたの。いいわね~。羨ましい」

『譲ってない! 奪い取ったくせにっ』

「うふふふ。そうとも言うわね。この子だって嬉しいはずよ。セラニスの情報収集、なおかつ武器だなんて。悪事の片棒をかつぐよりは、わたしのしもべになったほうが」

『悪事ってなんだよ! 本物の魔女め!』
 セラニスは完全にキレていた。
 勝利を確信していただろうに、よりによって相手は、この世界に今まで存在していなかった概念。
 黒の魔法使いカルナックだ。

『このままで済むと思うな』

「それって悪役の退場につきもののお約束のセリフよ。知ってた?」

『まったく、きみは、なんでそう、ぼくの思い通りにならないんだ!』
 苛立ちの頂点に達したセラニスは、別の武器を起動させた。

 それは雷雲から発せられる稲妻だ。

 雷音が轟くと共に、
 カントゥータに破壊されて地面に落ちていた『魔天の瞳』たちが、重力のくびきから離れて浮き上がる。
『面倒なことに使われるくらいなら自爆させるさ!』

 しかしながら、カルナックの手に握られている唯一の無傷で残った『魔天の瞳』は、セラニスの命令に従わなかった。
 まるで懐いている小さな動物のように、カルナックの手のひらで、ごろごろと転がって。いっこうに動こうとはしないのだった。

『くそっ! もうどうでもいい。どこでもいい、雷よ、この村に落ちろ!』
 最初は余裕たっぷりだったセラニスが、今では意地もへったくれもかなぐり捨てて、声をあげた。
 その叫びが指令(コマンド)だ。

 特大の雷が天と地を結んで貫き、『欠けた月の一族』の村を襲う。
 これならば大地を傷つけることにはならず、世界(セレナン)によって課せられた制約には触れない。

 すでに、もはやカルナックの肉体を自分が降臨(ダウンロード)する器にするため、無傷で倒せるとは期待していない、セラニスの攻撃だった。


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