18 / 28
第1章 幼年期からの始まり
その13 名前を明かす
しおりを挟む13
「隠されている、この子の名前を明かしてみよ。正しく答えられたならば、おまえを、我らが『愛し子』に、将来の伴侶と認めようぞ」
世界に繋がる『精霊(セレナン)』グラウケーことグラウ・エリスが、おれを挑発するように、肩をそびやかす。
しかしどう見ても、大人の女性が、おれみたいな十歳にもならない子供に張り合うとか挑発するとか、なくないか?
「考え直してくださいグラウ姉様! 私も今まで全く知らなかった名前を、いきなり当てろなんて、彼に不利すぎます」
「我らが『愛し子』よ、案ずることはないぞ。信じることだ。それだけの覚悟や才がなければ、そもそもこの、精霊の世界に属する『白き森』に入り込むことなど出来はしないのだから。ここにいる、それがすでに選別されているということになる」
「少しだけ、時間をください」
おれは心を落ち着けようと、深呼吸をする。
六歳で青竜様の従者になったときのことを思い出す。
青竜様の名前に隠れていた『真の姿』を見いだしたことがあった。名前を明かせとは、そういうことなのだろう。
落ち着け! おれ。
人生の一大事だぞ。
いや、まだ子供なんだけど。
ときどき前世の記憶が浮かんでくる。そのことを考えると、前世では、もうちょっと歳をくってたんじゃないかな。おれ、子供らしくないもんな。
ところで、この状況だが。
彼女の親御さんに「お嬢さんをください」ってお願いにきている感じなのでは?
まずい!
顔が熱くなってきた。
集中するどころではない。ヤバい!
しかし、そのときである。
割って入った声が、二人分。
『お待ち頂きたい精霊殿。その者は儂の従者じゃ!』
『ここは妾に託された空間であるはず! 妾の織姫を気に入ったと「愛し子」などと呼んで。たとえ世界の大いなる意思の代行者である第一世代の精霊様とはいえ、これ以上の勝手をするのはいい加減にして頂きたいですわ』
青竜様と白竜様が、揃って到着したのだった。
見事なウルトラマリンブルーの長い髪をなびかせた美青年、青竜様と、艶やかな純白の髪に、赤い瞳をした熟女系の美女……白竜様。
そしてお二方の後ろにはシエナ先輩がいる。
……美男美女カップルと愛娘という麗しいご一家にも見えるな。
「コパ君、大丈夫?」
「ありがとうございます、先輩、青竜様」
『心配したぞ。おまえがいなくなったとアールが伝言してきてな』
『もしや「白き森」に見初められたかと案じたのじゃ。精霊は、ときたま、気に入った魂を森に召喚するからのぅ』
「白竜様。初めまして。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
とにかく挨拶だ! 特に上位の方への礼儀はきちんとしないといけないと日頃から叩き込まれているのである。
『ほほほ。良い良い。堅苦しい挨拶はそれまで。青竜のお気に入りの従者。妾の織姫と知己を得たようじゃ。既に覚悟をなされているのであらば妾から言うことはない』
気のせいで無ければ、その瞬間、背筋に悪寒がはしった。
威圧されたよ!
「おや。白竜殿も覚悟がおありか」
楽しげに精霊グラウケーが微笑む。
『この子らの主人であり保護者である妾たちの立ち会いなしに「誓い」を課そうというのは頂けませぬな。ですが、永久に我らが異界に留め置くのもどうか、と案じてはおりましたゆえに。世界の大いなるはかりごとあれば、お任せいたしまする』
『さよう、儂もじゃ。我が従者たちが「未来」を望むなら、そのように計らおう』
「あいわかった。さあ、コマラパ。正式な立会人が揃った。さきほど私が出した課題に、応えてもらおう。白竜の織姫にして我らが精霊の『愛し子』の。その名前を、見事、明かしてみせよ」
ふいに空気が変わった。
全てが、静まった。
しんとして。
世界が、聞き耳を立てている。
おれは彼女を見つめた。
彼女も、おれを見ている。無言で、少し青ざめた顔色で。案じているのだ。
「心配しないで。……」
ふっと目にとまったのは、彼女が手にしている、白竜様のために織り上げた薄布だ。そうだ……こんなに薄くて丈夫な布を……なんと呼ぶ?
ものすごく集中した。こんなチャンスは、きっと一度きりなのだ!
彼女にふさわしい名前。彼女をあらわす、ことば。
……紗。(うすもの。薄手の絹織物)
そしてもう一つ思い浮かぶのは、セノーテの泉の底にあった白い細かな砂だ。
……沙。(砂。水際……)
そして、織姫。
ふいに、雷に打たれたような衝撃があった。
次の瞬間、その名は、自然と口をついて出た。
「さおり」
沙織、と。
「コマラパ……それが、私の名?」
「うん。さおり。それが君の名前だ!」
おれは、不思議な高揚感に包まれながら、大きく頷いた。
一片の迷いもなかった。
あれ?
こんなことが、前にも。
昔にも、あった、ような……?
そのとき急に目の前が暗くなった。
あとはどうなったのか、わからない。
おれは、失神したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる