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彼女たちの……

彼女たちの……③

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「どうも~!世界の果てからこんにちわ!飛翔だよ~!」
 相変わらず、訳のわからない挨拶をお送りしているのはわたくしこと赤城 飛翔 あかぎ かけるでございます。
 え?前回に比べて元気だね、ですって?……いやぁ、前回は何故かヤル気が全く起きなくて……本当、どうしてでしょう?(……きっとここ最近の夜型生活が……
 まあ、そんなことはおいといて、早速おさらいコーナーと行きましょう!前回のお話は……青葉さん、あなたの頭の中はどうなってるの?という感じでしょうか?しかし、雛田さんの水着姿を見れないなんて……彼も残念なことをしましたね。

「それでは、買い物(水着だけ!)を終え、次なる目的地映画館に向かう彼に訪れる未来は?はたしてどうなる!……どうぞ」
 ……自分で言っておいてアレですけど……普通に映画を見るだけと思いますがね。



「で……昴、どの映画を見るんだ?」
「アレ!アレをみたかったの」
 昴はそう言って一枚のポスターを指差した。
「ねぇ、アレはやめない……」
 雛田さんがポスターを見ながらそんなことを言う。……まあ、雛田さんは嫌だろうなぁ……何を隠そう、昴が見たがっている映画は明らかにホラー系だった。
「わたしはホラー好きなんで良いですよ~!それに怯えてる女の子って可愛いくないですか~?」
「お前、内容はどうでもいいの?」
 俺は青葉さんに一応聞いてみた。(……確かに怯えてる女の子は可愛いもんだけどなぁ……雛田さんとか特に)
「もちろん内容も好きですよ!あの、一人ずつ消されていく感じとか、見てて面白いですよね~」
「そ、そうだな……」
 俺が若干青葉さんに引いていると……
「(……ねえ赤城君、本当にこの映画観るの?)」
 雛田さんが他の二人に気づかれないようにひそひそ話をしてきた。
「(だって、昴が見たがってるし……それにホラーだから昴にスキンシップもとりやすいから、作戦のためにも頑張ってくれ)」
 (……もしかしたら怖がった雛田さんが俺に抱きついてくれるかもしれないし……)
「(……わかった、がんばるよ)」 
 雛田さんは渋々といった感じだが、何とか了承してくれた。
「それじゃあ、チケット買ってくるよ!青葉さんも手伝ってくれ」
 俺は雛田さんと昴を出来るだけ二人きりに出来るようにそう言ったのだが、青葉さんは全く空気を読まず
「え?手伝うことなんて無くないですか?それとも……そんなにわたしと一緒にいたいんですか~?」
 何て言っている。しかも無駄に体をクネクネさせている。
「……やっぱりいいや、俺一人で買ってくる」
 俺は仕方なく一人でチケットを買いに行くことにした。



「キャー!……もうやめて……これ以上は……死んじゃう……」
「ひっ!……な、なるほど、そう来ますか」
「いけ~!やっちゃえ~!」
「…………」
 スクリーンに突然ゾンビが出たときの各々の反応である。初めが雛田さんで、次に昴、その次はもういいな……最後に俺だ。
 俺たちが観ている映画はかなりマイナーなのか、他に観ている人はいなく、俺たちは結構自由に叫んだりしていた。(……一人死にかけてるけど……)
 ちなみに席は右から青葉さん、雛田さん、昴、最後に俺の順である。雛田さんが怖がっていたら青葉さんが「わたしが隣で見てあげるよ~!こんなのヘッチャラだから安心して~」と珍しく良いことを言って隣に座り、当然雛田さんの隣に昴を座らせないといけないので、この席順になった。(……俺はあれだよ、雛田さんの隣がよかったけど、そんなこと言ったらせっかくいい奴になりかけている青葉さんがかわいそうだからな、だから雛田さんの隣は諦めて……まさか!青葉さんはこれが目的で!)
 映画の内容は、ウイルスに感染した人々がゾンビになって襲いかかるようになり、そんな世界を救うために主人公が立ち上がってゾンビと戦う。という至って普通のゾンビ系なのだが……昴が気になっていただけあって、ゾンビがやけに俊敏だったり、あっさりヒロインがゾンビになったかと思えば主人公がためらいもなく殺したり、終いには主人公もゾンビになっちゃうで……所々メチャクチャな展開をしていた。
いよいよ映画もクライマックスに差し掛かり、主人公たちがゾンビを銃で撃ちまくっている。苦労の末、ようやくゾンビを倒し感動のフィナーレを迎えようとしている。
『やっと終わった……俺は世界を救ったんだ!……うっ、どうやら俺もここまでか……後は俺が死ねばこの世からゾンビはいなくなる……』
 主人公が震える手を押さえながら銃口を自らに向け、引き金を引こうと指先に力を入れ……
 


「流石にあれは無いよな~!俺はもう少しで泣くところだったぞ!」
 俺たちは先程の映画の感想を言い合っていた。
「いやぁ~、まさかあんなことになるなんてね~……雛田さんは大泣きしてたし……」
「あれはしょうがないでしょ~!それに青葉さんだって怖がってたじゃん!」
 雛田さんは泣きすぎたせいかまだ少し目が赤いままだ。
 ……みんなが文句を言うのもムリはない、実は映画自体はあのまま終わり意外と面白かったなぁと思っていたのだが、スタッフロールが終わったあとに何故か映画のワンシーンがもう一度流れてみんなが不思議に思っていると、昴がこう一言……
「実はこのシーン、撮影の途中で亡くなったはずのヒロイン役の方が写りこんでいるんです……」
 ギョッとしてスクリーンをよく見るとおかしな場所に血まみれのヒロインが映っていた……しかも足が無かった。
 実はこの映画は呪いのビデオです。というオチが待っておりその事を知らなかった昴以外は恐怖のドン底に落とされていたのだった。

 そんなこともあり雛田さんは大泣きした挙げ句、今も少し怖いのか俺の服の端をちょこんと摘まんで離さないでいる。昴も申し訳ないと思ったのだろう、雛田さんと手をつないで慰めてあげている。
「お腹も空いてきたしそろそろご飯にしません?」
 青葉さんは空気を読んだのか本当に腹が空いたのかはわからないが話題を昼御飯に変えていた。
「それもそうだな、何たべる?」
「わたしはやっぱりお肉を食べたいです!」
 ……あんな映画を観た後に肉を食べたくなるとは、コイツ、スゴいなぁ……俺が青葉さんに引いてると
「わたしはもう、赤いもの以外ならなんでもいいよ……」
 雛田さんはさっきの映画の影響が大きかったようで死にかけてる……(幽霊は友達怖くないって、さっきから呟いてるけど本当に大丈夫かなぁ……)
「わたしもお肉はちょっと……」
 流石の昴も肉を食べる気にはならないらしい。
「それなら、そこら辺のカフェとかで軽く食べるか?」
「「うん、そうする」」
「え~!」
 一人反対しているがコイツはべつに無視していいだろ……
 そうして、俺たちはカフェに向かうのだった。 

 ……それにしてもこのままで昴と雛田さんは親友に戻れるのだろうか……?
 俺は少し不安を感じながら、繰り返し午後の予定をシミュレーションしていた。




 
 
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