魔王さんは大変なようで。

五月七日 外

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魔王軍幹部も大変なようで。

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 ウルサ平原に着いてみると、そこにはただ一人で暴れまわる女勇者とそれに吹き飛ばされるゾンビたちの姿があった。
 女勇者の進行先ーーそこに、他のゾンビとは少し容姿のことなる女のゾンビがいた。
 リアは彼女を見つけると、その隣へと降り立った。

「あっ魔王さま!よく来てくれました感謝です」
「ノミコも無事で何よりじゃ。他のみんなは?」
「はい。ララーナさんは一人独走して何処かにいってしまいまして……ストラスさんはこの先で王国軍の人たちを相手にしています」

 血色の悪い肌に、どこかで嗅いだことあるような甘い香りに身を包んだその女の子はノミコと言うそうだ。ノミコはそれなりに身分が高いのだろう、他のゾンビたちはノミコを庇うように女勇者の元へと突撃しては吹き飛ばされている。
 前線組というのだから、カロスみたいに恐ろしい魔物が配属されているのかと思えば、意外にもここにはゾンビしかいなかった。ノミコも見た目的に強そうではないし、なんだか心配である。
 
「では……ここからは妾の出番じゃな。シノもよく見ておれ」

 これで、いつもの姿だったら様になっただろうに、今のリアは幼女にしか見えないので、少し……いや、だいぶ迫力に欠ける。
 今もゾンビを殴り続けている女勇者も俺と同じ事を思ったのだろう。リアには見向きもせず隣に立っているノミコにその熱烈な視線は向けられた。

「くふふっ、アンタが倒せないって噂のノミコだろー?」
「ええ、まあそうですけど……」

 控えめに言っているが、ノミコの口からトンでもない言葉が出た気がする。
 確かに、RPGゲームでもゾンビはすでに死んでいるので殺せないが、聖水をかけるなり回復系魔法を使うなりすれば簡単に倒せるはずだ。
 と、俺が疑問に思っていると突然女勇者の足元から爆発したように土が隆起した。
 俺が驚きのあまり口が開きっぱなしになっている間も、地面がまるで蛇のようにうねりながら女勇者へと襲いかかる。
 しかし、それだけの攻撃をされながらも女勇者は何事も無かったように地面へと着地した。

「す、すげぇ……」
「そ、それほどでも……ただ、あの人もわたしの魔法じゃあ倒せないみたいで……」
「ふむ、ノミコはあまり攻撃魔法を得意じゃないからのぉ……それでノミコ、ストックはあとどれくらい残っとる?」
「ざっと千ってところです」
「ストック?」

 と、俺が疑問を口にするとリアが説明してくれた。
 なんでもノミコはゾンビの女王という存在らしく、周りにゾンビがいる限りすべての攻撃は周囲のゾンビが肩代わりしてくれるらしい。さらに、ノミコは土からゾンビを作る魔法を使えるらしく、ゾンビの数がノミコの命……すなわち、ストックになるそうだ。……確かにそれはとうてい倒せそうもない。……
 今も数十にも及ぶゾンビが地面から現れては女勇者へと襲いかかっていた。しかし、女勇者の実力もそれなりのようで、無傷でゾンビたちを軽く蹴散らしている。とても同じ人間とは思えない。

「しかし、このままじゃあ拉致が空かぬのも事実。いよいよ妾の力を見せる時だな!」
「あっ!皆さん退避です!!魔王さまの攻撃が来ますよ!死ぬ気で逃げて下さい!!」

 リアがニカッと笑ったかと思うと、慌ててゾンビたちに避難指示を出すノミコ。
 ノミコの指示で様々な方向へと捌けていくゾンビを見て、女勇者はニヤリとその口元を曲げた。
 
「へへっ!何をする気か知らねえが、がら空きだぜぇ!!!」
「うわっ、アイツ突っ込んできやがった!」

 巨大な斧を持っているというのに、女勇者は信じられないほどの速さで俺たちとの距離を詰めてくる。
 ……殺られる!?
 俺がそう思った瞬間のことだった。 

「大丈夫だシノ……妾がついておる」
「リア」 
「だから、安心して……して……へっくち!」

 そんな可愛らしいくしゃみの声と共に、女勇者共々ウルサ平原は文字通り地図から姿を消した。
 
 
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