道具屋のマオウ

海底新人

文字の大きさ
1 / 6

外伝1「MerryX'mas」

しおりを挟む
 ──これはまだ彼が道具屋を開いたばかりの頃始めて行ったクリスマスパーティの記録である。

 十二月二十五日。
 クリスマス。それは世界中の子供達が楽しみにしているイベントの一つである。
 そんな日にコタツで蜜柑を貪りながら、一人で人生ゲームをする一人の姿があった。
「は、はは・・・やったね・・・結婚だ・・・」
 一人寂しく駒を動かす彼の名はベルディア・ミラルダ。魔族の現当主。つまり魔王である。
 何故彼が一人で人生ゲームに勤しんでいるかと言うと、それは前日まで遡る。

※※※

 十二月二十四日。
 彼は初めて道具屋として行うパーティの為、各魔族達の予定を聞いていた。
 参加できる者とできない者を聞き、それに使っていいものと使ってはいけないものを見定めるためである。
「・・・ウルフ。お前は来れる、よな?」
「あっ・・・えーと、ごめん!その日は私用事があって・・・」
「はいはい、ウルフ欠席と・・・はは、いつの間に俺の信用はここまで落ちぶれたというんだ・・・」
「あはは・・・ごめんよ」
 と、まぁこんな感じで全員に断られたわけである。

※※※

十二月二十五日。
 そんなわけで彼が一人で寂しく人生ゲームをしている理由を分かってもらえただろう。
「あっ、破産した・・・」
 そして立て続けに起こる仮想空間の中での破産。 もう彼の心は使い古した雑巾のようにボロボロだった。
「ベル。店番してるの?」
 その声は絶望の淵に落ちた彼を引っ張りあげた。
「アラクネ!今日は予定があるはずじゃ!」
 そう言って彼は記憶の中にある名簿欄を思い出す。
「私、予定聞かれてないよ。面倒だから自分で書いたの」
「・・・良かった!やっと一人から抜け出せる!」
「?どうしたの?」
「悲しい出来事があってな・・・」

※※※

「皆が出掛けちゃったから一人でゲームをしてたの?」
「まぁそういうこと・・・」
「じゃあ私もゲームする」
 アラクネは彼と正反対の方に座り、駒を受け取った。
「ありがとう!君は最高の下僕だよ!」
「一人が二人集まれば、もう一人じゃないからね。あ、ベルから五万貰えるだって」
「ぐぬ・・・初っ端から手痛い出費が・・・だが見ろ!勇者に転職する王から六万だ!」
「それベルが一番しちゃいけないこと!」

※※※

 いつの間にか二人はコタツで眠っていた。
「っは!寝てた!アラクネ!ごめ・・・って寝ちゃってるか」
 彼は立ち上がり、自分が羽織っていた毛布を彼女にかけてやった。
「はぁ・・・全く酷い奴らだよ・・・痛った!誰だよこんな所に箱を置いた奴!」
 その箱には手紙が付いていた。

 親愛なる魔王様へDear my master

「何だよこれ・・・」
 彼は目に涙を浮かべながら、その箱のリボンを丁寧に外し、ゆっくりと開けた。

 ボヨン。と勢いよく人形が飛び出した。

 「うわ!何だこりゃ!」
 よく見ると箱の下の部分にまた手紙が入っていた。

 魔王様の涙、風景記憶魔術で撮っておきました。
 後で下っ端達と見るつもりです。
 良いクリスマスを!ウルフ。

「クリスマスなんて壊れちまえ!全身全霊!地獄の焼却炉ヘルフレイムケルベロス!」
魔王様落ち着いてサタンズパニッシュメント

 アラクネの強烈な右ストレートが腹部に直撃した。
「痛ったぁ・・・何するんだアラクネ・・・」
「人形をもう一度よく見て」
「あの飛び出してきた人形をか・・・?」
 彼は再度人形に目を向けた。
「何か気づくこと、ない?」
 よく見ると人形の首元にチャックが付いている。
「何だこれ・・・開けろってことか?」
 アラクネは無言で頷く。
 彼は恐る恐るチャックを開けた。
「これは・・・」
「ベルが世界を征服した後の地図だよ」
「・・・まだ道具屋として始まったばかりなんだぞ?それに今の俺じゃ征服すら出来るか・・・」
「そんなこと、私達は気にしてないよ。征服できそうだから従うんじゃなくて皆、ベルだから従うんだよ」
 彼の目にはまた、涙が浮かんだ。
「・・・ありがとう」
「はい、カット。いい涙だったね。かなり質のいいシーンが取れたと思うよー」
 彼女はそう言いながら立ち歩き、地図に仕掛けていた風景記憶魔術を解除した。
「お、お前も・・・僕を愚弄するのか・・・?」
「ベルの泣き顔が見たいって人が多くてねー作戦考えて撮っちゃったの」
「撮っちゃったの、じゃねぇ・・・嘘ついてたのかよ・・・」
「でもベルだから従ってるのは本当だよ」
 彼はアラクネの頭をコツンと叩いた。
「・・・んなの僕が一番分かってるよ」
「じゃあ改めて。ベル、メリークリスマス!」
「・・・メリークリスマス」
 彼はボソッとそう呟いた。
「何辛気臭い顔してんだい!我らが魔王様!」
 背後からドンと肩を叩かれた。
「お前は・・・」
 後ろに居たのはウルフを初めとする魔族達だった。
「さぁ皆!今日は飲み明かすよ!」
「「おおー!」」
「お前ら・・・今日は予定があるんじゃ・・・」
「そんなの早く終わらせてきたに決まってるじゃないか!これからアンタの泣き顔映像を見るんだからね!」
 ウルフは笑いながら、そう叫んだ。
「・・・あとで、天罰だからな」
「なんだい?小さくて聞こえないよ!」
「うるせぇ!お前ら!今日は人間共にトラウマを植え付ける勢いで飲むぞ!いいな!」
 そう叫び、彼は用意されていた酒を飲み干した。
「「おおー!」」


 ──これはまだ彼が道具屋を開いたばかりの頃初めて行ったクリスマスパーティの記録である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...