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新章–物語は終わらない–
オープン・ハンド
しおりを挟む「うおー、焦らせやがって。俺たちの出番が無くなるかと思ったぜ」
ディアルド城から10キロほど離れた、郊外の小高い丘。遠くに城が見える野晒しの草地に、5人の男が立っていた。背丈や服装は皆バラバラだったが、全員が首からネックレスのように認識票をぶら下げており、赤や青というように、それぞれが違う色のものを身につけていた。
そして奇妙なことに、全員が同じ黒いサングラスを身につけていた。
紫の認識票を付けた男の言葉に、白い認識票を付けた男が返す。
「魔術皇もそこまで軽率な男ではないでしょう。貴方もよくご存知なのでは?」
「まぁな。あぁいう気に食わねえ事をする野郎だよ、アイツは」
「どうやら随分と張り切ってるようですね。心なしか適応率も高そうだ」
「当たり前だ。ずっと待ってたんだ、アイツと戦える日をな」
「やる気があるのはいいが、作戦を忘れるなよ」
二人の会話に割って入ったのは、赤い認識票をぶら下げた男だった。
「それぞれの役目を果たせ。その上で暴れる分には構わない。いいな、パープル」
パープルと呼ばれた、紫の認識票を付けた男が頷いた。
「あぁ、任せてくれ、レッド。期待以上の働きをしてやる」
パープルの言葉にレッドと呼ばれた赤い認識票の男も力強く頷き返した。
レッドの手のひらで、炎が揺らめいた。
「まず、そちらの要求を聞こう」
ドグラ国王の言葉に、隣に座るジャクスロム大臣が、懐からペンを取り出し、卓上に置かれていた羊皮紙を手に取り自分の目の前に置いた。
「そうだ、ジャクスロムに簡単な議事録を取らせる。構わないかな」
「もちろんです。では、こちらの要求をお伝えします」
伝える要望は、事前にみんなと話し合って決めていた。
アルファがまず一つ、と人差し指を立てた。
「王国兵団による悪魔狩り、もとい魔術師狩りをやめて頂きたい」
体の前で腕を組み、わずかに伏し目がちになりながら考え込むようにするドグラ国王の隣で、ジャクスロムが羊皮紙の上でペンを走らせる。次いでアルファの中指が持ち上がる。
「二つ目に、魔術師が主となって暮らすことのできる土地を頂きたい」
ピタリとジャクスロムの手が止まる。
「それはつまり、ドグラ王が治めている領地をそちらに差し出すということですかな?」
「まぁ待て、ジャクスロム。先に全ての要望を聞いてから、一つ一つ話し合っていこう。まだ要望はあるかな?」
「えぇ、次で最後です」
アルファが薬指を上げた。
「三つ目に、今後他国への侵攻を行わないでいただきたい」
変わらず腕を組んでいるドグラ国王の背後に控える兵団長たちが僅かに身じろぎし、鎧がカシャリと音を立てる。ジャクスロムはウムムと唸りこそすれ、手を止めることはなかった。
アルファが手を下ろす。
「これで、私たちからの要望は以上となります。次に、ドグラ王の要望をお伺いしても良いですか?」
「あぁ。こちらからの要望は二つだ」
ドグラ国王がアルファと同じように人差し指を立てる。
「一つ、魔術を我々に提供すること」
これは予想できた要望だった。ドグラ国王にとって邪魔なのは、自分に敵対する可能性のある魔術師そのものであり、魔術師の扱う魔術そのものは有益なはずだ。魔術師と友好的な関係が築けるのならば、ドグラ国王が魔術を欲するのは当然とも言えた。
次いで、ドグラ国王の中指が上がった。
「二つ、私が私的に扱える魔術師の部隊をくれ」
「なんだと?」
アルファがその言葉の意図を理解するより前に、ここまで静寂を保っていたラウンズが声を上げる。怒気を孕んだその声により瞬間的にひりつき始めた空気を誰よりも早く察知し、兵団長達が反射的に腰の剣に手を伸ばす。
テーブルの上に放っておいた両手を強く握りしめながら、ラウンズが言う。
「俺たちの仲間を、アンタに差し出せと?」
「ラウンズ」
宥めるようにベイツが声をかける。ラウンズもここで暴れ始めるほどバカじゃない。だが、誰よりも最前線で戦い続けてきた彼にとって、仲間の命を奪ってきたドグラ国王の下に仲間を差し出すというのは、おそらく耐え難いものだろうと容易に想像できた。
「何も私に絶対服従を誓わせるというわけではない。追々話そう」
ドグラ国王はラウンズが露わにした怒りを物ともしないように言葉を連ねた。正直なところ、ここでドグラ国王の機嫌を損ねるのは避けたかった。彼の余裕に助けられたようだ。
「ありがとうございます、ドグラ王。要望は以上でしょうか」
「以上だ。では、一つ一つ詳しく話し合おう。先に、そちらが提示した三つの要望について議論して良いかな?」
「えぇ、構いません」
ジャクスロムが、ドグラ国王に記した内容が見えるように卓上の羊皮紙を滑らせる。ドグラ国王はそれに目を落としながら言った。
「最初に、王国兵団による魔術師狩りを止めること。これについて話そう」
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