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新章–物語は終わらない–
互いの武器
しおりを挟む「あぁ、そうだ。先に言っておこう」
ドグラ国王が懐から取り出したのは、スイッチだった。手のひらに収まるサイズの筒状の本体に、先端には赤いボタンが付いている。一目でそのボタンを押すのだと分かる、シンプルなデザインのもの。
そしてそれが何のスイッチなのか、アルファたちには容易に理解できた。
「これは魔力無効化装置ナルタスのスイッチだ。既に気付いているだろうが、この城には全体を覆える数のナルタスが設置されている。それを起動するためのスイッチだ。ここが我々の本拠地で、兵団長たちが背後に控えているとはいえ、それでもまだ魔術師相手では万全の守りとはいえない。万が一そちらと戦いになった時に備え、用意させてもらった。構わんかね」
「承知の上です。約束しましょう、そのスイッチを押させないと」
アルファの言葉にドグラ国王は小さく笑みをこぼし、スイッチを卓上の手が届く位置に置いた。
「若いのに肝が据わっているのだな、魔術皇は。このスイッチを押されれば自分たちが嬲り殺しになるかもしれんと言うのに、良いのだな」
アルファが唐突に、左の手のひらを上に向ける。その手のひらから、青い炎がボッと現れ、小さく揺らめく。
その揺らめきが早いか、兵団長たち2人がテーブルへ身を乗り出して炎とドグラ国王の間に割って入り、ジャクスロム大臣は大慌てでテーブルの陰へ身を隠した。
しかし、ドグラ国王だけは椅子に座ったまま。卓上のスイッチに手を伸ばすこともなく、蒼炎の揺らめきを見つめていた。
「アルファ」
ベイツが恐る恐るといったように声をかける。まさかこの場で揉め事を起こすつもりではないだろう。そう分かってはいるが、場に満ちる緊張感は間違いなく本物だ。ラウンズもアルファを見つめ、いざとなればアルファを押さえつけようと身構えている。
皆の注目を一身に受けていたアルファは、炎の灯る手のひらを握り込むようにして閉じた。そしてパッと開かれた手のひらには、もう青い炎は無かった。
「皆さん、どうもすみませんでした」
微笑みながら手をテーブルの上に置いたアルファに、テーブルの陰から顔を覗かせたジャクスロム大臣が大きな声を上げた。
「どういうつもりなんだね、アルファ皇!ここを火の海にする気か!」
驚かされた事への怒りか、顔を真っ赤にしながら席に座り直すジャクスロム大臣。警戒を解き再び立ち位置に着いた王国兵団長たち二人も、兜の奥からアルファを怪訝な目で見つめていた。
アルファは彼らへ手を振り、言葉を連ねる。
「いや、本当に申し訳なかった。試すような事をしてしまって、すまなかった」
「試すだと?」
「ふふっ、魔術皇よ、そこまでにしてやってくれ。ジャクスロムは気が弱いんだ」
ドグラ国王が、噛み殺したように小さく笑った。
「それは申し訳なかった、ジャクスロム大臣。どうか許してください。私たち魔術師はこのように、いつでも人の命に手をかける事が出来てしまう。むしろ、ナルタスが無くしては安心して対等な話し合いができるとは思ってはいません。その事を伝えたかったのと同時に、私という人間を信じてくれているか、試してしまいました」
「私からしてみれば、まだ交渉の始まっていないこの段階で、魔術皇が我々を手にかける事は万が一にもあり得ないと分かりきっている話だ。はなから我々の殺害が目的ならば、城に入り込まず外から魔術の嵐で我々を葬ってしまえばいいのだからな。ゆえに、怯える必要も、ナルタスのスイッチを手に取る必要も無かったというわけだ」
「それを聞けて嬉しいです。皆さん、私の勝手で驚かせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
ドグラ国王の言葉は、実際のところアルファにとって嬉しいものだった。対等に交渉するという意思、こちらに対するある程度の信頼、それがドグラ国王にあったと知れたのだから。この場を罠だと思い警戒されているわけではないと分かったのは、アルファには大きな情報だった。
それと同時に、アルファはより気を引き締めた。
連合国との戦いに魔術師を動員し、勝利を収めるともう用済みだと魔術師を狩り始めた。ドグラ国王という男はそういう事ができる、自分の国の利益の為に利用できるものは利用し、必要なくなれば切り捨てる事が出来る男なのだ。
そういう残虐さを持つ男からの信頼の言葉は、なによりも警戒しなくてはならない。こちらに対してその残虐さを発露させないよう、努めなくてはいけない。
「水を差してしまいました。では、始めましょう」
互いの手札を少しだけ明かし、ついに話し合いが始まった。
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