魔術師と不死の男

井傘 歩

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新章–物語は終わらない–

ドグラ国王と仲間たち

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「どうぞ、中へ。ドグラ国王がお待ちです」

 廊下の突き当たりで広間への扉に立っていた兵士が、やって来たアルファ達を見て扉を開いた。

 重厚な扉がゆっくりと開いていき、その先に見えた広間は、王城の大きさに見合う豪華な作りだった。天井に吊るされたシャンデリアや、壁に飾られた剣や盾を模した飾り。それらに囲まれるようにして広間の中央に置かれているのは、優に10人ほどが並んで座れるほどに大きく四角い長方形のダイニングテーブルで、手前側に幾つかの椅子が置かれていた。

 そして、テーブルを挟んで向かい側の椅子に座り、何人かの仲間を連れてアルファ達を待っていたのは。

「ようこそ、ディアルド城へ。歓迎しよう、魔術皇アルファリウス」

「お初お目にかかります、ドグラ王」 

 ディアルド王国を統べ魔術師狩りを扇動していた、魔術師にとっての宿敵であり、これから言葉を交わす交渉相手でもある男。

 ディアルド王国の国王、ドグラ王だった。

 椅子から立ち上がった彼はディアルド王国の正装である赤と金の装飾が施されたローブを身に纏っており、頭には国の主人の証たる王冠を戴いていた。

 こちらを軽んじて軽装でやって来られるかとも考えていたが、取りあえず、真っ当な交渉が出来そうだ。
 
「本日は、話し合いの場を設けていただきありがとうございます」

「まぁ、座りたまえ。遠方から遥々はるばるここまでやって来てくれたのだ、疲れただろう」

「お言葉に甘えさせていただきます」

 ドグラ国王の言葉に従い、一列になって席へ着く。ドグラ国王と向かい合う、テーブルのちょうど真ん中の椅子にアルファ。その左隣にベイツが座り、右隣にはラウンズが座った。

「直接交渉に関わるのは、私たち3人です。それ以外の者は後ろに立たせていても良いですか?」

 アルファたち3人の後ろに、5人の魔術師が立ち並ぶ。彼らは城砦につどった魔術師の中でも腕に覚えのある者で、実戦の経験もある。それゆえに、今回は万が一戦いになった場合の戦力として連れて来ていたのだ。

 ドグラ国王は、此方の申し出を快く受けてくれた。

「あぁ、構わんよ。こちらも頼れる者を側に置いているのだからな」

 ドグラ国王の背後には二人の兵士が立っていた。こちらと同じく、護衛としてこの場に居るのだろう。

 二人のうち、こちらから見て右側の男が小さく会釈をする。広間までの道に並んでいた兵士や門番とは異なる、恐らく実戦用の分厚い鎧を着込んでおり、装着された兜の隙間から覗く眼差しは鋭く、歴戦の猛者を思わせた。

「そちらには、彼の事を知っている者も少なくないだろう。王国兵団長のレブルだ」

「えぇ、存じておりますよ」

 ドグラ国王の言葉に答えたのは、ラウンズだった。

「ついぞ戦いの場で相見える事こそ無かったが、仲間から評判を聞いています。うちの魔術皇が襲撃した時にもしもレブル兵団長が居たなら、アルドラド要塞は一晩で陥落しなかっただろう、なんてのもね」

「とんでもありません」

 レブルが兜の奥からくぐもった声で謙遜した。

「自分はただ、目の前の相手に全力を尽くしているだけです」

「確かな強さがありながら、それを鼻にかけないのも、レブル兵団長の美点だ。もう一人、レブル兵団長の隣に立たせているのが、王国兵団の副団長だ。彼も強いが、すぐ調子づく」 

 こちらから見て左側に立つ男もまた、小さく会釈をした。レブルと同じ様に着込まれたその鎧のせいで、彼の表情はうかがい知れなかった。

 そこで咳払いし皆の視線を集めたのは、ドグラ国王の右側に座る、ベイツの向かいに座る男だった。王と同じか、少し若いぐらいの年齢だろうか。

 ドグラ国王と似た服装をしているが、ローブではなくマントを羽織り、王冠は被っていない。王と比べると少し質素に見える出立いでたちのその男は、不満を露わにしたような早口で喋り始めた。

「ドグラ王、貴方の右腕である私を差し置いて先に団長たちを紹介するとは、どういう事ですかな!序列から考えれば、私が先でしょう!」

「おい、声を荒げるな。あぁ、彼は我が王国の大臣を務めているジャクスロムだ。普段から大事な決断の折にはジャクスロムにも相談をしている。今回の話し合いについても、私から同席を頼んだ」

「そうでしたか。よろしくお願いします、ジャクスロム大臣」

「えぇ、良い会議となるよう、互いに努めましょう、アルファ皇」

 アルファの言葉に、ジャクスロム大臣はようやく自分についての紹介が終わったことに満足したのか、先ほどの荒ぶりようからは想像できないほどに静かな口調で返答した。

 ドグラ国王側の紹介が終わったと見たアルファが、左隣のベイツの方を指し示す。

「こちらは、私の補佐を務めていただくベイツです。私と同じく皇家の血筋を引くもので、私の兄にあたる者です」

「よろしくお願いします」

 ベイツの言葉に、ドグラ国王たちが小さく会釈を返す。その様子を見ながら、反対側、右側に座っているラウンズを指し示す。

「こちらが、魔術師の中でも一際腕が立ち、王国兵団との交戦経験もある、ラウンズです」

「どうも」

「あぁ!君があの!」 

 大きな声を上げたのはジャクスロム大臣だった。

「戦地より帰って来た兵士たちから名前を聞いていたよ、とてつもなく強い魔術師が居ると!お目にかかれて光栄だ!」

「それはどうも」

 言葉少なにラウンズが答える。ふと彼の横顔を見ると、貼り付けられたようにピクリとも表情筋を動かさない、真顔だった。

 彼からすれば、目の前に居る大臣や兵団長たちは、実際に戦地で相対した者たちなのだ。直接命のやり取りをしてきた分、アルファやベイツに比べ、王国への憎しみが大きいのだろう。

 だが、それを必死に噛み殺そうとしている顔だ。怒りに身を任せてしまえば、話し合いどころではなくなるのだから。

 ラウンズの忍耐を無駄にしない為にも、この話し合いは必ず良い結果としなくてはならない。

「では、本題に入りましょうか」

 アルファの言葉に、ドグラ国王がうなずく。

「あぁ、互いの為にな」

 今後の魔術師の未来を左右する交渉が、ついに始まった。




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