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新章–物語は終わらない–
ディアルド王国
しおりを挟む魔術皇となったアルファは、最愛の友であり兄でもあるベイツと共に、ディアルド王国の主人であるドグラ国王の元を訪れていた。
全ては、王国が行っている魔術師狩りを終わらせ、王国と魔術師の共存を実現させるためだ。
そもそもの争いの発端は、ディアルド王国周辺の国々が結成した『連合軍』とディアルド王国との戦いに、王国が魔術師の協力を要請したことにある。
約100年前から国内に姿を現した魔術師は、魔術を持たない人々とも何不自由なく共生し、暮らしを共にしてきた。故に魔術師たちも、国を守るためにと王の要請に応え、連合軍と戦った。
圧倒的な魔術の力によりディアルド王国は劣勢だった戦況を押し返し始め、最後には連合軍の領土を奪う大勝利を収めた。魔術師の助力なくしてあり得ない勝利だったが、魔術師たちはそれを鼻にかけることはなく、再び穏やかな日常を送ろうとしていた。
しかし、そんな魔術師たちを待っていたのは、ドグラ国王が指揮する『魔術師狩り』であった。
魔術師の圧倒的な力を誰よりも目の当たりにしたドグラ国王は、その力が万が一にも自分へと向けられることを恐れ、戦いが終わり用済みとなった魔術師たちを捕え、殺し始めたのだ。
本来ならば並の王国兵団に魔術師が遅れをとることはないはずだが、戦争で得た潤沢な資源を基に開発された、魔力無効化装置『ナルタス』をはじめとする王国の科学技術により、魔術師たちは少しずつ数を減らしていくこととなった。
その現状を打開すべく、魔術師たちは新たな皇を求めた。王国に対する抑止力となる、強い皇を。
そうして白羽の矢が立ったのが、内に凄まじい魔力を眠らせながらも、魔術師ではなく普通の人間として育てられたアルファだった。そのアルファの兄であり皇位継承者だったベイツが、みずからの皇位継承権を捨ててアルファを魔術師として目覚めさせ、歴代最強の魔術皇へと育て上げた。
魔術皇として君臨したアルファは、以前は魔術師の根城だったアルドラド要塞を単独で、かつ一人の怪我人も出せずに制圧し自らの強さを王国へと示した。
自らの強さ、そして奪還したアルドラド要塞に集結した数百人の魔術師たち。それらを王国への抑止力として、ついにアルファたちは王国との対話のテーブルへと着くことができた。
魔術師狩りをやめさせ、再び魔術を持つ人間と魔術を持たない人間が共生できる世界を作る。
その為にアルファとベイツはここに来たのだ。
ディアルド王国最大の建造物にして、国王が根城とする宮殿。ディアルド城へと。
「魔術皇アルファ様とそのご一行でお間違いありませんか」
「あぁ。ドグラ国王と対話する為に来た。通してくれるよな」
ディアルド城の正門に辿り着いた一行は、城門の両脇を固める門番の一人に呼び止められ、足を止めた。城の第一の守りとなる門番に選ばれるほどの立場の人間が、今日対話のために魔術師が訪れることを知らないはずがない。
アルファにベイツ、ラウンズを含む魔術師一行は、十名にも満たない少人数だった。この城の守りを固めている数百人の兵士たちに比べれば、少なすぎるどころの話ではない。だが、それぞれが王国兵数十人を相手取れる強者だ。願わくはそうならない事を祈っているが、万が一戦いになっても問題がないよう努めていた。
門番は私たちの事をにこやかに迎えてくれた。ただし、念を押すように一言付け加えた。
「どうぞ、このまま真っ直ぐお進み頂ければ、ドグラ国王がお待ちになっている広間があります。ただ、私たちが武器と鎧で身を固める事をご了承いただけますか?なにぶん、皆様の空手と私たちの空手では、意味するものが違いますから」
門番が言っているのは、至極当然のことだ。手のひらから炎が飛び出る魔術師の丸腰と普通の人間の丸腰は、決して対等とは言えない。その事実への恐れもまた、ドグラ国王にとっては不都合で許しがたいものだったのだろう。
「もちろんだ。では、進ませていただく」
アルファを先頭に、ベイツ、ラウンズと縦一列に並んだ一行は城内へと足を踏み入れた。入り口の門が開かれると、幅が広く真っ直ぐ続いている廊下があり、その左右に等間隔で並ぶ兵士たちが居た。
兵士たちは重厚な鎧を身に着けており、生半可な魔法は意に介さないぐらいの防御力があると見受けられた。剣は腰に差されたままだが、争いとなればすぐさま引き抜けるだろう。
廊下を進んでいくと、廊下から枝分かれしていくつかの小部屋があるのが確認できた。
無論、小部屋に用はない。門番が言っていた通りに真っ直ぐ進んで、ドグラ国王の待つ広間へと向かう。下手に横道を行こうとすれば、立ち並ぶ兵士達に阻まれるだろう。
だが、こちらには警戒しなくてはならない物がある。
「どうだ、ラウンズ」
目線は正面から逸らさずに、兵士に聞こえるか聞こえないかギリギリの小声で、背後のラウンズへ問いかける。ラウンズも同じように正面を向き声量を絞って返事をした。
「チッ、流石にちゃんと用意されてるみたいだぜ。まだ起動はされてないが、いくつかの小部屋に、互いの効果範囲が重ならないよう均等にナルタスが設置されてる」
そう、魔力無効化装置ナルタス。
魔術師の魔術を封じる、ディアルド王国が作り上げた科学兵器だ。王国に対し戦いにおいて優位を保っていた魔術師たちは、この兵器が使用され始めて以来、油断を許されなくなった。ほんの一瞬で、自身が丸腰の獲物となる可能性があるからだ。
ここはドグラ国王が治めるディアルド王国最大の城。そこに魔術師がやってくると分かっていて、ドグラ国王がナルタスを用意しない訳はないと思っていた。
しかし、いざ本当にナルタスが配置されていると分かると、嫌でも脳裏を過ぎるのは、戦火。争いが起きてしまうのではないかという懸念。交渉のテーブルにつけると決まってから、それがずっと頭の中を巡っていた。
ドグラ国王がこの交渉を受けたのは、我々をここに招き入れて一網打尽にしようとしているからではないか?その疑念が、どうしても拭えない。
正直、俺だけならどうとでもなる。ナルタスが起動されれば俺も魔術が使えなくなるが、ベイツが王家の紋章を使って俺にかけた不死魔術は、通常の魔術よりも効果の強い紋章の力で俺に付与されている上に、既に効果が発揮されているため、打ち消されないらしい。俺一人なら、ナルタスを使われて戦いになってもなんとか逃げおおせるのだ。
だが、今の俺は一人じゃない。ナルタスが使われた上での戦いとなれば、ベイツやラウンズ、他の仲間たちの身も守らなければならないだろう。
今の俺にそれができるのか?力はあるが、実践経験が少ない俺に、いざという時適切な判断が出来るのか、ずっと不安だった。
「アルファ」
俺の名を呼んだのは、ベイツだった。
思わず振り向いてしまった俺を見て、ベイツは微笑む。
「大丈夫。きっと上手くいく」
その言葉が何にも裏付けられないものだと、俺は分かっていた。この先何が起こるのかは、誰にも分からないのだから。
だが、その言葉一つで。
「あぁ、そうだな」
ドグラ国王の待つ広間へと、力強く一歩踏み出せた。
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