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囚われてから何日目だろうか
はぁ、可愛げがないなぁ
しおりを挟む「おはよう、よく眠れたかい」
キィ、と、扉が音を立てながら開いた。
今日も奴の馬鹿みたいに明るい声色が、ひどく俺の頭を苛つかせる。敵意を剥き出しにして、言葉を荒げる。
「まともに眠れると思うか。鎖と手錠で天井から吊り下げられた、こんな状況で」
「でも、僕の魔術のお陰で、君は疲れることを知らない身体となった。だから、別段問題はないだろう」
「静まり返った地下室に毎日毎日身動き一つ取れずに吊り下げられてみろ。いくら疲れないって言っても、心が病む」
「君に限って、そんな事はあり得ないだろう。並の人間なら、自らの家族や友人を皆殺しにした相手に寵愛を宣告された段階で、舌を噛み切って自殺を試みるがね」
「俺を半不死の身体にしたのは?」
「紛れもない僕だね。はい、どうぞ」
差し出された水を、大人しく飲む。乾いた喉が、にわかに潤っていき、半不死で疲労を知らぬ身体に染み込んでゆく。
屈辱だ。皆を殺したコイツに、俺だけが生かされている。無論、半不死だから形だけなのだが、それでも、死ねるものならとうに死んでいる程の辱めだ。
「でも、君は生きるんだよ、僕の為に」
次いで、一口サイズに千切られたパンを放り込まれる。食べる必要が無いとはいえ、食べ物を咀嚼し飲み込む事は幾分か気を楽にしてくれた。
パンを飲み込むと、次のパンが。それを飲み込むと、また次のパンが。コイツは次から次へと、あくまで俺が噎せたりしない様に放り込んでくる。
勿論、俺は食べ終わるまで一言も言葉を発する事が出来ず、その間はコイツの一方的な話を聞くことになる。
「いやぁ、今日は何をしようかな。昨日から、また新しく魔術の研究を始めたんだけど、結構行き詰まっててね。息抜きに街に買い物に出掛けてこようかと思うんだよ。何か、食べたい物はあるかい?お金の心配はしなくていいからね。君を来世まで養えるぐらいはあるからね」
「魔術も中々難しいんだよ。君の身体を半不死に維持し続けている不死之魔術は一定量の魔力を持続的に君の肉体に注ぎ込まなきゃ解けてしまうんだよ。僕はこう見えてそんなに優秀な魔術師じゃないからねぇ。魔力量はそこそこあるけれど、繊細な魔力のコントロールは苦手なのさ」
「外は物騒だよね。昨日もまた、僕の知り合いの魔術師が殺されたよ。王国の科学技術は恐ろしいね。僕たちの魔術を無効化する装置を開発したとか。何が『悪魔狩り』だ。先の大戦じゃあ僕たちの力を軍事力に転用したり、直接魔術師を前線に送り込んで敵を丸焼きにさせたりしてたのに。戦争に勝って豊富な資源が手に入ったら、掌返しで僕らの事を殺しにかかるなんて。これじゃあ、どちらが悪魔じゃ分かったもんじゃないよね」
「お前も早く殺されれば良いのにな」
最後の一欠片を飲み込み、代わりに吐き出した言葉は、どうやらコイツの心にダメージを負わせるには到底足りなかったようで。
「はぁ、可愛げがないなぁ」
呆れたような顔と人をペット扱いしているとしか思えない様な言葉を残して地下室を後にした。
また、がらんどうな空間に一人。天井から吊り下げられて虚空を見つめる。
「絶対に、許さねぇ……」
何度同じ言葉を繰り返しているのかさえ、最早今の俺には分からなくなっていた。
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