魔術師と不死の男

井傘 歩

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囚われてから何日目だろうか

甘いものはお好きかい

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 身動き一つ取れず時計もない。ましてや外の光など入ってくるはずも無い地下室にずっと閉じ込められているせいか、気が付くと意識を宙に放っているというか、なんというか。

 目の前に奴が居ることに、声を掛けられるまで気付くことすら出来なかった。

「やぁ、元気かい?」

「元気に見えるか」

「生態学上は非常に健康的だと思うよ。精神面に関しては僕の魔術じゃどうにもならないからねぇ。お望みとあらば、中毒性が軽目の薬物でもどうだい?あぁ、向精神薬がご所望かな?」

「御託は良いから、何の用だ。まだ晩飯には早いだろ」

「なに、3時のおやつでも、と思ってね」

「おやつだと?」

「甘いものはお好きかい?」

 そう言いながら奴が宙に手を翳すと、その掌に突如として小瓶が現れた。奴の掌にスッポリと収まる程の大きさで、中には黄金色の液体が入っている。

 当然の様に使役された空間魔術スペースに今更驚く筈も無く、小瓶を問う。

「何なんだ、それは」

「綺麗な黄金色だろう?私の髪の毛をイメージしたんだよ。見た目って大切だからね」

「何なんだって聞いてるんだよ。まさかまた、変な薬の類じゃないよな」

「あ、バレた」

「おい」

「大丈夫だよ、殺しはしないから」

「お前ッ」

 糾弾の言葉を紡ごうとした次の瞬間、奴の右手がヒラリと閃いて、俺の左手の爪を纏めて剥ぎ取った。

「ーーーーッッッ!!!」

 焼ける様な灼熱の痛みが指先にへばりつく。

 耐え難い苦痛に咆哮を強制させられそうになるも、血が滲む程唇を噛み締めて、押し殺す。

 涙滲む視界の向こうで、奴が微笑む。

「お前ッッ、何、すんだァ!?」

 油断すれば言葉を滲ませてしまうほどの嗚咽を堪えながら、必死で咆える。痛みなんかに負けてはいられない。

 俺の指先からポタポタと零れ落ちゆく血液が足元に真っ赤な楕円を形成した。足先に触れる滑りに怒りを煽られる。

 そんな俺に見せつけるようにゆったりとした動きで、奴は俺から剥ぎ取った5つの爪を小瓶に入れ軽く振った。
 
 黄金色に浸された爪が鈍く光を放つ。

「嗚呼、やっぱり成功だよ、おめでとう」

 明るい笑顔で意味の分からぬ祝福を投げ掛ける奴を僅かな意地で睨み付けるも、奴が臆する筈も無く、むしろ俺の反骨心に心を踊らせる。

「もう少し君のご尊顔を見つめていたいけれど、痛むだろう、その手。幾ら半不死の君とはいえ、痛みは感じるだろうからね」

 ご機嫌そうに奴は俺に歩み寄り、身じろぎ抵抗する俺の頭を抱き抱えて額にチゥとキスを落とした。

 男のクセにやけに柔らかい唇が無造作に押し付けられ、その感触に途方も無い嫌悪感と屈辱を余儀なくされる。

「やめろォ!」

 左手の痛みと不快感でごちゃ混ぜの心を奮わせて眼前の男に吼えた次の瞬間、事切れた様に俺は意識を失ってしまった。

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