牛丼を頼もうとしたら、殺し屋になってしまった件

白猫暗

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1話 牛丼を頼んだだけなのに。

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 俺、ひいらぎ和樹かずきはいたって普通の大学生だ。好きな食べ物は牛丼。
よくあるチェーン店でいつも同じ頼み方で食べている。
 今日はいつもよりバイトが遅くなったので、家から少し離れた店舗に来ている。
 家の近くの店舗は日曜日の深夜だけは閉店しているのだ。

 とは言え、都心から少し離れた郊外で、深夜の1時を過ぎてから、牛丼屋に立ち寄る人間も多くはない。
 近隣の店舗が閉店しているからと言って、こっちの店舗が混む、ということはないようだ。深夜ということもあって、店員もレジに一人、金髪の女性がいるだけで、他に人の気配はない。


「店内でお召し上がりですか?」
「テイクアウトで」
「畏まりました。ご注文をどうぞ」
「牛丼特盛つゆ抜きで」
「ご注文は以上でしょうか?」
「おんたまを2個付けてください」
「畏まりました。少々、お待ちください」


 店員は裏に戻り、しばらくすると、戻ってきた。手に牛丼は持っていない。一体、何をしに戻ったんだ。

「それでは、ご案内します」


 ご案内します? 聞き間違いだろうか? テイクアウトで、と頼んだはずなのだが。彼女は間違いなくご案内しますと言って、俺に何かを手渡した。俺が受け取ってしまったそれは、真っ黒で小さな箱だった。
 
 そして、急に目の前が真っ暗になった。体が動かない。その時間がしばらく続いた。そして、次に俺の目に光が飛び込んできた時、そこは牛丼屋ではなかった。薄暗い飲み屋、いわゆるバー、というやつだ。この場所には見覚えはない。

 客は何人かいるが、全員が1人で飲んでいる客であり、とても静かだ。カウンター越しにいるバーテンダーの男のグラスを拭く音が時折響くくらいしか、音はなかった。


「あの、ここは……?」
「何をおっしゃっているのか、ここは殺し屋の認定試験会場ですよ」
「認定試験会場? 殺し屋の?」
「とぼけた顔をしても無駄ですよ。資格ある者にしか、ここを訪れることは出来ませんから。それに、試験は既に始まっています」



 もしかして、ここにいる客、むしろこのバーテンダーさえも、殺し屋ってことか? いや、これがその認定試験であるならば、ここにいる客はまだ殺し屋じゃないのかもしれない。でも、人を殺すことに躊躇しない人間ってことには変わらない。しかし、殺人鬼ではなく、殺し屋だ。
 漫画知識ではあるが、殺し屋は無用な殺しはしないはず。殺すべき相手を殺す。それが認定試験であるならば、殺すべき相手ではない場合、殺さないはずだ。


「お前みたいなガキが入れちまうとは、世も末だな……」


 ドスの聞いた低い声。カウンターに座っていた男が口を開いた。顔に傷を負い、その見た目はどこからどう見ても、堅気ではない。
 目を付けられてしまった。殺し屋の殺しの対象は、何も依頼されたターゲットだけではないだろう。
 現場で遭遇した同業者。それらも対象になるのではないか。つまり、ここでいえば、同じ試験を受ける人間は……。僕は死を覚悟していた。



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