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第13話 二つの食材
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パチパチ、バキッ、パチ、パチ……
焚き火を囲みながら、俺とお姫様が向かい合うような形で座っていた。
パチパチと音を立て、時折夜空へ向かって舞っていく火の粉を見つめながら、お姫様が呟いた。
「ふむ、野外での焚き火などという行為自体、初めての経験だったが……。これはこれで中々癖になりそうだな……。暖炉とはまた違って、こういうのも中々趣があっていいものだな……。そうは思わないか、勇者殿?」
「あ? こちとらは焚き火、火事、放火なんてもんはとうに見飽きてんだよ。今更珍しくもねーんだよ。いちいちそんなもんに感動なんかしてられっかっての」
「ふむ、そういうものなのか? それは少し、勿体無い気もするがな……」
ったく、ガキみてーに浮かれやがって……。相も変わらず頭の中がお花畑なお姫様だぜ。
こんな場所で焚き火をすることがどんだけヤバイかってことに全く気付いてねーんだからな……。
そんな感想を抱いていたところへ、
「無駄ですよ、カーネリア様と違い、平民なぞにはそういったものに美を感じるような繊細な心など最初から持ち合わせていないのでしょうから。特にこの男に関していうなら、知性だの教養といったものからはかけ離れた所にいる存在でしょからね……」
と、俺たちの会話に、さっきまで少し離れたところで周囲を警戒していた筈のバカ貴族が割って入ってきやがるも、すかさず、
「うっせーな、デッケーお世話だっ! てか、テメーは会話に入り込んでくるんじゃねーよ! くっちゃべってねーでちゃんと見張りにだけ集中してろってんだっ。よそ見なんぞこいて尻を魔物に嚙み千切られても知らねーぞ? 尤もテメーのへっぽこスキルなんかじゃあ、例え不意を突かれなかったとしてもあっという間に喰い殺されちまうのがオチだろうけどな♪」
「な――何だと貴様っ⁉ 知りもしないくせに、わ、私のスキルが一体どうだというんだっ⁉」
相変わらずの瞬間湯沸かし器っぷりを発揮するバカ貴族はこの際置いとくとして、俺やバカ貴族のそんなやり取りを黙って聞いていたお姫様が何やらぶつぶつ呟き始めたかと思えば、
「そうだ……。スキル、スキルだ……」
「か、カーネリア様……?」
「なぁ、勇者殿? アレはやはり何某かのスキルによるものなのか?」
「ハァ? 何のこった?」
「初めて勇者殿と酒場で相まみえた時のことだ。――あの時、勇者殿はフェルナードの渾身の一撃をあっさりと片手で受け止めてみせた……」
「……ああ、あの時の話か……」
お姫様の言葉を受け、ふとバカ貴族へと視線を向けてみる。
「――‼ な、何だ、な、何を見ているんだっ……⁉」
一応お姫様の手前必死に強がってみちゃいるものの、瞳の奥底にはあの時俺によって植え付けられた恐怖ってヤツが、そのまま怯えにも似た色となって映し出されていた……。
バカ貴族のそんな姿を見ているうちに、俺の脳内にあの時の映像が鮮明に甦ってきて……。
「――ぷっ、くくく、ア~~ハハハハハハハハハハハッ♪ いやぁ~、それにしても、今思い出しても最高に笑えるぜ♪ あんだけエラソーなこと言っておいて、まさか大ジョッキの一発で失神しちまうなんて……。どんだけよえーんだよって話だろ? よえーにも程があるつーのっ♪」
「ぐっ、き、貴様ぁっ‼」
そんな風にバカ貴族を物笑いのネタにしている間も、お姫様に至ってはそりゃあもうクソ真面目な表情でもって俺に問いかけてきて。
「――あの時、私の見る限り、勇者殿はこれといってアイテムを使用しているような節もなかったしな……。だとすれば、後考えられるのは身体強化系に特化したスキルの類しか思いつかないのだが……?」
果たして自分の考えは正しかったのか? 確認の意味も踏まえ、お姫様が俺の目をジィッと見つめてくる。
そんなお姫様に疑問に対し、俺が出した答えはというと、
「ああ、確かにな。別にアイテムなんか使っちゃいねーし、スキルについちゃあ……。ああ、スキルっていやぁ、どっかのバカ貴族も剣にくっだらねースキル噛ましてやがったっけなぁ?」
「――⁉」
「なっ⁉ き、貴様、き、気付いていたのか?」
「あったりめーだろ、あんなもん一目見りゃあ分かるに決まってんだろ」
この俺の発言に、度肝を抜かれたようにすっかり固まっちまうお二人さん。
ま、それも当然かもな。スキルってのは基本的に使用してる術者以外には感知できないってのが世間一般の常識ってヤツだからな。
尤も、ただ単に俺が世間の常識なんてもんじゃ測れねー器の持ち主ってだけなんだけどな♪
とまぁ、未だ茫然としている二人を余所に、俺はというと、
「にしても……。スキル、スキルねぇ~……。くくく、ハハハハハハ♪」
「ゆ、勇者殿?」
「き、貴様、な、何を笑っているんだ?」
俺の態度に明らかに困惑した表情を見せる奴らに対し、
「いやいや、済まん済まん……。だがよぉ~、コレが笑わずにいられるかってんだ♪ へっ、そもそもスキルなんて不確定なもんに頼ってっから、テメーらはいつまで経ってもよえー儘なんだよ……」
「な、何だとっ……⁉」
「ゆ、勇者殿? ソレは一体、どういう?」
俺のこの発言を受け、お姫様はもとより、バカ貴族までもが興味津々といった感じでもって体を前のめりに耳を傾けてくるも、
「(グルルッ‼)」
「――‼ ……残念、お喋りもここまでみてーだな……。思いのほか待たされたが、ようやっと今日の晩飯がご到着したみてーだしな……」
「何? ……ああ、さっき話していた食材を届けに来てくれるという勇者殿の知り合いのことか……。しかし、一体どこに……――ッ⁉」
そこまで言いかけて周囲にそっと目を向けた瞬間、お姫様の表情が強張ると同時に凍り付いたように動かなくなっちまった。
「? ど、どうされましたか、カーネリア様? い、一体、何事が……――⁉」
くくく、食材なんていう意味深なセリフの裏に隠された本当の意味に、鈍いこいつ等もようやっと気付くも、時すでに遅しといったところか。
「「「ガルルルルッ……‼」」」
そんな唸り声に周囲を見渡せば――。密林のど真ん中、焚き火をしている俺たちをぐるりと取り囲むように魔物の大群、数にして100は下らない魔物の群れが今か今かとコチラの様子を窺っていて……。
「――ば、バカな……。周囲は警戒していた筈なのに……。い、いつの間にこんな……⁉」
「いつの間にも何も……。現にこんだけの魔物が集まってきちまってるじゃねーか。にしても、こんだけの数の魔物の接近にも気が付かねーってんだから、テメーの索敵能力ってのが如何に笊かってのがこれで証明されたってこったな♪」
「くっ、ぬぅっ……!」
俺のそんな指摘に対し、何時ものように喚き散らすでもなければ只々唇をギュッと噛みしめ、俯いてしまうバカ貴族。
へ、流石に返す言葉もございませんってか? ま、テメーのミスでこうなったんだからそれも当然だがな。
……にしても、
「おーおー、こりゃあまたスゲー数集まっちまったもんだなぁ……。いくら腹ペコとはいえ、この量は流石に食いきれねーな♪」
「そ、そんな悠長なことを言ってる場合かっ⁉ だ――だが、どうしてこんな数の魔物が集まってきたんだ?」
「なぁ~に言ってやがんでぇ、あんだけデケー声で喚いてりゃあ当然だろーが? ようするにこいつらはテメーのバカでかい声に引き寄せられてきたに決まってんじゃねーかよ。ったく、本来お姫様を護るべきはずの騎士様が、自らの浅はかさでそのお姫様を危険に晒してるってんだから全く大した騎士様だぜ、オメーもよ」
「ぐぬぬぬっ、お、おのれっ! さ、さっきから、い、言わせておけば……‼」
「フェルナード、言い争いをしている場合ではないぞっ‼ 今は一分一秒たりとて無駄には出来ぬっ‼ この場をどうすれば切り抜けられるのか、今はそのことにだけ意識を向けていけっ‼」
「――⁉ ――ハッ‼ も、申し訳ありませんでしたっ、か、カーネリア様っ‼」
自らの失態と俺の嫌みな物言いに、又してもいつも通りブチギレ、自分を見失いかけたかに見えたバカ貴族をお姫様の一喝が救った。
チッ、余計な真似しやがって……。
そんなことを思う一方で、そのお姫様へと視線を向けてみるも、
「………………ッ‼」
こちらはこちらで、見た目こそ普段通り冷静に振舞っているつもりのお姫様だったが、その実、その赤尖晶の瞳はさっきまでとは比べ物にならない程に暗い陰りを見せ、そこから焦りの色が色濃く滲みだしてやがるのがハッキリと見て取れた。
へ、流石のお姫様も今回ばかりは打つ手なしってところかい。
ま、無理もねーわな。こいつらからしたら未だかつて経験したことのないであろう数の魔物の群れに囲まれちまってるわけだしな……。
そんな絶望に打ちひしがれる奴らの姿についつい笑いが込み上げてくるも、そこはキッチリ決めていく。
「ケッ、揃いも揃ってバカばっかりだな……。どうするもこうするも答えは一つしかねーだろうが」
そんなことを呟きつつも、俺は剣をスラッと抜き去ると同時に魔物に向かって構えていく。
「ゆ、勇者どの……? ほ、本気なのか?」
「し、正気か、貴様っ⁉ に、逃げるのではなく、こ、この数を相手に、戦うつもりかっ⁉」
嘘、信じられない……⁉ とばかりにお姫様までもが俺の真意を測りかねている中、俺は割れんばかりの大声でもって二人に向けて叫んだっ‼
「オラッ‼ いつまでもボケッとしてねーで、テメーらも俺の背中越しに剣を構えろいってんだっ‼」
「「――‼」」
そんな俺の迫力に圧され、間抜け面でコチラを見つめていた奴らが――。バカ貴族までもが今回ばかりは素直に従っていった。
「「――ッ!」」
と、こうして三位一体、互いの背中を護るような格好でもって三人が三人、各々に剣を構えていく。
「いいか、よぉ~~く聞け、テメーらっ‼ ともかく何があろうとテメーの目の前にだけ集中しろっ‼ 死んでもいいから絶対に突破されんじゃねーぞ‼ 特にバカ貴族っ! テメーは気合入れてやれよっ⁉ いくらビビっても今度ばっかりはションベン漏らしたりすんじゃねーぞっ‼」
「う、うるさい、うるさいっ‼ そ、それと、わ、私に命令をするなっ‼」
「へ、上等……! すぅ~~~~~っ……‼ ――ヨッシャァアアアアアアアッ‼ いっくぞ、テメーらぁああああああああっ‼ 魔物どもぉおおおおっ、かかってこいやぁああああああああっ‼」
「――心得たっ‼」
「くっ、え、えぇ~~~い、もう、どうにでもなれっ‼ やってやるっ‼」
そんな俺の掛け声を合図とばかりに、魔物の群れが俺たち三人に向かって一斉に襲い掛かってきた。
こうして月の女神が見守る中、百は下らない魔物たちとの互いの命を懸けた殺し合いの幕が切って落とされた――。
焚き火を囲みながら、俺とお姫様が向かい合うような形で座っていた。
パチパチと音を立て、時折夜空へ向かって舞っていく火の粉を見つめながら、お姫様が呟いた。
「ふむ、野外での焚き火などという行為自体、初めての経験だったが……。これはこれで中々癖になりそうだな……。暖炉とはまた違って、こういうのも中々趣があっていいものだな……。そうは思わないか、勇者殿?」
「あ? こちとらは焚き火、火事、放火なんてもんはとうに見飽きてんだよ。今更珍しくもねーんだよ。いちいちそんなもんに感動なんかしてられっかっての」
「ふむ、そういうものなのか? それは少し、勿体無い気もするがな……」
ったく、ガキみてーに浮かれやがって……。相も変わらず頭の中がお花畑なお姫様だぜ。
こんな場所で焚き火をすることがどんだけヤバイかってことに全く気付いてねーんだからな……。
そんな感想を抱いていたところへ、
「無駄ですよ、カーネリア様と違い、平民なぞにはそういったものに美を感じるような繊細な心など最初から持ち合わせていないのでしょうから。特にこの男に関していうなら、知性だの教養といったものからはかけ離れた所にいる存在でしょからね……」
と、俺たちの会話に、さっきまで少し離れたところで周囲を警戒していた筈のバカ貴族が割って入ってきやがるも、すかさず、
「うっせーな、デッケーお世話だっ! てか、テメーは会話に入り込んでくるんじゃねーよ! くっちゃべってねーでちゃんと見張りにだけ集中してろってんだっ。よそ見なんぞこいて尻を魔物に嚙み千切られても知らねーぞ? 尤もテメーのへっぽこスキルなんかじゃあ、例え不意を突かれなかったとしてもあっという間に喰い殺されちまうのがオチだろうけどな♪」
「な――何だと貴様っ⁉ 知りもしないくせに、わ、私のスキルが一体どうだというんだっ⁉」
相変わらずの瞬間湯沸かし器っぷりを発揮するバカ貴族はこの際置いとくとして、俺やバカ貴族のそんなやり取りを黙って聞いていたお姫様が何やらぶつぶつ呟き始めたかと思えば、
「そうだ……。スキル、スキルだ……」
「か、カーネリア様……?」
「なぁ、勇者殿? アレはやはり何某かのスキルによるものなのか?」
「ハァ? 何のこった?」
「初めて勇者殿と酒場で相まみえた時のことだ。――あの時、勇者殿はフェルナードの渾身の一撃をあっさりと片手で受け止めてみせた……」
「……ああ、あの時の話か……」
お姫様の言葉を受け、ふとバカ貴族へと視線を向けてみる。
「――‼ な、何だ、な、何を見ているんだっ……⁉」
一応お姫様の手前必死に強がってみちゃいるものの、瞳の奥底にはあの時俺によって植え付けられた恐怖ってヤツが、そのまま怯えにも似た色となって映し出されていた……。
バカ貴族のそんな姿を見ているうちに、俺の脳内にあの時の映像が鮮明に甦ってきて……。
「――ぷっ、くくく、ア~~ハハハハハハハハハハハッ♪ いやぁ~、それにしても、今思い出しても最高に笑えるぜ♪ あんだけエラソーなこと言っておいて、まさか大ジョッキの一発で失神しちまうなんて……。どんだけよえーんだよって話だろ? よえーにも程があるつーのっ♪」
「ぐっ、き、貴様ぁっ‼」
そんな風にバカ貴族を物笑いのネタにしている間も、お姫様に至ってはそりゃあもうクソ真面目な表情でもって俺に問いかけてきて。
「――あの時、私の見る限り、勇者殿はこれといってアイテムを使用しているような節もなかったしな……。だとすれば、後考えられるのは身体強化系に特化したスキルの類しか思いつかないのだが……?」
果たして自分の考えは正しかったのか? 確認の意味も踏まえ、お姫様が俺の目をジィッと見つめてくる。
そんなお姫様に疑問に対し、俺が出した答えはというと、
「ああ、確かにな。別にアイテムなんか使っちゃいねーし、スキルについちゃあ……。ああ、スキルっていやぁ、どっかのバカ貴族も剣にくっだらねースキル噛ましてやがったっけなぁ?」
「――⁉」
「なっ⁉ き、貴様、き、気付いていたのか?」
「あったりめーだろ、あんなもん一目見りゃあ分かるに決まってんだろ」
この俺の発言に、度肝を抜かれたようにすっかり固まっちまうお二人さん。
ま、それも当然かもな。スキルってのは基本的に使用してる術者以外には感知できないってのが世間一般の常識ってヤツだからな。
尤も、ただ単に俺が世間の常識なんてもんじゃ測れねー器の持ち主ってだけなんだけどな♪
とまぁ、未だ茫然としている二人を余所に、俺はというと、
「にしても……。スキル、スキルねぇ~……。くくく、ハハハハハハ♪」
「ゆ、勇者殿?」
「き、貴様、な、何を笑っているんだ?」
俺の態度に明らかに困惑した表情を見せる奴らに対し、
「いやいや、済まん済まん……。だがよぉ~、コレが笑わずにいられるかってんだ♪ へっ、そもそもスキルなんて不確定なもんに頼ってっから、テメーらはいつまで経ってもよえー儘なんだよ……」
「な、何だとっ……⁉」
「ゆ、勇者殿? ソレは一体、どういう?」
俺のこの発言を受け、お姫様はもとより、バカ貴族までもが興味津々といった感じでもって体を前のめりに耳を傾けてくるも、
「(グルルッ‼)」
「――‼ ……残念、お喋りもここまでみてーだな……。思いのほか待たされたが、ようやっと今日の晩飯がご到着したみてーだしな……」
「何? ……ああ、さっき話していた食材を届けに来てくれるという勇者殿の知り合いのことか……。しかし、一体どこに……――ッ⁉」
そこまで言いかけて周囲にそっと目を向けた瞬間、お姫様の表情が強張ると同時に凍り付いたように動かなくなっちまった。
「? ど、どうされましたか、カーネリア様? い、一体、何事が……――⁉」
くくく、食材なんていう意味深なセリフの裏に隠された本当の意味に、鈍いこいつ等もようやっと気付くも、時すでに遅しといったところか。
「「「ガルルルルッ……‼」」」
そんな唸り声に周囲を見渡せば――。密林のど真ん中、焚き火をしている俺たちをぐるりと取り囲むように魔物の大群、数にして100は下らない魔物の群れが今か今かとコチラの様子を窺っていて……。
「――ば、バカな……。周囲は警戒していた筈なのに……。い、いつの間にこんな……⁉」
「いつの間にも何も……。現にこんだけの魔物が集まってきちまってるじゃねーか。にしても、こんだけの数の魔物の接近にも気が付かねーってんだから、テメーの索敵能力ってのが如何に笊かってのがこれで証明されたってこったな♪」
「くっ、ぬぅっ……!」
俺のそんな指摘に対し、何時ものように喚き散らすでもなければ只々唇をギュッと噛みしめ、俯いてしまうバカ貴族。
へ、流石に返す言葉もございませんってか? ま、テメーのミスでこうなったんだからそれも当然だがな。
……にしても、
「おーおー、こりゃあまたスゲー数集まっちまったもんだなぁ……。いくら腹ペコとはいえ、この量は流石に食いきれねーな♪」
「そ、そんな悠長なことを言ってる場合かっ⁉ だ――だが、どうしてこんな数の魔物が集まってきたんだ?」
「なぁ~に言ってやがんでぇ、あんだけデケー声で喚いてりゃあ当然だろーが? ようするにこいつらはテメーのバカでかい声に引き寄せられてきたに決まってんじゃねーかよ。ったく、本来お姫様を護るべきはずの騎士様が、自らの浅はかさでそのお姫様を危険に晒してるってんだから全く大した騎士様だぜ、オメーもよ」
「ぐぬぬぬっ、お、おのれっ! さ、さっきから、い、言わせておけば……‼」
「フェルナード、言い争いをしている場合ではないぞっ‼ 今は一分一秒たりとて無駄には出来ぬっ‼ この場をどうすれば切り抜けられるのか、今はそのことにだけ意識を向けていけっ‼」
「――⁉ ――ハッ‼ も、申し訳ありませんでしたっ、か、カーネリア様っ‼」
自らの失態と俺の嫌みな物言いに、又してもいつも通りブチギレ、自分を見失いかけたかに見えたバカ貴族をお姫様の一喝が救った。
チッ、余計な真似しやがって……。
そんなことを思う一方で、そのお姫様へと視線を向けてみるも、
「………………ッ‼」
こちらはこちらで、見た目こそ普段通り冷静に振舞っているつもりのお姫様だったが、その実、その赤尖晶の瞳はさっきまでとは比べ物にならない程に暗い陰りを見せ、そこから焦りの色が色濃く滲みだしてやがるのがハッキリと見て取れた。
へ、流石のお姫様も今回ばかりは打つ手なしってところかい。
ま、無理もねーわな。こいつらからしたら未だかつて経験したことのないであろう数の魔物の群れに囲まれちまってるわけだしな……。
そんな絶望に打ちひしがれる奴らの姿についつい笑いが込み上げてくるも、そこはキッチリ決めていく。
「ケッ、揃いも揃ってバカばっかりだな……。どうするもこうするも答えは一つしかねーだろうが」
そんなことを呟きつつも、俺は剣をスラッと抜き去ると同時に魔物に向かって構えていく。
「ゆ、勇者どの……? ほ、本気なのか?」
「し、正気か、貴様っ⁉ に、逃げるのではなく、こ、この数を相手に、戦うつもりかっ⁉」
嘘、信じられない……⁉ とばかりにお姫様までもが俺の真意を測りかねている中、俺は割れんばかりの大声でもって二人に向けて叫んだっ‼
「オラッ‼ いつまでもボケッとしてねーで、テメーらも俺の背中越しに剣を構えろいってんだっ‼」
「「――‼」」
そんな俺の迫力に圧され、間抜け面でコチラを見つめていた奴らが――。バカ貴族までもが今回ばかりは素直に従っていった。
「「――ッ!」」
と、こうして三位一体、互いの背中を護るような格好でもって三人が三人、各々に剣を構えていく。
「いいか、よぉ~~く聞け、テメーらっ‼ ともかく何があろうとテメーの目の前にだけ集中しろっ‼ 死んでもいいから絶対に突破されんじゃねーぞ‼ 特にバカ貴族っ! テメーは気合入れてやれよっ⁉ いくらビビっても今度ばっかりはションベン漏らしたりすんじゃねーぞっ‼」
「う、うるさい、うるさいっ‼ そ、それと、わ、私に命令をするなっ‼」
「へ、上等……! すぅ~~~~~っ……‼ ――ヨッシャァアアアアアアアッ‼ いっくぞ、テメーらぁああああああああっ‼ 魔物どもぉおおおおっ、かかってこいやぁああああああああっ‼」
「――心得たっ‼」
「くっ、え、えぇ~~~い、もう、どうにでもなれっ‼ やってやるっ‼」
そんな俺の掛け声を合図とばかりに、魔物の群れが俺たち三人に向かって一斉に襲い掛かってきた。
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