この勇者は世界を救いません

猫男爵

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第20話 くっせーわ

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「あ――兄上が、こ、殺されたっ⁉ あ、あの兄上がっ……?」
「ひぃいいいいいっ、あ、あんなに、ち、血がっ……‼ ヒギャァアアアアッ!?」 

 使用人たち同様、目の前で兄弟が殺される様を直に見たことによってすっかりパニックに陥るオッサン豚くんたち……。
 特に四男くんに至っては腰を抜かし床にへたり込んでしまった挙句、ションベンまでも漏らしてやがらぁ……。
 ケッ、この姿……。さっきまでエラソーに踏ん反り返ってたヤツラと同一人物とはとても思えんな……。

 兎にも角にも、誰もが予想だにしていなかった不運な事故(?)によって、最早収拾がつかないレベルにどいつもこいつもが平静さを失い、すっかり慌てふためく中、それでも事態を収束させるべくこの俺自ら声をかけていくも、

「おい、オメーら。ひとまず落ち着けって! これじゃあ真面に話も出来ねーだろうがよ……」

 そう言ってとりあえず使用人たちだけでも落ち着かせるべく、あくまでも優しく優しく、それこそ子供《ガキ》をさらう誘拐犯さながら声をかけていくも、

「「「へ? ……き――キャァアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」
「ッ~~~~~~⁉」

 耳をつんざかんばかりの悲鳴に顔をしかめていく。
 あ~~~うっせぇっ……‼ 耳がキーンとしたわっ……!
 とまぁ、どいつもこいつも俺の顔を見た瞬間、コレである。
 コッチはただ話をしようとしただけだっつーのによぉ~……。  
 ったく、人の顔を見た途端、叫び声なんぞ上げやがって……。俺は殺人鬼か何かかってんだ? ……って、あ、そうか、たった今殺したばっかだっけか?

 そんな中で、唯一、真面に話が通じたのが、

「が、ガーネットさんっ⁉ よ、よりにもよって、あ、アナタ、い、一体、な、何てことをっ……⁉」
「おう、兄ちゃんか……。いやな、だから何遍なんべんも言ってっけど、わざとじゃねーのよ、ホント……。アレはあくまでも事故なんだって……。あまりの臭さについ……」

 兄ちゃんまでもが非難するかのような視線を俺に向ける中、

「お――おのれぇっ、き、貴様っ、よ、よくも兄上をっ‼」
「あん?」

 そんな声に振り返ってみたところ、そこには今しがたまでパニクっていた三男くんの姿があった――。

「ブホォ~、ブホォ~……!」

 荒い呼吸とともに、その有り余った脂肪をブルブルと恐怖に震わせながらも、気丈にもコチラを睨みつけてやがらぁ……。
 この姿、一見、兄貴を殺されたことに激怒してるように見えるが、実際はそうじゃねー……。
 俺が思うにコレはある種のパフォーマンス――。
 コイツを突き動かしているのは兄弟が殺されたことに対する怒り云々ではなく、あくまでも次期当主争奪戦のポイント稼ぎってところだろうな……。
 さっきの一件で兄ちゃんに大きく水をあけられた感があったからな……。
 コイツとしても、ここいらで少しでも当主らしさをアピールしておきたいってところか。
 え? 何でそんなことが分かるのかって? そりゃあ、オメー……。長年そういったクズどもと渡り合ってきたせいで、よ~~~く分かるようになったのさ……。

 ともあれ、そんなことを考えている間も、あくまでも見せかけの怒りってヤツをひけらかしながらも、コッチの方へと向かってきやがる。

 そんなこんなで、割とすぐ近くまでやってきたところで、

「ま――待ってください、に、兄さんっ‼ こ、ここは、ひとまず話し合いましょう!」
「ブホッ!? ど、どかんかっ、アルマスッ‼ お、お前も見ただろうがっ⁉ こ、これの一体どこに話し合う余地があるというのだっ⁉」
「うぅ、た、例えそうであったとしてもっ! ……に、兄さんにも言いたいことはあるでしょうけど、ガーネットさんの言い分もちゃんと聞かなくては……! そ、それに、ぼ、暴力では何も解決しませんよっ⁉」

 う~~~ん、果たしてホントにそうか? 大抵のことは暴力で解決すると俺は思うがなぁ~?
 ま、そんな俺の感想はさておき、兄ちゃんの必死の説得も空しく、尚もこちらへと向かってこようとする三男くんに対し、それでも諦めることなくなだすかそうとするそんな兄ちゃんに便乗する形でもって俺も声を発していく。

「まぁそう熱くなるなって。あくまでも不幸な事故だったとはいえ、確かにオメーの兄貴を殺したのは俺だけどよー、でも、内心ラッキーとか思ってんだろ?」
「へ? ガーネットさん? それはどういう?」
「な、何だと貴様っ⁉ ど、どういうことだ?」
「おいおい、そんな風にすっとぼけなくてもいいじゃねーか? オメーら兄弟はどいつもこいつも当主の座に就きたいってんで互いに足の引っ張り合いしてたってーじゃねーか……。そんなオメーが兄貴が殺されたくらいでいきなり兄弟の情に目覚めるってタマかよ? それによぉ、分かってんだぜ? あの長男くんの件がテメーの仕業だってことくれーわな?」
「――‼」
「へ? そ、そんな……。ほ、本当なんですか? 兄さん……」

 そんな俺の指摘に誰の目にも明らかな動揺を見せる三男くん。

 へ~~、マジかよ? ただの鎌掛カマかけのつもりだったんだがなぁ……。どうやらビンゴだったみてーだな……。

 ズバリ核心を突かれたせいか、白豚が今度は見る見るうちに真っ赤に焼き上がってきたかと思えば、ついには大量の脂汗まで滴らせてやがらぁ~♪
 へへ、これにて焼豚チャーシューの出来上がりってな♪

「へへ、面白くなってきやがった♪ こうなりゃあ、俺の話もそうだが……。その辺の話についてもじっくり詳しく聞かせてもらわねーとフェアじゃね――」

 と、そこまで言いかけた時だった。

 ムッワァ~~~~~ッ……。

「ん? な、何だ? 何の臭いだ……? こ、これって、もしかして……? くんくんくん……。――ッ⁉」

 そんないや~な予感とともに、何やら異臭めいたものが鼻先をかすめてきたかと思えば――。

「ぐわぁっ!? な、何だ、こりゃあっ⁉ くぅ~~っ、ま、マジかっ⁉ こ、こっちも負けず劣らず、くせぇーーっ!? し、しかも、うぐぐっ、こ、コッチは目にまできやがるっ⁉」

 それこそ、先ほどを上回る醜悪な臭いによって、ついには視覚にまで支障をきたしてきやがった……!

 余りの臭さにもがき苦しみだす俺とは対照的に、肝心の奴らはというと、

「(ぷるぷるぷるぷる)な、何だと貴様っ! 言うに事欠いて、この僕が、く、臭いとでもいうつもりかっ⁉ ふ、ふざけるなっ! こ、こんな時にまで、ふざけたことを抜かしおってっ‼」

 そう言って憤慨する三男くん。
 その間も三男くんが怒れば怒るほど、興奮すればするほどに大量の脂汗とともに臭いは更に強まっていき……。

 うぐぐ、だ、だが、これでハッキリした……。
 ま、間違いねー、こ、コイツだっ……‼ こ、この野郎の脂汗と体臭の臭いが混ざり合ったことで、この凶悪なまでの臭いが発生してるんだ……‼

「バ――バカヤローッ! ふ、ふざけてんのはテメーの体臭の方だろうがっ⁉ オイッ、兄ちゃん、テメーの兄弟は揃いも揃って一体全体どうなってやがんだよっ⁉」

 そんな俺の質問に対し、肝心の兄ちゃんはというと、キョトンとした表情でもって、

「え? 臭い、ですか? くんくんくん……。これといって、何も感じませんけど?」

 ま、マジかコイツ? 本気で言ってんのか?
 くっ、どうやら十年以上一緒に過ごしてる間に、鼻が完全にバカになったのかあるいは悪臭における耐性が付いちまったかのどっちかだな……。
 にしても、この臭いは正直、キツすぎる……‼

「――くっ、と、ともかく、は、話はそこでするから、ソレ以上近寄んなっ‼ テメーら、揃いも揃って臭すぎるんだよっ‼ イイかっ? そ、それ以上来たらマジ、斬り殺すぞっ‼」
「き、貴様っ‼ こ、この僕をどこまで愚弄すれば気が済むのだっ‼」

 あれ程警告したにもかかわらず、あくまで無視を決め込んで近づいてくる三男くんに対し、ついに俺の堪忍袋の緒が切れる――。

「だぁああああっ! く、くせーって言ってんだろが、ち、近づいてくんじゃねーよっ、この野郎っ‼」

 再三に渡る俺の警告にもかかわらず、俺の間合いへと足を踏み入れた次の瞬間――。

 ザシュッ‼

「ギャアアアアアアアアアアアッ!?」

 食卓に響き渡る三男くんの断末魔……。

 結局、余りの臭さに耐え兼ね、今度ばかりは自らの意思でもって一刀のもとその場で斬り殺しちまった。

「ハァ、ハァ……。うぅ、何つー兄弟だ……」

 ようやっと臭いの素を絶ってホッとしていたところ、

「あん?」
「ぶへ?」

 偶然にも、今度は相も変わらずへたり込んでいた四男くんと視線があった瞬間、 

「ぶ、ブヒィイイイイイイイイッ!? ――だ、誰かぁああああっ⁉ で、出会え出会ええ、く、曲者……。く、曲者ぞぉおおおおっ‼」
「いやいや、ひとまず落ち着けって……。それに、くせーのはオメーらの方だから……」

 そんな俺のツッコミもどこ吹く風。
 そんな四男くんの声にあれよあれよという間に、だだっ広い食卓に何だかんだで20数名の武装した集団が駆け込んできて。

「い、如何されましたか? ザルサス様っ⁉ ややっ、あ、アレはっ‼」
「なっ⁉ も、もしや、へ、ヘドニス様にピアニス様っ⁉ な、何とおいたわしい姿に……⁉」
「も、もしや、こやつがっ⁉ お、己っ、い、生かしてココから出さんぞっ‼ 覚悟しろっ‼」

 惨状を目の当たりするなり、どいつもこいつもにわかに殺気立ってきやがって……。

「あぁ~~、もうっ、めんどくせーなぁっ‼ 口で言っても分かんねーなら……」

 そう叫ぶやいなや、コチラも剣を抜くなり、迫りくる奴らに向かって走り出していく。

「く、くたばれぇえええええっ‼」
「ヘドニス様、ピアニス様の仇ぃいいいいいいっ‼」
「て、天誅ぅうううううっ‼」

 そんな思い思いの言葉とともに、俺の身体を貫かんと迫りくる20数本の剣や槍の一撃を器用にも全て剣の腹でいなしていく傍らで、

 ザシュッ、シュバッ、ズバッ、ドシュッ……。

「⁉ な、何だ? い、一体、何が……。ゲフッ!?」

 奴らかしたら斬られた感覚すらないだろうが、着実に返す刀でもって斬り伏せていく――。

 その間、時間にして、10秒ってところかな?

「――……う~~~~む、とりあえず静かにはなったが、され、これからどうしたもんかねぇ~?」

 俺としては、ちゃんと手加減したつもりだったのだが、相手が余りにも弱すぎたことも災いして……。
 終わってみれば、俺のすぐ後ろでは、

「「「「「…………」」」」」

 20数体の物言わぬ死体の山が築きあげられていった。

 と、そんな死体のすぐ側では、

「ブ、ブヒィイイイッ!? ……く、来るなっ、く、来るなぁあああっ‼」

 と、血の海の中、ただ一人、気が触れたかのように喚き散らす豚くんに対し、

「う~~~ん、ま、ここまでやっちまったら、今更一人だけ残してても何だしな……。それに、ど~せ、オメーもくせーんだろ?」

 そう呟くなり、それこそ蠅を追い払うような感じでもって、

 シュバッ――。

「ぶへ?」

 そんな冴えない鳴き声を最後に、四男くんは二度と口を開くことがなかった――。

 ともあれ、こうして、あれだけ騒がしかった食卓にようやっと本来の静けさが戻ったのであった――。

 めでたし、めでたし……?
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