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第四章 誰もいない世界から脱出編

ACT-58『深淵へ続く路に導かれちゃいました』

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 酷い肌寒さで、卓也は目覚めた。

 ここは何処だろう?
 薄暗く、遥か彼方に小さな照明が灯っているのが見える。
 自分は冷たい床に転がされているようで、背中がとてもひんやりする。
 卓也は、アスファルトのような所に寝かされており、しかも手足が拘束されていることにも気付いた。

(ちょ、な、何がど~なってんの?!)

 まだ少し痛む頭を振り、思い出す。
 確か、ノートを取ろうとして警報が鳴り、複数の人間が来る様な気配を感じた後、失神したんだった。

(つまり俺、誰かに捕まったってことか?!
 おいおい、冗談じゃないぞ!)

 意識がハッキリするにつれ、益々混乱する。
 誰が? 何故?
 そもそも、あのノートは何故あんなとこに?
 俺を殴る必要性は?

 何もかもが繋がらない。

(ちょっと待てよ、これもしかして、熱海の時よりヤバイ状況なんじゃないか?!)

 しばらくすると、どこからともなく複数人の靴音が響いてくる。
 反響音から、この空間がかなり広い、しかも閉鎖された場所だという事がわかる。
 顔を向けると、背の高さも体格も違う、四人程の人間がこちらに近付いて来る。

(あ、これは本格的にヤバイ! どどど、どうすんだ俺?!)

 芋虫のように身をよじって逃げようとするも、自分でもびっくりするくらい動けない。
 四人の人影は、あっという間に卓也を取り囲み、彼を持ち上げた。

「な、お、オイ! 何すんだ!
 ちょ、話聞けよ!!」

 必死で叫ぶも、四人は一切声を上げず、卓也を何処かへ運んで行く。
 やがて、大きな台車のようなものに載せられると、抵抗も空しくどんどん何処かへ運ばれてしまう。

「なあおい、あんたらいったい何者なんだ?!
 なんでこんな事するんだよ?!
 つうか、こんなとこで何してるわけ? なぁ! 答えろよ!」

 何度大きな声で呼びかけても、彼らは反応しない。
 黒いフードのようなものを目深に被り、ケープのようなもので上半身を覆っているせいか、彼らの性別も年齢も全く判別が付かない。
 ただ、さっき自分を持ち上げる時に、「よっこいしょ」というオバサンっぽい声が聞こえたので、恐らく一人は女性だろう。

(駄目だこいつら、全く会話が成り立たねぇ!
 どうすんだこれ? つか、俺どうされちゃうの?!)

 絶体絶命の中、卓也の脳裏には、澪と沙貴の顔が浮かんでいた。






  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■
 
  ACT-58『深淵へ続く路に導かれちゃいました』





 澪と沙貴、エンジが駆けつけた時には、全てが終わっていた。
 エンジの先導で一階の噴水広場に辿り着くと、そこには散らかった机や棚が散乱し、人の気配は全くない。

「しまった、遅かったか」

「こ、これ、どうなってるの?
 なんでこんな所にこんなに沢山の机が?」

「随分と乱雑な置かれ方ね。
 安売り品の展示会場か何かだったのかしら?」

 驚くエンジと澪をよそに、沙貴は崩された机と棚を調べ始める。
 すると、ある棚の中から黄色いアクセサリーのようなものを見つけた。
 それは長い紐が付けられた、派手なイエロー成型色の十センチくらいのもので、本体上には大きなボタンのようなものが設けられている。

「これ、防犯ブザー……?」

「さっきの音はこれ? これが鳴ったの?」

「ってことは、何者かがこれを引っ張ったってことよね。
 でも、こんなとこでいったい誰が?」

「恐らくこれが崩れたのも、原因の一つじゃないかね?」

 エンジの呟きに、澪が反応する。

「崩れ……どういうこと?」

「誰かがよじ登ったから、防犯ブザーが鳴ったんだろうな。
 その時、よじ登ってた奴が崩してこんなんなったんじゃねーかなって」

「ふぅん、でもなんでこれが積まr」
「わかったわ。これから何処を調べればいいと思う?」

 澪の呟きを遮るように、沙貴が割り込む。
 エンジは、得意げに鼻の下をこすり微笑むと、近くにある階段を指差した。

「追ってみようぜ、恐らくこっちだ」

「地下?」

「わかったわ、行ってみましょう」

「え? あ、ちょ、沙貴ぃ~」

 エンジの答えに即応する沙貴は、彼を後を追い地下へ向かう階段へと駆け出す。
 やや遅れた澪は、小首を傾げながらその後を追いかけた。




 そこは、地下駐車場だった。
 サンシャインシティの地下には、異常なほど広いパーキングが二層にも及び設けられている。
 卓也と彼を運んでいる者達は、その最下層・地下三階へやってきたようだ。
 途中、エレベーターを普通に使用していたので、館内は通電していることがわかる。
 本来なら、じゃあ何故ビル内の照明を消していたんだ? という疑問が湧く筈だが、今の卓也にはそんな心の余裕はない。
 
 今や彼は、生命の危機感を覚えて震えていた。

「おい、何処連れてくんだ! 説明しろって!
 なあ、なんで黙ってるんだよ!」

 緊張感満ち満ちたエレベーターから台車ごと降ろされた卓也は、途端に強烈な怖気のようなものを感じた。

「うえっ?!」

 思わず、言葉に詰まる。
 暗闇の中、照明に照らし出された地下三階の駐車場は、表現のしようのない“不気味な雰囲気”に包まれていた。

 先程放置されていた階とは、全然違う。
 まるで深夜の心霊スポットを訪れた時のような――否、その恐怖を何十倍にも高めたかのような。
 それくらいの、只事ではない何かが、明らかにこの階に漂っているのだ。
 卓也は、生まれて初めて“心の底から揺さぶられるような恐怖”を覚え、いつしか身体をブルブルと震わせていた。

(な、なんだよここ?!
 障気ってのは、こういうのを言うのか?! 絶対ここ、何かあるぞ?)

 先程の地下二階は、とてつもなく広大な面積である事が窺い知れたが、何故か地下三階はそうでもなく、逆に“狭い”とすら感じさせる。
 そんな空間が、全体的に重い空気に満たされているのだ。

 卓也と四人は、少しずつ奥へ進んでいく。
 かなりの長い時間移動し、恐らくフロアの中心にあたるだろうエリアに差し掛かると、やたらと沢山の扉が設置されていることに気付く。
 そのいずれにも「関係者以外立ち入り禁止」と書かれており、それが更なる不気味さを覚えさせる。

(こ、ここ、本当に駐車場なのか? つうか、池袋の中心地の地下なのか?
 絶対に心霊スポットだろココ?!)

 いつしか卓也は、四人に声をかけることすらも忘れ、ただひたすらこの不気味な空間のもたらす恐怖に耐える事に徹していた。
 自分が何処に連れて行かれ、これからどうなるのか、その関心をも上回る程の恐怖。
 何かが見えている、何かの存在を認知している訳でもないのに感じる、根拠のない感覚だったが、それほどまでにこのエリアは異常な雰囲気なのだ。

 やがて四人と台車に乗せられた卓也は、とある鉄の扉を通り抜ける。
 すると、その先にも更に扉があり、そこを通るとまたも同じような扉が出現した。

(な、なんか、扉の向こうからゾンビが出て来そうな雰囲気だなこりゃ)

 しばらく進むと、壁に赤く塗られた帯状の案内が見えてくる。
 そこには「B3駐車場」と書かれた文字があり、誘導用の矢印に逆らうように進む。

 またも登場する、白い鉄製の扉。
 だが卓也は、それに強烈な――先程以上の、圧倒的な恐怖を覚えた。

(ひ……!!)

 まだ開かれていない扉の向こうから、ドス黒い何かのイメージが伝わってくる。
 それはまるで、扉の隙間から染み出してくるような、漆黒のオーラのようなものが見える気すらする。
 無論、実際にそういうものが卓也の目に映るわけではないのだが、心が、全神経が、この先に行ってはいけないと警鐘を鳴らしている。
 まだ何も見ていないにも関わらず、卓也には、この先に恐ろしい何かが潜んでいる事が手に取るように理解出来た。

 四人のうちの一人が、無慈悲にドアを開く。
 だがその者が、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。
 
(や、やば……なんなんだよ、ここは?!)

 扉が開かれたその向こうには、赤く縁取りされた何かが見える。
 それが“エレベーター”だと気付くのに、数秒の時間を要した。

 エレベーターには、ドアがない。
 否、既にドアが開かれており、その向こうには虚空が広がっているのだ。


 つまりは、ゴンドラのないエレベーター。
 ただの、縦穴。


 四人は、卓也を乗せた台車を進ませるより先に、揃って何かをぶつぶつと唱え始めた。


「経典に手を伸ばす愚か者に、救いを」

「この者の穢れた魂を救い給え」

「この愚者が現世に戻り、本来の幸福と繁栄を得る事を」

「救済者よ、この者に救いを」


「「「「 救いを! 」」」」


 四人の声が、ハモる。
 次の瞬間、彼らは深呼吸を一つして、台車に手をかけると

 そのまま、エレベーターに向かって突進し始めた。

「は、はあぁぁああ?!」

 ガコン! という鈍い音と共に、台車が急停止する。
 しかし、卓也の身体は台車に固定などされていない。

「え、ちょ――」

 台車が止まったのは、エレベーターの手前。
 卓也はそのまま前のめりになり、エレベーターの中に


「マジかよ! うわあぁぁぁぁぁぁ――……」


 落ちていった。




 澪と沙貴、そしてエンジは、地下二階に降り立った。
 あまりにも広大で、虚無すら感じさせる地下空間に降り立ち、澪は堪らず声を上げた。

「こんなに広い駐車場、初めて見た」

「この状況で、言う事がそれ?」

「何処行ったんだ、あいつら?」

 エンジは、額に平手を当てながら、遠くを眺めるような素振りを見せる。
 そんな彼に、沙貴は怪訝な表情を浮かべる。


「ねえ、あなた」

「俺かい? エンジって呼んでくれよ」

「じゃあエンジ、教えて頂戴。
 私達のご主人様が連れて行かれたのは何処?
 どうすれば、そこに辿り着けるの?」

「は?」

「え、ちょっと、沙貴?」

 顔をしかめるエンジに、動揺する澪。
 しかし沙貴は、冷徹な表情を崩さぬまま、再び拳銃を構えた。

「答えなさい。
 さもないと、この場であなたの足を撃つわ」

「お、おい! 待てよ、落ち着け!」

 銃口を向けられたエンジが困惑する。
 澪もさすがにどうかと思ったか、沙貴に迫る。

「どういうつもりよ沙貴?! なんでこんなことを――」

「この男が、さっき話していた“新興宗教”の一人だからよ」

「「 はえっ?! 」」

 エンジと澪の声が、完全にハモる。
 
「ご主人様に何をするつもりなのかはわからないけど。
 この男の目的は、私達二人もご主人様と同じ目に逢わせることよ」

「沙貴、待って!
 どうしてそんなことがあなたにわかるの?!」

「そ、そうだぜ! なんでそんな事がわかんだよ?!」

「簡単な話よ」

 沙貴は、安全装置を外しながら応える。

「この男のさっきの説明に、違和感があったの。
 噴水広場でも――」



「恐らくこれが崩れたのも、原因の一つじゃないかね?』

『この机とか棚は、ここに積まれていたんだろう。
 それを誰かがよじ登ったから、防犯ブザーが鳴ったんだろうな。
 その時、よじ登ってた奴が崩したからこうなってるんじゃねーかなって』



「そもそもなんで、あの噴水の所に机などが“積まれていた”とわかったの?
 しかも、よじ登って崩れたっていうのは、何のこと?」

「え? あっ」

 沙貴の言葉に澪はハッとし、エンジは口許に手を当てた。

「噴水にあったあの大量の机と棚は、何かの目的で積まれていたのね。
 その上、防犯ブザーまでつけて。
 人がよじ登れるほど高く積み上げていたの?
 エンジ――良く知ってたわね、そんなこと。
 事情を知らない私達には、ただ散らかってるだけにしか見えなかったのに」

 更に続く言葉に、エンジの顔がみるみる青褪める。

「何者かが、あの噴水で机を積み上げていて、しかもそこに防犯ブザーが仕掛けられていたことを知っていなければ、あんな発言は出来ない筈よね」

「……」

「その上あなたは、一切迷わずにワールドインポートマートに向かったわ。
 サンシャインシティのどのビルでもなく。
 しかも、机を崩した何者かが何処へ向かうのかも、予め知っていたようね。
 まだまだ通路は続いてるのに、そっちには全く視線を向けないで、すぐに階段の方を指したのは何故なのかしら?」

「あ、ホントだ! そういえば」

「うぐ……」

 エンジの表情が強張る。
 沙貴は、引き金に指をかける。

「エンジ、あなたも、ここを根城にする宗教団体の一員なのね」

「待ってくれ、信じて欲しい」

「今更女々しいわよ」

 銃口が、エンジの額に向けられる。
 冷や汗をだらだらと流し、エンジは言葉を失う。

「私達のご主人様が何処へ連れて行かれたのか、案内なさい」

 高圧的、そして反論を許さないといった迫力で迫る沙貴に、エンジはとうとう折れた。

「――分かった、恐らくあそこだ。
 付いて来い」

 それだけ言うと、エンジは二人を案内する為、先の路を歩き始めた。





「ぐあぁ……っっ!!」

 激しい衝撃が全身を襲い、耐え難い激痛が全身を駆け巡る。
 両手足を拘束されている為、一切の受け身を取る事が出来ないまま、卓也は階下に落とされた。
 否、もはや受け身など関係ない高さ――の筈だった。

「痛ててて……って、あれ? 俺、生きてる?」

 不思議な事に、卓也は生きていた。
 それどころか、特に大きな怪我もないようで、意識を失う事もなかった。
 固いコンクリートの床に叩き付けられた、というわけではなく、よくわからないが適度な弾力を持った物体の上に落ちたようだ。
 周囲は完全な暗闇の為、全く状況を窺えない。
 しかし、ここがやたらと狭く、しかも異様に空気が澱んでいるのはわかる。

(ここ、いったい何処なんだ?
 地下三階から更に下の階があったってことか?)

 見上げるが、自分が落とされた所がどれくらいの高さにあるのかもわからない。
 卓也は生きていることに感謝こそしたものの、逆に生きている理由に納得が行かなかった。

(と、とにかく、ここから脱出しなきゃ。
 って! 縛られてるんじゃどうしようもないな)

 身体をよじることで、多少なら動く事が出来るようだ。
 痛む身体を鞭打ちながら、卓也は必死で身体を動かし、その場から移動しようとする。

 しばらく蠢いていると、突然身体が傾き、傾斜を転がるように落下し始めた。

「う、うわわわわ、わわわぁっ?!」

 数秒転げて、どすんと落ち、止まる。

 卓也は、今度こそコンクリートの床に転げ落ちたようだ。

「な、なんだ……えっと、これはエレベーターの穴から出られたってことかな?」

 相変わらず闇が広がる空間。
 ふと気付くと、先程感じた禍々しいまでの雰囲気が、更に強まっている。
 
(で、でも待てよ?
 この状況って、いわば真夜中に心霊スポットの建物に忍び込んで、脱出出来ない場所に落下しちまったようなもんだよな?
 それって、誰かに発見されなかったら完全に終了ってことじゃん?!
 おい! おいぃぃ! どうすんだよそれぇ!!
 澪、沙貴ぃ!! 助けてくれぇ!!)

「お~い……たすけて……」

 心の中では必死で叫んでいるつもりなのに、思ったように声が出ない。
 さっきの落下でどこか傷めたのだろうか。
 困惑しながらも、卓也は何度も声を上げ、宛てのない助けを呼び続けた。

(だ、駄目かあ。
 そりゃあ、誰もいない世界でこんな最深部にまで落ち込んじまったら、どうしようもないよなあ)

 やがて卓也は、徐々に睡魔に襲われ始めた。
 考えてみたら、真夜中の行動だったのだ。
 澪も沙貴も、まだ部屋でぐっすり眠っているに違いない。
 ああこりゃ、命運も尽きたな……と思い、卓也は眠気に身を任せたくなった。

「ふわぁ~……」

 欠伸を一つしたその時。
 突然、遠方に明かりが灯った。

「えっ?」

 幻覚ではない。
 間違いなく、懐中電灯のような光がこちらに迫ってくる。
 ちゃんと足音も聞こえている。
 光は僅かに揺れており、誰かが手に持っている物の光だろうと感じられた。

「お、お~い、た、助けてくれぇ……」

 か細い声で、呼びかける。
 それに気付いたのか、光源の主は歩みを速めたようだ。

「誰か、いるのか?」

 男の声が聞こえる。
 聞き覚えのない声だったが、卓也にとってそれは神の声に等しかった。

「ああ~! た、助けてくれ……上の階から落とされたんだ」

「お~、そうかぁ。なるほどなあ」

 何処か呑気な、それでいてあまり元気そうでない声。
 男は手に持った懐中電灯を卓也に向けると、状態を確認し始めた。

「こりゃあ酷い、あんた全身酷い事になってるぞ」

「ま、マジで?」

「今、拘束を解いてやるからな、待ってろよ」

「あ、ありがと」

 数分の格闘の後、男は、卓也の手足の拘束を解いてくれた。
 ようやく自由を取り戻すも、その途端、四肢のあちこちが痛むのを実感した。

「もしかしたら折れてるかもしれない。
 立てそうか? 歩けるか?」

「や、やってみる……なんとかなりそうだ」

「それは良かった。
 それにしても、とんだところに落とされたね。
 もしや、あいつらか?」

「あんたも、なのか?」

「まあね、そんなとこ。
 あんたは?」

「え? あ、名前?
 俺、神城卓也かみしろたくやって言うんだ」

 自己紹介すると、その男――銀縁メガネにボーダー模様のポロシャツを着た男性は、少し嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ卓也って呼んで良いかな。
 こんなとこだけど、君を歓迎するよ」

「助けてくれて、本当にありがとう。
 歓迎ってような環境じゃないけど、ここは?」

「サンシャインシティ地下五階」

「ち、地下五階? そんなんあったの?」

「そうだよ。
 サンシャインシティの地下には、実は結構大きな空洞があってね。
 そこを利用したのか謎の巨大空間があるんだ」

「へぇ……何のためにそんなん作ったんだろうな」

「巣鴨プリズンって、知ってる?」

 男の質問に、卓也は一瞬背筋がぞくっとした。
 理由はわからないが。

「知ってるけど、もしかして……」

「そう、多分だけどここは、巣鴨プリズンの地下に作られた何かの地下設備を転用したものなんじゃないかな」

「ってことは、この地下五階って現実世界の池袋にもあるの?」

「そうなるね。
 ただその使われ方は、明らかにこの世界のとは違っているだろうさ」

 飄々とした口調で、男は語る。
 意外と話したがりなのか、男は卓也に話しかけようとする。
 だが、それよりも聞いておかなければならないことがあった。

「ところで、あんたは何者?」

 卓也の質問に、男は、微かに微笑んで答えた。

 
「俺は、倉茂くらも容志やすし
 よろしくね」


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