俺の推しは人気がない

ルルオカ

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憎たらしいから愛している

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ピン芸人の俺はヒガンバナ、彼はヒマワリ。

なにごとも後ろ向きにとらえ「呪われている」「怨霊のせい」と怪談めかしての漫談。なんでもポジティブに考え「気力、体力があれば、なんでもできる!」と叫んで大袈裟に決めポーズをする、力技ギャグ。二人の持ち味や芸風は対照的。

「ハイセンス」「独特の世界観」と俺。「ストレートに馬鹿なのがいい」「突き抜けて平凡」とヒマワリ。評価も真逆。

ただ、二人とも「自分をネタにしても、必要以上に人のことをとやかく云わない」というお笑いの信条は一致。周りからは「日和見主義」と馬鹿にされるも、かまわず、性格的にも気があったから、一か月に二三回、合同ライブを主催。

それぞれのネタ、実験的な二人の漫才、コントを披露し、フリートークも。三回に一回くらい、ゲストを呼んだのが、今回はなんと、超売れっ子「黒いパンジーは笑う」のサガミさんが。

アイドル級のイケメンとあって、養成所時代から、すでに追っかけがいて、おまけに漫才の腕もずば抜けていたとか。デビューして、あっという間にテレビの引っぱりだこになり、とくにサガミさんは司会から俳優、歌手、ナレーター、コメンテーターとマルチに大活躍。

女性人気の高さとその多忙ぶりに「あいつは芸人じゃない」と仲間には邪険にされそうなところ、コンビでの漫才、ライブを怠らず、賞レースにもばんばん出場。芸人の本分を果たしていたし、なにより、サガミさんの下ネタズキは今も健在だし。

下ネタを売りにする芸人も「もうやめてー!」と悲鳴をあげるほど、爽やかイケメンにして、えげつない放言を。女性ファンの顔色を窺わないで、下ネタをべらべら口にするところ。どんな芸人だろうと見下さず、酒を飲みかわし肩を組んで馬鹿騒ぎするところ。

人懐こく、あけっぴろげな性格は、養成所時代から変わらないまま。仕事ができて、人柄もいい、非の打ちどころのない人だ。俺の憧れの人でもある。

それにしても、いくら気さくだからって、デビューして三年目の無名芸人の、ちっぽけな主催ライブに顔をだすほど暇ではないはず。「また、なんで?」の答えのひとつは、ヒマワリの事務所の先輩だから。

「なに、お前、サガミさんと仲がいいのか」と妬ましくて、つい顔をしかめながら問いつめるも「いやあ」と冴えない反応。

「サガミさん、面倒見いいから、よく事務所の後輩を飯屋につれていってくれるんだよ。俺はその大勢の一人でしかなくて、口を利いたことがないし、サガミさんに認識されているとも知らなかった」

「じゃあ、なんでだ?」と二人して首をひねりながらも、滅多に会えない、雲の上のお方だから、もちろん大歓迎。ライブの二日前の打ち合わせで、初めて顔合わせしたのが、思った以上にフレンドリーな人で、俺を褒めちぎってくれた。

「俺にはああいうセンスがないから羨ましい!」「一癖あるキャラのようで、そこらの若僧より、ずっとしっかりしているな!」などなど。そりゃあ、憧れの人に絶賛され、天にも舞い上がる思いだったが、手放しにわーい!とはなれず。

俺を褒めた分、いや、それ以上にヒマワリをけなしたから。「わあわあ騒いで、ごり押しするって昭和っぽくてダサいだけから!」「お前はほんと、ぽんこつだな。ヒガンバナくんを見習ったらどうだ」などなど。

「なにか気に障ることしたのか?」と目で問いかけるも「いやー覚えがない」と眉を八の字にして、首を振るヒマワリ。サガミさんの情緒不安定さの原因が分からないまま、俺を持ち上げて、ヒマワリを叩く流れをライブ本番中にも継続。

サガミさん目当ての女性ファンがつめかけたから、なんとか笑いが起こっていたものの、ライブの常連客はおろおろ。「自分をネタにしても、必要以上に人のことをとやかく云わない」俺らのスタイルを支持してくれている人なのだろう。彼らに申し訳なく思いつつ、サガミさんの暴走をとめられず。

「ほんと、こいつ絶望的に運がなくてね!俺の元カノに云いよられて、まんまとお金を貸したんだよ!で、すぐにフラれて持ち逃げされてやんの!」

芸人たるもの、プライベートも笑いのネタにすることはあっても、これは暴言が過ぎる。女性ファンも笑えない。さすがに見過ごせず、口を挟もうとしたら「もーやだなあ!サガミさん!」と声が張り上げられた。

「俺の女運のワルさ、舐めてますよ!お金はね、ちゃんと返してもらったんです。そんとき、俺、かっこつけて『いや将来のこと考えたら、べつに返してもらわなくても』って云っちゃって。

そしたら、きょとーんですよ!彼女、サガミさんの後輩として、俺を頼ってきただけなんです!結婚前提に真剣交際しているつもりだったのは、俺だけっていうね!」

「どうですか!すごいでしょ!」と胸を張ってみせたのに、どっと笑いが。「なんだ、やるじゃん」と胸を撫でおろしたのもつかの間、屈みこむサガミさんを見て、戦慄した。

腹を抱えて笑っているようで、目を血走らせ、こめかみを強張らせ、額には青筋を。口角を吊り上げながら、狂気に満ちた顔つきをしていたもので。

基本、芸人は自分よりおもしろいと思えるヤツが許せない。サガミさんが俺を褒めたのは、逆に自分を脅かすほどの存在でないと見なし、あなどってのこと。

じゃあ、ヒマワリは。脅威だったから、躍起になって貶めようとした。自分よりおもしろいヤツに惹かれても、スキになれない。「許せない」と憎んでしまう芸人は難儀だ。

ライブ終わり、案の定、ご機嫌ななめのサガミさんは「つぎの仕事急ぐから」と挨拶もなく去っていった。「結局、なんだったんだ・・・」と二人して呆けて見送っていると「ごめんな」とぽつり。

「フリートークとはいえ、あんな、しょうもない話して。ただ、彼女、ライブにきていたんだよ。だから、借金のことはきちんと訂正しておかないとって思って」

サガミさんの嫉妬による暴走に対し、彼女の名誉を守り、自虐ネタにして笑いに昇華させたとわけだ。「芸人は舐められてナンボ」と自論を持つ俺にしたら、ヒマワリは愛すべき芸人だったが、同じ土俵に立つ芸人としては、やはり妬ましかった。






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