2 / 29
憎たらしいから愛している
しおりを挟むピン芸人の俺はヒガンバナ、彼はヒマワリ。
なにごとも後ろ向きにとらえ「呪われている」「怨霊のせい」と怪談めかしての漫談。なんでもポジティブに考え「気力、体力があれば、なんでもできる!」と叫んで大袈裟に決めポーズをする、力技ギャグ。二人の持ち味や芸風は対照的。
「ハイセンス」「独特の世界観」と俺。「ストレートに馬鹿なのがいい」「突き抜けて平凡」とヒマワリ。評価も真逆。
ただ、二人とも「自分をネタにしても、必要以上に人のことをとやかく云わない」というお笑いの信条は一致。周りからは「日和見主義」と馬鹿にされるも、かまわず、性格的にも気があったから、一か月に二三回、合同ライブを主催。
それぞれのネタ、実験的な二人の漫才、コントを披露し、フリートークも。三回に一回くらい、ゲストを呼んだのが、今回はなんと、超売れっ子「黒いパンジーは笑う」のサガミさんが。
アイドル級のイケメンとあって、養成所時代から、すでに追っかけがいて、おまけに漫才の腕もずば抜けていたとか。デビューして、あっという間にテレビの引っぱりだこになり、とくにサガミさんは司会から俳優、歌手、ナレーター、コメンテーターとマルチに大活躍。
女性人気の高さとその多忙ぶりに「あいつは芸人じゃない」と仲間には邪険にされそうなところ、コンビでの漫才、ライブを怠らず、賞レースにもばんばん出場。芸人の本分を果たしていたし、なにより、サガミさんの下ネタズキは今も健在だし。
下ネタを売りにする芸人も「もうやめてー!」と悲鳴をあげるほど、爽やかイケメンにして、えげつない放言を。女性ファンの顔色を窺わないで、下ネタをべらべら口にするところ。どんな芸人だろうと見下さず、酒を飲みかわし肩を組んで馬鹿騒ぎするところ。
人懐こく、あけっぴろげな性格は、養成所時代から変わらないまま。仕事ができて、人柄もいい、非の打ちどころのない人だ。俺の憧れの人でもある。
それにしても、いくら気さくだからって、デビューして三年目の無名芸人の、ちっぽけな主催ライブに顔をだすほど暇ではないはず。「また、なんで?」の答えのひとつは、ヒマワリの事務所の先輩だから。
「なに、お前、サガミさんと仲がいいのか」と妬ましくて、つい顔をしかめながら問いつめるも「いやあ」と冴えない反応。
「サガミさん、面倒見いいから、よく事務所の後輩を飯屋につれていってくれるんだよ。俺はその大勢の一人でしかなくて、口を利いたことがないし、サガミさんに認識されているとも知らなかった」
「じゃあ、なんでだ?」と二人して首をひねりながらも、滅多に会えない、雲の上のお方だから、もちろん大歓迎。ライブの二日前の打ち合わせで、初めて顔合わせしたのが、思った以上にフレンドリーな人で、俺を褒めちぎってくれた。
「俺にはああいうセンスがないから羨ましい!」「一癖あるキャラのようで、そこらの若僧より、ずっとしっかりしているな!」などなど。そりゃあ、憧れの人に絶賛され、天にも舞い上がる思いだったが、手放しにわーい!とはなれず。
俺を褒めた分、いや、それ以上にヒマワリをけなしたから。「わあわあ騒いで、ごり押しするって昭和っぽくてダサいだけから!」「お前はほんと、ぽんこつだな。ヒガンバナくんを見習ったらどうだ」などなど。
「なにか気に障ることしたのか?」と目で問いかけるも「いやー覚えがない」と眉を八の字にして、首を振るヒマワリ。サガミさんの情緒不安定さの原因が分からないまま、俺を持ち上げて、ヒマワリを叩く流れをライブ本番中にも継続。
サガミさん目当ての女性ファンがつめかけたから、なんとか笑いが起こっていたものの、ライブの常連客はおろおろ。「自分をネタにしても、必要以上に人のことをとやかく云わない」俺らのスタイルを支持してくれている人なのだろう。彼らに申し訳なく思いつつ、サガミさんの暴走をとめられず。
「ほんと、こいつ絶望的に運がなくてね!俺の元カノに云いよられて、まんまとお金を貸したんだよ!で、すぐにフラれて持ち逃げされてやんの!」
芸人たるもの、プライベートも笑いのネタにすることはあっても、これは暴言が過ぎる。女性ファンも笑えない。さすがに見過ごせず、口を挟もうとしたら「もーやだなあ!サガミさん!」と声が張り上げられた。
「俺の女運のワルさ、舐めてますよ!お金はね、ちゃんと返してもらったんです。そんとき、俺、かっこつけて『いや将来のこと考えたら、べつに返してもらわなくても』って云っちゃって。
そしたら、きょとーんですよ!彼女、サガミさんの後輩として、俺を頼ってきただけなんです!結婚前提に真剣交際しているつもりだったのは、俺だけっていうね!」
「どうですか!すごいでしょ!」と胸を張ってみせたのに、どっと笑いが。「なんだ、やるじゃん」と胸を撫でおろしたのもつかの間、屈みこむサガミさんを見て、戦慄した。
腹を抱えて笑っているようで、目を血走らせ、こめかみを強張らせ、額には青筋を。口角を吊り上げながら、狂気に満ちた顔つきをしていたもので。
基本、芸人は自分よりおもしろいと思えるヤツが許せない。サガミさんが俺を褒めたのは、逆に自分を脅かすほどの存在でないと見なし、あなどってのこと。
じゃあ、ヒマワリは。脅威だったから、躍起になって貶めようとした。自分よりおもしろいヤツに惹かれても、スキになれない。「許せない」と憎んでしまう芸人は難儀だ。
ライブ終わり、案の定、ご機嫌ななめのサガミさんは「つぎの仕事急ぐから」と挨拶もなく去っていった。「結局、なんだったんだ・・・」と二人して呆けて見送っていると「ごめんな」とぽつり。
「フリートークとはいえ、あんな、しょうもない話して。ただ、彼女、ライブにきていたんだよ。だから、借金のことはきちんと訂正しておかないとって思って」
サガミさんの嫉妬による暴走に対し、彼女の名誉を守り、自虐ネタにして笑いに昇華させたとわけだ。「芸人は舐められてナンボ」と自論を持つ俺にしたら、ヒマワリは愛すべき芸人だったが、同じ土俵に立つ芸人としては、やはり妬ましかった。
0
あなたにおすすめの小説
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた
谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。
就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。
お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中!
液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。
完結しました *・゚
2025.5.10 少し修正しました。
君のスーツを脱がせたい
凪
BL
学生兼モデルをしている佐倉蘭とオーダースーツ専門店のテーラー加瀬和也は絶賛お付き合い中。
蘭の誕生日に加瀬はオーダースーツを作ることに。
加瀬のかっこよさにドキドキしてしまう蘭。
仕事、年齢、何もかも違う二人だけとお互いを想い合う二人。その行方は?
佐倉蘭 受け 23歳
加瀬和也 攻め 33歳
原作間 33歳
残念でした。悪役令嬢です【BL】
渡辺 佐倉
BL
転生ものBL
この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。
主人公の蒼士もその一人だ。
日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。
だけど……。
同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。
エブリスタにも同じ内容で掲載中です。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる