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殺されたくないなら愛せよ
しおりを挟むそろそろアラームが鳴るころだと思いながら、まどろんでいたとき。お腹に勢いよく重みがかかって「ぐふう!」と瞼を跳ねあげた。
咳きこむことしばし、涙を散らして見上げれば、クドウがにやにや。抗議する間もなく、馬乗りになったまま、俺の額に銃口を。
「殺されなかったら、俺を抱けよ」
「なに云ってんだ、こいつ」と呆れはせず「こんな台詞、あったけ?」と首をひねる。
クドウと俺は同じ劇団に所属。同い年の同期で、同じ安ぼろアパートに居住。
俺らのような売れないエンタメ関係者が集い住まうこのアパートは、貧乏人同士、セキュリティもくそもなく、それぞれ部屋に鍵をかけていなく、多くの扉もあけっぱ。出入り自由で、こうしてノックもなく踏みこんでくるのも珍しくない。
とくに俺とクドウは、劇のキャラになって「ごっこ」遊びをするから、寝込みを襲われても今更。なれど、今回の劇の配役は殺し屋。
基本、ターゲットを隠密に抹殺するのが仕事であり目的で、銃を突きつけて脅すのはらしくない。「大体、同性愛の設定でもなかったと思うけど」と引っかかりながらも、流れを途切れさせては負けなので「いやだね」と睨みつける。
思いがけず、クドウが瞳を揺らした。それではまるで、俺の拒絶に傷ついたようだ。
「おいおい、冷酷無比な殺し屋のキャラがぶれているぞ」と喉の奥で笑い、クドウが応じる前に、うなじをつかんで引き寄せた。額に銃口を当てたまま、倒れてきたのに、耳に囁いたことには。
「脅されなくても愛してやるよ」
とたんに跳ね起きたクドウは、やや銃口を浮かせて、引き金を引いた。額に衝突したのは弾丸ではなく、水。レプリカでも、水鉄砲だったらしい。
思わず目を瞑った、そのうちに「ばあか!朝っぱらからエロイ台詞吐くんじゃねえよ!このドーテーが!」と捨て台詞を叫んで、逃げられてしまった。「ドーテーは余計だ・・・」と呟いて、濡れた額を手で拭いつつ、深くため息。
今回はとり乱して、投げだしたクドウの惨敗とはいえ、勝った気がしない。逃げていくとき、ちらりと見た、その耳が真っ赤だったのに、鼓動を乱されてしまったものだから。
果たして、本番でクドウは俺を殺せるのか。俺は大人しく殺されることができるのか。
舞台の中心で愛を叫ばないでいられるか、自信がなかった。
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