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顔がいいのにろくな男はいない
しおりを挟む隣町の中学校で、男子生徒にわいせつ行為をしたとして男性教師が逮捕されたと。職員室の朝会で、そう知らされて、しかめつらしい顔つきをしつつ「へー」と鼻くそをほじくるように無関心でいた。
いや俺も、男子生徒と接する一教師とはいえ、今まで心揺れたことはないし、この先、そうなるとは思えない。○ャニーズレベルの男子相手なら、まだしも、そりゃあ、少女漫画の世界。髪をワックスで固めたり、眉毛を抜いたり、スマホで加工詐欺をしたり、色気づいた馬鹿はわんさかいても、無修正の美少年なんて天然記念物、一生に一回、お目にかかれるか、ないかだ。
もともと、そういう趣味でなし、理性がぐらつくような美少年に、死ぬまでに遭遇する確率が、ゼロに近く低いなら、心配するだけ損、損。と呑気にかまえ、教師生活を送っていたのが、半年後、新一年の担任になって。案外、死ぬより大分、早く、スペシャルラッキーか、アンラッキーがもたらされた。
そう、天然ものの美少年降臨。半年前の朝会はフラグだったのかと、イタズラな神様を呪ったものだが、とはいえ、だ。たしかに、これまで俺が見てきた中で、断トツに美少年ながら、見惚れはしても「ゲへへ」と涎を垂らすことはなく。
やはり、俺はそのケがないのだなと、たしかめられたから、未知なる美少年との遭遇も悪いことばかりではなかった。「教師を辞めないで済む」と胸を撫でおろしたのもつかの間、入学式の翌日。
クラスの朝礼を済ませて、職員室にもどる途中、人気のない廊下で「先生」と。声の正体にすぐに思い当らず、ただ、直感的に「やばい」と思った通り、走り寄ってきたのは美少年。
二人きりの対面は初めてとあって「気をしっかりもて!」と己を鼓舞しつつ「どうした」と笑いかけた。顔の均整は完璧でも、表情筋は死んでいるのか。冷ややかな顔つきと「俺、先生のこと気にいりました」と物言いは、ちぐはぐ。「舐めてんのか?からかってんのか?」と疑うも、さらに、無表情にそぐわない爆弾発言を。
「だから、先生の股間をまさぐりたいです」
人に聞かれなくてよかったと、心底思う。逆に俺がセクハラされわけだが、今のご時世、どうなるか分かったものではない。
頭を混乱させつつ「俺はされたくない」と率直に断ると「分かりました」と無表情の美少年も率直に応じて、引きさがってくれた。が、諦めるつもりはないらしく「人前で、そういうことを云わないほうがいい」との注意を守りながらも、顔を合わせるたびに「先生、お願いします」とまっすぐ見つめて切願。
一目惚れとかそういうの?と悩むばかりだったのが、クラスでの美少年の言動、ふるまいを観察し、少しずつ、生態を把握。美少年が無表情でセクハラ発言をするのは、俺に対してだけでなかった。
クラスメイトの男子には直接的な表現で「それでも○○○がついているのか」「○○○の調子はどうだ?」「それ以上、云うと○○○握りつぶすぞ」と挨拶代りにはじまり、会話に必ず一回は、それを混ぜてくる。おかげで「残念な○○○美少年」と男子は親しんで、女子は敬遠。
表情に乏しく、○○○が口癖の割には、さほど支障なく、クラスに馴染んでいるものの、教育者としては、見過ごせない。とりあえず、○○○が口癖の理由を知りたいところ。新一年生を受け持っては、日々の忙しさに追われ、時間がとれず。
手をこまねいているうちにも「先生、お願いします」と迫られつづけ、やきもきしたものを、絶好のチャンス到来。
家庭訪問だ。美少年が住むのは、アパートの一室で、シングルファーザーの家庭。母親が亡くなってから、男手ひとつで育てた父親は、建築会社に勤めるガテン系。
との前情報を頭にいれた上で、教育上よくない口癖について、探りをいれようとしたのだが「おお!こんにちわ!あなたが、担任の先生ですか!」との父親の開口一番で、腑に落ちた。
「若くて、いい体してますな!○○○もでっかそうで!」
そう、父親譲りというわけ。にしても、息子とその父親にセクハラ発言フルボッコにされようとは。
翌日、家庭訪問の疲労を引きずりつつ、人のいない教室に美少年を呼びだした。教室に踏みこんだなり「股間、まさぐらせてくれるんですか」と開口一番かましたのに「親が親なら、子も子だな!」とツッコミたかったなれど、ぐっと堪えて「家庭について、すこし聞きたいんだけど」と切りだして。
彼の家には、ほぼ毎晩、父親の同僚、ガテン系の野郎どもが押しかけ、六畳一間にぎゅうぎゅう詰めになるらしい。で、父親を含め彼らが、なにかと○○○、○○○と云いあい、手を叩いて笑うのを間近で見つづけ「男同士のつきあいは、こういうもの」と誤った学習をしてしまったよう。
いや、いくら父親に感化されたといって、学校に通っていれば、世間とのずれに気づいたり「あれ、俺って変かな?」と違和感や疑問を抱くところ。教師として知る限り、どっぷり親の影響を受けた子の盲目ぶりは凄まじい。洗脳を解くのと同じくらい、認識を変えさせるのは至難。
○○○と聞かせてやまない、家庭環境はよくないが、わいせつ行為とかはなさそうだし、父親は配慮が足らないながら、単なる親馬鹿のようだから、時間をかけて、口癖と人づきあいの基本を改めさせていったほうがいいだろう。と、おおよその事情を飲みこんで、美少年への教育指導の方針を固め、ほっとと一息。
質問し終えたところで「先生、俺のこと、キライですか」と美少年に聞かれても、前のように慌てずに「いや、キライじゃないよ」と。「股間をまさぐらせて」とは彼にとって下ネタでも、誘惑でもなく「仲良くしたい」アピールに過ぎない。
と、分かっていようと「じゃあ、どうして、だめなんですか」と食い下がるのに、やや困る。父親の影響から切りはなすのには、時間を費やし慎重にしないと。ただ、その間に、美少年がしびれを切らして、股間に手を伸ばすかもしれない。「警察に捕まったら、元も子もないしな」と咳払いをして、奥の手を。
「俺には恋人がいるからだよ。ゴリマッチョな男が」
美少年の馬鹿正直さと口の固さを見こんでの嘘。まんまと騙された彼は、気に病むように目を伏せて、でも「じゃあ」とすぐに凛々しい顔をして見上げてきた。
「俺がゴリマッチョになって、恋人より惚れさせたらいいんですね」
「ん?」と飲みこむ間もなく、美少年は背を向け、力強く足踏みして行方不明に去っていった。「なに?はじめから、ラブのほうだったの?」「いや、そんな馬鹿な」と堂々巡りに考えながら、翌朝、朝礼前の教室を覗くと、男子に囲まれ囃され、美少年はダンベルで筋トレしていたもので。
果たして、美少年が卒業するまで、俺の股間は無事でいられるのやら。
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