俺の推しは人気がない

ルルオカ

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男でも男でなくても愛に変わりはない

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体育教師の手伝いをしてから、更衣室にもどると、もぬけの殻。塩原だけが、Yシャツのボタンをとめながら「遅かったな」と迎えてくれた。

「いや、俺が遅かったというか、皆が早すぎだろ」とシャツを脱げば「そりゃ、昼ご飯だし」と苦笑され「お前は、昼飯まっしぐらじゃないの」と振りかえったら。ちょうど、ズボンをはこうとして、突きだした尻に目にいった。

そして目撃。薄い灰色のパンツに赤黒い染みが。

仰天しつつ「お前、その、ケツの・・・」と指差すと「え」ときょとんとして、次の瞬間、目を剥いて真っ赤に。すかさずズボンをあげて、ブレザーと荷物を引っつかみ「このこと、誰にも云うなよ!」と更衣室を跳びでていった。

その日の夜、二つ上、大学生の姉に相談。「気になる子が、困っているようなのだけど」と切りだしたところ、経験談とそれに基づいたアドバイスを。

「デリケートなことだから、人前で話しちゃいけないし、本人にも直接的な単語を使わないほうがいいよ」

「このことを、とくに肝に銘じなさい」との云いつけ通り、翌日は、そわそわしつつ、遠目に見守ることに。それにしても、いくら、ばれないようにとはいえ、塩原の空元気ぶりは目に余ったもので。

まだ肌寒い初春というに、襟を開き、袖をまくって、男子らとプロレスの技をかけあっている。もみ合っているうちに、Yシャツの裾がめくれてハラチラするし、ベルトを引っぱられて、ズボンの布が股に食いこんでいるし。

「わー!もう、ギブギブ!」と逃げたのはいいとして、追いかけるヤツがドロップキックをしようとしたのには、さすがに見かねて。一目散に走っていくと「塩原!」と叫び、目を合わせたのもつかの間、腕を引っぱって、そのまま脱兎。

「白馬の王子!」「遅れてくるヒーロー!」と囃したてる男子に見送られ「カケオチみたいだな!」と塩原もはじめは高笑いしていたものを、追撃がなくても歩きつづけるのに「なあ」「おい、ちょっと」と不安そうに。

ただ、俺のただならぬ気迫に飲まれてか。踏んばって、待ったをかけたり、引っぱりかえすことなく、ついてきて学校の裏手に。非常口から外にでて、辺りに人がいないのを確かめてから、あらためて向きあった。

びくりとした塩原が、後ずさって壁に寄りかかったのに「体、冷やしちゃだめだろ」とやおら腕をとって、まくった袖を引っぱり、襟元を閉めてネクタイできゅっと。つづけてYシャツの裾を、ズボンにいれようとして、はっとし、自分のズボンのポケットに手をやり、差しだした。貼るホッカイロだ。

「姉ちゃんから、聞いたんだ。ツライときは、お腹を温めるのが効くって。ほかにも手足を温かくするのがいいっていうから、もし必要だったら、教室にまだ」

壁に背中を密着させ、俺にされるがまま固まっていたので、その手にホッカイロを握らせようとしたら。バチンと手を叩かれて「大馬鹿野郎が!」と。

「ここまでくると、からかってんじゃねえな!そのほうが、コエ―わ!あのな!昨日の更衣室での、あれは尻のイボが・・・」

「いいんだ!皆まで云わなくて!俺は手助けしたいと思っているから、しょうもない嘘を吐かなくていいし、下手な芝居を打って、男子らしく、ふるまわなくていい!せめて俺の前でだけ、ほっとしてもらえたら!」

「なあに、的外れにかっこつけてんだ、クソボケが!お願いだから、てめえが狂っているのを、てめえで気づいてくれないかな!?今時、漫画やラノベだって、こんな使い古されたチープな設定、使わないから!てゆーか、共学で偽装する意味ねーだろ!」

「いいんだ!どんな事情だろうと、気にしないし、聞こうとはしないから!たしかに、現実にはありえないような設定だけど、俺的にはすっごい、そうか!ってなったんだ!前から、どうしてか、よく塩原を目で追っていたから!」

「いよいよ阿呆大魔神か!とんだ勘違いした挙句、芽生えさせてんじゃねーよ!ていうか、男じゃないって分かったとたん、頬赤らめるなんざ、ゲンキンなヤツだな!」

「そんな・・・!たとえ、俺と塩原の子供ができなくても、人生を共に歩んでいきたい・・・!」

「そういうことじゃねーっつうの!キショすぎて死ぬわ!」

「その腐りきった脳を治さない限り、俺に近づくな!」と頭突きをかまして逃亡。追いかけようとはせず、でも廊下を走るのに「せめて、歩いて!」と呼びかけた。もちろん、聞いてはくれなかったが。

さっきも誠心誠意をこめた説得を、ことごとく跳ねつけ「勘違いだ!」とけちもつけたとはいえ、真っ向から否定はしなかった。いや、塩原が目を見据え否定したとして、体を調べるなどし、動かぬ証拠がなければ、ホッカイロを常備し、追いかけまわすのをやめないつもり。

だからといって、男でないことを望んでいるわけではない。パンツの染みを見た瞬間、塩原との将来像を思い浮かべてしまったのだ。

人への好意を自覚しても、同時に相手との未来を想像はしないだろう。のを、してしまったからには、運命の人といえる塩原が、男だろうとなかろうと、子供ができてもできなくても、逃したくはなかった。



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