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妬み妬まれ妬んでくれない
しおりを挟む俳優、イヌタ二十二歳、サルミ二十六歳、キジサキ三十歳。ラジオ共演をきっかけに、名前からして桃太郎の御三家ともてはやされ、以降、トリオで多くの映画ドラマ作品やバラエティ番組出演。
名前に縁があるだけでなく、中学生のように箸がころがっても笑いあえるほど親しく、仕事仲間としても、友人としても、先輩後輩としても、相性がよく気も合う。というのは表向き。実際はすこし、ややこしい関係構造になっている。
俺、サルミはキジサキさんを、生涯を共にすべき運命の人と。後輩のイヌタは「キジサキさんは誰よりも、俺をカワイイ弟分と思っている」と。ひそかに「俺こそキジサキさんの、かけがえない相棒!」と訴えて対立。
かといって、俺はイヌタを、イヌタは俺を嫌っていない。俺はイヌタを、ほかの後輩より目にかけているし、イヌタは俺を「サルミさんとなら、なんでもできる気がします!」と慕ってくれている。ただ、キジサキさんにとって、恋人のような、唯一無二の存在になりたいという点では、お互い一歩も引かず。
もちろん、仕事の悪影響にならないよう、表立ってみっともなく、キジサキさんを引っぱりあっこはしない。最終的に笑える形で「どちらのほうに、より好意を持っているか」と迫ったり、トークの流れで「ねえ、キジサキさん!」とスキスキアピールをして、甘えたり媚びたり、罰ゲームを受けたのにかこつけて「傷ついた!キジサキさん、焼き肉奢って慰めてえ!」とくっついたり誘ったり。
四歳下のイヌタは、馬鹿犬っぽいキャラのくせに中々の策略家で、俺がしかけた分、やり返してくるから手ごわい。が、もっとも厄介なのはキジサキさんだろう。
「令和の生き仏」と称されるキジサキさんは、非の打ちどころがない、お人柄。どんな些細なことでも、人をないがしろにするのを良しとせず、細やかな配慮をする。
たとえばラジオで「お互い、結婚したいと思う相手は誰ですか」とリスナーから聞かれたとき(下心があって俺が選んだメール)。俺とイヌタは迷わず、キジサキさんを選んだのに対し「女の子を育てるならイヌタくん」「男の子を育てるならサルミくん」と応じたもので。さらに「サルミくんとイヌタくんのほうが、結婚生活うまくいきそう」とも。
そう、この人は俺とイヌタをできるだけ平等に扱おうとするし、誰も仲間外れにならないようフォローも欠かさない。「なるべく誰も寂しく悲しい思いをしてほしくない」との心がけには胸打たれるし、惹かれもするけど、俺とイヌタは、やや不服。「ほかのヤツより、自分を優先してほしい」と思うから。
また、ずるいと思うこともある。仏的精神でいるキジサキさんも、万能ではない。俺のボケに、ツボにはいって笑い倒し、イヌタをアウトオブ眼中にしたり、酔っぱらってイヌタに抱きついて、俺が放そうとしたら「邪魔しないでえ!」と駄々をこねたり。
キジサキさんが、うっかり不平等に扱うたび、俺らは妬み妬まれるの繰りかえし。いちいち俺らが頭をかきむしって、金切声をあげて、床をのたうち回りたくなるほど、心乱すというに、気づいているのか否か、そ知らぬふりで、後光差す笑みを崩さないとなれば、つまらない。
要は、俺らもキジサキさんに嫉妬されたい。との見解が一致した俺とイヌタは手を組み、一芝居打つことに。
トリオで仕事をすることが多いとはいえ、四六時中べったりではない。なんなら、同じ事務所所属で、ゲーム仲間でもある俺とイヌタのほうが、顔を合わせる機会が多かったり。
まあ、だから、三人になると、あらためて二人で話すことはないし、キジサキさんの気を引くのに、かかりっきりになるところ。その日のラジオ収録では、俺らにしか通じないネタばかりピックアップして話し倒し、キジサキさんに口を挟ませなかった。
「事務所のミー先輩、子供生まれて丸くなったよなあ!鬼のようなヘビースモーカーだったのに!」
「ほんと、それっスよ!昔は『死ね』が口癖なほど、やさぐれてて!今じゃあ、アロマ入りの電子煙草スパスパしちゃって!」
「新作のパイオハサートやったか?超やべえよな!まさかリオンが、あんなことになるなんてよ!」
「もーまじ、パないっす!テイダもテイダでつれないっすけど、また、そこがクウーってなるっていうか!」
「この前のファンミーティング、俺、地獄のようにスベッたじゃん?でも、お前だけは、大笑いしてくれて助かったよー」
「いやいや、時代がサルミさんに追いついてないんすよ!べつに庇ったわけじゃなくて、俺、心からサルミさんオモシロいって思ってますし!」
いつもキジサキさんに畳みかけるスキスキアピールをお互いにして、きゃっきゃいちゃいちゃ。いや、ラジオ的には三人が満遍なく話さないといけないから、構成作家は眉をひそめて「二人だけの世界にならないで」と何回も何回もカンペで注意。
俺たちだってプロ意識があるから、はじめは加減をするつもりだったのを、キジサキさんの鉄壁の微笑みが、すこしも揺らがないのに、むきになってヒートアップ。とうとう「もーどうしたの!一旦、休憩して、テンション鎮めて!」とディレクターのお叱りを受け、収録中断。
さすがに頭を冷やし「やりすぎて、仕事仲間に迷惑をかけてしまった」と反省しつつ「俺らってキジサキさんに、そんなに好かれていないのかな」と気落ち。ただ、今は私情をさておき「仕事の挽回をせねば」と気を持ちなおそうと、ブースからでようとしたら、袖を引かれた。
同じく立ち上がりかけのイヌタと振りかえれば、微笑みながらも、眉尻を下げて、捨てられた子犬のように上目づかいするキジサキさんが。
「寂しいから、俺にかまってよ」
ロケットのように魂が、宇宙のかなたまで放たれたのもつかの間「「よろこんで!!」」とイヌタとミクロ単位のシンクロをして叫んだのは云うまでもない。
そりゃあ、俺もイヌタも、キジサキさんに一等に特別視してほしく、だから嫉妬しないでいられない。が、いくら好かれたいといって、大切にしたい人を虐めるのは馬鹿げているし、嫉妬して相手を困らせるより「俺のことも見てよ」とありのままの自分の望みを伝えたほうがいいのかもしれない。
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