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マスク越しに恋を
しおりを挟む大前は声が小さい。声量が小さいうえに、唇をほぼ開かず、口内にこもらせて話すから、口元に耳を寄せないと聞きとれない。
中学二年で同じクラスになり知り合ったころから、すでに声が小さくなっていて、曰く「過去に口を滑らせて大罪を犯したから」とまさに中二病的理由があってのことらしい。成績はそこそこ、運動もそこそこ、野鳥愛好という渋い趣味がありながらも、普段の言動ふるまいも常識人的。
一見、変哲ないので、はじめは周りもコミュニケーションをとろうと努めるも、スムーズにやりとりできない苛立ち、いちいち耳を近づける面倒くささに、しばらくもすれば、総すかん。「諦めてくれたほうが、逆に気兼ねしないでいいし、ぼっちは罪人にはお似合いだ」と中二病的に大前は気にしていなかったが、事情を知らない人が、なんとなしに声をかけてきては「なに、こいつ・・・」と気味悪がることが、後を絶たず。
いい加減、そういう反応をされるのに嫌気がさし、といって声量を上げることなく、高校生になったらマスクをしだした。見た目からして拒絶的だし、マスク越しには絶望的に聞こえず「あ、こいつに話しても無駄だ」と早々、周りは遠のいて、中学生のころより孤立。
すっかり幽霊扱いされ、誰も寄りつかなくなったものを、俺だけは、大前の虫の息のような囁きに耳を傾けつづけた。二人とも野鳥愛好が趣味なのもある。その上で、耳を寄せ神経を研ぎすますのに慣れてしまえば、むしろ、ふだんの当たり前の会話に違和感を覚えるようになって。「どうして、皆、そう思索せずに話せるのだろう」と。
物を考えるのには時間がかかるし、自分の気もちを探って見いだすのも、それどどう表現するか、言葉を選ぶのも手間暇がかかる。はずが、相手の呼びかけに反射的に応じるは、割と決定的な物言いをしてはばからない。即答するにしろ、曖昧にするか、保留にするなら、まだ分かるのに。
一瞬で複雑な思考をし、筋道通った答えが導きだせる、皆は超人なのかと思いきや、よく聞くといい加減なのが知れた。大半が誰かの真似や影響、無責任な伝聞の垂れ流し、周りに会わせてや空気を読んでの、心にもない嘘でまかせ。
人が会話で、言葉を絶やさずにいられるからくりを知ってしまうと、日常的なそれが耳障りでしかたなかった。いや、もともと野鳥愛好家とあり、鳥のさえずりに比べたら、人の声は混濁していると思っていたのが、さらに耐えられなくなって。ので、鳥のさえずりに似た大前の囁きへの依存を深め、孤立した大前も俺への依存がとどまらず。
これから、耳障りな言葉溢れる人間社会で生きていくには、俺は耐性をつけるべきで、中二病的抑圧から大前を解き放つべき。だとしても、マスク越しの小さすぎる囁きを、どうしても手放せないのは、破滅的で盲目的な恋のようなものなのかもしれない。
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