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カメラ越しに愛を
しおりを挟む曽祖父から祖父が受け継ぎ、父をとばして俺に渡された一眼レフのフィルムカメラ。この相棒をつれて、あてもなく歩き、気まぐれにファインダーを覗き、気ままにシャッターを押すのが休日の過ごし方であり、仕事三昧にストレスラッシュで過労な心身の癒しだった。
「人を感嘆させるような決定的瞬間や美しき究極の一枚を撮りたい」という欲はなく、頭をからっぽにふらふら散歩するのが主な目的。不審者に見られないため「趣味は写真ですよ」とアリバイ作りにカメラを携えているところもあり、だから、絶景ポイントや名所のある観光地には足を運ばない。
事前に目的地を選ぶでもなく、地図もスマホも持たないで、目についた適当なバスに乗り、停留所の名を聞いて「お」と思ったその町をふらつく。今日、降車した場所は、とくに特色のない住宅街。
大通りを曲がると、入り組んだ細い道沿いに所狭しと家が建ちなび、迷路のよう。「帰り道、分かるかな」とやや心配になりながら、道なりを歩いていき、すこし開けたところへ。
眠気を誘うような陽光が差し、しずしずと桜が花びらをちらす通りは、木造の古めかしい家屋が連なって。電柱も木製だったり、ポストが円柱だったり、生け垣や木の塀で仕切られていたり、煙草屋のカウンターにピンクの公衆電話があったり、なにもかも時代がかった作りで、昭和初期設定の撮影セットさながら。
それこそドラマや映画の撮影がされたり、そのことで注目スポットになりそうだが、人気はなく、目立った声や物音もせず、生活している人の息遣いさえ覚えさせない静けさ。突然、一斉に住人が蒸発したかのようなホラー的雰囲気があり、やや寒気を覚えながらも、穴場な古い街並みとなれば、さ迷うのを堪能しないわけにいかなく、ふらふらと、たまにカメラをかまえたり。
そのうち行き当った、これまたレトロ感あふれる木造建築の駄菓子屋。メンコ、ベーゴマ、紐のついた飴、きなこ棒など商品のラインナップも渋いものばかりで、逆に今時の子が物珍しがったり、懐かしむ大人が集まってきそうなものを、日曜というに、店内は寒々しい。店主もいやしない。
「本当にこの町には誰もいないのか」と不気味がりつつ、カメラをかまえた。こういう、こだわりが強そうに古風な店がまえを保つ店主は「撮影禁止」と目を吊り上げて注意するし、張り紙で訴えることが多い。外観を撮ろうとしたら、外に跳びでてきたほどで、だったら鬼の居ぬ間にと思い、ファインダーを覗いたところ。
駄菓子屋の前のベンチに、着物姿の青年が座っていた。「へ?」と思わずカメラをどかして見るも、ベンチがあるだけ。が、覗き窓には、なかなか絵になるイケメンが。
カメラをかまえては、ずらしてを繰りかえすことしばし、あらためてファインダー越しに目を凝らすと「こんにちは」と笑いかけられた。耳を通してでなく、直接的なように脳内に反響するとなれば、おそらくカメラあっての交信。
なのでファインダーに目を当てたまま、でも、挨拶を返すのをためらって、肯く。目を細めて、笑みを深めた彼がおっとりと告げたことには「彼には自力できてほしいので、撮らないでもらえますか」と。
いまだ頭は混乱真っ最中で、とてもその言い分を理解しきれなかったが、ファインダーから覗ける光景からして察するに余りあって、シャッターに乗せた指をとどめた。笑ったまま丁寧に礼をしたのに、お辞儀をし返して、顔を上げる前にカメラを下ろす。人のいないベンチに、もう一回、頭を下げてから、きた道をてくてくと。
遠ざかるうちに、頭と心の整理がついてきて、おそらく、この世のものではない彼が、ベンチに座る事情の想像がついた。生前は、公然と結ばれなかった相手との約束を、果たしたいと思っているのだろう。
お相手は同性のようで、友人の可能性もあったが、ファインダー越し、舞う桜の向こうで、微笑んだ彼の瞳は、たしかに愛を語っていた。
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