俺の推しは人気がない

ルルオカ

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お前と正面から握手をするもんか

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幼いころから、一つ下の従弟の手を引いていた。いつも、うわの空でふらふらする従弟は、放っておくと、すぐに人や物に衝突したり、平たいところでも転倒したり、ドブに落ちたりしたから。

医者に診せたところ「自閉症」らしい。なのに、いや、だからか、従弟の親は共働きで忙しく、息子にかまわないで、近くに住む俺の家に預けっぱなし。

世話焼きの母が弟のように見なし、かわいがり、俺が家にいるときは、つきっきりで傍にいて、外にでるときは手を引いた。一日も欠かさず、ずっとずっと。

小学校にあがると「男同士変なの!」と指を差し笑われ、中学校にあがると「ホモー!」と手を叩き囃し立てられ笑われた。が、冷やかしに無反応に、手を引いて歩くのをやめず。

べつに罪を犯しているでなし、なんなら、手を握りあうのは尊い行為だし。そう思い、貫き通せば、ほかの人が庇ってくれるようになり、むしろ馬鹿騒ぎするヤツらが「人の心がない」「差別主義者」と後ろ指を差されるように。

そうして高校に上がるころには、外野がうるさくなくなり、俺が従弟の手を引く光景は、近所の恒例のようになっていた。と、せっかく平穏がもたらされたというに、下校途中、従弟が女の子と手をつないでいるのを目撃。

俺がうしろを歩く従弟の手をひくのとちがい、肩を並べて、二人の間のシェイクハンドをゆらゆらと。「誰、それ?」と呆けて佇んでいるうちに、二人は角の向こうに消えたに、謎のまま。従弟が家にきても、なんとなく聞きにくくて、謎のまま。

悶々としながらも、はっきりさせるのは気が乗らず「さあ、散歩の時間だ」と一旦、保留。玄関で先に靴をはいた従弟に「ほら」と手を差し伸べたものの、ぼんやりと見上げるだけ。ふと微笑んだなら、いつになく焦点の合った目で見つめてきて、首を振ってから告げた。

「親は僕に関心を持ってくれなかったから。親の代わりになる、拠り所がほしくて、きみの手にすがっていた。きみに手を引いてもらえるよう、自閉症のふりをしていた。きみに手を引いてもらえなかったら、僕はオワリだと思って。

でも、成長して、いろいろな人と接するようになって、知ったんだ。僕に関心を持ってくれて、手を差し伸べてくれる人は、多くいるんだって」

これまで共に過ごしてきて、こんなに従弟が流暢に語彙豊に長々と語ったのは初めて。開いた口が塞がらない俺に「今まで、ありがとう。ごめん」と云い、手を差し伸べた。

手をつなぐのではなく、握手を求めてのこと。と気づいて、唇を噛んでうつむき、腕を上げることなく、拳をぎゅっと。固めた拳をつかんで強制してくることなく、少しして扉の開閉音がして、従弟は去ったよう。俺に手を引かれなくても、かまわず、一人で。

驚くやら寂しいやら虚しいやら、感情を混濁させ、放心して佇みつつ「ぱっと出の女が」と歯噛み。「男同士変なの!」「ホモ―!」とさんざん異端者、ばい菌扱いされて、でも、どうして、従弟の手を放そうとしなかったのか。

女にその手を奪われてから気づくなんて、なんて、救いようがないことだろう。




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