俺の推しは人気がない

ルルオカ

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俺とお前の結婚の約束

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俺は無口で不愛想で根暗で友人がいない。人生がツんでいるようだが、究極の勝ち組だ。

友人はいないものの、将来を約束した大切な人がいたから。しかも相手は幼馴染にして、スーパーアイドル。

幼馴染は生まれたときから「この世に舞い降りた天使」と称えられたほど容姿端麗で、成長するにつれ美貌に磨きがかかるばかり。そりゃあ、アイドル大手事務所が放っておくわけがなく、小学生四年のときにスカウトされた。

乗り気でなかった幼馴染は、でも、シングルマザーの家計を支えようと入所。「会社に就職できる年になるまで」と期限を決めて活動しだすも、入所前から「百年に一人の逸材が」と事務所ウォッチャーが目をつけたほどとあって、入所翌日にはコンサートのバックダンサーに。一週間後には、先輩アイドルの番組のアシスタントに起用。

レッスンを受けながら、忙しく仕事をし、あっという間にファンを増やして、その貢物だけでも生活できそうなレベルに。中学二年になると、グループの一員となってメジャーデビュー。

デビュー曲から大ヒットをとばし、半年後には全国五大ドームツアーを成功。そのあとも人気も仕事量も鰻上りで、今や「国民的アイドル候補」の呼び声高く、そんなグループにて幼馴染は堂堂たるエース。

周りの期待に応えて仕事をこなしつつも「周りが熱狂したり、もてはやすのに、なんか心が追いつかないんだよなあ」とため息をつく幼馴染は「就職できる年になるまで」と考えていたころと変わっていない。さらに、アイドルに向いていない自分の性質に頭を悩ませてもいた。

人に触るのも触られるのも不得手なことだ。中学生のころ、事務所のお偉いさんにべたべた触られたあと、トイレで吐いたことで自覚したという。昔、母親の恋人がやたらと触って、触らせようとしてきたのにトラウマが呼び起されてのことらしい。

アイドルをするには致命的な体質とはいえ「国民的アイドル候補」その絶対的エースとなれば、辞められず。なんとか仕事では、さりげなく接触を避けつつ、グループの人気が下火になってきたところで退こうと考えるも、勢い衰えず、やんややんやと神輿に担がれつづけ、結局、就職できる年になっても現状維持を余儀なくされ。

「アイドルを辞めたくても辞められない」葛藤を抱えて仕事をすれば、胃が痛くなるというもので、前から、俺の家にきては愚痴大会を催し、ストレス発散をしていた。それが、お酒を飲める年になってからは「お前って肌すべすべだよなあ」と俺を撫でまわし「もっと、いい子いい子しろよお」と撫でるよう懇願するように。

しこたま酒を胃に流しこんで「お前だけは接触が平気なんだよお」と抱きつき「だから、将来結婚しようなあ」と恋人つなぎをして、俺に寄りかかって寝るのがいつものこと。このころの俺は、ひきこもり。

無口で不愛想で根暗と、難儀な性分とあって、中学生から部屋にひきこもり、ネットで小遣い稼ぎをしながらも、成人男性として自立はしていない。「このまま生きていてもなあ」と静かに絶望していたのが、幼馴染と酒を飲むようになり、お先真っ暗な未来が輝かしいものに見えてきて。

人との接触が難しい体質、そうなったトラウマなど、秘密を打ちあけたうえで、べたべた触って触られて「接触できるのはお前だけだから、結婚する!」と宣言されれば、舞い上がるというもの。何万人の女子、いや男もか、幼馴染に求愛されたいと願っているとなれば「まさか、できそこないの俺が」と優越感たら半端ない。

とはいえ、幼馴染の秘めた苦悩を知っているから、スーパーアイドルの求婚に鼻高々としていられなかった。なにせ、アイドルを辞めたがっているのだ。辞めたあとのことを考え、彼を守るため、養うため、できるだけ稼いで、社会的地位を築いておかないと。

そう決意した日から、ゲームのアプリの制作に没頭。もともと、プログラムの勉強をしていたのを、専門学校に通いだし本格的に極めて、卒業制作したものが大ヒット。

その資金を元手に会社を興し、専門学校で親しくなった人と協力して精力的に活動をつづけ、気がつけば、日本を代表するアプリ制作会社に。すべては幼馴染との結婚に備えてのこと。

二人とも忙殺され、酒を飲みかわす機会は減りつつ「赤ちゃんみたいな肌だなあ」と撫でまわすのも「もっとぎゅっと抱きしめろよお」と触らせるのも変わらないまま。ただ「結婚する」と云わなくなった。と気づいたのは、幼馴染の結婚報道を目にしたとき。

俺とではない。年上の大物女優との結婚。しかも「できちゃった婚」。そりゃあ、顎が外れそうに驚いた俺は、すぐに電話。

三日目にやっと通じたと思えば「三十分置きにかけるなよ。彼女が不安になるだろ」と聞こえよがしにため息。「彼の子供ではないのではないか」「彼女にはめられたのでは」というささやかな希望が、冷ややかなその一言で打ち砕かれ「で、で、でき、ちゃった婚って」としか云えず。

「ああ?あー、触って触れない体質だっつうの、間に受けていたのか?ありゃあ、仕事でまいっていたから、赤ちゃんみたいに誰かに甘えたくて、で、お前に甘やかしてもらうための口実にしてたんだよ。

生まれたときから天使だなんだ、賞賛されていたしな。俺のやることに、皆、大袈裟に反応するのが面倒くさくて。その点、お前は無口で無表情、ノーリアクションで、俺のいいようにできるオモチャみたいだったから、気に入っていただけだ」

「で、でも、結婚て・・・」

「ばーか。酔っぱらいの戯言なんか、間に受けんなつーの。これだからコミュ障は。

サンドバックとしては最適だったけど、お前みたいな陰気くさくて、つまんねー奴、一緒に生活なんかしたくないし、肉体関係を持つなんて反吐がでる。

はっ、泣くなよ。お前が身のほど知らずなだけだったんだから。この場合、騙されたほうがワルイね」

結婚報道を目にして、あらためて電話して、抱いたのは怒りや恨みではなく羞恥だった。幼馴染に云われたとおり、身のほどを忘れていた己を恥じて、死にたくなって。

そのあと部屋に引きこもり「どうやって死のうか」「遺産や会社は誰に渡そうか」「人に迷惑をかけない死に方は?」と悶々と考えこんで一週間。ネットでまたまた、幼馴染関連の衝撃報道を目撃。

二日前、結婚の記者会見をしたとき、二人が退場しようとしたら、女性の芸能記者が幼馴染を包丁で刺したと。軽傷で済んだものを、犯人の彼女が「結婚の約束をしていた」と告白したのを皮切りに、似た被害者が我も我もと声をあげだしたという。

結婚届をだした直後だったものを、大物女優が押しきって即離婚。バッシングのフルボッコにされている幼馴染は、非難や罵倒されるだけでなく、包丁で襲われるのが後を絶たないのだとか。

つい先日、電話で嘲笑ったのが嘘のような、落ちぶれっぷりに、でも「ざまあみろ」とは思わなかった。彼に愛はなかったものの、結婚の約束をしてくれたおかげで、引きこもりから脱し社会に踏みだせたのは、まぎれもない事実だから。

「騙されたほうがワルイという言い分が通る世の中なら、生きたくない」と思っていたのも、彼が身を持って、くつがえし「騙せば報いを受ける」と証明してくれたし。だからこそ、彼からの十分置きの着信にはでず。

高層マンションの天辺から「今までありがとう、さようなら」とスマホを投げ捨ててやった。



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