倒錯文学入水

ルルオカ

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倒錯手紙墜落・山國屋

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「どうして、こんな」

私の着物の帯で後ろに手を縛られ、足を広げている野田先生は畳に顔を横たえ呻いた。

畳に鼻をつけるように、私から顔を背けているのは、赤みを帯びた頬を見られたくないからだろう。

今回は薬を盛っていないとはいえ、日の明るいうちに、着物の前を肌蹴た私を股に挟んでいては、人並みに羞恥を覚えるのも無理はない。

「囲ってもらいたいのでしょう?
それとも、艶本の作家ともあろうが、囲われることがどういうことか知らず、発言をしたのですか?」

薄く染まる耳に笑いを含ませて囁いてから、傍らにある風呂敷を広げた。

布擦れの音を聞いて気になったのか、目だけ向けてくるのに、風呂敷の中から取りだしたそれを見せつける。

目を見張った野田先生は、すぐに目を逸らして耳を赤くした。
頬が緩みそうになるのを堪えて「これは『男茎形』と言うらしいですよ」と説明をする。

「何でも、平安時代の書物に『男茎形』書かれていて、そのころから、こういったものは使われていたようですね。

しかも、女でなく、男が男に使っていたそうです。
あれですよ、僧侶が男色をするために。

これで、肛交、穴の拡張をしていたとのことです。
今では色々な素材の擬似男根がありますから、今の時代、木製とは珍しいですが、伝統的なものなのですよ」

木製の男根を右手に持ちながら、学術的に語るように聞かせれば、野田先生は唇を噛みつつ、頬と耳をさらに染めていった。
揺れる瞳が潤んでいるのを見て、漏れそうになった熱い息を飲み、もう片手で顎を掴む。

虚弱で華奢だから、抵抗も虚しく顔を上向かされる。

睨みつけて抗議するより、木製の男根を視界に入れたくないようで、白い肌を上気させ濡れた目を伏せていた。

指で瞼を広げて木製の男根を間近で見せつけたくも思ったが、性急にしては勿体なく、下唇に親指を乗せて、そのまま口内に滑りこませた。

瞼を跳ねた野田先生は、木製の男根が目に入ったからだろう、慌てたように目を瞑って親指を噛んだ。

顎が弱いのか、その気がないでもないからか、小刻みに噛んでくるのは痛くない。
痛くはないが、このままでは親指を噛まれても埒がなかったので、木製の男根を口ではなく、耳の下に当てる。

野田先生は肩を跳ねたものの、親指の侵入を阻止するのに手一杯で、身をよじれないようだ。耳の下から首筋を辿って鎖骨へ。

鎖骨をなぞり、着物の襟から入りこんで脇のあたりを撫でる。

野田先生の息が上がってきたのを窺いながら、脇の下に入れるかに思わせて胸に滑らせ、突起に当たらせれば「はっ」と私を挟む股を跳ねた。

親指を強く噛んだものの、木製の男根の割れ目で突起をこねれば「っう、あ」と涎を散らして垂れ流しにする。

執拗に胸の突起をこねくり回すうちに「は、あ、あ、う、うんっ」と甘く鳴きだし、親指から歯を浮かせることが多くなった。

しばらくもしたら、歯を触れるか触れないかで浮かせたまま、水音を立てて吸うように親指の先を舐めたもので。親指を口内から抜いても、濡れた吐息と涎を垂流しにして薄く口を開けっ放しにしていた。

親指で口を広げるのにも、ろくに抵抗せず、先まで胸の突起をこねていた木製の男根を受けいれる。

はじめは圧迫感に苦しそうな表情をしていたものの、浅く深くと揺らせば、絶えない水音に我慢ならないといったように「ん、ふぅんっ・・・」と固く瞑った目から涙をこぼした。

苦悶の表情はいつしか、悩ましげなものになり、首から胸にかけて肌が染まっていく。

木製の男根を口内に押しつけられるままだったのが、浅くすると逃すまいと食いつくようになり、水音が濃くなったからに、先を舐めているのだろう。

「は、あ、ふぅ、あ、あぁ」と挿入時のような喘ぎ声が漏れてきたころには、野田先生の褌は膨らみを見せていた。

腰を揺らしだしたのを見て、木製の男根を引き抜く。

追いかけるように伸ばした舌から唾液が糸を引いた。
その糸を切って濡れそぼった木製の男根を、もう片方の胸の突起に押しつけ「木製の男根をしゃぶっているだけで勃起しましたね」とせせら笑う。

「もしかして、これを蟹崎尚のだと思って、しゃぶったんですか」

木製の男根に胸の突起を濡らされ善がって喘いで、大分、間が空いてから「違っ」と返ってくれば、説得力はない。

嘘はいけないと諌めるように、木製の男根を強く揺らして、耳を塞ぎたくなるような水音を立てる。

「あ、や、あぁ、あ、あ、はあ、ん」と浅ましく胸と腰をひくつかせるのに「本当に、あなたは不倫をしたのを悪く思っていないんですね」と冷ややかに言い放った。

「蟹崎尚が亡くなっても、悲しみに打ちひしがれていないのですね。
蟹崎尚の情事を思い返して、木製の男根をしゃぶって喜んでいる」

「や、やあ」と顔を振って涙を流す野田先生の、その股に私の股間を押しつける。

「ほら、私は勃起していないでしょ。
あなたが私を見ていないからですよ。

蟹崎尚の男根をしゃぶっている錯覚をしている証拠だ。

私はあなたと違って、お互いに思いを寄せないと勃起しない。
欲の衝動に流されるだけではない。

精神と体、どちらのつながりも求めているのです」

喘ぎ声と涙と涎を垂れ流しにしている野田先生に、懇々と語りかける。

勃起して乱れる野田先生と、勃起しないで鼻白む私。

比べて惨めなのを堪えきれなくてか、野田先生は喘ぎに混ぜて何か訴えようとしてきた。
木製の男根を突起から退けると、しばし熱い息を切らしてから「はっ」と皮肉げに笑い、薄目で私を見上げる。

「精神と体、どちらのつながりも求めている?
高尚なことを言っておいて、勃起しないのは単に君が男として精力がないだけじゃないのか?」

煽っているのは、自覚的なのか無自覚なのか。

どちらにしろ、その手には乗らないで、男根を掲げたまま「精力がないのは、そんなに悪いことですかね」と冷ややかに見下ろす。

「精力が有り余って、ところ構わず女を襲ったり、見境なく放出しているほうがどうかと思いますよ。

対して私は女性に手荒な真似はしませんし、下手に傷つけるようなこともしない。
妻に不足なく安心と安全を与えています」

抜け目なく反論すれば、野田先生は悔しそうな顔をする。
いや、悔しいだけではないだろう。

屈辱に濡れた目を向け、息を荒くし、突起を着物の襟に擦りつけるように胸を震わせ、身じろぐのに見せかけ私の股間にすり寄せてくるのは、まさに餌のお預けを食らった犬畜生だ。

なんとも見苦しいと、軽蔑して見下ろしながら「あなたはどうなんでです?」と木製の男根を見よがしに振ってみせる。

「蟹崎尚の妻を裏切り、侮辱するようなことをした。
同じ屋根の下で住んでおきながら、毎日、どんな顔をして彼女に接していたんです?

ばれてないのなら、別にいいとでも?
だから彼女に謝罪もしていないのですか?」

唇を噛んで、ひたすら涙を滴らせるのは、ぐうの音も出ないからと思ったのだが、腰を上げて褌の膨らみを擦りつけてこようとした。

私の言葉など耳に入ってないようで、躾のなっていない犬畜生よろしく、我慢が利かないらしい。

私が腰を引いたなら、物欲しそうにこちらを見て「は、あ」とじれったそうに腰を振りつづける。

交尾をする獣を眺めるように、無感動に目を向け「いい加減、本性を露にしたらどうですか」と無感情な声で告げる。

「ほら、野田先生の性根の腐った本音を聞かせてください。
そして、はしたない姿を晒しなさい」

木製の男根を褌の膨らみに寄せれば、とたんに押しつけて腰を盛んに跳ねさせた。

「はあぁ、ああ、あ、あぁ、ん」と甘く鳴きっぱなしに、褌ごと扱くのに酔いしれて、水音が立ちだしても、より響かせるように腰を突き上げる。私は木製の男根を少しも動かしていない。

人前で擬似男根で自慰をするざまを晒けださせるだけでは物足らずに、木製の男根を退ける。
追いかけて、ずらそうとした体の肩を押さえつけ、涙ぐむ野田先生を無慈悲に見つめた。

恨みがましいように見返してきたものの、少しもしないで「か、蟹崎尚の奥方には、本当は、悪いと、思っていない」と泣き縋ってきた。

木製の男根をまた寄せれば「はあっ・・・」と安堵した息を吐き、緩く擦りつけながら、胸の内を吐露していく。

「あ、あ・・・お、奥方の目を、盗んで、は、あ、体を合わせるのが、はあ、ん、堪らなかった、あ、あぁ。

奥方とは、う、ん、無沙汰の、よう、だったから、あ、あ、あんたが、満足させられない、蟹崎尚を、んあ、あぁ、ぼ、僕が勃起、させてぇ、ああ、達してやって、るって、奥方、に、優越感を、は、ん、持って・・・。

か、あ、蟹崎、尚も、あ、あ、あ、僕のほうが、具合、いいって、ん、ああ、言ってくれ、て」

雨音と水音と喘ぎ、金木犀の香りと煙管の残り香。

五感が研ぎ澄まされて、混ざりあった音と匂いに深く酔ったようになりながらも、私の股間は冷えていた。

木製の男根を持つ手にしろ自ら動かすことなく、野田先生が擦りつけてくるのに揺れるばかりだ。

頭の芯が冷えたように平静な私とは対照的に、火傷したように肌を染めて身悶える野田先生は、腰の突き上げを忙しなくしながらも、言葉を途切れさせなかった。

「僕は、あ、や、ああ、お、お、くがたには、あ、あぁん、ざま、あみろ、ってぇ」

背徳感さえ快楽にして飲みこんでしまうのだろう。

どこまでも厚かましく人でなしな快楽主義の野田先生は救いようがなかった。




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