チャラ男なんか死ねばいい

ルルオカ

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チャラ男なんか死ねばいい

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ぼくの通う学習塾には、大学生の講師が五人ほどいる。

そのうちの一人、国語の講師は赤い髪をしていた。

パッチワークをしたような色とりどりの服に、耳にはピアスだらけ、指には指輪だかけ。
いわゆるチャラ男だ。

口調もふるまいも不作法でみっともなければ、授業もなっていなく、無関係なことをダラダラしゃべり、脱線しがち。

たとえば、近代文学の作家の小説をとりあげたとき。

あまり褒められたものでない作家の逸話をとくと語って。

「『吾輩は猫である』を書いたくせに夏目漱石は飼い猫を『ねこ』って呼んでたらしいぜえー。
死に際の言葉が『なにか食いたい』とかさあ、偉そうにお札の顔になってけど、けっこー漱石オチャメじゃん?」

「『雨ニモマケズ』って詩を読むくれーだから、宮沢賢治、童貞、貫いたってよおー。
まあ、春画や外国のエロ本集めまくってて、究極のむっつり助平でもあったらしいけどなあ?」

「芥川龍之介って病弱で鬱鬱としたイメージあっけど、惚れっぽくて、恥ずかしーラブレター送りまくってんのお。
奥さんに『文ちゃんがお菓子なら、頭から食べたい』とかさあ、サミイ愛の言葉捧げといて、自殺すんだから、訳わかんねえよなあー」

「芥川に憧れてた太宰治なんか、それに倣ってか、五回も自殺したんだから、イカレテんよなあー。
芥川賞とれないで、超長い抗議文、送るとかさあ、女ズキだったけど、むしろ芥川激ラブだったんじゃね?」

一ミリもテストに役立たない雑談ばかりするが、授業を受けた生徒の国語の成績はアップ。

格式高そうな文豪を、あえて茶化すようなネタを披露することで、興味を持たせて、勉強につなげていく。

なんて高等テクニックを、あの阿呆っぽいチャラ男が使えるわけがなく「真面目に授業するのダリー」という姿勢が、たまたま好転しただけだろう。

ぼくは国語がスキなほうだし、たしかに成績もあがったが、チャラ男はキライだ。

学校のクラスにも社会のゴミのようなチャラ男がいたから。
人が本を読んでいるのを、爆笑や騒音で遮るし、睨みつけたら「あいつクラーイw」「文学少年気どって、ウケるーw」とにやにやクスクスするし。

そんなこんながあって「チャラ男なんか死ねばいい」と日日、恨みつらみ、チャラ男講師も天敵と見なし、関わらないようにしていたのが。

ある日、授業が終わってから課題を返されて。
授業が長引いたので、生徒はみんな、帰り支度をし課題をもらって、そのまま帰っていった。

最後にぼくが呼ばれたころには、教室はがらんどう。
「うわあ、二人きりみたいで、イヤだなあ」と思いつつ、教壇へと。

受けとるも、チャラ男講師はプリントを放してくれず、しかたなく顔をあげれば「おまえ、オモシレー文章書くじゃん」とにっこり。

「こんだけ文章力、高いってことは、ふだんから、かなり本、読んでんじゃね?

いやー俺も小説ラブなんだけど、ついスキなジャンル、SFばっか読んじゃってさあ。

ほかのジャンル読むきっかけが欲し―から、なんでもいいし、おススメしてくんね?」

からかっているのか。
まさか、媚びているのか。

おおいに疑ったぼくは、SFズキというチャラ男が引くような、ライトノベルを紹介した。
「SFを冒涜したうえ、今、流行りの転生を組みこんだ便所の落書きのような低俗な作品」と評されるもの。

ライトノベルから純文学、政治学経済学、哲学自己啓発とジャンル問わず本を読むぼくは、ヘビーな読書家ながら、逆にこだわりがない。
芥川賞をとるような作品もスキだし、便所の落書きレベルと一蹴される作品も愛する。

チャラ男が、どちらかというと硬派なジャンル、SFがスキだとは、すこし意外だったものの、さあ「SFを冒涜した」作風に耐えられるか、どんな反応をするやら。

端から困らせるつもりで、イジワル的なことをしたのだが、果たして。

「えー!世の中の小説って、今じゃあ、こんな進歩してんのお!
チョー新鮮、チョー胸躍る、チョーエキサイティング、オモシロさ半端ねー!」

感情的に褒めるだけでなく、具体的に感想を、的を射た考察も熱く語って。

嘘偽りなさそうな物言いに「ぼくの文章を褒めたのも、本心からだったのか」とやっと得心。

それからチャラ男講師とおススメを紹介しあったり、本について語らったりしだした。

接するにつれ「チャラ男なんか死ねばいい」という偏見が消えていった、だけでなく「チャラ男は仮面かもしれない」と思えてきたもので。

文豪をコケにしつつ、じつは生徒の眠気をとばす工夫をしているように、成績アップ作戦の一環で、チャラ男を演じているのでは・・・。

チャラ男でない本性の一面を知っているのは、ぼくだけかも。

大人の男の人、しかも天敵だった相手と、親しくなれただけでも、なんだか、くすぐったい思いがしたものを。
「ぼくだけかも」という優越感に酔いしれてしまい。

死ねばいいチャラ男でも、先生だけはチガウと思ったのが、マチガイだった。

すっかり習慣になった、ビルの非常階段での逢引。

その日は「テストを終えたものから帰っていい」と云われたのに、とっととテストをやっつけ、非常階段に向かったところ。
扉がすこし開いていて、外から声が。

「ん、せんせ、だめ、ここじゃあ・・・・」

「えー俺、チョー我慢できねー。
ちょっおと、ちょっおおとだけで、いいからさあー」

「せんせ」と甘ったれた口調からして女子生徒。
もう一人は、もちろん。

そう、クラスのチャラ男も人目はばからず、恥もくそもなく、女子といちゃついている。

そのことも殺意が湧く一因とはいえ、先生はあくまで「チャラ男のふり」をしているのであって、塾の生徒に手をだすなんて、外道なことをするはずが・・・。

扉の隙間からは、おっぱじめた物音や声が漏れてくる。

聞くに耐えなかったものの「やっぱり、死に値するチャラ男だったか」と幻滅して見限り、去ろうとはしなかった。
先生に貸す予定の本をにぎりしめ、最後まで扉のまえに佇んで。

「じゃあ、またね」と彼女が扉を開けたのに、自販機の側面にしゃがんで、やり過ごす。
すこし間を置いて、扉を開くと「よお、待ってたぜー」となにごともなかったようにヘラヘラ。

「あー!それ、まえに云ってた本かー!
俺、チョーたのしみにしてて、夜も眠れなかったくらいでさあー!」

相変わらず、調子のいいのに、ぼくもぼくで「さっき休憩所で寝てたじゃないですか」と白白しく合わせる。

女子生徒との不純行為にを触れないまま、本を差しだし「あんがとー!」と歯を剥きだしに笑いかけられ、笑いかえそうとし、涙をぽろり。

涙をこぼしつつ、口を開けたまま呆けて、先生も高く口角を上げたまま、見つめてくるだけ。

やっと「どうして・・・」と声を絞りだすと、笑みを深めて「俺、スキなんだよねー」とぼくの両頬をつかんだ。

「俺のようなチャラ男は生きる価値がないって見下して、お高くとまっているヤツを泣かせるのが」

意外性のあるチャラ男でも、その本性は、さらに目も当てられないほど下衆だったらしい。

生きる価値がないどころか、社会の害悪のような存在だったが、怒ったり罵ったり蔑んだりできすに、ひたすら、涙をぽろぽろと。

先生も先生で、人をぎゃふんとさせて、気が済んだのではないのか。

「ざまあみろ」と高笑いするのにそぐわない、聖母のような、ほほ笑みを浮かべて、ぼくの涙滴る頬を舐めたのだった。




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