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鬼が笑えば鬼に笑われる
しおりを挟む「はあ!?社内でイジメ!?」
移動中の車内で、食べていたおにぎりを噴きそうになった。
四十歳にしてIT企業の社長になったが、社長とは名ばかりに、そこたら中、営業特攻しまくって多忙な日々。
一日中、外回りをして、社長室の椅子でふんぞりかえっている暇がないどころか、ろくに会社に顔をだせやしない。
代わりに、社内を観察して、ちくいち報告してくれる係を置いているのが、今日「ヤバいです。イジメ発生です」と聞かされて。
きっかけはプログラマー大谷の、正体がばれたことらしい。
動画サイトの有名投稿者、オトメマンだと。
「ぼくの乙女心をぶちゃけます」というチャンネルで、登録者数は五十万人。
動画内容は、同性が恋愛対象なのを隠しつつ、社会で生きるオトメマンが、現在進行形の忍ぶ恋について語り明かすというもの。
自称、交際経験ゼロ。
忍ぶ恋しかしたことなく、なかなか、新たな一歩を踏みだせず。
思い人を遠くから見つめて一喜一憂してばかりなのだが「ウブでムジャキ」「初恋に揺れる少女みたい」ともてはやされ、カワイイカワイイと好評。
今回、ばれたとなれば、そう、もともと顔だしはしていなかった。
(リアルなつくりの)馬の被りもので顔をおおい、まあ、その格好でキャピキャピしているのがオモシロく、人気があったようで。
で、どうして、ばれたかと云うと、動画で新年会の内容を語ってのこと。
まさに先日、うちの会社で催したのと一致し、決定打は「小柄な社長が小学生の格好をして、リコーダーの演奏をしたのが、かっこよかった」というもの。
「小柄な社長」は多くいるだろう。
ただ、小学生の扮装が「かっこいい」と冗談でなく褒められるとすれば、身長百五十センチの俺くらいか?
俺のパフォーマンスを含めた新年会の中身は、オトメマンの語るとおりだったし。
チャンネル開設して一年、活動が順調だったので、つい口を滑らせたらしい。
「え?オトメマンってじつはショタコン?(ではない。俺は子供身長でも、顔と声はナイスミドルだから)」とネットで騒ぎになり、会社の人間に見つかったというわけ。
ちなみに、動画で語っていた忍ぶ恋のお相手は、俺だとか。
それはいいとして。
「にしても、騒ぎになってから、けっこう経っているのに、今更イジメ?」
「す、すみません、俺がすぐに気づけなかったんです。
言い訳するつもりはありませんが、彼らは会社ではイジメ行為をしていなくて。
大谷くんのチャンネルのほうで、イヤガラセをして暴れまくっていたようです。
しかも『動画がオモシロくない』『しゃべりがヘタクソ』と、あくまで批評する形で、遠まわしに攻撃して。
同性が恋愛対象という部分にケチをつけると、メンドウになるし、会社の人間とばれると思ったのでしょう。
まえから、大谷くんが元気がないと思っていたのですが・・・イジメているグループが、むしろ動画について、会社で口外しないようにし、させないようにしていたみたいです。
そういった姑息で卑劣なイジメをするのに、放っておけない人がいて。
今日、匿名で俺充てに、メールをくれて、発覚したというわけで・・・」
ひどく申し訳なさそうにする報告係に「そもそも、俺が会社に居ないせいだから」と宥めて、通話終了。
「さて、どうしたものか」と座席にもたれて、目を瞑る。
「優秀なプログラマーに好かれるなんて、光栄だ!」と正直にアナウンスしたところで、イジメグループをつけ上がらせるだけだろう。
いい年こいてイジメをするようなヤツらだから「イジメ、ダメ!ゼッタイ!」と叱っても、馬の耳に念仏だろうし。
決してイジメを見過ごせないとして、効果的な対策をしないことには・・・。
と考えた末「これだ!」と頭上の豆電球がピッカーン!
早速、翌日、時間を空けて会社へと。
会社の人間、すべてを集めて、発表をした。
「動画サイトに、会社のチャンネルを作ります!
そこに、どんなものでもいいから、みなさん、動画を作ってアップしてください!
ただし、カナラズ匿名、顔だしナシでお願いします!
もちろん、人の実名や顔を晒しちゃダメだし、会社関連の情報もださないで!
一か月で、合計視聴数をイチバン稼いだ人に、ボーナスの百万円をプレゼント!」
勘のいいヤツは、社内動画対決に参加せず。
参加したヤツの多くは、視聴数が百も満たず、苦戦。
裏の手を使うというか、ズルをして視聴数を稼ぐヤツもいたが、伸び悩びんで停滞。
人気のでる動画もありつつ、アンチコメントが溢れて。
というのも、オトメマンのコメント欄を荒していたときと、同じニックネームで動画をあげていたから。
「オトメマンさんが活動休止したの、会社の人のせいですか?ダサイしサイテーですね」
「人のことボロクソこきおろしておいて、どの口がっていう動画じゃん(笑)」
「こんなショボイ動画しか作れないのに、偉そうに批評して、恥ずかしくないんですかー?」
半月も経たず、ほとんどのヤツが羞恥に耐えられず、動画を削除。
アンチコメントと戦ったヤツも、一か月を待たずして撤退。
結局、一年でチャンネル登録者数五十万を達した、オトメマンに優る動画を作れた人はいなかったし、それどころか、情けなくも途中退場したし。
こうも歴然とした優劣をつけられ、恥をかかされれば、イジメグループも引っこむしかなく。
イジメがおさまり、チャンネルが空っぽになったところで、社長たる俺が動画をあげて、あらためて会社の人間や、視聴してくれた人に語りかけた。
「今回、社内動画対決を企画した理由を、多くの心あるかたが察しられていると思います。
それを承知のうえで、クドイようですが、もうすこし、お話を。
この世には、一方的に人をバカにし見下すことができる存在はいない。
どれだけ、権威や権力、人徳がある人でも、です。
そんなの当たりまえとはいえ、つい忘れてしまう。
偉そうに人のことをアーダコーダ云っている間は、優越感に酔っているから。
優越感を抱けるだけ、なにかをしたわけでないのに、ね。
そう、ホンライ、努力して成果をあげないと、優越感を持てない。
それは大変で難しいことです。
ただ、裏ワザというか、人をバカにし見下すだけで、いい気分にはなれるんですよ。
ラクに優越感モドキを得られるから、人はイジメに走りやすいのかもしれません。
まあ、なかにはツラク、クルシイ日々を、誰かの悪口を垂れることで、乗りきっている人もいるでしょう。
だから、人を叩くのダメ!ゼッタイ!とは云いませんが、できるだけ悪口は心にとどめておいたほうがいいと思います。
ラクして優越感を得たいからって、人を嘲るなんて、カッコワルすぎですし、それこそ人にバカにされ見下されてしまいますから。
かくいう、わたしも、気をつけたいものです」
大量の貴重なご意見や、ヨクモワルクも反響をいただきつつ、三日後にはチャンネルを閉鎖。
しめくくりに、社長室にオトメマンこと、大谷くんと対面して。
死刑宣告をされたように、青ざめ涙ぐみ震えていたので、謝られるまえに「俺の不届きで、今回はすまない」と頭を下げて、でも、あらためて向きあい笑いかけた。
「ツラかっただろうに、会社を休まず、辞めないでくれて、ありがとう」
目を丸くして硬直した大谷くんは、次の瞬間、膝から崩れおち、しゃがんみこんで大泣き。
彼の恋心がどうなるのか、俺はどんな答えをだすのか。
先のことは分からなかったが、今はただただ、子供のようにアケスケなく泣きじゃくる彼を、じっくりと眺めて愛でていたかった。
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