俺と間男と昇り龍

ルルオカ

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俺と間男と間男

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つい絆されて「俺は」と余計なことを口走りそうになったとき、インターフォンの音が鳴った。

とたんに微笑をひっこめて真顔になった優男が玄関のほうを振りむきつつ、出迎えにいかないでいると、インターフォンの音が絶え間なく鳴りつづけた。

深夜にインターフォンを鳴らすとすれば、身内か恋人だ。
しつこく鳴らしつづけているあたり、気性が荒いという優男の子猫ちゃんなのだろう。

口説かれはしているけど、一線を越えたわけではない。
それに普通なら男が男を家に泊めたくらいで、浮気をしたとは見られないはずだ。

と、思いつつ、インターフォンの音が鳴りつづける中、固唾を飲んでいると、ため息一つ「ここで待っていて」と俺の肩を叩いて優男が玄関のほうへ歩いていった。

鍵と扉が開かれる音がして、つづけて耳に飛びこんできたのは「なんで、お前電話にでないんだよ!」という男の怒鳴り声。
まるで子猫ちゃんのイメージではなく、そもそも男とも思っていなかった。

優男の恋人が男で、頭に血が上りやすいタイプならば、俺と浮気していると誤解して暴れる危険がありそうだったけど、俺は不安になるより、呆気に取られていた。
だって、男の怒鳴り声に聞き覚えがあったから。

「ふざけんなお前!部屋を見せてみろ!」と一段と声を張り上げ、騒がしく物音や足音を立てて居間に乗りこんできた男は、俺を見止めて一瞬、鬼のような形相になったものの、その後は一言も声を発せなくなった。
そりゃそうだ。

優男の言う子猫ちゃんは、俺の恋人でもあるのだ。

すこし遅れて、優男が肩を押さえながら居間にきて、黙りこんでいる俺と子猫ちゃんの顔を不思議そうに交互に見やった。
「え?知り合い?」と言ったのに、我に返ったらしい子猫ちゃんは「しばらっくれんな!」とまた俄然、吠えだす。

「お前らのほうが先につきあってたんだろ!
で、それで、二人して結託して俺を弄びやがったんだ!」

その言い分を聞いて優男は目を見開き、現状を把握したらしい。

それてにしても、その発想が貧困で可笑しかったのか、咄嗟に口に手を当てたのを、子猫ちゃんは聞き逃さなかった。
「なに笑ってやがるんだ!人をこけにしやがって!」と拳を振りあげて、対して優男は逃げる間もなく目を瞑って身を固くした。

でも、子猫ちゃんの拳は振り下ろされることはなかった。
俺がその腕を掴んだからで、振りむく暇を与えないで膝の裏を蹴り、床に跪かせた。

掴んだ腕は背中のほうに捻じ曲げ、肩を掴んでそのまま上体を床に伏せさせる。

殴ろうとしていたのが、いつの間にか床にうつ伏せにされ唖然としている子猫ちゃんに「これ以上暴れたら、逮捕する」と静かに言い渡した。
「・・・は?なに警察みたいなこと」とまだ困惑しているようながら、子猫ちゃんが噛みついてきたのを「警察なんだよ」と返す。

「好きな相手には警察と名乗ったら逃げられると思って、職業は警備員だって嘘をついているんだ」

二度目の衝撃を受けた子猫ちゃんは、でも、開き直ったのか「はっ!捕まえられるもんなら捕まえてみろよ!」と喚きたてはじめる。

「そしたらお前の同僚に、こいつはゲイで乱暴にされて殴られるのが趣味の変態だって証言してやる!」

優男が何か言いかけ身じろぎしたのを目の端に留めつつ「証言したければすればいい」と床に押さえつける力を強めて言った。

「俺のことは本当だからな。
でも、そんな変態でも、警察官として人に暴力をふるう犯罪者を放ってはおけないんだ。

俺の恋人なら尚更、進退を懸けても逮捕してやる」

子猫ちゃんの体の力が抜けていくのが、掴む腕から伝わってくる。
それでも俺は力を緩めずに「もう二度と俺と彼の前に姿を現すな」と言い、子猫ちゃんが悔しげに床に頭突きするのを、肯いたものと見なして腕と肩から手を退けてやった。

「警察」と聞いて十分に怯んだのだろうし、それまで暴行される側だった俺に、いとも簡単に組み伏せられたことで、すっかり戦意喪失したのだろう。

さっきまで血気盛んだったのが嘘のように、力なく起き上がると俺と優男の顔も見ないで、すごすごと猫背で立ち去っていった。

玄関のほうから扉の閉まる音が聞こえて、俺はため息をついて背後にあるソファに座りこんだ。

脱力しきって頭を深く俯けたままでいたら、ひそやかな足音が近づいてきた。
そのつま先が見えるところで足音がやんだけど、俺は顔を上げないまま、また、ため息をして言う。

「俺は警察だよ」

優男は何も言わずに佇んでたものの、少しして、しゃがみこん握りしめている俺の両手に触れた。
「ふふ」と微かな笑いを旋毛に吹きかけるようにし「裏切るには早すぎるでしょう」と手をさすってくる。

優男の言葉に握る力が緩んで、ほどけた片手を持っていかれた。

のもつかの間、指先に生ぬるく濡れた感触がした。「っ」と思わず上げようとした顔を留めて、奥歯を噛みしめ固く目を瞑っているうちにも指先から指の股まで隅々濡らされて、それを一本一本丁寧にやられていく。

指が終われれば手の甲と掌を、Yシャツの袖から舌が届くまでの手首を舐めつくされる。
右手が終われば左手を。

手に唾液を塗りたくられ、これで終わりかといえば、そうではなく、今度はYシャツをしゃぶるように舌を這わせだして、腕の付け根まで舐めていこうとしながら、ボタンを外していった

。腕の付け根までいったところで、すべてのボタンを外し終えてYシャツを脱がされて、俯いていることで晒されているうなじに舌を滑らされた。

猫が毛づくろいするような舌遣いで、時々食むようなことがあっても、やんわりと唇を押し当てるだけで、すこしの痛みも感じさせなかった。
愛撫というには、ひどく、もどかしげなもので、でも、気づかされたことがある。

比べて子猫ちゃんの触り方が痛かったということ。
例えるなら亀の子たわしで擦っているようで、そもそも愛撫はおざなりだったし、後ろを、ろくにほぐしてもくれないで、とにかく早く突っこみたがっていた。

子猫ちゃんに乱暴に抱かれて気持ちよくなくても不満はなかった。
気持ちよくなるほうが不安で怖かったから。

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