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スキャンダラスで破滅的な恋を
犬飼の破滅的な恋①
しおりを挟む俺ははじめに断りをいれる。
「俺は付き合うとなったら、プードル系男子として奉仕はしない。
イメージを守るために、関係を公にしない。
他の女と関係することもある」
ミーハーなだけに留まらないで、大人の関係を持ちたがる女は大抵、「それで、かまわない」と肯く。
何なら、得意そうでもある。
極端な二面性のある人間の、知られざる一面を把握する数少ない一人になれるのは、満更ではないのだろう。
浮気宣言をされるのにしろ、若い俺が強がって吹いているだけど思い、真に受けなないのかもしれない。
そうして、舐めてかかるから、女は割りと早く本性を剥きだしに噛みついてくる。
「どうして、そんなに冷たいの!私を大事にしてくれないの!」「約束をドタキャンした日に、どうして別の女と一緒に居たの!」と、それこそ小型犬が甲高く鳴くように、耳障りに吠え立てる。
俺が態度を正さないと「週刊誌に暴露してやる!」「写真を晒してやる!」と小型犬が一変、やくざまがいに脅しにかかってくるとはいえ、こちらにすれば、屁でもない。
こうなることは想定済みで、弱小事務所の売れていないタレントやモデル、女優に絞って、関係を持っているのだから。
俺が所属しているのは、芸能界で大手を振って歩いている成金悪徳事務所。
芸能界と切っても切りはなせない縁故があり、マスコミとも関係がずぶずぶと噂されている。
所属タレントのスキャンダルになりそうな情報が持ち込まれれば、週刊誌などは事務所にチクるのだとか。
それを受けて、スキャンダルが売れるのにプラスになるかマイナスになるか、タレントがどういう立場にいるかを考慮した上で、必要とあらば事務所は、情報を流した相手先に圧力をかけるとのこと。
まことしやかに噂されるその内容は、大方、当たっている。
俺の場合は、プードル系男子と世にもてはやされた貢献度を認められたのと、将来性を見込まれて、脅迫してくる相手と事務所は話をつけてくれた。
示談金を差しだしつつ、「君もまだ夢を見たいだろう」とあくまで親切そうに説得をしたらしい。
よほど勘の鈍い女でなければ、最後通告と受けとる。
週刊誌に情報を持ち込んだのが、早々にばれたとなれば、マスコミとつながっているとの噂が嘘でないことを実感し、ショックを受けもするのだろう。
夢を諦め、弱小事務所も巻きこむのも辞さず、相打ち覚悟で俺を刺してくるようなことはしなかった。
まあ、実際に事務所がどこまで威力を振るえるのかは分からないが、「あの大手に睨まれたらお終いだ」という噂によって、植えつけられた人の恐怖心に付け入っているところもあるのだと思う。
食えない狐のような大手事務所とはいえ、「もう少し、自分の立場を理解しろ」と俺の女遊びには一丁前に説教をしてくるし、きちんと俺のギャラから示談金の分を差し引く、くらいのことはする。
俺だって、自分が何をしても許される立場にあると、めでたい勘違いをしていない。
だから、揉め事が一段落して、しばらくは大人しくし、事務所の連中が「犬飼もやっと心を入れ替えたか」と思いだしたころに、また、やらかす。
の繰り返しをした。
余計に顰蹙を買いそうなやり口とはいえ、俺は事務所を馬鹿にしてもなければ、破滅行為をしているつもりはない。
「俳優は女と関係してナンボ」という憧れの俳優に習っているだけだ。
大体、プードル系男子なんて安っぽいフレーズを掲げて、売りこみたがる事務所の方針に、不本意に従っているのだから、そのせいで溜まった鬱憤を解消するのに、手を貸してくれたっていいだろう。
そう、不本意。
プードル系男子と女にもてはやされて調子をこくような軟派な男を、本来の俺は虫唾が走るほど嫌いだった。
プードルのような天然パーマに愛嬌のある顔立ちをしながらも、目指しているのは、どちらかというと、我が道を行くザ・男、大川将タイプ。
大川将でさえ、パパタレでいるのが格好悪く見えるほど、俺の憧れる俳優はもっとストイックで、絶えずスキャンダルに見舞われながらも、才能一つで周りを黙らせていた。
どこでも誰にでも、プードルよろしく短い尻尾を振っている今の俺は、残念ながら、かの俳優には程遠い軟弱野郎なのは否めないが、致し方ない。
一度、この世界で大失態したとなれば、才能だけで成り上がるのは難しい。
磐石の地位を築くまでは、虎の威を借りて上等、足の裏を舐めるまで媚びへつらうことも辞さないつもりとはいえ、正直、僻みや妬みから当てつけられるのには、辛抱たまらなかった。
相手に見下され嘲笑されても、好感度を人質にとられている俺は言い返せないし、睨みつけもできない。
気づいていないように、鈍感で阿呆っぽいふりをするか、明らかに打ちのめされ、うな垂れるふりをするかが、適当だ。
要は、相手のサウンドバックになってやるわけで、あまりにそうやって一方的に憂さ晴らしをされると、俺も誰かを遠慮なく傷つけてやりたくなる。
その思いが、多少、女遊びに反映されているのかもしれない。
女遊びをするのは憧れの俳優に習ってだけでなく、女遊びしないことには精神均衡を保てないのだろう。
なので、事務所に苦言をされても、すこしはリスクを犯してでも、やめようとしなかったのだが、そういうわけにもいかなくなった。
これまでは一応、事務所の圧力を受けやすい、弱小事務所の夢を捨てきれない半端なタレントやモデルしか、相手にしなかったはずが、テレビ制作会社のスタッフが、俺に襲われたと証言したらしい。
テレビ製作会社は、こちらの事務所の顔色を窺って大事にはせず、そのスタッフを黙らせて、代わりに訴えてきた女上司も異動させたとのことだった。
とはいえ、相手がテレビの制作会社で一般人となると、事務所は手を回しにくい。
事務所なら、どこも大抵ブラックなところがるから、お互い様で妥協できるのが、他の類の会社では通用しないし、夢を捨てきれない芸能人崩れと違って、一般人はやけになれば、仕事を辞めるのも、訴訟を起すのも躊躇わないだろうからだ。
相手のスタッフは今のところ、沈黙を保っているとはいえ、どうなるはか分からない。
事務所にすれば、そんな不安材料を排除しきれない状況になるのが、何より厭わしいらしく、「しばらくは大人しくしていないと、こちらも覚悟がある」と今回ばかりは、相手ではなく俺に脅しをかけてきた。
そりゃあ、俺にも言い分はあった。
最低限のリスクマネジメントをしている俺は、確実に事務所の脅しが利きそうな相手にしか手をださなかったし、大体、スタッフを襲った覚えはない。
ただ、火のないところに煙は立たないというから、俺の普段の行いが招いた事態なのを、否めないように思えた。
と、考えるだけ冷静さを取り戻せたのは、いいことなのかもしれない。
いささか俺は調子付いていたし、事務所にとって、自分はまだまだ取るに足らない存在だということを、忘れていたかもしれないから。
それにしても、身を改めるのは、そう容易くなかった。
別に俺は女好きで、女遊びが欠かせないわけでない。
もっと訳が悪く、プードル系男子として芸能界をのし上がっていくには、女遊びが必要不可欠だった。
魂を売っている分の代償、背負いに背負っている屈辱を、すこしは軽くしないことには、やっていられない。
事務所に女遊びに待ったをかけられ、精神が不安定になりだしたとき、よりによって、主演ドラマの仕事が舞いこんだ。
だから余計に、俺を締めつけてきたのだろうが、逆効果だしタイミングも悪かった。
ただでさえ、不安定な状態のところに主演のプレッシャーがかかっては、プードル系男子のメッキが剥がれかねず、女遊びのペナルティがかさんで金欠とあっては、主役として立つ瀬がなくなる。
このままでは、撮影中に「ろくに差し入れもしない、みみっちい主役」と馬鹿にされるだけでなく、正体が暴かれて、今後の芸能活動が左右されるような事態にもなってしまう。
おまけに、だ。
千夏とダブル主演なのは、まあ、俺のキャリアと実績からして、しかたないとしても、助演が吉谷なのは、勘弁してほしかった。
俺は吉谷のような俳優のタイプは嫌いだ。
賞を取ったり視聴率を叩きだしたり、目立った成果をあげているわけでなく、熱狂的ファンがいない代わりに熱狂的アンチがいるでもない。
何となく世間に顔と名が知れていて、気がつけばドラマでよく見かけるが、印象に残らないといった、サラリーマン的な俳優。
才能や個性が認められているのではなく、従順で協調性があることから「使い勝手がいい」と起用されるのが多いのだろう。
多くの女優と浮世を流しながらも、さほど騒がれることなく、俳優として箔がつかないあたりも、冴えない吉谷らしい。
俺だけでなく、サラリーマン的なところを皮肉る奴は他にもいるが、俺は心の底から吉谷を嫌っていた。
なんといっても、俺の憧れの俳優と正反対だったからだ。
かの俳優がホンモノなら、吉谷はマガイモノだとさえ思っていた。
俺が女遊びでへまをしたのに対し、吉谷が一度も足をすくわれたことがないのも、気に食わないのかもしれない。
加えて、俺と吉谷には因縁があるのだが、吉谷は覚えていないだろう。
覚えていたほうが困るから、それはいいとして、これだけ思うところがあれば、吉谷にまず、本性を明かしそうだった。
できるなら、女遊び禁止をされて溜まったストレスを発散するのに、吉谷に当り散らしたいものの、同時に身の破滅を招くのは百も承知している。
不本意も不本意とはいえ、俺が主役として至らない分、吉谷には二十年の芸歴を積みあげてきた、その従順さと協調性でサポートしてもらわなければならない。
それに、引き立て役として定評があるというなら、俺を輝かせるために、快く演技をしてほしいところ。
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