スキャンダラスで破滅的な恋を

ルルオカ

文字の大きさ
8 / 36
スキャンダラスで破滅的な恋を

犬飼の破滅的な恋①

しおりを挟む








俺ははじめに断りをいれる。

「俺は付き合うとなったら、プードル系男子として奉仕はしない。

イメージを守るために、関係を公にしない。

他の女と関係することもある」

ミーハーなだけに留まらないで、大人の関係を持ちたがる女は大抵、「それで、かまわない」と肯く。
何なら、得意そうでもある。

極端な二面性のある人間の、知られざる一面を把握する数少ない一人になれるのは、満更ではないのだろう。

浮気宣言をされるのにしろ、若い俺が強がって吹いているだけど思い、真に受けなないのかもしれない。

そうして、舐めてかかるから、女は割りと早く本性を剥きだしに噛みついてくる。

「どうして、そんなに冷たいの!私を大事にしてくれないの!」「約束をドタキャンした日に、どうして別の女と一緒に居たの!」と、それこそ小型犬が甲高く鳴くように、耳障りに吠え立てる。

俺が態度を正さないと「週刊誌に暴露してやる!」「写真を晒してやる!」と小型犬が一変、やくざまがいに脅しにかかってくるとはいえ、こちらにすれば、屁でもない。
こうなることは想定済みで、弱小事務所の売れていないタレントやモデル、女優に絞って、関係を持っているのだから。

俺が所属しているのは、芸能界で大手を振って歩いている成金悪徳事務所。
芸能界と切っても切りはなせない縁故があり、マスコミとも関係がずぶずぶと噂されている。

所属タレントのスキャンダルになりそうな情報が持ち込まれれば、週刊誌などは事務所にチクるのだとか。

それを受けて、スキャンダルが売れるのにプラスになるかマイナスになるか、タレントがどういう立場にいるかを考慮した上で、必要とあらば事務所は、情報を流した相手先に圧力をかけるとのこと。
まことしやかに噂されるその内容は、大方、当たっている。

俺の場合は、プードル系男子と世にもてはやされた貢献度を認められたのと、将来性を見込まれて、脅迫してくる相手と事務所は話をつけてくれた。
示談金を差しだしつつ、「君もまだ夢を見たいだろう」とあくまで親切そうに説得をしたらしい。

よほど勘の鈍い女でなければ、最後通告と受けとる。

週刊誌に情報を持ち込んだのが、早々にばれたとなれば、マスコミとつながっているとの噂が嘘でないことを実感し、ショックを受けもするのだろう。
夢を諦め、弱小事務所も巻きこむのも辞さず、相打ち覚悟で俺を刺してくるようなことはしなかった。

まあ、実際に事務所がどこまで威力を振るえるのかは分からないが、「あの大手に睨まれたらお終いだ」という噂によって、植えつけられた人の恐怖心に付け入っているところもあるのだと思う。

食えない狐のような大手事務所とはいえ、「もう少し、自分の立場を理解しろ」と俺の女遊びには一丁前に説教をしてくるし、きちんと俺のギャラから示談金の分を差し引く、くらいのことはする。

俺だって、自分が何をしても許される立場にあると、めでたい勘違いをしていない。

だから、揉め事が一段落して、しばらくは大人しくし、事務所の連中が「犬飼もやっと心を入れ替えたか」と思いだしたころに、また、やらかす。
の繰り返しをした。

余計に顰蹙を買いそうなやり口とはいえ、俺は事務所を馬鹿にしてもなければ、破滅行為をしているつもりはない。
「俳優は女と関係してナンボ」という憧れの俳優に習っているだけだ。

大体、プードル系男子なんて安っぽいフレーズを掲げて、売りこみたがる事務所の方針に、不本意に従っているのだから、そのせいで溜まった鬱憤を解消するのに、手を貸してくれたっていいだろう。

そう、不本意。

プードル系男子と女にもてはやされて調子をこくような軟派な男を、本来の俺は虫唾が走るほど嫌いだった。

プードルのような天然パーマに愛嬌のある顔立ちをしながらも、目指しているのは、どちらかというと、我が道を行くザ・男、大川将タイプ。

大川将でさえ、パパタレでいるのが格好悪く見えるほど、俺の憧れる俳優はもっとストイックで、絶えずスキャンダルに見舞われながらも、才能一つで周りを黙らせていた。

どこでも誰にでも、プードルよろしく短い尻尾を振っている今の俺は、残念ながら、かの俳優には程遠い軟弱野郎なのは否めないが、致し方ない。

一度、この世界で大失態したとなれば、才能だけで成り上がるのは難しい。

磐石の地位を築くまでは、虎の威を借りて上等、足の裏を舐めるまで媚びへつらうことも辞さないつもりとはいえ、正直、僻みや妬みから当てつけられるのには、辛抱たまらなかった。

相手に見下され嘲笑されても、好感度を人質にとられている俺は言い返せないし、睨みつけもできない。
気づいていないように、鈍感で阿呆っぽいふりをするか、明らかに打ちのめされ、うな垂れるふりをするかが、適当だ。

要は、相手のサウンドバックになってやるわけで、あまりにそうやって一方的に憂さ晴らしをされると、俺も誰かを遠慮なく傷つけてやりたくなる。
その思いが、多少、女遊びに反映されているのかもしれない。

女遊びをするのは憧れの俳優に習ってだけでなく、女遊びしないことには精神均衡を保てないのだろう。

なので、事務所に苦言をされても、すこしはリスクを犯してでも、やめようとしなかったのだが、そういうわけにもいかなくなった。

これまでは一応、事務所の圧力を受けやすい、弱小事務所の夢を捨てきれない半端なタレントやモデルしか、相手にしなかったはずが、テレビ制作会社のスタッフが、俺に襲われたと証言したらしい。

テレビ製作会社は、こちらの事務所の顔色を窺って大事にはせず、そのスタッフを黙らせて、代わりに訴えてきた女上司も異動させたとのことだった。

とはいえ、相手がテレビの制作会社で一般人となると、事務所は手を回しにくい。

事務所なら、どこも大抵ブラックなところがるから、お互い様で妥協できるのが、他の類の会社では通用しないし、夢を捨てきれない芸能人崩れと違って、一般人はやけになれば、仕事を辞めるのも、訴訟を起すのも躊躇わないだろうからだ。

相手のスタッフは今のところ、沈黙を保っているとはいえ、どうなるはか分からない。

事務所にすれば、そんな不安材料を排除しきれない状況になるのが、何より厭わしいらしく、「しばらくは大人しくしていないと、こちらも覚悟がある」と今回ばかりは、相手ではなく俺に脅しをかけてきた。

そりゃあ、俺にも言い分はあった。
最低限のリスクマネジメントをしている俺は、確実に事務所の脅しが利きそうな相手にしか手をださなかったし、大体、スタッフを襲った覚えはない。

ただ、火のないところに煙は立たないというから、俺の普段の行いが招いた事態なのを、否めないように思えた。
と、考えるだけ冷静さを取り戻せたのは、いいことなのかもしれない。

いささか俺は調子付いていたし、事務所にとって、自分はまだまだ取るに足らない存在だということを、忘れていたかもしれないから。

それにしても、身を改めるのは、そう容易くなかった。

別に俺は女好きで、女遊びが欠かせないわけでない。
もっと訳が悪く、プードル系男子として芸能界をのし上がっていくには、女遊びが必要不可欠だった。

魂を売っている分の代償、背負いに背負っている屈辱を、すこしは軽くしないことには、やっていられない。

事務所に女遊びに待ったをかけられ、精神が不安定になりだしたとき、よりによって、主演ドラマの仕事が舞いこんだ。
だから余計に、俺を締めつけてきたのだろうが、逆効果だしタイミングも悪かった。

ただでさえ、不安定な状態のところに主演のプレッシャーがかかっては、プードル系男子のメッキが剥がれかねず、女遊びのペナルティがかさんで金欠とあっては、主役として立つ瀬がなくなる。

このままでは、撮影中に「ろくに差し入れもしない、みみっちい主役」と馬鹿にされるだけでなく、正体が暴かれて、今後の芸能活動が左右されるような事態にもなってしまう。

おまけに、だ。
千夏とダブル主演なのは、まあ、俺のキャリアと実績からして、しかたないとしても、助演が吉谷なのは、勘弁してほしかった。

俺は吉谷のような俳優のタイプは嫌いだ。

賞を取ったり視聴率を叩きだしたり、目立った成果をあげているわけでなく、熱狂的ファンがいない代わりに熱狂的アンチがいるでもない。
何となく世間に顔と名が知れていて、気がつけばドラマでよく見かけるが、印象に残らないといった、サラリーマン的な俳優。

才能や個性が認められているのではなく、従順で協調性があることから「使い勝手がいい」と起用されるのが多いのだろう。

多くの女優と浮世を流しながらも、さほど騒がれることなく、俳優として箔がつかないあたりも、冴えない吉谷らしい。

俺だけでなく、サラリーマン的なところを皮肉る奴は他にもいるが、俺は心の底から吉谷を嫌っていた。
なんといっても、俺の憧れの俳優と正反対だったからだ。

かの俳優がホンモノなら、吉谷はマガイモノだとさえ思っていた。

俺が女遊びでへまをしたのに対し、吉谷が一度も足をすくわれたことがないのも、気に食わないのかもしれない。
加えて、俺と吉谷には因縁があるのだが、吉谷は覚えていないだろう。

覚えていたほうが困るから、それはいいとして、これだけ思うところがあれば、吉谷にまず、本性を明かしそうだった。

できるなら、女遊び禁止をされて溜まったストレスを発散するのに、吉谷に当り散らしたいものの、同時に身の破滅を招くのは百も承知している。

不本意も不本意とはいえ、俺が主役として至らない分、吉谷には二十年の芸歴を積みあげてきた、その従順さと協調性でサポートしてもらわなければならない。

それに、引き立て役として定評があるというなら、俺を輝かせるために、快く演技をしてほしいところ。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

初恋の実が落ちたら

ゆれ
BL
オメガバースの存在する世界。スキャンダルが原因でアイドルを辞め、ついでに何故かヒートも止まって、今は社会人として元気に働く千鶴。お相手である獅勇は何事もなかったかのように活動を続けており、いちファンとしてそれを遠くから見守っていた。そしておなじグループで活動する月翔もまた新しい運命と出会い、虎次と慶はすぐ傍にあった奇跡に気づく。第二性に振り回されながらも幸せを模索する彼らの三つの物語。※さまざまな設定が出てきますがこの話はそうという程度に捉えていただけると嬉しいです。他サイトにも投稿済。

処理中です...