スキャンダラスで破滅的な恋を

ルルオカ

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スキャンダラスで破滅的な恋を

吉谷のスキャンダルな恋⑦

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休みを挟んで、スタジオで犬飼君と顔を合わせた僕は「やあ、今日もよろしく」と笑いかけ、普通に話し普通にふるまった。

なんなら前より、死ぬ気で取り繕わなくなって、心穏やかに接しられたかもしれない。

休み明けの一発目で何事もなかったように挨拶されて、戸惑いの表情を見せた犬飼君だったけど、あの夜について話を切りだそうとはしなかった。

ドラマの終盤にかけての撮影が忙しくなったのと、前にも増して見学者など出入りす人間が増え、人目を気にしないで話し合える場を設けるのは難しかったからだろう。
そうかといって、気にしないではいられないらしく、いつものように懐こく僕に接しながらも、時折、遠くから物言いたげな視線を送っていった。

それに気づきながらも、余所見をしていられないとばかりに、僕は撮影に打ちこんだ。

前ほど雑念にとらわれなくなった分、神経を研ぎ澄まして撮影に臨むことができ、ディレクターからは「一皮、剥けたんじゃないか」と今までにない評価を授かり、スタッフや共演者、見学者からは「ほうっ」と感嘆するような、ため息を吐かれたもので。

犬飼君を避けているつもりはなく、一役者として邁進しているだけであり、むしろ前は色惚けていて、仕事をおろそかにしていたのかもしれない。
今のほうが健全な役者のあるべき姿なのだろう。

と、言いたいところだったけど、千夏ちゃんもまた、時折、僕の服を引っ張って物言いたげに見上げてくることがあった。

人一倍洞察力のある千夏ちゃんを、周りのように上っ面で騙すことはできなかったらしい。
仕事に没頭する僕が痛痛しくて、見ていられなかったに違いない。

仕事にかまけて逃避しているのを、自分でも気づきつつ、立ち止まって省みる暇なんてなかった。

ドラマはますます視聴率も評判も鰻上りだし、中でも僕は、はじめに期待されていなかった分、意外な掘り出し物があったというように注目されているらしいのだ。

おかげで「お守り刑事のツッコミがどんどん冴えていっている」とSNSが騒ぐのに応える形で、出番や台詞がどんどん増えるは、撮影以外の仕事に追われるは、対応しきれない事務所を手伝っているは。
スポンサーや局のお偉いさんの相手をしなければならないはと、眠る間もないほどの忙しさに見舞われていた。

もちろん犬飼君も、初主演にしてドラマをヒットさせたことで大注目されている。

ここぞとばかりに売り込もうと、大手事務所が勢力を上げてメディアへの露出をさせているとかで、僕より身を裂くように、撮影以外は方々に駆けずり回っているとのことだった。

それでも、若いスタッフとの飲み会をつづけていたのは、偉いと思う。
比べて僕は情けないもので、あの夜を境に、その飲み会に混じることはなくなり、この点だけは意識して犬飼君を避けていたもので。

ドラマの好調ぶりはつづき、仕事は忙しくなる一方で、そんな怒涛のような勢いに押されるまま、ついにクランクアップを迎えた。

スタッフにすれば、後片付けや、放送までの仕事がまだまだ残っていたし、俳優にしても、多くの番宣やイベント出演などが控えている状況だったものの、一段落ついたとのことで、スタジオは盛大な拍手と歓声に包まれ、中には涙する者もいた。

後の仕事はともかく、とりあえず翌日は誰だろうと、丸々休みをとれることになり、感動的なクランクアップの流れのまま、スタッフや俳優、そのマネージャー全員が打ち上げの場へと速やかに移動していった。

「この局に、すこし別の用があるから」と僕はそれを見送り、誰もいなくなったスタジオのセットの中で一人、佇んでいた。

セットはどら息子の探偵事務所のものだ。

ここにはどら息子が住み込んで、入り浸っているのはもちろん、箱入り娘やお守り刑事もしょっちゅう顔をだし、用もないのに居座っていた。

そのことを証明するように、お守り刑事の指定席のソファが、お尻と背中を当てる部分が、やや擦り切れて色褪せている。

ソファを眺めながら、背もたれを撫でていると、背後で微かに物音がした。
振り返らずとも、誰だか察して「君のことが好きだったんだ」と言う。

「そう思ってた」

背後を見やれば、案の定、犬飼君がセットの手前に立っていた。

唐突な告白に驚いたというより、引っかかる物言いが気がかりのようで、若干、眉間を力ませている。
あざとく愛らしい犬飼君にしては珍しく、渋い表情を覗かせるのに苦笑しつつ「でも、違ったみたいだ」とつづける。

「それが、あの夜、分かった。
僕は、君に見られている僕を意識して、胸を高鳴らせていた。

君を見ているようで見ていなかった」

あの夜以来、宙ぶらりんになっていた話が、この期に及んで蒸し返されたからだろう。

犬飼君は肩を揺らしつつ、すぐには口を利こうとしなかった。
僕の出方が想定外だったのかもしれないし、大体、僕が何を言いたいのか、はかりかねているのかもしれない。

僕も正直、心の整理がついてなく、自分の思いの真意を掴みきれていなかった。

ただ、あの夜のあれが、間違っていたこと、あれの感覚が忘れられない以上は、僕に恋をする資格がないことは分かっていた。

「はじめて、恋ができたと思ったんだけどな。
相手が男だろうと、関係ないと思って」

なんとも言えないといった表情で、金縛りにあったように固まっている犬飼君に「残念だったよ」と弱弱しく笑いかけてから、伏目で歩きだした。

手が届かなくない距離ですれ違っても、犬飼君は声を上げず手を掴んでもこなく、そのことに別に落胆もほっともしないで、閑寂としたスタジオから僕はでていった。







お守り刑事が犯人に誘拐され、凸凹コンビに身代金が要求されたところで、次回に持ち越された最終話。

「どら息子は見捨てるんじゃないか?」「箱入り娘が、いつものように尻を叩くだろう!」と期待をこめた憶測を巷やネットで飛び交わしつつ、多くの人が最終話の放送を心待ちにしていた中、ドラマの盛り上がりが最高潮に達する前に犬飼君のスキャンダルで騒がれることになった。

テレビをちらっと見た限りでは、前に交際していた女性が、付き合っていたときの犬飼君の非情さを週刊誌で訴えたとのことらしい。
彼女は貢ぐだけ貢いだものの、犬飼君に冷たく足蹴にされ、挙句、浮気をされ捨てられたという。

お金を騙したとられたとか、暴力をふるわれたとか、訴訟に至るまでの話ではなさそうだけど、プードル系男子と謳われ、母性本能をくすぐるタイプとのイメージが強かっただけに、ギャップのある粗暴な一面は、実質以上にショッキングなものに思えたのだろう。

「裏切られた!」「テレビでは可愛こぶってキモ!」と女性からのバッシングは凄まじく、「女の敵が主演のドラマを視聴してはいけない!」と妨害行為をする人まで現れたのだとか。

さすがに、放送中止に追いこまれることはないだろうものの、そりゃあ、ドラマに影響がなくもなかった。

評判、評価はだだ下がり、スポンサーや局のお偉いさんがおかんむりなのはもちろん、スポンサー企業の株価も下がるは、局ではクレームの電話が鳴りっぱなしになるはで、ディレクターなどの撮影責任者は肩身の狭い思いをしているらしい。

そう聞いただけでも痛ましかったけど、何より、犬飼君を中心に結束して、より良い作品にしようと、汗水たらし苦心してきた皆の努力が、ドラマに関係ない話で、水の泡になるのはもったいないことに思えた。

僕に何かできないだろうかと、微力ながら方々に働きかけていた矢先。

犬飼君のスキャンダルが降って湧いて三日後、ドラマ最終話が放送される前日に、新たなスキャンダルが形勢を一変させることになった。

そう、今度は僕の番だった。




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