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スキャンダラスで破滅的な恋を
犬飼の破滅的な恋⑧
しおりを挟む二人きりの食事に誘った。
つれていったのは郊外の隠れ家的な口の固い店(払いの良さで秘密厳守してくれる)、お泊りが可能なその個室で一気に決着をつけようと。
プランは、こうだ。
「壁になって、いつまでも見ていたい」というファン心理が強そうな吉谷は、きっと町より人目がなく静かな場で、俺と二人きりなのに耐えられないで、下戸でもかまわずに酒をしこたま飲んでしまう。
酩酊したところで、俺は甲斐甲斐しく介抱するふりをして、首筋、耳の後ろ、胸、脇、腰、太ももの内側と際どいどころを触りまくる。
二人きりでも限界な吉谷は、体を這う俺の手を意識しないでいられないで、酒で却って我慢が利かなくなり、みっともなく股間を膨らませる。
このとき俺も同じくらい酔っている体になっているから、反応しているのに引くことなく、「吉谷さん、感じちゃったんですかあ?」と面白がって、いたずらに股間の回りに手を滑らせる。
「だめだよ」と口では言いつつ、酔って力が入らない体では留められず、あんあん善がってしまう吉谷。
「あ、や、犬飼、君、だめ、だ、あぁ、って、やあ、おさまら、なく、なっちゃ、あ、う」
「疲れが溜まっていたんだから、しかたないですよ。
生理現象なら、ちゃんと出したほうが健康的ですよ」
「はあ、あ、ん、で、もお、男が、あ、あ、男、に、ん、なん、て」
「ふふ、吉谷さんは経験豊富そうに見えて、初心なところがあるんですね。
別に同性愛でなくても、男同士で触りあっこくらい、普通にしますよ」
「あ、あ、や、だめ、同性、愛なん、て、はっ、あぁ、普通?ん、だめ、あ、や、あ、ああ」
「俺は同性愛じゃないですけど、吉谷さんのことは嫌いでないですよ。
だから、ここを触るのも平気です。
吉谷さんは、男は絶対、駄目ですか?」
「おと、こ、あ、はあっ、ん、男、あ、だ、だめ、ん、じゃ、ない、あ、あぁ」
「僕のことは嫌い?」
「ん、あ、はあ、ん、嫌、い、あ、じゃ、ない、は、ん、ああ、男、でも、お、ん、は、好きぃ、あ、あ、あん、好き、ああん、男、でも、お、しゅき、ん」
俺のテクニックと誘導で「男が好き」との言質を取らせ録音をする。
できたら、白濁の液を散らして意識を失っているさまを、カメラで撮る。
という計画は、途中まで思い通りに進められていたのだ。
本当に疲れているのか、談笑していて、ふと遠い目になるのが気になったが、お猪口に徳利を傾ければ、思った以上にどんどんと酒を煽っていった。
酔い潰れてしまうのではないかと、やや心配した矢先、吉谷は片目から涙を一粒、こぼした。
一枚の絵になるような、美しい泣き方で、不覚にも胸を突かれた俺は、でも、湧きあがりそうになった感情を飲んで、事に及んだ。
ポケットに入れた小型のボイスレコーダーをオンにして、耳にしゃぶりつきながら、ズボン越しに扱いた。
実際は男同士で触りあっこなどしたこがなく、抵抗があったから、できるだけ直に触れたくなかったものを、布越しでは限界があるだろうと思っていた。
あまり長引くようなら、腹をくくってチャックを下ろすつもりでいたが、俺の知られざる才能が開花したのか、女好きだったはずの吉谷に素質が大ありだったからか。
散々善がって、むせび泣きつづけながら、すぐに達してしまった。大量にお漏らししたように、厚手のズボンをびしょ濡れにして。
思いを墓場まで持っていこうと、いくら、しおらしく健気な恋をしようとしても、体は馬鹿正直だ。
そんな、むっつり助平ぶりに「ざまあみろ」と嘲笑ってやりたがったが、ズボンをしとどに濡らし、熱く息を切らしながら、ひたすら泣くさまを見ていたら、俺も泣きたくなった。
はじめは、赤ん坊よろしく剥きだしに泣くのに当てられたのかと思ったが、一度達してから、上体を起こして見上げたとき、その泣き顔にむしろ感応しなかった。
薄く開けた、ぐしょ濡れの涙目に見つめられ、ひどく興ざめしてしまい、それでいて胸の奥底には悲しみが広がっていた。
悲しみの正体は分からず、いや、分かりたくなかったのか、俺は思考停止して感情を麻痺させて、ポケットの中のボイスレコーダーを握りしめたまま、身を固めてしまった。
まだ「男が好き」の言質は取れていなかったし、やめるにしろ、つづけるにしろ、達したばかりの吉谷を放置しておけなかったものを、金縛りにあったように身動きがとれず口が利けなくなった。
このままでは、相手に不審がられて、計画がおじゃんになりかねない。
そう心配するまでもなく、無反応の俺を前にして、吉谷は興奮冷めやらぬように、胸と腰を揺らめかし、憚らず水音と甘い鳴き声と嗚咽を聞かせた。
手も使わずに、達したばかりの濡れた股間をズボンに擦りつけて、熱く吐息して喘ぐなど、俺を意識しすぎて、視線だけで犯されているようとはいえ、吉谷の泣くさまはもっと痛々しく、俺も笑えなかった。
胸の奥底にじんじんと染みるような悲しみに耐えきれず、いつの間にか、ボイスレコーダーのスイッチを切っていたほどに。
その後は、予想通りに吉谷が二度目に達したと同時に気を失ったので、スマホで撮ってから後始末をしてやり、用意しておいた着替えを置いて、朝を迎える前に店を後にした。
いくつか想定外のことが起こり、「男が好き」との証言も得られなかったものを、喘ぎだらけの録音とあられもない写真が入手てきたのだから上出来だろうと、現場に向かうまでには気を持ち直していた。
まあ、無理にでも、気を持ち直さないわけにもいかなかった。
まだ撮影はつづくのだから、関係を気まずくならないよう、演技に響くような後腐れが残らないようにしなければならない。
ので、悪気なくマウンティングする犬のように装って「昨日は酔っぱらっていて覚えていない」「なんだか、エッチな夢を見た気がする」で無邪気に通そうと考えていたのだが、現場で顔を合わせた吉谷は、眉一つ動かさず澄ましていた。
前に茹蛸になったのが嘘のように「やあ、今日もよろしく」と女がいちころになりそうな爽やかな笑みを振りまき、すぐにスタッフに呼ばれて立ち去ってしまった。
俺が手間をかけるまでもなく、何事もなかったことにしてくれたのだから、ラッキーと思えばいいところ。
思わず手を伸ばして、その手首を捕まえそうになった。
馬鹿なと、自分に叱咤しつつも、口から跳びだしそうになった言葉を噛みしめるように歯ぎしりをした。
何を血迷ったか。
「あんた、俺のこと、好きだったんじゃないか」と口走りそうになるなんて。
表向きは、あの夜のことを忘れ去ったかに見せかけ、若いスタッフらとの飲み会についてこなくなり、ファンを装った貢物もやめた吉谷は、俺を避けだした。
仕事に差しさわりないように、親しげに接しつつも、忙しさを言い訳に身を遠ざけているのは明らかだった。
はじめは意外な吉谷の出方に戸惑い、騙されていると勘付いたのではないかと、疑いもした。
騙されたと吉谷が思ったにしろ、抗議をしたり責め立ててくることはなく、仕返しをするそぶりも見せなかった。
相変わらず、現場の縁の下の力持ち的なさりげないフォローをしている、その胸中は知れなかったが、マスコミに売れるネタを掴んだなら、もう用はないではないかと、考えるようになり、俺も俺で終盤に向かってドラマへ神経を注ぐことにした。
吉谷が心変わりしたとして、恋に煩わされなくなった分、芝居が研ぎ澄まされているようだから、結果オーライだろう。
「あんた、俺のこと、好きだったんじゃないか」と問い詰めたくなったのは一時の気の迷い。
あの夜に胸の奥底に染み渡った悲しみも、勘違いだったとして、それ以上、考えないようにした。
だから、撮影のクランクアップが熱気溢れ、涙を誘うような拍手で迎えられた後、一人、セットに残って佇んでいた吉谷の元にいったのは、未練があってではない。
あくまで、マスコミに売れるネタを求めてだった。
あまり期待していなかったものを、まんまと吉谷が思いを打ち明けた。
告白の割には、熱が欠ければ気が抜けたような物言いで、「見ているようで見ていなかった」とか他人事のように訳の分からないことをほざいていたが、「はじめて、恋ができたと思ったんだけどな。相手が男だろうと、関係ないと思って」との証言を得られたのだから、満点といえる。
「残念だよ」と言われたのに、これでは俺がフられたようではないかと、やや釈然としなかったとはいえ、ストーカーになられたり、自殺されるよりはましだろう。
と、却って都合がいいと思ったと、思っていた。
そう思いこもうとしていた。
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