スキャンダラスで破滅的な恋を

ルルオカ

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スキャンダラスで破滅的な恋を

犬飼の破滅的な恋⑦

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ドラマの脚本で何が一番、違和感があったかといえば、どら息子と箱入り娘のお守役の刑事のキャラ付けだった。

どら息子は根っからのぽんこつで、証拠に対して嗅覚が鋭い以外はお馬鹿。

箱入り娘は幼いころから、山ほどのミステリー小説を読んでいたこともあり、刑事顔負けに洞察力があり頭の回転が早いが、深窓の令嬢なので、基本、世間ずれした、やはりお馬鹿だ。

そりゃあ、お馬鹿二人がやり取りすると、噛み合わないし、お互い勘違いや誤解したまま話がそれてく。
デンパのような、お馬鹿な二人の話しぶりが笑えるとの定評もあるとはいえ、脚本家がそれに拘るあまり、本筋からずれて迷走したり、伏線でもないのに無駄な時間が費やされたりする。

結果、視聴者は飽きやすい。

飽きさせないには、まともな意見を述べたり、違った角度から物言いをする人間が要るのだが、その役割を担うはずのお守刑事は「やめてくださいよお」「お願いしますよお」と二人に言いなりで、だらしなく縋りつくばかりだ。

おそらく、脚本家はどら息子と箱入り娘のキャラが気に入って、お守刑事はどうでもいいのだろう。

どうも俳優としての吉谷をイメージしたようだから、要は世間が評価するような、没個性の取るに足らない人物に描いたかに思える。

主役二人がお馬鹿なら、脚本家もお馬鹿だ。
吉谷の上っ面しか見ないで世間的なイメージを鵜呑みにし、つまらない枠の中に収めようとは。

吉谷云々を置いといたとしても、お守刑事の立ち位置は決して凸凹コンビのおまけではなく、何なら凸凹コンビが脱線しやすいのなら、その手綱を握るストリーテラーのような重要なものではないのか。

そう、理論的に説得したとはいえ、携帯やメールで連絡したところで、仲介役のディレクターは頭を痛そうにしていたからに、先方の脚本家は中指を立てて、はねつけていたに違いない。

結局、お守刑事のキャラ付けの変更は受け入れられなかったものを、主役の俺の顔も立てるため、ディレクターは演出のほうに手を加えた。

前までは泣きついていたのを、「やめてください」と冷ややかに言い放ったり、「お願いしますよ」とやれやれというようにため息を吐かせたりと、少しずつお守刑事の印象を変えていった。
脚本には演技の指示まで書いていなかったから、その抜け穴をついての打開策だった。

もちろん、脚本家は「刑事はあんなキャラじゃない!」と抗議をしてきたものを、そのときには「いや、ですが、刑事の演技、ネットとかで評判がよくて」とディレクターはささやかながら、抵抗をしていた。

実際に巷やネットでは「お守刑事、急にどうした?」「MからSに目覚めたのか?」「お腹でも壊したか?」「奥さんに家を出ていかれたのか?」とネタにされながらも注目され、その多くが「前はお守刑事嫌いだったけど・・・」という好意的なものだった。

そうして分かりやすい成果が見られれば、脚本家もけちをつけにくい。
「多少はいいけど、気を付けてよ!」と負け惜しみを吐き捨て、電話を切られたとディレクターはほっとしたように、俺たちに報告をしたもので。

脚本家のお許しをもらえたこと、世間で良いほうの反響を得たことで、ドラマでのお守刑事の存在感は増していき、バディでなくトリオのバランスが取れた関係が根付くようになって、その成果が視聴率やツイート数に反映されていった。

脚本は完璧で隙がないと、一言の訂正も許さないほど自負していた脚本家は、内心、変更によってドラマの評価が落ちればいいと、思っていたのだろう。

残念ながら、思う通りにはならず、変更が功を奏した状況を、とうとう見ていられなくなったらしく、降板を申しでてきた。

「似非プードル」と蔑んでいた俺の功績が少なくないとなれば、尚更、耐えられなかったようで、現場はてんやわんやになったものを、俺は内心、打ち負かした痛快さを噛みしめていたものだ。

最後まで自分本位だった脚本家は、でも、新たに担った脚本家に、最終回までの筋書きのメモを渡したという。

大筋はほとんど書かれているらしく「俺は、細かいところを詰めるだけかな」と現場で挨拶をしてきた脚本家は人懐こく笑ってみせ、「キャラなんかは演者の人のほうが掴んでいるだろうから、どんどん意見を言ってもらえれば」と腰を低くして申しでてくれた。

その後、新脚本家は有言実行に現場にちょくちょく赴き、ディレクターと直接、話し合い、俳優にも自ら意見を聞いて回っていた。

途中で交代になったせいもあるのだろうが、現場にほとんど顔をださず、神経質で扱いにくかった脚本家とはタイプが違うようだった。

どちらが良いか悪いかの評価はさておき、今の脚本家のほうが現場を苛立たせることなく、段取りを滞らせることもなく、何より、五月蠅い俺の相手をしてくれたから、有名脚本家の急な降板後もごたつくことはなかった。

むしろ「今の脚本家のほうが、見やすい」「前よりもっと、キャラが生き生きしている」と無名の脚本家は株を上げたかもしれない。

前の脚本家がいなくなったことで現場の風通しがよくなり、ドラマの評判も上々となれば、そりゃあ、「ざまあみろ」と極楽気分だったものを、一つ、計算違いをしていた。

そう、にっくき吉谷の株まで上げてしまったことだ。

ツイッターなどを覗いてみると、ドラマを褒めるのに吉谷の演技が取りあげているのが多く「吉谷にこんな演技ができたのか!」「冴えない役しかできないと思ったら!」との感想が目立った。

芸歴二十年なら、今更、演技の幅があるのに驚くものでもないと思うが、これまで吉谷は自身に似た役ばかり演じていたからだろう。

また、オファーするほうが使い勝手の良さを重宝するだけで、俳優としての底力を引きだそうとしなかったせいもあると思う。

はからずも、敵に塩を贈るように、俺が吉谷の芸歴に見合った実力を世間に知らしめてしまったわけだが、お守刑事が引き立たないことにはドラマの良さが半減するので、まあ、好評ぶりは不本意でも仕方ない。
気に食わないのは、主役の俺様を引き合いに吉谷如きが褒められることだった。

たとえば「犬飼はイメージ通りなのに比べて、吉谷は意外性があっていい」とか「吉谷の演技を見ていると、犬飼のは演技に思えない」とか。

いやいや、プードル系男子として愛想を振りまき、バラエティ番組で見せている阿呆っぽい犬ぶりが、そもそも演技だから。
演技を素だと見て「演技してないじゃん」と批評するのは、てめえの目が節穴なだけだから。

と、まだ好感度を気にしなければならない弱い立場にあっては、言えず。

いや、分かっている。
俺がプードル系男子として若い女にちやほやされるのが、妬ましい男どもの負け犬の遠吠えでしかないということは。

前から、そういったアンチはいたから、脳の腐ったそいつらが、吉谷の評判が良くなってきたのを、俺への攻撃材料に利用しているにのに過ぎず、決して公平な評価をしているわけではないことも。
分かりきっていたが、それにしたって、吉谷の引き立て役にさせられているような現状に、フラストレーションを溜めずにはいられなかった。

予定では、吉谷が引き立て役になって俺を一際、輝かせ、そうして視聴者にあらためて演技力を認められるのは俺だったはずと思えば、余計だ。

何より、俺を苛立たせたのは、俺自身だった。

お守刑事が好評になってきて、今更に自覚させられた。
いくら偏屈な勘違い有名脚本家が目障りだったとはいえ、「吉谷を表面上しか見ないで世間的なイメージを鵜呑みにし、つまらない枠の中に収めようとは」と考えるなんて、どうかしていた。

気づかぬうちに、俺は吉谷に絆されていたとでもいうのか。
好意を利用して騙して、からかって、憂さ晴らしをしていたのではないのか。

これでは、逆に俺が騙されているかのように、吉谷が有利になるよう働いていて、おまけに鬱憤を溜めているではないか。

脚本家がお馬鹿なら、俺もお馬鹿だ。

そう気づいたところで、ドラマが盛り上がっている真っ最中に、吉谷を貶めることなんて、できるわけがない。

俺が仕向けたのだし、悔しくはあるが、お守刑事の活躍次第でドラマのできは左右される。
俺が主役のドラマとなれば、その成功か否かが自分の評価に直結しやすいのだから、吉谷には引きつづき人気を支えてほしい。

だが、本音では、今すぐにでも吉谷が俺に好意を寄せていることを暴露して、キャリアも地位もどん底に叩き落し、俺がこれからのし上がっていく予定の芸能界から追いだしたいところ。

そう、握っていた吉谷の弱みさえ、ドラマが終盤に差しかかってきて、有効に思えなくなっていた。

吉谷が童貞のアイドルオタクみたいに、遠くから見惚れて貢ばかりで、すこしも距離を縮めてこようとしなうからだ。

見栄を張ったり、庇ったり助言したり、他の奴よりほんの贔屓している程度だし、共演者として接する以上にアプローチしてこないし、若いスタッフらとの飲み会についてきても、「二人でゆっくりと」と誘ってくることもないし。

まさか、「陰から見ているだけでいい」「この思いは墓場まで持っていく」と童貞的思考をこじらせているのではあるまいか。

そうでなくても、周りの配慮を欠かさない吉谷のことだから、ドラマの肝心な主役の精神を不安定にさせまいと、気を付けているのかもしれない(すでに好意はばれているのだが)。

吉谷の絶対的な弱みを掴んだ気になって、得意になっていたせいか、相手が沈黙を保つ可能性があるのを失念していた。

ドラマの放送が終わり、もう影響がないだろうという時機を見計らって告白してくる可能性もあったが、確実でないなら意味はない。
男が男に告白したと分かる、決定的な場面を録音か録画して、マスコミに売りつけるという俺の予定が狂う。

つかず離れずの距離感を保って接する吉谷を見ていると、どうも墓場行きになるように思えて、俺は焦ったし、無性に苛立ちもした。
俺が好きなのではないかと。

憂さ晴らしの対象のはずの相手に、そうやって苛立たされるのが、さらに苛ただしかった。

苛立ちの悪循環に陥った俺は、はけ口を求めて、そして今のうちにマスコミに売る材料を手にしておきたくて、童貞臭くうじうじしている吉谷に、こちらから、やや強引にアプローチをすることにした。





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