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まじでキスをする五秒まえに先輩は聞かずにいられない
しおりを挟む日本史の先生に頼まれて、歴史準備室に資料を片づけにいったところ。
ドアを開けて、男子生徒と女子生徒が抱きあいチュッチュしているのを目撃。
目を見張り硬直しつつ「うわあ、いやだなあ」とげんなりしたもので。
これほどではないが、男女がいちゃついて通路を塞いだり、棚のまえを占拠したり、なんてことは、ままある。
で「ちょっと、すいません」と声をかけると「なに見てんだゴラあ」と睨まれたり「やだあ」と笑われたり。
すくなくとも「ああ、ごめん」「どうぞ」とまともな対応をされた覚えがない。
にがい記憶があるに、音を立てず扉を閉めたいところなれど、早く帰宅したくもある。
遠回りする、欲しい商品をあきらめるといった妥協をするのは、もう、こりごりだし。
どうせ不愉快にさせるなら、思いきったほうがいいと「資料を片づけたいんですけど!」と声を張りあげた。
悲鳴をあげた女子は「空気読みなさいよ」とばかり涙目で訴えて去っていったが、男子、上履きの色からして先輩はにやにや。
やおら近寄って「あーあ、いいところだったのに」と言葉とは裏腹に、俺の首に腕を回し、顔を接近。
お互いの鼻先がつきそうなところで止まり「おまえが、代わりに相手してくれる?」と囁いて。
ぎょっとしつつ「そんな漫画みたいな台詞、現実に口にする人いるんかい」と興味津々に見かえしてしまい。
逃げずに、突き放しもせず、このままでは唇を奪われそうだったが、寸ででとどまった先輩曰く。
「俺のこと、きらいか?」
この状況でその台詞?
「やっぱり漫画のような存在だな」と感心するような呆れるような。
危機的状況なれど肩の力がぬけて、率直な思いを口に。
「きらいじゃないですけど、鬱陶しいです」
とたんに噴きだした先輩は、俺の持つ資料を取ると「わるかったな。これ、ここでいいのか?」と資料を片づけてくれたもので。
翌日から、休み時間のたびに先輩がクラスにきて、俺にべったり。
どうも先輩は悪評が絶えない人らしく「おまえ、だいじょうぶか?」とまわは心配しきり。
耳にはいる悪評に、動揺しないでもなかったが、拒否することも逃げることもせず。
だって、先輩は棚のまえを塞いだことに逆ギレしなかったから。
たったそれだけのことでも、すこし俺は救われたし、先輩をきらいになれなかった。
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