セーラー服を着させないで

ルルオカ

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野球のおかげで、大分、セーラ服から意識を逸らせたものの、問題は学校だった。

小学校は私服だったし、女子のズボン率が高かったから、助かったとはいえ、残念ながら、校区の中学校は学ラン、セーラー服指定だった。

幼稚園のころから、セーラー服と遭遇しないよう、気をつけていて、遠くでも見かけたなら、全身全霊で逃げていたほどだ。
セーラー服アレルギーといっていい俺が、狭い教室に女子と閉じこめられて、耐えられるとは思えなかった。

義務教育では免れようがないかに思えたものの、小学三年で入れ知恵をした俺は、早くも親に申し入れた。

私立のエスカレーター式、男子校への進学の希望を、だ。

男子校、加えて、エスカレーター式なのは、セーラー服だけでなく、女子も遠ざけたかった俺に、うってつけだった。

思春期に突入したら、異性を意識しだし、同時に性的な興味や意欲が高まってくる。
大人になるためには、その段階を越えないといけないが、俺には、「生まれたときから、父親がセーラー服を着ていた」というネックがある。

そのことが、性の成熟にどう作用するか、分かったものではない。

最悪、セーラー服姿の男に欲情したり、自らセーラー服姿になって勃起したりするかもしれない。
と、考えれば、大人への階段を上るのを、思い留まりたくもなるだろう。

といって、足踏みしたら、したで、性の成熟に支障がでて、後々大変な目に合うようにも思えた。
男子校に入り浸って、女子と没交渉になるのも、リスクがあるかもしれないと。

気になった俺は、小学生ながらに、調べられるだけ調べてみた。
結果、「大学生になって精通した人が、いなくもない」との統計があるのを、見つけた。

統計の解説によると、性の成熟の過程については、個人差があり、遅くても差支えがないという。

また、読んだ本には「逆に、身も心も未熟な時期に、盛んに異性と接触し、やたらと性衝動を誘発させないほうがいい」との一説があり、その言葉に習って、中学、高校は冷却期間にしようと、決めた。

家をでるつもりの、大学生になってから慣らしていこうと、先々のことまで、計画したもので。

他に方法がないでもなかった。
男子校の寮に入ることだ。

寮に入れば、大学進学まで待たずに、性の成熟へ踏みだすことができる。

ただ、通えなくもない距離にある学校の、寮に入る必要性を、親に訴えるのは難しく、元より、俺は大学進学するまで、家を離れるつもりがなかった。

というか、義男から離れるつもりがなかった。

義男は隣家の息子で、同い年の幼馴染だった。
そもそも、隣家の両親は、父親の高校のころの友人で、渡米後も連絡を取り合い、親しくしていた。

帰国するときに「隣の借家が空いているけど、どお?」と紹介してくれ、俺たちは引っ越してきたというわけ。

同じ年に、両家の息子が生まれたとあって、より家族ぐるみでの交流が盛んになり、俺と義男は兄弟のように育てられた。

昔から、義男は気がよく、よすぎるせいで、割を食うことが多く、見兼ねて俺が、手を差し伸べることが多かった。

そんな兄貴分のつもりでいた俺に、同い年ながら、手を引かれるまま、屈託なさそうに慕ってくれた義男。
弟というよりは、犬のように愛らしくあり、そして、俺の真の理解者でもあった。

セーラー服姿の父親と生活して、何事もなかったわけではない。

小学校のころ、同級生に追いかけ回され、「お前の親父、頭おかしい」「お前も、家でセーラー服着ているんだろ」とからかい尽くされたことがある。
対して俺は無反応を通した。

むきになれば、相手の思うつぼと、心得ていたのもあるし、父親の耳に入るのを、阻止したかったのだ(一度、学校から呼びだしを食らったことがあるが、母親は秘密にしてくれた)。

知ったなら、「俺のせいだ」と自身を責めるのは分かっていたから。

もちろん、教師などの周りの大人にちくったり、助けを請わなかった。

しかたなかったとはいえ、そうすることで相手を冗長させたのは否めない。
「あいつをイジメても、怒られて罰を受けることはない」と。

たちが悪かった奴は、三人だけだったが、小学校高学年から中学に上がるまで、飽きもせず、つきまとってきた。
病的といっていい、しつこさに、俺自身、辟易したし、義男が巻きこまれるのを、何より、心配した。

ので、学校ではクラスが違っていたこともあり、なるべく顔を合わせないようにし、下校した後は外で遊ばず、お互いの家を行ききしていた。

が、ストーカーじみた奴らは、とうとう家まで押しかけ、ちょうど、玄関で義男を迎えいれようとしたときに、門の向こうから「家ではセーラー服を着てんだろ!見せてみろよ!」「親子でセーラー服姿で並んでみろよ!」と叫んできた。

怒りは二の次に、在宅の母親の耳に届かせまいと思い、玄関の扉を閉めようとしたのだが、義男は家に入ってこないで、やおら奴らの元へ歩いていった。

そして、少し腰が引けながらも、身がまえる相手に告げた。

「お父さんが着たくて着ていて、ヒロちゃんは着たくないから着ていないだけだよ。
それの何が悪いの?」

それまでも義男に庇護的だった俺だが、この言葉を聞いたとき、「一生、傍にいて守ろう」とあらためて、決意を新たにした。

その思いがあるから、寮暮らしは望まないし、同じ大学にいき、近くに住むか同居するつもりでいる。
寮暮らしをすれば、禁欲を科さないでよくなるものの、義男とは離れ離れになっては、元も子もない。

まあ、俺が校区の中学や、共学の高校にいければ、手っ取り早いのだが。

それが、できなかったのは、ひとえに俺の精神のもろさと、根性のなさのせいだ。

「一生、傍にいて守ろう」などと、どの口がと、自分でも呆れるとはいえ、同じところに行くと約束した、大学進学までの修行と考え、日々、異性に心乱されないよう精進している。

男子校にいては、若い女性教師もいなく、精進するまでもない。
わけでもなく、入部した野球部では、求める以上に根性を叩き直された。

野球の技術や、身体能力の向上ではなく、「精神鍛錬」を主目的にしている我が野球部では、朝練から放課後の活動まで、息つく間もなく、一時間うさぎ跳びとか、旋回素振りとか、やたらと非効率な練習をさせられる。

坊主強制、私語笑顔無用で、おまけに「異性交流厳禁」なんて、理不尽な強要をしてくる始末。
そのくせ野球部としては弱小で、予選の一回戦を突破したこともないものの、部員は少なくない。

男子校の生徒は、リア充と非リア充とむっつり助平の、おおまかに三種類に分けられる。
野球部員の大半を、むっつり助平が占めていた。

彼女がいなく、リア充を羨んでいる点で、非リア充とむっつり助平は同じだが、非リア充は実物の代わり(アイドルやアニメなど)を求めるのに対し、むっつり助平は「浮ついた奴らめ!」と強がり、代わりを求めるのを卑しいと考え、グラビアの写真も見まいとする、もっとややこしい連中だ。

「実物の女よりいい」とアイドルに、お熱になる非リア充より、妬みは深く、ひねくれている分、「異性交流厳禁」で「精神鍛錬」する野球部にのめりこんでしまうわけだ。

「野球部以外の奴は、なっていない」との思いが強いせいか、他の部より、とびぬけて結束を固くし、それはいいとして、同調圧力も強いのが困りものだった。

比べれば、異性への情操をこじらせていない俺は、他校生の女子が応援にくる(インターハイに出場経験あり)サッカー部に、「けっ、あんな女にうつつを抜かしてたら、怪我をするぜ」と野球部員が唾を吐くのに、ついていけないことがある。

根が悪い奴らではないし、もう女を敵視するほどに頑なでいてくれて、部室にグラビアの雑誌やエロ本を、絶対に持ちこまないし、「どの女がタイプ?」と見せつけてこないから、その点では頼もしく思っている。
が、口酸っぱいながら、俺は下手の横好きではないし、マゾでもない。

心がまえが半端だからか、拷問まがいの練習をする傍で、部員のかけ声に込められる、妬み嫉みが練りこまれた怨念を当てられては、ひどく参ってしまう。

夜遅く帰宅するころには、悪霊に憑りつかれたように、肩を重くし憔悴しきっているが、義男を一目見れば、あっという間に浄化された。

帰宅してから、ベランダ越しの三十分、義男と顔を合わせ、言葉を交わすことが、必要以上の禁欲を強いられる日々の、唯一のはけ口となっている。





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