セーラー服を着させないで

ルルオカ

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小学校から付き合いのある奴らは、見た目の急変に呆気にとられながらも、一旦、口を開けば、変わらぬチワワぶりとあって、大袈裟に扱わないでくれた。
やらかしてくれたのは、他の小学校出身の奴らだった。

入学式の式典を終えて早々、教室で義男は、その類の女子に取り囲まれたらしい。
 
今までにないクラスメイト、しかも女子のもてはやしぶりに、困惑しながらも、人のいい義男は、いつものように懐っこく、尻尾を振ってみせた。
とたんに、姦しい女子らが一斉に口をつぐみ、内一人の、リーダー格が鼻で笑ったのだとか。

「え、なに、その見た目でキモッ」と。

翌日から、義男は中学校に行けなくなってしまった。
 
不登校になっても、部屋には閉じこもらずに、親や俺の前では快活にふるまっていたが、事情を打ち明けようとはしなかった。
のに、どうして、俺が詳細を知っていのるかというと、同じ小学校出身の友人に、教えてもらったからだ。

元より、友人には「俺の代わりに、なるべく義男の傍にいてやってくれ」と頼んでいた。
そう任されていたにも関わらず、あのときは取り囲む女子に阻まれ、近寄れなかったという友人は、「悪い」と頭を垂れたとはいえ、俺は責めなかった。

義男が口を割らないとあっては、報告してくれるだけでも、ありがたかったし、責められるべきは、俺だったし。

義男の見た目からして、女子が放っておかないだろうことは、分かりきっていたはずが、まったく失念していた。

これまで女子に、異性として意識されることがなかった義男が(今までは犬可愛がりされていた)、早い成長期を迎えたからといって、状況が一変することはなかろうと、高を括っていたのだ。

なにかと、義男に盲目的な俺は、変貌ぶりも度外視していたのだと思う。
「縦に伸びようが横に伸びようが、義男は義男だろ」と。
 
まともな状況判断ができなかったという以前に、「俺が傍にいてやれなかったせい」とこの一言に尽きる。

目をぎらつかせた女子だろうと、俺なら勇んで義男を背にして立ちはだかり「キモいのお前だ!その腐った舌を切ってやる!」とたしなめられたはずだ。
と考えると、「やはり、学校を別にしないほうがよかったのでは」と後悔されてやまなかった。

とはいえ、(義男は受験したがったが)義男を男子校という名の肥溜めに、入れさせるわけにはいかなかったし 、俺の都合で、お供をさせるなんて、もっての外だった。

結局のところ、中学校で別れたのは、どうしてもセーラー服案件に妥協できなかった俺のせいだ。
舌が腐った女子の毒牙にかかってしまったのも、運が悪かったのではなく、俺に責任がある。

「この役立たずめ」と自分をいくら責めたとて有意義ではないので、実質的に責任を取ろうとした。

できたら、男子校から義男の通う学校に転入したかったが、同じクラスになれるとは限らないし、第一、舌が腐った女子がいる限り、義男は学校に行けないだろう。

ぶっちゃけ、学校に行きたくないというのなら、それでも、かまわなかったとはいえ(引きこもっても、稼げるようになったら、俺が養えばいいし)、生真面目な義男は、「さぼるのはいけない」「親に迷惑をかけてしまう」と不登校を望まないのを分かっていた。

頭をひねりにひねって、まだ子供の自分には、手に余ることと判断した俺は、義男の両親に相談を持ちかけた。
話し合いの末、浮上した案が、ある私立中学校への転入だ。

その中学校はすこし遠いが、訳ありの生徒を受けいれる体制をとっていて、義男のように、入学初日でつまずいの、半端な時期に転入する生徒も少なくない、とのことだった。

似たもの同士の生徒がいるなら、深手を負った義男を、さらに踏みにじることはなく、何なら労わってくれるだろうと、考えらるあたりも悪くなかった。

後は義男が、その気になるだけ。

「元の学校に戻るべきで、転入するなんて甘えだ(義男の両親は迷惑に思っていたいのに)」と突っぱねる義男を、説得するのには骨を折ったが、「俺は、お前と、同じ大学に行きたい」と諦めずに、手を握りしめ、せつせつと訴えかけた。

「だから、どんな形でもいいから学校に通ってほしい」とつづければ、「俺もヒロちゃんと、大学に行きたい」とようやく、折れかかったものを、こうも告げた。

「でも、俺といると、ヒロちゃんも笑われるよ」と。

人によっては、「たかが女子の一言で、気にしすぎだ」とあしらうかもしれない。
「こんなイケメンが、見惚れられることがあっても、笑われるなんて、とんでもない」と一笑に付すかもしれない。

が、俺は、義男が気にするのを、ないがしろにしたくなかったし、笑って済ませたくもなかった。

「でも、僕といると、ヒロちゃんも笑われるよ」と気兼ねするのを踏まえた上で「だったら、笑われないようにすればいい」と人差し指を突きつけた。

「きついかもしれないけど、できるだけ口を利かないで、むっとした顔をするんだ。
ただ、人が声をかけてきたら、ちゃんと振り返ったり、目を向けたり、肯いたり、反応すること。

お前はもともと、慕われやすい奴だから、すこしくらい不愛想にしたって、嫌われやしない。
むしろ、そっちのほうが、キャラにあっているって周りは思って、変なちょっかいを、かけてこないはずだ」

義男は目を丸くしたものを、「でも、皆を騙すようで悪いよ」とすぐに眉尻を下げた。
「悪いと思わせるのは、俺も嫌だ」と肯きつつ、「でも」と両肩に両手を置き、額をつけて見つめた。

「お前が、周りに馬鹿にされるのは、もっと嫌だ。
どうか俺のためと思って、皆を騙してでも、自分を守ってくれないか」
 
「うまくできるか、分からないけど」と目を泳がせながらも肯いたからに、その日から、シェパードになりきる練習を重ねた。
で、迎えた転入初日。

気が気でなかった俺は、部活を休んでまで隣家の前で待ちわびていたのだが、帰宅してきた義男は、疲れの色を見せながらも、暗い顔をしていなかった。

俺に気づいたなら、逆立てていた眉をハの字にして、泣きそうに顔をひしゃげつつ、笑いかけたもので。

「皆、優しかったし、俺も正直、黙ったままでいるほうが、気が楽だったよ」
 
俺の見込み通り、転入先に、たちの悪い奴はいなかったのだろう。
転入初日をどうにかやり過ごし、そのまま支障なく、クラスに溶けこめたようだ。



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