8 / 21
八
しおりを挟むそれ以降、ベランダ越しに学校生活について聞く限り、高校進学してからも、いまだに見た目も中身もシェパードのふりを、やめられずにいるらしい。
本性のチワワを、お披露目できずにいることを義男は気にしているとはいえ、俺はてんで問題視していなかった。
共に大学に行けば、元通りになるだろうと、考えていたし。
まあ、俺のように義男が呑気でいられないのは、仕方ないことだ。
中学の入学式のあの件があって以来、女子を見る目が変わってしまったのだから。
義男が語るには、学校やクラスで、男子は和気藹々と接してくれるが、女子は近寄りがたそうにし、ほとんど口を利かないとのこと。
「そうだよね。俺、黙っていると怖いよね」と肩を落とす義男は見誤っている。
女子の場合「遠巻きにしている=疎ましがっている」とは限らない。
寄りつかないのは、女子同士、出方を窺ったり、牽制したり、かけひきしたりして、踏みだせないでいる、とも考えられる。
要は、ひそかに思い慕っている女子が多くいるわけだ。
見た目がシェパードなイケメンで、剣道で鍛えた肉体を誇っていれば、見惚れられて当たり前で、「お前、隅に置けないな」と男子にも、さぞ冷やかされているだろうに、義男は真に受けようとしない。
かつての女子の一言、「キモ」が、頭から放れないせいだろう。
このままでは、女性不振に陥り、抜けだせなくなりそうとはいえ、やはり俺は心配していなかった。
むしろ。
駅の近くまできて、慌てたように義男は手を放した。
隣を見上げれば、血色がよかった頬を、すっかり青ざめさせ、下げていた眉尻を逆立てている。
「ははあ」と駅のほうに目をやったところで、案の定、駅の階段付近に女子高生二人が立っていた。
義男が通う、学校指定の制服を着ている。
「ごめん、ヒロちゃん」と階段のほうを見たまま、謝ってきたのに、首を振り「大丈夫か」と聞いた。
口をへの字にしつつ、肯いたなら、俺を置き去りに肩を怒らせ、階段のほうに歩いていく。
女子高生は、義男が近づいてくると、一歩退き背を向けたものを、階段を上っていって少しもせず、きゃっきゃと追いかけていった。
どう見ても、女子高生の追っかけだが、義男にすれば「あいつ無視したよ」「態度悪い」と背後から囁かれ、追いつめられているようなのだろう。
悪気がないといっても、朝から義男に精神的負担をかけた時点で、マイナス。
黒髪で化粧が濃くないのはいいとして、短いスカート丈はいただけない。
見た目だけでは、人となりを判断しきれないといっても、性格がいいとは、思えなかった。
女子と口を利かない義男が、乗車駅を教えるわけがないから、あの二人は自ら、調べてきたのだ。
ストーカー気質が窺えるのはまったくよろしくないし、さりげなく同じホームに立つなら、まだしも、これ見よがしに待ち伏せする、押しつけがましい女は、お呼びではない。
こうして俺は、寄りつく女を値踏みしたり、学校生活について聞いて、悪い虫がついていないか、探るのに余念がない。
お節介かもしれないが、なにも、義男の周りから、すべての女を排除したいわけではない。
見た目はシェパード、中身はチワワなギャップに「キモ」とけちをつけるような、なっていない女が多いから、見極めるのに、手を抜きたくはないのだ。
義男と同じくらい実直でつつましく、懐が深い女でないと、俺は歓迎しない。
義男が惚れようとも、何が何でも、ふさわしくない女は退けてやるつもりだった。
「とりあえず、あの二人は要注意リスト入りだな」と手に持つスマホを見た。
義男の顔色が変わった時点で、ポケットからスマホをだし、大体の狙いをつけて、女子高生にレンズを向けたのだが、画像はぼやけつつも、何とか顔を識別できそうだ。
「もし、家まで押しかけてきたら、警察に通報してやる」と自分の隠し撮りの犯罪性を自覚しつつも棚に上げて、スマホの画面を睨みつけてやった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 同棲
蔵屋
BL
どのくらい時間が経ったんだろう
明るい日差しの眩しさで目覚めた。大輝は
翔の部屋でかなり眠っていたようだ。
翔は大輝に言った。
「ねぇ、考えて欲しいことがあるんだ。」
「なんだい?」
「一緒に生活しない!」
二人は一緒に生活することが出来る
のか?
『同棲』、そんな二人の物語を
お楽しみ下さい。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる