セーラー服を着させないで

ルルオカ

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十七

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ついに俺は、セーラー服姿の義男に勃起した。

いや、前に勃起はしなかったものを、寝ているときに、アダルトビデオの音声を聞かされた、その時点で、すでに、性欲とセーラー服姿の義男が結びつけられたに違いない。

あのとき、早めに目覚めていたならと、悔やまれるとはいえ、アダルトビデオの音声のせいだけでは、ないのかもしれない。

音声を聞かされなかったら、セーラー服姿の義男の淫夢を見るのを避けられたとも、限らないように思う。

目に焼つけ、脳に刻んだものを消し去るのは、はじめから、不可能だったのではないか。

セーラー服姿の義男を可憐と思ったなら、尚のこと、むしろ俺は、記憶に留めようとしていたのではないか。

俺には、そのつもりがないとはいえ、それは「おかず」にするということだろう。

異性や性的なことを絶っていたからこそ、その反動でセーラー服姿の義男に全神経がそそがれることにもなったのだろう。

その源に、恋愛感情があるのかは分からない。
が、「義男を一生守りたい」とプロポーズじみた言葉を、口にしたことはなくても、義男に捧げるのも辞さないほどの思いがあるのなら、分けて考えなくていいのかもしれない。

恋愛感情と遜色ない思いがある以上、性欲を切り離しにくい。

異性に目移りしない俺は、もっと質が悪い。

要は、傍にいる限り、確率高く、セーラー服姿の義男をおかずにする、ということだ。

まだ夢を見ただけで精通を果たしていないから、後戻りできる可能性もある。
ただ、義男と縁を切るのが必須となる。

義男のセーラー服を見たが最後、選択肢は二つしかなかった。

セーラ服姿の義男を、おかずにするか。

義男と今生の別れを告げるか。

前者の道を選べば、セーラー服姿の父親に育てられたのが一因でフェチになったことを、認めざるをえず、認めたくなくても、人から指摘されて否定できない立場になる。

俺はずっと、そうなることを恐れていた。

とくに「血を争えない変態」と人に後ろ指を差されるのを、何としても阻止したかった。

血を争えない変態ではないと世間様に証明するには、変哲なく交際し、結婚し、家庭を作るしかない。
セーラー服姿の義男は、平凡な道を歩もうとするのを阻む存在だ。

とはいえ、結局のところ、俺のほうが義男と離れたくなく、そのことを第一に考えるなら、端から迷うことはなかったのだ。

世間様の顔色を窺って、義男と離れ離れになるなんて馬鹿げている。

もちろん、俺がよくても、義男がセーラー服姿の自分がおかずにされるのを、不快がるかもしれない。

「セーラー服姿の父親の息子に、好意を寄せられるなんて」と世間から白い目を向けられるのに、耐えられないかもしれない。

だとしたら、身を引くつもりでいるとはいえ、セーラー服を着てから、ずっと気兼ねしているだろう義男に「セーラー服が似合っていて、かわいい」と伝えないことには、なにもはじまらない。

電車から跳びおり、乗車中、貧乏揺すり堪えていた反動で、がむしゃらに走っていき、そのまま学校まで突っきった。

このご時世にあって、学校は無防備にも、くるもの拒まずとばかり、オープンになっていたから、血眼になって駆けこんでも校門で捕まることはなかった。

といっても、一応、小走りになって校門を抜け、呼吸が整ってきたところで、在校生に道場の居場所を聞きだし、まっしぐらに向かった。

辿りついてみると、道場の扉は開けっ放しになって、外まで人が溢れかえっていた。

ただ、ひしめき合う生徒らは歓声をあたりしていなく、しきりに顔を見合わせ、ざわめいていて、後列にいる女子生徒に「どうしたの」と聞けば、「義男君が中々、でてこなくて」と。

女装して剣道の試合をするという、企画のユニークに惹かれて、多くが足を運びながらも、彼女の口ぶりからして、大方が義男の女装目当てなのだろう。

クールでイケメンな義男を、ただでさえ女子は放っておかない。
女装見たさとなれば、押し寄せてくるのは想像に容易い。

だから、剣道部の連中は、義男の家まで押しかけ、脅してまで、引っぱりだそうとしたのだ。

群れの女子率が高いあたり、剣道部のアピールもありつつ、義男を餌に、おこぼれにあずかるのが部員の魂胆と見える。

「すこしは我が野球部を見習え、この不埒な輩め!」と内心、舌打ちしてから、女子生徒に剣道部の更衣室の場所を聞き、道場の人混みをかき分ける暇を惜しみ、外から回った。

彼女曰く、更衣室は道場内の一室で、室内と外から入れる扉があるとのこと。

どちらの扉の前にも見張りが立っているとも教えてくれ、扉付近に行けば、なるほど見張りにはうってつけに、ナース服を着た、ゴリラのような、しかめつらしい男が、竹刀を地面に突き立て、仁王立ちをしていた。

近づくと、竹刀を振り下ろしてきたものを、駆け足をとめず「おい!大変だ!」と大袈裟な手ぶりを交えて喚いた。

「あまりに待たせるもんだから、女子たちが暴れだして、ついにはキャットファイトまではじめたぞ!

それはそれで、盛り上がっているが、先生に知られたら、中止にさせられるんじゃないか!?
早く、とめに行けよ!」

急ごしらえにでっちあげた、お粗末な嘘を吹いたものだが、更衣室から揉めている物音がするは、道場でも揉めていると聞かされるはで、焦ったナース姿のゴリラは、聞く耳を持ってくれたらしい。

更衣室のほうに振り向きつつ、取り込み中で当てにできないと踏んだのか、竹刀を肩にかけて、道場のほうに向かった。

後を追わずとも、振り返ったり足を止めることなく、道場の角を曲がっていった。
背中が消えたのを見届けてから、俄然、更衣室の扉を開け放って「義男!」と室内に踏みこむ。

とたんに、先まで聞こえていた物音が失せて、メイド、ウェイトレス、アイドル、OL、芸子、婦警、サザエさん(?)と、あらゆる女装をした大柄でごついゴリラどもが、一斉に振りむいた。

剣道部の女装ゴリラ軍団が埋め尽くす、息が詰まるような室内にあって、義男だけが制服姿で、泣きながら、何かをひしと胸に抱いている。

抱いているのは、セーラー服だ。

脅されて道場まで赴いたものを、この期に及んで、どうしても踏ん切りがつかず、頑なに縮こまっているのだろう。
セーラー服を着たら、俺を裏切ることになると思って。

本当に俺は馬鹿だ。
義男の脅される弱みになるは、義男に要らぬ世話をかけて泣かせるは。

「義男!俺はお前がセーラー服を着ても、絶対に嫌いにならない!
絶対にだ!」

「その上で」お前はどうしたいと、聞こうとして、義男が前のめりに口を開こうとしたのを、サザエさんが肩を掴み、手で口を塞いだ。
「お前!」と踏みだそうとしたが、ウェイトレスとOLの腕に阻まれる。

女装ゴリラどもは、突然の殴りこみに、さほど動じてはいなく、こちらが結婚式で花嫁を掻っ攫いにきた男のようなものと、察しがついているらしい。

俺をだしに義男を脅したくらいだから、勘がいい奴なんかは、「なんだ」と鼻を鳴らしたもので。

「こいつ、例のセーラー服を着た、中年男の息子じゃねえ?」

とたんに義男が「うー!」と唸るも虚しく、女装ゴリラ軍団は「あー」と肯く。

とはいえ、「え?だからって?」「どうして、止めにきたんだ?」「ていうか、さっきの発言なに?」と正体が分かっても、剣道部に喧嘩を売りにまできた動機が、解せない模様。

そうして首をひねっているうちに、どうにか隙をついて、義男を奪還できないかと、辺りに目を走らせ、考えを巡らせていたものを、そう経たずに「なになに?」とからかってきた。
小学生のころ、父親がらみで、どこまでも愚弄してきた同級生と、似たような調子で、だ。

「セーラー服姿の父親なんかに育てられたから、セーラー服を着た義男に興奮しちゃうわけ?
で、俺らも同じようになるとでも思ったのか?」

「うー!うー!」ともがきだした義男を、サザエさんと芸子が押さえつける。

けしからん行為だが、茶番をとっとと終わらせたく、どっと笑いが起きたのに、歯軋りしつつも、口を閉ざしていた。
図星をつかれたと見られたようで「マジかよ」と目の前のOLがせせら笑う。

「お前、セーラー服姿の義男に勃起するわけ?」

にやつくOLを睨みつけながらも「そうだよ」と目を逸らさずに、告げる。

冗談ぽっくなければ、やけになったようでもない、腰を据えた物言いに、女装ゴリラ軍団はやや怯んだようなものを、「うっわ、まじかよ」と目の前のもう一人、ウェイトレスがおちゃらけて、自らの肩を抱き、退いた。

「お前、父親のセーラー服姿でも勃起すんじゃねえの?キッモ!」

「キッモ!」と口にしたのとほぼ同時に、がたんと、物音が立った。

義男が立ち上がるついでに腕を振り、押さえつけていた二人に尻もちをつかせたらしい。

焦点の合っていない目をした義男は、怒るのを越して理性をとばしているようで、触らぬ神に祟りなしとばかり、ただならない、威圧感を覚えてか、女装ゴリラどもが後ずさる。

不敬な婦警がまた、肩を掴もうとしたところ、すかさず顔を向けて、顎を反らし、頭突きをかました。
「ごっ」と頭蓋骨がびりびり痺れるような、打撃の音がしたなら、白目を剥いたまま倒れていく婦警。

床に背中を打ちつけ、失神してはいないだろうが、びくともしないのを、しばし無表情で見下ろし、こちらのほうに目を向けた。

「ヒロちゃんを侮辱したら、許さないから」

睨みつけられた「キッモ」の発言者のウェイトレスは、腰を抜かしたように、へたりこみ、やおら見渡せば、女装ゴリラ軍団はブーイングするどころか、口をつぐみ目を逸らす。

一通り睨みを利かしてから、その場を立ち去ろうとしても、誰も止めようとしないで、踏みだした先々で一歩退いていった。

俺の目前にきて、いつもにも増して逆立てている眉尻をすこし下げ「帰ろう」と手を差しだしてきた。

げっそりとしながらも、セーラー服を抱きしめたまま、笑いかけてくるのに、ピンチに駆けつけてきたヒーロー気取りの俺のほうが情けなくも、泣きそうになる。

俺は義男をいつだって、そして、一生ずっと、守ってやりたいと思っている。

そうやって守ろうとするなんて、百年も早いと思わされるほど、義男はいつもこうして、俺をどん底から救ってくれるのだ。





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