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二日目・探索パート③

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アパートが火事で全焼し、翌日、近くの塾が夜逃げしたかのように消えたのは三年前。

そこそこ年月が経っているはずが、新しい建築物がないどころか、ろくに片づけも整備もされていない。
アパートの柱や屋根など、おおまかな残骸がちらかったまま。

そういえば、塾付近の町もゴーストタウン化してから、同じくらい経つに、いまだ、心霊スポット状態とか。

ここらへんの土地は、なにか訳ありなのか?

たしか、地図帳の豆知識ネタでは「このあたりは、もともと広大な公共のごみ捨て場と処理場があった」と。
たぶん、その処理場が移転などをして、再開発された土地なのだろう。

公共の施設があったという、こうした土地は安く、民間に払い下げられると聞いたことがある。
その類の土地で、お隣の国の人が幅をきかせていたというのは、なにか匂うような・・・。

不可解といえば、焼死体の女の子についても、そう。
出生届が提出されていなければ、戸籍もないなんて。

本当に同居していた若い女性「高月若菜」が妊娠して生んだ子なのやら。

公的な記録がなくても、アパートの住人や近所の人が、つきあいがあったり、目撃したり噂を耳にしたりで、詳しく知っているはず。

部屋でお産したなら、その産声を聞いたとか。
日常的に仲がいい親子関係がうかがえたとか。

もちろん、警察は聞きこみをしたものを「いや、あの人らが引っ越してきたのは一年前だから、よく知らない」との証言ばかり。

女の子の名前さえ、つかめなかったものを、証言をもとに調べたところ、一年前、高月若菜が隣県に住んでいたことが発覚。

ただ、手がかりをつかんだところで、警察の調査はいきづまった。

その理由について、クラスメイトの女子が教えてくれたことには。

「事件性があるから、警察は本格的な捜査をしたかったけど、隣の県に長いこと住んでいた人じゃね。

じつは、警察って基本、県境を踏み越えて捜査ができないの。
もしドロボーが隣の県に逃げたら、窃盗をされたほうの県の警察は手だしができないわけ。

そんなバナナって思うでしょ?
いや、ほんと、阿保らしいことで、県がちがう警察同士、情報共有したり、協力もしないんだって。

といっても、べつに法律で禁止されてないから、しようと思えばできるんだけど・・・。

結局は、縄張り意識が強いせいみたい。
わたしのお父さん、事務員として警察に勤めてて『くっだらない縄張り意識のせいで、どれだけの犯罪者を逃がしているか』ってよく嘆いてる。

おまけに歴史的にも仲がわるいから。

警察を通さなくても、隣の県は情報を渡すのを拒むんじゃないかな。
そのせいもあって、火事で死んだ子が、今も誰なのか分かんないわけ」

県境があるのは、そう、女子高生が拉致されかけた、あの山。

クラスメイトの話を踏まえて、女子高生の失踪事件について考えると、警察の縄張り争いのせいで、ずっと未解決だったのでは?と思える。

十年まえ、失踪事件が多かったのも、きな臭い塾と周辺が放っておかれたのも、警察の目が節穴だったせいでは・・・。

俺らの住む地域は、思うほど治安がよくないのかもしれない。

「口裂け女に対してだけじゃなく、身近な犯罪にも、気をつけないと・・・」とアパートの焼跡を眺め、つくづく思う。

黒焦げた土に、煤けたアパートの骨組みが積みあがった、わびしい光景。

部屋の家具や、住人の持ち物など、細かいものは片づけたか、焼失したのだろう。
この状態では、高月若菜の部屋がどこら辺にあったのか分からない。

一応、しゃがんで、かるい瓦礫を持ちあげ覗きこむ、という作業を全体的に。
まあ、敷地はさほど広くなかったし。

さっきフル回転せて消耗した頭を休めるように、無心で作業していたら板の下に名札を発見。

白いプラスチックのプレートには、小学校名と「高月しずく」。

このアパートに子供がいたのは、失踪した女の部屋だけ。

となれば、この名札は戸籍のない娘のものの可能性が高いものの、警察は見落としたのだろうか。
いや、素人の俺があっさりと見つけたほどだから、それは考えにくく、火事後に名札が置かれたのかも。

なんて考えを巡らせつつ「しずく」とはいい名前だなと思いつつ、名札をしげしげと見つめる。

前世で、俺が小学生のとき、つけていたのと趣がちがう。

俺のは、アクリルケースに名前や学年を記した紙をいれていた。
防犯上、登下校は、その紙を裏がえしていたもので。

どちらかというと、父が自分の思い出に、とっておいた名札と似ている。
シンプルなデザインで、学年によって色分けされていたとか。

ただ、記憶にあるそれと比べれば、やや違和感が。

「ああ、そうか、名前が掘られていないんだ」と平たいプレートに指を滑らせる。
この名札には、表面が削られた、または印字された凹凸がなく、マジックペンで書かれたよう。

まあ、「だから、なに?」と今はさっぱり。

見つかった目ぼしいものは、これだけで「名札一つのために、口裂け女トラップを死ぬ気で攻略させられたのか?」と徒労感を覚えないでなかったが・・・。

いやいや、本番はこれからだろ!とケツバットを食らわすように己を鼓舞して、立ちあがり、名札をポケットにいれた。

まだ口裂け女がカムバックする気配はないが、表通りを行くと、もどってくる途中の彼女と鉢合わせる危険が。
と考えて、表通りとは逆方向に。

火事になるまえ、アパートの裏側だっただろうところ。
敷地を囲むブロック塀をよじのぼって、家と家の間、塀のうえを屈んで歩いていく。

こうした裏ルートはゲーム的に禁止かと思ったが、今回はOKのよう。
まあ、状況や場合によっては見えない壁が阻むだろうけど・・・。

このまま猫の通り道のような近道をぬければ、塾のある通りにでられるはず。







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