スライムしかいない最弱ダンジョンの管理をすることになりました。

芝楽 小町(しばらく おまち)

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第2章 セーフハウスにて

6話 先輩管理人が残した手紙。動かぬオートマタ(自動人形)。

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 はぁ、はぁ、はぁ……。

 危うく精神が崩壊ほうかいしかけたぜ……!

「やっと落ち着いたか? ……ドヤト」

「その呼び方だけはやめてくださいっ!」

 すさまじい自爆を引き起こした俺は、俺の新しい弱みを握ってニマニマしているこの金髪碧眼きんぱつへきがん美少女こと、グロース王国の女騎士であるクリスティーヌ・フォン・ヴァンゼッタという、鬼畜きちく毒舌女と仲間になった。

 ……今だに、クリスが俺の仲間になったことに釈然しゃくぜんとしないが、ようやくダンジョン管理のスタートがきれたような気がする。

「ふふっ、ほら、そんなところでうずくまっていないで、とりあえずこのセーフハウスをもうちょっと調べようじゃないか」

 ……くっ、た、確かにここでクヨクヨするのは良くないな。悔しいが……!

「わ、わかった。……ってなんかこいつ持っているんだが」

 頭を抱えていた俺が顔を上げると、ノーマルスライムのスラちゃん(命名:俺)が手紙みたいなものを持っていた。

「ん? また俺にか?」

 そう言うと、スラちゃんがプニョプニョと近づいてくる。
 ……どうやらそのようだと、俺はその手紙を受け取った。
 
「えー、どれどれ」

 手紙を開くと、少し丸みをびた文字で、すこしあせって書いたのか、このようにはしり書きされていた。

『やっほー、後輩くん。無事に管理人になれたかな? 私は前管理人のコバヤシという者だよ。ちょっといまピンチなので、急いでこの手紙を書いている。なんか強い冒険者がこのダンジョンを攻略しそうなんだ。ひょっとしたら死んじゃうかもしれないので、いくつか伝えておくことにするね。君がどんなやつかはわからないけれど、役に立ってくれると嬉しいーー』

 ……おお、前管理人か。文字からすると、女の人らしいな。何が書いてあるんだろうか。

 俺は先に読み進める。

『ーーこの世界には沢山ダンジョンがあるけど、実はこのダンジョンだけが、伝統的に人間が管理することになっているらしいよ。私はお隣のダンジョンの管理人と仲良くなったけど、その子、サキュバスだったし。
 それから、重要なことだけど、ダンジョンが攻略されれば管理人は死んでしまうことはもう君も知っているよね。でも実は少し違うんだ。ダンジョン全てのボスが倒されると、私たち管理人がラストボス……いや、裏ボスとしてボス部屋に緊急召喚されちゃうんだよ。
 ……そう、そこで相手に倒されれば、そのまま死んでしまう、というわけなんだ。だから、もし君自身が弱っちければ、文字通り、死にものぐるいでダンジョンを強くする必要があるね。私は経営能力だけが飛躍的ひやくてきに高かったから、ここまで強いダンジョンにすることができたけど、私、めっちゃ弱いんだよ……ああ、もうラスボスが倒されちゃう……。
 と、とにかく、頑張ってね! この手紙を読み終わったら、君に一つだけ私の持っていたスキルをランダムに付与できるようにしておいたからね。これが精一杯せいいっぱい私ができることだけど、ほんとうに、がんばっーー』

 手紙は途中で終わっていた。このあと、彼女はボス部屋に召喚されたんだろう。そして……。

「…………」

 なんか、知らない人とはいえ、やっぱ人の死ってのは苦手だな。

 俺がちょっぴりしんみりしていると。

 ピコンッ。

『ランダムスキル付与中……便利スキル:なでなで を獲得しました』

 ……なんでこんなスキル持ってんすか、先輩。

「ふ、ふふっ」

「な、なんだタクト、気持ち悪い笑みを浮かべて」

「ん? ああ、いや。……な、なあ。ク、クリス」

「……なんだ? タクト」

「や、やっぱりなんでもない。……さ、この部屋もっと調べようぜ! なんかいいもんがあるかもしれないしな!」

「お、それなら私がさっきから気になっている物があるんだが……」

 そう言ってクリスが向けた視線の先には……やけに大きな箱が置いてあった。

「あ、あれか。俺も気になってたやつだ」

 俺はその箱に近づいていき、カパッと開いた。

「ひやぁぁぁぁぁっ!?」

 またも叫んでしまった。しかも声が裏返ってる。

「お、おいタクト! いきなり叫ぶな! 怖いじゃないか!」

「だっ、だだだだだって、そ、その中っ」

 俺が指差した先には……目を閉じた女のが手足をダラリとさせて座っていた。

「……ふむ」

「おおおいっ、クリス! なんでそんなに落ち着いていられる!? ど、どう考えてもその子は」

 水色のショートボブで、何故かメイド服を着ているその子は、はだ陶器とうきのように白く、息をしているように見えなかった。

「……ああ。……これはオートマタだな」

「へ、へ? おーとま……?」

 クリスはうむとうなずいて、動揺している俺に説明してきた。

「オートマタ。自動人形だ。能力は個体によって様々だが、どうやらこのオートマタは相当な高級品だ」

「え、え? 人形なの? その娘」

 どう見ても本物の人間にしか見えない。

「そうだ。……このオートマタは新品のようだな。手に何の跡もついていないし、どうやらコアも入っていないようだ」

「そ、そうなのか。……じゃあ、なんだってここに」

「さあな。オートマタは基本的に戦闘用に作られた道具なんだ。それがこんな風にメイド姿だなんて、一体どうなっているのかわからない」

 ど、道具?

「こんな可愛いのに道具なのか」

「なんだタクト、人形に欲情しているのか? ふっ、やめておけ、オートマタには人間にあるような感情が無い。諦めるんだな。それに、専用のコアが無ければずっとこのままだ」

 ……む、そ、そうなのか? こんな人間に見えるのに、感情がないなんて……。

 先ほどの手紙といい、このオートマタといい、この異世界の現実が垣間かいま見えたような気がして、どうも胸の中が詰まったような、変な感じがする。

 ……この世界に来たからには、ある程度順応しないといけないとは思うが、何か絶対に捨ててはいけないものもある気がする。

「さ、タクト。どうやらこの書斎は今のオートマタ以外、全て調べた終わったようだ。次は……」

 クリスの声に、俺はハッとする。

「次はこの扉だな。おい、タクト、さっきから考え込んでどうした。ポンコツ頭でいろいろ物を考えても仕方ないだろうに」

「だ、誰がポンコツ頭だ!」

 ほんっと、この毒舌女はむかつくな!? 黙っていりゃ可愛いのに!

「はははっ、タクトは扱いやすいな」

 くっそう!

「い、いいからクリス、扉を開けるぞ!」

「ああ……ふふっ」

 くぬぬ……! 今に見てろよ!
 そう心でつぶやき、俺はドアノブを握った。

 ……ガチャ。

 キィ、と扉が開く。

 そして、その扉の向こうにあったのはーー

「り、リビング……か?」

 ーー俺たちの目の前には、まるで高級マンションの大きなリビングみたいな部屋があった。
 台所、ソファー、ん? ま、まさかあれはテレビか?
 ……な、なんかいきなり元の世界に戻った感じがすごいな。
 少なくとも見渡せる範囲内には、元の世界で見知ったものしかなかった。

 そして、俺が部屋の中心にある絨毯じゅうたんの上に目線を向けると……。

「お、おい、タクト! あ、あれはっ」

 クリスがやけに興奮した様子で叫んだ。

「あ、ああ」

 ……な、なんだこれは。なにが起きている。

 絨毯の上にはコタツが置いてあった。

 ……い、いや、それは問題じゃない。

 問題なのはーー

「すぴー」

 ーーコタツから、がはみ出ていたことだ。

 ……ま、まじで理解が追いつかないんですけど。
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