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金魚売り
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わたしは、いつものようにベッドに寝そべり天井の木目を見つめていた。
じっと見つめていると、木目は人の顔に見えたりオタマジャクシに見えたりするのが楽しくて、わたしは外に出掛ける事が出来なくなってしまった。
一週間程前から、天井に話しかけ続けているのだが、あまり返事が返って来ない。
三日程前の深夜に天井の木目が醜く歪み鬼の顔のようになり、わたしを食らおうとした事があった。
鬼がわたしを食らおうとした時、わたしは五日間も何も食べていない事を思い出し、ベッドから離れて遠く部屋の端に或る冷蔵庫まで出掛ける事になった。
わたしは空腹と言う下等な欲望に突き動かされ、冷蔵庫の中に或る魚肉ソーセージに貪りついていた。
オレンジ色のビニールを剥き、魚肉ソーセージのピンク色の肌が現れたとき、生物の死の香りとそれを誤摩化すために付けられた人造の香りにむせながらながらも、わたしの舌は浅ましく涎を垂れ流していた。
所詮わたしは欲望に打ち勝つ事など出来ないのだ。それは何十年も前からわかっていたことだ。
それでも、わたしは魚肉ソーセージに対する敗北感でいっぱいになり、そのおぞましい肉塊を貪りながら、悔し涙を流していた。
「美味い!なぜお前はこんなにも美味いのだ。魚肉ソーセージよ!」わたしは一人部屋の中で叫んでいた。
そのとき、わたしは重大な過ちに気付く事になった。
わたしは魚肉ソーセージの外袋に記載された原材料を読む、そこにはポーク百パーセントと刻まれていた。
ポーク・・・・・・・・そう、今まで魚肉ソーセージと信じていたそれは、兎や馬が少しぐらい入っているかも知れないと思っていたそれは、ブタだったのだ。
美味いポークソーセージは五日間食事を忘れていた、わたしに食欲と言う快楽を呼び起こさせた。
わたしは、その瞬間自分が動物であることを思い出し、同時に人である事に悦びと戸惑いを憶えた。
それからというものわたしは朝昼晩と一本づつポークソーセージを食べ出し、自分が何故この部屋にいるのかを考え始めた。
この部屋には窓があった。わたしはその窓を開けようとしたが、このガラス窓は固定されているようでびくともしなかった。わたしは冷蔵庫の横にあるテーブルと椅子に気付くと、椅子で窓ガラスを叩き割った。
ガラスは粉々に砕けわたしの知らない世界へと旅立って行った。と同時にやかましい蝉の声が部屋の中へ飛び込んできた。
夏なんだ!そう思った瞬間わたしは汗だくになっていた。少しするとわたしは自分の身体の汗の臭いに耐えられなくなってきた。
本当に汗の臭いなのか?わたしの身体が腐敗しているのではないか?そんな不安に心を蝕まれると部屋にいる事すら耐えきれなくなった。だがこの部屋には扉がない。
わたしは、この場所に幽閉されていたのか?
わたしは自分の名前と顔を思い出した。だが、何故ここにいるのかがわからない。
今は二〇一二年の夏のはずだ。自分の過去もボンヤリとおぼろげにしか出て来ない。
わたしは割れた窓から表に出る事にした。
今までずっと靴を履いたままベッドにいたようで道端に飛散したガラスを気にする事なく部屋から逃れる事が出来た。わたしは振り向かずに坂道を上って行った。舗装もされていない砂利道をまっすぐ行く。
わたしは、この場所を知っている気がした。なんどもなんどもきた場所なのだと思いながら、だが歩いても歩いても真夏の田舎道が続くだけだった。
ふと振り返ってみた。後ろは夜だった道の両端には気味の悪い老夫婦が立って夜と昼を区切っていた。
「戻るのかい?」老婆が、わたしに聞く。
「いいえ、俺はもう、そちらへは戻らない。太陽の輝く場所に住もうとおもうのですよ」わたしの口から、無意識に言葉が溢れ出した。
「そうかい、戻るんならいまのうちだぜ!おめえみてえな半端者、太陽に焼かれて干物になっちまうが落ちさね」爺もそう言った。
「俺には約束があるんだ」わたしは、そう言うとまた坂道を上って行く。
だが、わたしにはその約束が思い出せなかった。それでも歩き続けると、前方に人影が見えた。
「きんぎょ~え、きんぎょ。 きんぎょう~え、きんぎょ」天秤棒の両端にタライをぶら下げた金魚売りだった。
気付くと金魚売りは、目の前に無言で立っていた。
「金魚を見せてもらえないかな」わたしは金魚売りに話しかけると、金魚売りはタライを道端に降ろした。
黒い出目金をもらおうと思い金魚売りに声をかけたが、金魚売りは返事もせずにボーッと突っ立っている。
「金魚売りさん この黒い出目金をくださいな」少し大きな声で言うが、金魚売りは突っ立っているだけだった。わたしは金魚売りに近付き顔を覗き込んだ。金魚売りは死んでいた。それも随分と前に亡くなられた様子で身体はすっかりミイラ化していた。
仕方がないので、わたしは出目金を袋に詰めてから、ポケットの小銭を金魚売りのミイラの口に入れた。
少し強引に入れたので、ミイラの顎は地面に落下して砕けてしまった。
大変な事をしてしまった顎が外れては金魚売りらしく金魚と唱えられない。
それを見ていた夜と昼の境界に立つ老夫婦が通報したようで、夜の世界の暗闇からパトライトを回しサイレン唸らして、パトカーが迫ってくる。
「わたしの中へ隠れなさい」先ほどわたしが袋に入れた出目金が言った。言われるままに出目金の口の中に入りパトカーが通り過ぎるのを待とうと思っていたのだが、老夫婦はわたしが金魚の腹の中に入ったと警官達に密告したのだ。
パトカーは金魚を包囲すると、威嚇射撃をした。
「お前たちは、完全に包囲されている。おとなしく手をあげて出てきなさい」わたしは金魚の腹の中で、ガドリング銃をかまえた警官隊に怯えていた。
「このまま、ここで暮らしませんか?」突然美しい女性が現れそう言った。
権力に怯えたわたしは、その美しい女性に甘える事にした。
彼女は金魚の中に国を作る姫であり、何億と言う民を従え金魚を守っていた。
大変な事に顎の外れた金魚売りは、金魚のいるタライに水を足す事が出来ず。
夏の熱気でタライの水は、どんどん蒸発していく。
タライに水がなくなり出目金が口をパクパクと開けたところに、警官隊は何十台ものパトカーで攻め込んできた。
わたしが自首すれば金魚の中の国の平和は守ろうと警官は言った。
わたしは、その言葉を聞いて裏口から逃げようと思い走った。国民達は干ばつで殆どが死に絶えていた。
金魚の姫はわたしが逃げて行くのを悲しそうに見ながら怒りもせずに警官達が来れないように大きなアクリルのドアを閉めてくれた。
警官達が一斉に銃を撃った。
お姫様のお腹から真っ赤な血が噴き出し暗闇を真っ赤な薔薇が飾って行った。
金魚の腹からでた頃には、金魚は死んでいた。
一言文句を言ってやろうと思い夜と昼の門番をしている老夫婦の側に行くと、二人は忌々しそうにわたしを睨みつけると消えてしまった。
かすかに開いた出目金の口に飛び込めば、何か出来るかも知れない。
そう思ったが、わたしはもっと先に大事な約束があるという事を思い出したので、そのまま坂道を上る事にした。
後ろからまた金魚売りの声がした。
「きんぎょ~え、きんぎょ。 きんぎょう~え、きんぎょ」
「なんだ、顎がなくたって言えるんじゃないか!じゃあ、何故水を足さなかった!金魚の姫様が死んだのはあいつのせいだ」
わたしは自分に責任がなかった事に安堵し、思い出せない約束のためにフラフラと歩いた。
もう背中には暗闇はないと言い聞かせる。
心の中で罪悪感という暗闇が、お姫様が流した血の薔薇のように広がる。そして、その茨が隠した心の罪を罰して行く。でも、それには気付かないふりを決め込んで、意味もなくまっすぐと歪んだ道を歩いた。
気がつくと、わたしはまたベッドから天井の木目をジーッと見つめていた。
じっと見つめていると、木目は人の顔に見えたりオタマジャクシに見えたりするのが楽しくて、わたしは外に出掛ける事が出来なくなってしまった。
一週間程前から、天井に話しかけ続けているのだが、あまり返事が返って来ない。
三日程前の深夜に天井の木目が醜く歪み鬼の顔のようになり、わたしを食らおうとした事があった。
鬼がわたしを食らおうとした時、わたしは五日間も何も食べていない事を思い出し、ベッドから離れて遠く部屋の端に或る冷蔵庫まで出掛ける事になった。
わたしは空腹と言う下等な欲望に突き動かされ、冷蔵庫の中に或る魚肉ソーセージに貪りついていた。
オレンジ色のビニールを剥き、魚肉ソーセージのピンク色の肌が現れたとき、生物の死の香りとそれを誤摩化すために付けられた人造の香りにむせながらながらも、わたしの舌は浅ましく涎を垂れ流していた。
所詮わたしは欲望に打ち勝つ事など出来ないのだ。それは何十年も前からわかっていたことだ。
それでも、わたしは魚肉ソーセージに対する敗北感でいっぱいになり、そのおぞましい肉塊を貪りながら、悔し涙を流していた。
「美味い!なぜお前はこんなにも美味いのだ。魚肉ソーセージよ!」わたしは一人部屋の中で叫んでいた。
そのとき、わたしは重大な過ちに気付く事になった。
わたしは魚肉ソーセージの外袋に記載された原材料を読む、そこにはポーク百パーセントと刻まれていた。
ポーク・・・・・・・・そう、今まで魚肉ソーセージと信じていたそれは、兎や馬が少しぐらい入っているかも知れないと思っていたそれは、ブタだったのだ。
美味いポークソーセージは五日間食事を忘れていた、わたしに食欲と言う快楽を呼び起こさせた。
わたしは、その瞬間自分が動物であることを思い出し、同時に人である事に悦びと戸惑いを憶えた。
それからというものわたしは朝昼晩と一本づつポークソーセージを食べ出し、自分が何故この部屋にいるのかを考え始めた。
この部屋には窓があった。わたしはその窓を開けようとしたが、このガラス窓は固定されているようでびくともしなかった。わたしは冷蔵庫の横にあるテーブルと椅子に気付くと、椅子で窓ガラスを叩き割った。
ガラスは粉々に砕けわたしの知らない世界へと旅立って行った。と同時にやかましい蝉の声が部屋の中へ飛び込んできた。
夏なんだ!そう思った瞬間わたしは汗だくになっていた。少しするとわたしは自分の身体の汗の臭いに耐えられなくなってきた。
本当に汗の臭いなのか?わたしの身体が腐敗しているのではないか?そんな不安に心を蝕まれると部屋にいる事すら耐えきれなくなった。だがこの部屋には扉がない。
わたしは、この場所に幽閉されていたのか?
わたしは自分の名前と顔を思い出した。だが、何故ここにいるのかがわからない。
今は二〇一二年の夏のはずだ。自分の過去もボンヤリとおぼろげにしか出て来ない。
わたしは割れた窓から表に出る事にした。
今までずっと靴を履いたままベッドにいたようで道端に飛散したガラスを気にする事なく部屋から逃れる事が出来た。わたしは振り向かずに坂道を上って行った。舗装もされていない砂利道をまっすぐ行く。
わたしは、この場所を知っている気がした。なんどもなんどもきた場所なのだと思いながら、だが歩いても歩いても真夏の田舎道が続くだけだった。
ふと振り返ってみた。後ろは夜だった道の両端には気味の悪い老夫婦が立って夜と昼を区切っていた。
「戻るのかい?」老婆が、わたしに聞く。
「いいえ、俺はもう、そちらへは戻らない。太陽の輝く場所に住もうとおもうのですよ」わたしの口から、無意識に言葉が溢れ出した。
「そうかい、戻るんならいまのうちだぜ!おめえみてえな半端者、太陽に焼かれて干物になっちまうが落ちさね」爺もそう言った。
「俺には約束があるんだ」わたしは、そう言うとまた坂道を上って行く。
だが、わたしにはその約束が思い出せなかった。それでも歩き続けると、前方に人影が見えた。
「きんぎょ~え、きんぎょ。 きんぎょう~え、きんぎょ」天秤棒の両端にタライをぶら下げた金魚売りだった。
気付くと金魚売りは、目の前に無言で立っていた。
「金魚を見せてもらえないかな」わたしは金魚売りに話しかけると、金魚売りはタライを道端に降ろした。
黒い出目金をもらおうと思い金魚売りに声をかけたが、金魚売りは返事もせずにボーッと突っ立っている。
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仕方がないので、わたしは出目金を袋に詰めてから、ポケットの小銭を金魚売りのミイラの口に入れた。
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パトカーは金魚を包囲すると、威嚇射撃をした。
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大変な事に顎の外れた金魚売りは、金魚のいるタライに水を足す事が出来ず。
夏の熱気でタライの水は、どんどん蒸発していく。
タライに水がなくなり出目金が口をパクパクと開けたところに、警官隊は何十台ものパトカーで攻め込んできた。
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わたしは、その言葉を聞いて裏口から逃げようと思い走った。国民達は干ばつで殆どが死に絶えていた。
金魚の姫はわたしが逃げて行くのを悲しそうに見ながら怒りもせずに警官達が来れないように大きなアクリルのドアを閉めてくれた。
警官達が一斉に銃を撃った。
お姫様のお腹から真っ赤な血が噴き出し暗闇を真っ赤な薔薇が飾って行った。
金魚の腹からでた頃には、金魚は死んでいた。
一言文句を言ってやろうと思い夜と昼の門番をしている老夫婦の側に行くと、二人は忌々しそうにわたしを睨みつけると消えてしまった。
かすかに開いた出目金の口に飛び込めば、何か出来るかも知れない。
そう思ったが、わたしはもっと先に大事な約束があるという事を思い出したので、そのまま坂道を上る事にした。
後ろからまた金魚売りの声がした。
「きんぎょ~え、きんぎょ。 きんぎょう~え、きんぎょ」
「なんだ、顎がなくたって言えるんじゃないか!じゃあ、何故水を足さなかった!金魚の姫様が死んだのはあいつのせいだ」
わたしは自分に責任がなかった事に安堵し、思い出せない約束のためにフラフラと歩いた。
もう背中には暗闇はないと言い聞かせる。
心の中で罪悪感という暗闇が、お姫様が流した血の薔薇のように広がる。そして、その茨が隠した心の罪を罰して行く。でも、それには気付かないふりを決め込んで、意味もなくまっすぐと歪んだ道を歩いた。
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